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学生フォーラム「バイオと医療」開催報告
6月30日(水)、関西学院会館において標記フォーラムを3人の学生パネリストを迎えて、関西学院との共催(後援:NPO法人近畿バイオインダストリー振興会議)で、開きました。
くらしとバイオプラザ21では学生フォーラム「大学生が考える〜遺伝子組換え食品」(2003.10.8、西ノ宮)、「バイテクノロジーと理科教育」(2004.4.21、東京)を今まで2回開催し、今回は医療をテーマにして学生フォーラムを開催いたしました。
わたしたちが再生医療や病気の関係をよく知らなくては、納得のいく医療を選択することはできないし、それを知らないまま、健康な人たちだけで医療に関わる仕組み作りをしてしまうのは公平な立場から外れるのではないかと思います。今回、医療の現場でも、情報公開と対話の場作りが大切であることがわかりました。
当日の報告書(講師レジメ、全発言の概要、アンケート集計)はここをクリックしてください。 pdfを別ウインドウに開く


基調講演1

「バイオに関わる医療の現状と課題」

関西学院大学社会学部教授・保健館館長 久保田稔

21世紀は生命科学の時代
20世紀は物理と化学の時代で機械産業、核エネルギーが物質文明を支えた。21世紀は1953年ワトソン、クリックの二重らせん発見から生命科学の時代。今は、ポストゲノムシーケンシング時代(ヒトゲノム解読終了後の時代)。今も遺伝子の意味の研究が続いている。

インスリンの効果と製法
昔は豚のすい臓からブタインスリンを抽出してヒトの治療に使っていた。今ではヒトインスリンのアミノ酸配列をコードする遺伝子を組み込んだイースト菌によりヒトインスリンができる。エリスロポエチン(貧血治療薬)、インターフェロン(肝炎治療薬)は生体の微量な物質。これらも同様に合成させたものを、患者に投与している

遺伝子治療
ADA欠損症(免疫機能にかかわる酵素を生まれつき体内で作ることができない病気。乳児のうちに死亡することもある。)では、臍帯から取り出した細胞にADAの遺伝子を組み込む治療で赤ちゃんを救うことができる。これは先天的に欠けている遺伝子を与える治療。この他に、故障している部分に必要な遺伝子を補う治療もある。遺伝子治療で加えられた遺伝子は子孫には伝わらない。

遺伝子と病気の関係
病気の原因は遺伝的要因と環境要因の組み合わせ。単一遺伝子遺伝病には筋ジストロフィー、ハンチントン氏舞踏病、血友病などがある。多因子病にはガン、糖尿病、痴呆などがある。一方、外傷、食中毒などは非遺伝子性疾患。出生前診断、着床前診断は、出生前に胎児に重い障害があるとわかったときに妊娠や出産をやめるのか、という問題も伴っている。

遺伝子診断に基づく新しい医療
遺伝子診断が可能になり、糖尿病になるリスクが高いと判明すれば、食事療法、運動療法を積極的に行う。がんになるリスクが高いと判明すれば定期的な精密検査をしたり、生活を見直す。これらを予防医学と呼ぶ。遺伝子で考えると、ヒトの遺伝子の違いは0.1%。しかし、遺伝子による差別(就職、結婚、生命保険の加入)はなくす必要がある。このような問題は、医者だけなくみんなで議論すべき。

再生医療
現在、日本では移植できる心臓が出ていないので、日本の子供が心臓移植を受けるときは米国で手術を受けている。再生医療がすすめば、組織、臓器が作れるようになる可能性もある。ヒト胚性クローンの研究が6月24日に条件付きで承認された。ヒトの体細胞の核を除核した卵子に入れたもので、自分の体細胞から組織が作られるようになると、移植したときに拒絶反応が起きない。同時に、倫理的に問題のない体性幹細胞が成人の体で探され、それを用いた研究がなされている。

これからの医療
研究者も一般市民と対話して先端医療について考えていきたいと思っている。今わかっていることを、対話を通じて伝え、意見交換し、コンセンサスを形成していくことが必要。


基調講演2

「先端医療の現状とこれから」

大阪大学大学院医学系研究科助教授 山崎義光


疾患原因遺伝子診断とテーラーメード医療
環境の激変に遺伝子が獲得してきた機能を超えていると疾患が発生する。太古の地球では生物は水中で生活していたが、やがて陸上生活が始まり、酸化ストレスのような障害が起こるようになった。
活性酸素分解酵素活性が高い生物ほど長寿命である。例)ヒト
環境に対して変貌できる遺伝子を持つ生物が環境に適合し、生き残ってきている

疾患の発生
アドレナリン受容体であるβ3受容体のSNP変異は肥満原因遺伝子である。飢餓の時代にはこれを持つ個体は長寿命であったが、今のような飽食の時代には肥満になる。

