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平成16年度総会記念講演会

2004年5月13日、経団連会館11階国際会議場において、国立感染症研究所の倉田毅所長による講演 「最近世間を騒がせた感染症 〜ヒトの病気から見て何が問題か?〜」と題する講演会を開催、約100名が参加、聴講しました。(なお、本講演会は、当NPO法人 16年度の総会終了後に行われたものです。)

講演される倉田先生 講演会風景

倉田先生のお話の概要は以下のとおりです。

会場で使用された資料 p1〜p5  pdfを別ウインドウに開く


最近世間を騒がせた感染症 〜ヒトの病気から見て何が問題か?〜

騒がせた感染症とその発症

「20世紀から21世紀に持ち越された課題」としての感染症には、「1.新興・際感染症:ウイルス性出血熱(エボラやラッサ他)、新しい型のインフルエンザ(鳥インフルエンザ)、新しい感染症の出現(SARS)、血液由来感染症(エイズ)、2.人獣共通感染症:プリオン病(vCJD)やウエストナイル熱、3.移植に伴うウイルス感染症」などがあります。
感染症は、媒介物を通してヒトの体へ4つの経路で侵入します(「感染症発症機序」)。@吸入(エーロゾル(空気感染)、飛沫)、A飲食(経口:食品、水)、B咬む、刺す(蚊、ダニ等)、針刺し、C接触(粘膜、傷口:汚染物、血液)です。今日においては、大量高速輸送、交流の時代になったことから感染症という領域において一国平和主義は存在しえなくなったことや近年登場した重篤感染症の70%は直接動物がかかわっている点、即ち、Zoonosis(動物由来感染症:病原体が脊椎動物とヒトとの間で伝播する感染症)の範疇に入る点などを考慮しておくことが大切です。その対策としては、上に述べた侵入の4つの経路からの進入を防ぐこと、予防接種(ワクチンの利用)があります。


資料 p1 感染発症機序
資料 p2 21世紀に持ち越された感染症の課題


以下に、鳥インフルエンザ、SARS及びプリオン病(BSE、vCJD)について、詳述します。

鳥インフルエンザについて

インフルエンザウイルスの表面には、2種類の糖タンパク質、即ち、赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)があり、HAとNA でウイルスを分類します。HAには1〜15亜種、NAには1〜9の亜種があります。
例えば、ヒトに感染した鳥型インフルエンザウイルスは、H5N1、H7N7、H10N7です。鳥からヒトへの感染は、かって(1997)は香港で、今回はタイ、ベトナムなどで起こっています。タイでは、感染者が12名でそのうち8名が死亡、ベトナムでは、感染者が22名、そのうち15名が死亡しており高い死亡率を示しています。これらの国では、病気の鳥と同居状態であったために感染しているのであり、日本の養鶏においては考えられません。また、タマゴ、肉は加熱すれば、ヒトへの感染はありません。
また、過去に大流行したヒトインフルエンザの型は、スペイン風邪(1918年)はH1N1)、アジア風邪(1957年)はH2N2、香港風邪(1968年)はH3N2、ソ連風邪(1997年)はH1N1でした。
トリインフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスとの病原性を比較すると、
1.従来のヒトインフルエンザウイルス(H1N1、H3N2)感染は呼吸に限局しています。肺で重症化することはそれほど多くはなく、ワクチンがよく効きました。
2.鳥インフルエンザウイルス(H5N1)の動物(マウス、サル)での病原性はきわめて強く、ヒトにおいても呼吸系にとどまらず同時に脳とか心臓などに全身感染を起こすことが特徴です。

SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome):重症急性呼吸器症候群について

 SARSは、新種のコロナウイルスによって引き起こされる主として気管支と肺への感染症です。初期症状は、@突発的な発熱(38℃以上)、A筋肉痛、B数日して呼吸器症状、胸部X線像の変化(肺の異常)等が見られます。進行すると呼吸困難に陥り死亡することがあり、死亡率は約14-15%と非常に高く、特に60歳以上の方の死亡率が高いことが特徴です。2003年9月26日現在、32カ国で発症し、累積患者は8098人、死亡者は774人であります(死亡率9.6%)。感染経路は医療関係者(90%以上が院内感染者)及び患者周辺の人に限られています。主に、気道分泌物との接触、飛沫感染(咳などにより「飛散距離が約90cm以内のもの」)で感染するので、重症肺炎患者の呼気の適切な処理が必要です。消毒方法は、消毒用アルコール(70-80%エタノール)や中性洗剤といった一般的なもので充分です。患者がいる部屋で、拭き掃除をするときは、雑巾を絶えず消毒液につけて行なうことが極めて重要です。
一方、インフルエンザの感染は、気管と気管支までで、主としてエーロゾルで感染します(咳などにより2-8μm径のものの飛散で感染、飛散範囲は温度、湿度、換気状態などで変わります)。

資料 P3 飛沫とエーロゾルの違い

BSE(牛海綿状脳症)とvCJD(変異型クロイツフェルトヤコブ病)について

これらの感染症はプリオンと呼ばれる蛋白性感染粒子(正常細胞にあるプリオン蛋白の異状型)によって引き起こされます。脳が冒され、脳組織がスポンジ状になり、起立不能等の症状を示す遅発性かつ悪性の中枢神経系の疾病です。BSEは、1986年イギリスで初めて、2001年には日本、2004年にはアメリカで発生、今日までにイギリスを中心に18万頭が感染しました。羊スクレイピーの臓器の飼料化、解体作業の自動化による臓器処理とその飼料への使用が感染牛の拡大に拍車をかけたと思われます。
vCVJDは、BSEの牛を食べてかかるものです。1996年3月20日にイギリス厚生省、農務省が10名(内9名が死亡)BSEに由来すると思われる症例を公表しました。この10名はビーフハンバーガーを一日数食食べていました。当時の英国では、20%まで筋肉以外のものを入れてよいということになっていました。因みに、異常プリオンを多く含んでいるのは、脳、脊髄、目、回腸遠位部(大腸に近い部分)、脊髄神経節です。また、2004年1月31日にWHOは、2004年1月31日に156名の感染者数を発表しました。内訳は、イギリス146名、フランス6名、カナダ、アイルランド、イタリア、アメリカが各1名です。
わが国のBSEの検査体制では、と畜場で採取された延髄かんぬき部組織を食肉衛生検査所でスクリーニング検査し、陽性、偽陽性判定された場合は、更に、検疫所(神戸、横浜)、国立感染症研究所で確認検査が行なわれ、最終決定されます。また、BSE対策は国により異なります。日本では、牛の全ての月齢で100%検査であるのに対し、EUは24〜30ヶ月齢以上の全数、アメリカでは、30ヶ月齢以上0.1%の牛となっています。

資料P4 わが国のBSE検査体制 
資料P5 各国のBSE対策
 


わが国における感染症の課題について

次の3点があげられます。
1.バイオテロの対象として最も大きな問題は天然痘ウイルスです。これは、ワクチンが絶対的によく効きます。1975-76年にワクチン接種がなされなくなり、28〜29歳以下の約3750万はワクチン接種を受けてはおらず、強毒株の散布が行われれば大惨事になること必定である。生物テロについては瞬時に対応していくためにはそれなりの準備をしておく必要がある(インフラ整備を含めて)。

2.1980年代前半の“感染症は終わった”の大合唱でわが国の乏しい研究費は癌等を含む領域に投入され、感染症にわずかともいえ、研究費が流れるようになってまだほんの数年で、その総額も米の中堅研究者の十数人分であり、その充実が望まれる。

3.人類(63億)の80%以上は熱帯亜熱帯に居住し、先進諸国では輸入感染症として取り扱われる感染症で死亡し、先進諸国の死亡にも多くの場合感染症がかかわっている。日本が温帯の大変よい環境にあって国境が海であるのも過去には幸いした。今は感染症がどこからでも侵入する状況にある。その阻止と対応には国及び地方での基本的なハード面を含むインフラ整備と、世界での発生に即対応し、国際協力にも対応しうる組織とヒト及びその仕組みの整備が緊急であり、病原体の迅速診断、ワクチン及び薬剤開発研究の強力な推進が最も重要である。

 




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