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第16回談話会のレポート

8月26日(金)に談話会が開かれました。スピーカーは唐木英明さん(東京大学名誉教授、食品安全委員会飼料・肥料専門部会座長)。「安全と安心の違い」というタイトルでお話をうかがいました。15名の参加者は、安全や不安の心理についてわかりやすい説明をうかがい、今までの疑問が整理されたと感じたようです。


唐木先生のお話の概要

1.不安とはなにか
フロイトは「私たちは正体がわかっているものに恐怖を感じ、正体がわからないものには不安を感じる」と述べました。
動物は危険か安全か判断ができない状態に置かれて、次の行動が遅れると敵に食べられてしまうので、安全でないものをすべて黒(危険)と判断し、まずは逃げるという行動をとります。これは、大脳辺縁系という本能(自己保存、自己防衛、種の保存)を司る「生まれながらの脳」の働きです。
人間はこの本能の脳のほかに、前頭連合野という理性を司る「経験と教育で育つ脳」を持っています。この脳のおかげで、白と黒だけでなく、その中間があることが理解できます。
理性が十分に働くのは中学生くらいからといわれ、小学生は白黒判断しかできません。また、理性の脳はアルコールに弱いけれど本能の脳は麻痺しにくく、だから飲むと本能が現れます。
危険情報を聞き逃すと死ぬので、どんな動物も危険情報に注意を払います。マスメディアが危険情報だけを伝えるのは、人間が安全より危険に敏感であることを利用しています。
本能的な白黒判断はゼロリスクの理想論につながり、理性によるリスク評価は現実に即したものになりますが、理性と本能が葛藤を起こすと本能による黒判断を採用します。
理性による判断も間違えると死を招くので、経験のない人は信頼できる人の判断に従うか、みんなが行っているとおりにして安全を図ってきました。



「人間は安全より危険に敏感」と唐木先生 集合写真

2.リスクのうけとめかた
一般市民:リスク=ハザード+感情 →感情に動かされる
専門家: リスク=ハザード×確率 →リスクを小さくする「確率」を重視
安全については、一般市民は危険なものが入っていない状態を求めます(ゼロリスク論、全体安全論)が、リスクの専門家は健康被害が出ない程度に危険なものを減らすことを安全と捉えます(実質安全論)。それ以上の対策費は別のリスク回避に回すべきで、理想論でばかり考えて現実論で考えないと食べるものがなくなってしまいます。
リスクを許容できるレベルまで下げることが安心対策です。それ以上の対策は業界保護のためです。ゼロリスクを謳って製品を差別化するゼロリスク商法は不安を拡大します。

3.リスクの研究者とハザードの研究者の役割
ハザードの研究者は危険情報を伝えて消費者に警告し、マスコミはそれを報道する任務を負います。そのリスクを専門家が評価し、行政がリスクを管理し、市民はリスクがきちんと管理されていることを理解すると安心します。ハザードの研究者はその対価として研究費を得てさらに研究を続け、マスコミは収益を上げてその機能を強化します。

4.化学物質のリスクの考え方
化学物質のリスクは用量作用関係で考えます。実質安全論では許容リスク(閾値)を受容
しないといけません。しかしこれを嫌うゼロリスク論も多く、これを利用したゼロリスク商法もあります。
                   
5.食品の安全性評価
食品安全基本法で初めて、リスク分析がとりいれられました。それ以前は絶対安全論。以前はリスク評価も管理も農林水産省と厚生労働省が行っていましたが、両省は産業保護の任務も持つので、リスク評価を食品安全委員会に渡しました。
市民が遺伝子組換え食品に関して、ゼロリスク論の傾向を持つのは、リスクに見合う利益がないからです。しかし、事業者は現実論。食品の安全は現実論と理想論の健全なぶつかり合いで守られます。リスク管理はその折衝から生まれます。しかし、行政が行う「実質安全の現実論(100%安全な食品はない)」という説明は市民にはわかりにくい話です。

6.消費者はどうやってリスク判断するのか(事例の比較)
・アスベストの場合:リスクの報道が小さかったために、市民が関心を示さず、業界から圧力がかかり厚生労働省はリスク管理対策を延ばし、被害が大きくなりました。
・BSE、鳥インフルエンザの場合:リスクを許容しても誰にも利益がないので、誰もがリスクを拒否しました。
・遺伝子組換え食品、食品添加物の場合:市民にはリスク許容のメリットがないけれど、業界にはメリットがあるという不公平感で、市民はリスクを拒否しました。
・市民にメリットがある場合:消費者が購入するときに注意するのは価格と賞味期限だということがスーパーマーケットの出口調査で示され、市民にメリットがあれば、リスクを受け入れていることが分かるが、そんな市民がアンケートではリスク受入れ「拒否」と答えるのは、建前を重視する性格からと考えられます。
リスクの説明がきちんと消費者に行われることが大切。話合いのターゲットは消費者団体。