ガンの遺伝子診断は可能か?
ガンの原因遺伝子は多く見つかっているが、正確に発症するかどうかを判定する検査はない。家族性大腸がん(APC遺伝子)を持っていると家族性大腸がんになる可能性が高いが、遺伝子を有する人が全て発ガンする訳ではない等、臨床応用には問題が多い。

生活習慣病とテイラーメード医療
早期診断で早期治療を始められれば意味があるが、複数の遺伝子が働きあう場合にはその遺伝子を持っていてもガンの発症を予測するのは難しい。そこで、ふたつのSNP(一塩基多型)の組み合わせを解析して発症との関係を研究している(複合遺伝子多型)。これをもとに発症予測ができるようになるかもしれない。

再生医療について
胚性幹細胞は全ての細胞になる可能性がある。一方、組織幹細胞は垣根をこえてまで、分化した細胞にはならないので、ガン化する可能性が低く、治療への利用が期待されている。
他家培養真皮によりやけどのヒトに移植する人工皮膚や、神経細胞の移植によるパーキンソン病治療の研究で進められている。残念ながら現在は未だ実験段階である。歯槽骨の再生医療は進んでいるので、来年あたり臨床応用ができるかもしれない。糖尿病だって、膵島細胞を再生できれば解決するはず。

まとめ
糖尿病をはじめ様々な疾病に対して、これからは予防と早期発見が重要。特に生活習慣病に対しては遺伝子解析、遺伝子診断も重要。本人由来の再生医療は望ましく、近未来にはそれが可能になるであろう。疾患の発症に関わる多数の遺伝因子、環境因子を同定できれば、原因因子に対する最適なテーラーメード医療も重要であるし、可能になる。


学生パネリストと専門家パネル


パネルディスカッション

学生パネリストのからの質問をもとに、コーディネーターを介して専門家パネルのお話をうかがいました。

コーディネーター:関西学院大学社会学部教授・保健館館長 久保田稔
専門家パネル:大阪大学大学院医学系研究科助教授 山崎義光
くらしとバイオプラザ21専務理事 真山武志
学生パネリスト:明石 真理子 神戸女学院大学人間科学部人間科学科3回生
亀山 佳奈子 神戸大学工学部応用化学科3回生
谷村 要   関西学院大学大学院社会学研究科博士課程前期2年

明石:アイスランドでは国民全員の遺伝情報を公開していると聞いたが、オーダーメード医療を目指すために、情報を公開したくない人に国の圧力がかかるのではないか。

山崎:テーラーメードは医者サイドのサジェスチョンを患者に示す医療。オーダーメード医療は患者さんに医療の選択を与える医療である。遺伝子情報をどう使うかは個人の選択権の中にあり、議論するには時が熟していないのではないか。

亀山:疾患が起る可能性のある妊娠について、中絶はどこまで許されているのか。

久保田:受精卵診断は重篤な疾患に限るという規制があり、一例一例申請をして学会で審査する。筋ジストロフィーの例で、受精卵の診断が許可された事例がある。実際には、そういう正式な経路を経ずに実施された場合もあり、医師が学会で除名された例もあった。男女産み分けを簡単に考えてしまう人も出てくるはず。市民自身の倫理観も問われる。

谷村:今日のようなフォーラムで知識を共有して、テーラーメード医療について知った人もいるはず。治療法のない病気になる可能性を知り絶望的になる人も、それを知らずに遺伝子診断を受けてしまう人もいる。日本の国や研究機関はどこまで情報公開をやっているのか。

真山:米国の学会の場合、薬の知識は社会や市民に向け情報発信する姿勢を示している。国は大きなプロジェクトを行うときにある程度を社会への説明責任(アカウンタビリティ)を果たすべき。欧米では研究者は研究と同時に社会への説明責任を要求されている。日本の学会は社会への情報発信では消極的なので、もっと行っていただきたい。そういう責任は大きくなってきている。

山崎:遺伝子診断には治療法が確立していない病気もあり、何でも診断すればいいというものではない。患者の希望を聞いて個人の判断に委ねるしかないのではないか。

久保田:遺伝子診断は陰性だと期待して受けることが多いが、陽性であっても、検査をした以上結果を返さない訳にはいかない。陽性だった場合を考慮したカウンセリング体制が必要。安易に商業ベースで検査が行われると危険。インフォームドコンセントでは、患者に同意を求め、インフォームドチョイスでは選択を求める。患者は選択できるだけの情報を得、理解しているか。高齢の患者さんと医者の間に「先生がいったことだからそれでいい」というような場合もある。

山崎:遺伝子診断は一遺伝子に依存する疾病については可能だが、遺伝子診断ができる医療機関はあまり実在していない。生活習慣病の遺伝子診断は、5−10年後可能かもしれないが、そのコストなどは不明。

久保田:今日のまとめとして、DNAについて正しく理解してもらいたい。
過度の期待や恐れや拒絶もよくないが、医学者は期待できる医療を目指して、研究をしているので一般の人の理解、協力が牽引力になることを覚えておいていただきたい。






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