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公開講演会「‘遺伝’をプラスのイメージに:教育の重要性」が開かれました

 9月28日国立オリンピック記念青少年総合センターにおいて開かれた、日本遺伝学会大第77回大会において、標記公開講演会が行われ、130名ほどの研究者、教員、学生、市民が集まりました。夜遅くまで、途中退席者もほとんどなく、熱心な議論が行われました。


高校「生物」教科書における「遺伝」分野の現状
     池内達郎氏(東京医科歯科大学・難治疾患研究所)

現在の生物の教科書に記載されている遺伝分野の内容は、生命科学の最近の発展を反映したものではなく、1)遺伝の規則性や進化が中学校から高校へ移動、2)高校で「生物」を履修する生徒が減った、3)履修率が約8割の高校「生物I」から変異の用語が消え、突然変異や遺伝的多様性が扱えなくなった、4)ヒトの遺伝がほとんど扱われなくなった、5)遺伝子の分子レベルでの扱い及び進化が履修率の低い「生物II」に限定されている、などたくさんの問題がある。とくにヒトの遺伝についていえば、ダウン症など疾患を伴った人達は家族にとって決してかわいそうで気の毒な存在ではないこと、  突然変異は集団中に一定の頻度で生じていること(誰でも疾患児の親になり得ること)など,疾患に対する正しい知識をもつことが,疾患にやさしい社会をつくる上で必要なことである。現在の教材の見直しが必要だと思う。 日本遺伝学会としても、ゲノム時代といわれる社会のニーズに対応した遺伝教育とは何かについて教育関係者とともに考え,文部科学省の教育行政に関わる方たちへのはたらきかけに積極的に取り組みたいと思う。

質問1:高校で遺伝教育がよく行われていないことがわかった。改善のためには科学そのものの比重を大きくすること、科学の中で生物の比重を大きくすること、生物の中で遺伝の比重を大きくすることが大事。改善のためのシステムを考えないといけないと思う。
池内:同感。教科書検定をしている人達だけでなく,教科書行政のシステムについて知らなければならない。カリキュラムの作成には専門家が入るべきだ。有効に学会として意見を示していきたいと思う。
質問2:「色覚異常」という言い方は、該当者には好ましくないという意見がある。「異常」ということばを使うことについて、このことばが対象者に与える印象を考えてほしい。
池内:「盲」の字に差別感があるので教科書では「色覚異常」に統一されている。明らかな遺伝的多型に「異常」はおかしいと思う。眼科の医師に相談したり、人類遺伝学会でも話題にしているところです。「異常」ということばは専門用語だが、使い方への配慮が必要。
武部:使っている人に差別意識はなくても、聞いた人が差別感を感じることばは使っていけないと考えている。ご指摘に感謝。


遺伝教育の新展開:遺伝カウンセラー養成
     藤川和男氏(近畿大学理工学部)

遺伝カウンセラー養成の専門コースが、今年7大学の大学院修士課程にできた。
遺伝学は遺伝のしくみと変異を研究する分野のことで、実験遺伝学と観察遺伝学からなる。人間を扱う遺伝学は、次のようなものがある。
人類遺伝学:人の遺伝のしくみと変異を研究する観察科学
遺伝医学:遺伝性疾患の原因解明と診断・予防・治療法を研究する分野
臨床遺伝学:遺伝医学の実践応用分野

遺伝カウンセラー養成
遺伝カウンセラーとは、遺伝に悩みを持っている人をカウンセリングを通じて彼らが自らの力で意思決定を行うのを支援する専門職。遺伝医学の急速発展において、遺伝カウンセリングが医師の負担になってきたことなどから、人類遺伝学会と遺伝カウンセリング学会が認定カウンセラー制度を設けた。米国では1982年認定制度が始まり、日本は2005年から。

認定遺伝カウンセラー養成課程
入学資格は生命科学系や心理学系の学科卒、看護士などコメディカルスタッフ。遺伝医学、基礎医学、法律、社会福祉、心理学、カウンセリング実習など幅広い内容のカリキュラムを組んでいる。
近畿大学の定員は5名/学年
遺伝カウンセラーの可能性は、カウンセラーとしてインフォームドコンセントの担当者、遺伝医学の教育や啓発活動にあたる人材になると期待される。

実験遺伝学偏重からヒト遺伝重視へと転換
遺伝が身近になり、1)傷害以外の病気に遺伝的要因が関与している、2)疾患関連遺伝子をもっていないヒトはいない、3)私たちは遺伝子プールを共有していることがわかってきた。遺伝医学の基礎を学習する機会を確保し、いつまでも不安や戸惑いを市民が感じている現実を見直していきたいと思う。

質問1:これは国家資格か→学会認定資格です 
意見1:一般への周知徹底は大事ですね→同感
武部:遺伝カウンセラーは必要なのに、保険点数にならないため、おざなりになり、カウンセラーの言動が問題を引き起こしているという話がある
質問2:遺伝カウンセリングで実習の学生が陪席したりすると患者は神経質にならないか
田村(お茶の水女子大):3省指針で遺伝カウンセラーは医者である必要はないことが決まった。私は米国で200例の実習を経て、遺伝カウンセラー資格を取得した。難しいのは遺伝子診断の確率を説明し、意思決定に導くところだと思う。学生実習については、養成講座を持つ、7校で相談中。