7.円卓型コミュニケーションの提案
事業者の現実論と消費者の理想論を本気で話し合える場があれば、真のリスクコミュニケーションが成立するかもしれません。相互不信感があると話し合いは成り立ちません。中立・透明・戦略的なシステムが必要で、話し合いは継続的に行わなくてはなりません。
飼料に添加する抗生物質についての話し合いの会を重ねるうちに、反対の立場で参加していた人たちの関係がだんだん和やかになった経験がありますが、行政はこのような筋書きのない企画を好まないようです。
このときに、排除すべき要因は、非科学的なゼロリスク商法と研究至上主義(研究費を得るために研究者がリスクの大きさを過大に宣伝する)です。

8.BSEについて
BSEは異常プリオンタンパクが牛の脳、脊髄、背根神経節、回腸遠位部などの危険部位に蓄積し、それを食べると感染するので、それらの部分を除去すればいいのです。残ったリスクは許容できるレベルだから、問題ありません。BSE検査は肉骨粉禁止対策の効果を調べるために、病牛や死亡牛を中心に行います。
各国の安全策を見ると、危険部位の除去と肉骨粉の禁止です。その他に安心対策(業界保護対策)として、イギリスでは、約30ヶ月で牛に奥歯が生えることを利用して、奥歯のある牛はと蓄後、大きな費用をかけて全頭焼却処分しています。スイスと北米は安心対策としてリスクコミュニケーションを行っています。BSEが発病するは平均5歳ですが、発病の6ヶ月前でないとBSE検査で検出できません。だから日本では今年から全頭検査をやめて21ヶ月以上の牛の検査にしました、都道府県レベルでは全頭検査を継続しています。

9.BSEによる死者
感染牛(発病前)の脳などの危険部位が付着した牛肉を食べて、イギリスでは約150名のヤコブ病の被害者がでました。世界中で患者数は最終的に500人くらいになるのではないでしょうか。100万頭の感染牛を食べたイギリスで最大5000人の患者が出ると仮定して、日本は5〜35頭の感染牛を食べてしまったので死者は0.9〜1人(食品安全委員会の試算)。危険部位を除去したのでリスクは1/100に減少して、0.01〜0.009人。その上全頭検査をすると0.005〜0.0045人にリスクを下げますが、ゼロにはなりません。
参考サイト
http://www.tohoku.maff.go.jp/syouhianzen/syouhiseikatuka/toresabiritei/BSE-3(16.12.8).htm

10.日本における全頭検査の意味
2001年9月、BSE監視体制強化のために30ヶ月以上の牛の全頭検査をすると厚生労働省は発表しました。ところが、同年10月、安心のために30ヶ月以下も全頭検査することになりました。厚生労働・農林両大臣が行った牛肉を食べるパフォーマンスが有名です。
全頭検査神話は、安心対策と安全対策の説明が不十分なために生れました。
全頭検査で米国の安い牛の輸入が止まり、日本の生産者は収益を得ています。消費者団体は全頭検査が安全を守るという組織維持のスローガンで消費者を引き付けています。その影で、倒産した食品産業関係の企業は負け組みということになります。

11.リスク分析の誤解のまとめ
リスク分析は食の安全を守るために重要な方法ですが、基本となる「許容リス」の考え方が受けいれられていないのが現状です。リスク評価は、科学だけで行うべきで、国民感情を持ち込んではいけない分野。一方、リスク管理で社会的な判断や国民感情を考慮しなくてはならず、これが混同されています。化学物質、BSE、GMO、アスベストなどのリスクコミュニケーションの失敗に学んで、今後の改善に活かしていかなくてはなりません。

質疑応答

〇食の不安を大きくしたのは、牛肉の偽装表示事件だった。

〇リスク許容量において個体の差は何か。
→最大無作用量を動物実験から求め、安全は統計学で考えるが、統計からはずれた人間はどうなるのか、という気持ちを人間は持っている。人命は地球より重いので、国の政策は100万人に1人までリスクを減らす対策を考えるが、それ以下は個別で対応する。

〇飛行機が許容されるのはリスクが小さいからか。
→車、飛行機は自分にメリットがあるから、許容しているという見方が適切。

〇円卓型コミュニケーションを政府はやりたがらないそうだが、円卓に行政は加わるべきだし、議長はどんな人がいいか。
→オブザーバーには行政が入り、議長役は科学と心理学がわかる人。政策に活かされる議論をすべき。

〇ドイツは首相が中心になって、議論をしていて批判をあびている。
→いろんなグループがこのような試みをやればいい。

〇絶対に反対と確信している人たちとコミュニケーションはできるのか
→反対運動で食べている職業的運動家とそれ以外は区別したい。日本でBSEが発生したときの大きな損害を、生産者は、米国牛肉輸入禁止で取り返している。だから、全頭検査維持を要求することは理解できる。食の安全は利害関係が関わることも考慮すべき。