組換えDNA実験技術と植物遺伝学
     米田好文氏(東京大学大学院理学研究科)

シロイヌナズナの研究から
突然変異体は化学物質や放射線処理により突然変異を起こさせて作り出す。例えばシロイヌナズナの研究では、突然変異体をつくり、どこの染色体異常があるかを見つけ、その断片を大腸菌に増やさせアグロバクテリウム法により突然変異体に取り込ませ、野生型に戻るかどうかを確かめた。レポーター遺伝子として、インディゴ色素であるインドール化合物を作る遺伝子を入れた。

遺伝子組換え食品について
国策ではこの技術を推進しているのに、自治体は反対(条例つくり)しているようにみえる
担保する法律は、生物多様性条約、食品衛生法、飼料安全法。
食についてはサラリーマンとしての立場で今日は意見を述べる。
環境への放出について、生態学や集団遺伝学の専門的な研究は未解明の領域だが、監視下にいて実験すれば知見が得られるはず。
非組換え種子に遺伝子組換え種子が入ってきていることに問題を感じている。
化学合成物は定量的精製であるが、組換え食品の精製は定性的であり、純度という観点では後者は論理的にデジタルであり0/1の精製となる。組換え技術は、対象になる配列を入れたりつぶしたりできるはずなので、もっと根源的な技術だと思う。多国籍企業による独占には抵抗を感じる。

意見1:遺伝子を食べていないと思っている人が多いのが現実。遺伝子組換え実験はお金、テキスト、設備がなくては、一般の先生たちは授業に取り入れられない。私の属している(社)農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)では、出前授業をしているので、利用してほしい。
池内:組換えの仕組みが学校の授業(教科書)に入っていないのに、実験が先行していいのかという懸念がある。


メディアから見た市民リテラシー
     青野由利氏(毎日新聞社解説室)

今までの流れ
1980年代は遺伝子工学ブーム。80年代は遺伝子発見がひとつのニュースになる時代で、90年代はヒトゲノム計画、遺伝子治療、遺伝子組換え作物が話題になった。現在はゲノムを読み終わった後の「ポストゲノムシーケンス」の時代

遺伝と市民
遺伝は一般市民にとって特別なものでなくなってきている。
「奈良生活学校連絡協議会」「科学技術政策研究所」の調査によると、市民の遺伝子に関する知識は高いとはいえない。遺伝への知識不足から、遺伝的決定論、遺伝子差別、治療への過剰な期待などの誤解を招くことがある。
遺伝子技術の許容範囲として、遺伝子ドーピング、デザイナーズチルドレン、着床前診断などのどこまでをよしとするのか。

メディアの役割
市民の基礎知識がないと、限られた内容しか報道できないし、専門的な内容を書きたくても制約ができてしまう。市民の遺伝リテラシーが向上すると基礎知識解説スペースが不要になり、本題を詳しく、問題提起まで書けるはず

遺伝リテラシーとは
同意文書を見ると市民に理解できないものがある。これは、専門家側の問題ではあるが、望ましい市民のリテラシーとは、質問でき、自己決定ができる基礎知識を持つこと。遺伝学に関する初等、中等教育が大事
専門家も、科学的知識なアップデートが必要で、ELSI(倫理的・法的・社会的な事がら)の認識が低いので、遺伝教育は必要
提案

・ゲノム関連予算の一部を常にアウトリーチ活動に費やすこと
・中学・高校の教師や学生向けの教材つくり
・テレビ番組やウェブサイトを作ること


「遺伝」をプラスイメージに
     武部啓氏(京都大学名誉教授 近畿大学教授)

京都大学で倫理委員を10年間つとめたが、現在のような委員構成の指針はなく、医師でない委員が一人ぐらい居たほうがよいと言われて就任した。 ところが、多くの議題が先天的あるいは遺伝的な疾患にかかわるのに、医師自身が理解が乏しくて、「遺伝」という言葉すら告知できていないことを知った。 1992年ごろから巷には遺伝子とかDNAといった言葉が氾濫するようになった感があるが、「遺伝」は出てこない。 なぜか「遺伝」には暗いイメージが伴うらしい。 高校の生物教育の場でも、ヒトの遺伝は差別につながるおそれがある、との声も聞いたが、正しく教えないからそうなるのではないか。 最後に日本で障害者団体などに広く知られているエドナ・マシミラさんの詩、「天国の特別な子ども」の1節を紹介したい。

「ーーー もしかしてこの子の思うことはなかなかわかってもらえれないかも知れません。何をやってもうまくいかないかも知れません。 ですから 私たちはこの子がどこに生まれるか注意深く選ばなければならないのです。 ーーー 柔和でおだやかな この尊い授かりものこそ天から授かった 特別な子どもなのです。」


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