〇8-9年前には「リスク」というと、「一か八か」と問い返された。リスクを危険と翻訳したときに怖がられたので、リスク、デンジャー、ハザードと分けて説明をした。
→今はリスクという言葉だけは定着したが、確率だということが理解されていない。食育基本法による小学校から食の安全の教育に期待。食育の内容が重要。公害で科学万能主義がくずれたが、これからは化学物質の光と影のバランスが取れるいい時代になるといい。

〇日本の消費者団体の中心は60年代の公害を経験した科学嫌い。これらは人数としては少なく全体ではない。
→個々の関係者と意見交換はできても、消費者団体が全体として変わるには時間がかかる。

〇消費者団体は自己実現をかけてやっているので。

〇国の品質基準より厳しくすることで製品の差別化をしようとして日本の農家の首を絞めると考えていたので、今日はその考えに自信が持てた。最近、日本リーディングマーケットが示した今後の方針は、1.品質、2.安心感、3.価格となり、安全は国の法令基準に従うとのこと。消費者が行ってきた過剰な安全要求が実現しないことが明らかになったために、出てきた考え方のように見える。

〇メディアには継続的に働きかけるしかない。
→科学的真実を伝える努力を続けるが、食の安全は誰かの利害と関係することが多く、BSE問題では米国のために働いていると誤解した文句もくる。

〇薬と食の安全を考えた時、薬は「リスクとベネフィット」が考えやすい。組換え反対の話を突破するのには花粉症緩和米のような消費者にベネフィットが見えるものを作って薬のようにしないといけない。薬にはベネフィットしかないような情報提供を行って、反対派に指摘、批判された例もある。消費者メリットよりも日本の自給率を高める品種を第一にすべきでしょ、という研究者がいる。消費者にメリットが見えるのがいい。牛肉を食べなくてもいいのに。
→BSEや鳥インフルエンザはメリットがないが、原子力発電、組換え食品、食品添加物はメリットが見えない。首都が停電になると原発の追い風になるだろうか。

〇原子力発電のハザードのメカニズムと遺伝子組換えのハザードのメカニズムは異なるので、勉強しあうのは難しい。遺伝子組換えのリスクと交通事故のリスクを比べている人がいた。メカニズムが違うのに、それを並べて説明するのはいかがなものか。
→すべてのリスクを比較して、被害者が多いところに対策費をかけるのは妥当な考え方。

〇自動車事故で死者が出ても、運転は自分でコントロールできるが、組換え食品はコントロールできない不安が高まる

○食品の場合、作り方が特許によってわからないのもがあり、市民の不安を高めている。

〇許容できるリスクとできないリスク。喫煙は自発的。
→食べ物を見て不安を感じていなくても、聞かれると建前で不安と言ってしまう。本音には個人差があるので、消費者団体は多くの人が一致できる建前で動かざるを得ない。

〇メディアとしては、危険でないものは見出しも書きにくい。いつも危険だといい続けるだけでなく、安全という定説とはずれて注目されるかもしれない。

〇テレビで人気の司会者は「すごくいい」という。あなたのためになると言い切る。標的を明確にしてきちんと訴えているから注目される。

〇食品情報は放送前に漏れるので、大量に売れると予想されるときは事前に準備する。

〇業界がテレビに売り込んで、番組が作られている。

〇消費者団体はなぜ、危険、安全を言い過ぎるテレビの人気キャラクターを責めないのか。

〇自分の意思による選択で個人は納得する。リスクを考える場がやっと日本にできた。前頭連合野の教育を丁寧に行うべき。この機会をマスコミや教育で上手に利用していくべき。

〇飛行機で死ぬ人は年に100人単位。家内は飛行機に乗らない。パーセントで知らせてはどうか。
→違うリスクを見せるとごまかしだと思う市民がいる。

〇歴史の浅い食品も徐々に受容されるのではないか。

〇BSEの話は報道と全く異なり驚きました。「なんとなく嫌な感じ」のなせるわざだと思うが、これはどこから来るのでしょう。何となくの「気分」が浸透すると手ごわい。
→フロイトのいう「正体がわからないものへの不安」が「なんとなく嫌な気分」をさす。

〇セールスをする時には、メリットより、「使わないといけない」(善意の恐怖心)を起こさせる業界のやり方を教えられたことを思い出した。
→一般に女性の方が不安が大きい。子供を守るからだと考えられている。性差は遺伝子、育った環境、ホルモンから生じる。男らしい考え方は胎児のときから男性ホルモンが働くから。このホルモンが働いた人は人差し指が薬指より短く、脳も男型になる。皆さんは?



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