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第9回バイオカフェ(茅場町リリー)開催レポート

9月30日(金)、「あなたと私はなぜ違う〜DNAから見たヒトの多様性」というタイトルで筑波大学生命環境科学研究科須田英子さんがお話をしてくださいました。 はじめに今村さんと小野さんによるバイオリンとビオラの演奏。「バイオリンとビオラは同じ弦楽器で形が似ていても、大きさや音色が違います。楽器にもDNAがあるのでしょうか。それから、バッハとモーツアルトは1世紀近く離れた時代に生まれた音楽家ですが、DNAが違うから生まれた音楽もこんなに違ったのでしょうか」という今村さんの問いかけの後は、作曲家あてクイズ。参加者は美しい調べにうっとりしながら、ドキドキ。

バッハとモーツアルトのDNAの違いって・・・ わかりやすいお話ぶりに思わず拍手


「あなたと私はなぜ違う〜DNAから見たヒトの多様性」
     筑波大学生命環境科学研究科須田英子さん

ヒトの体の成り立ち 
私たちの体は、たったひとつの受精卵という細胞から、細胞分裂をしながら200種類くらいの細胞に分化し、そしてできた60〜75兆個の細胞たちにより作られています。体の複雑な構造や働きは、12〜20万種類のたんぱく質によっており、たんぱく質の作り方がATGCの4文字からなるDNAに書かれています。ゲノムとは80年ほど前に植物学者が考えた造語で、すべての遺伝情報のワンセットのことをいい、その本体がDNAです。

DNAの働き 
DNAにはいつ、どのくらい、どのようなたんぱく質を作ればよいかの情報が書かれています。酵素や、細胞の連携プレーを司るホルモンの多くもたんぱく質です。ヒトは22、000個の遺伝子を持つといわれていますが、遺伝子が多いから高等なのでは必ずしもなく、どれほど多様なたんぱく質を作れるかで、生物がどの位、高度に進化しているかが示されているのではないかと考えられています。

生物の多様性 
ヒト以外の生物も同じようにATGCからなるDNAのシステムを使っているので、DNAはすべての生物で共通の言語です。10億年前に細胞内に核を持つ生物が複数の細胞からなる多細胞生物に進化し、それから今に至るまでの進化の歴史が私たちヒトのゲノムに刻まれているということもできます

変異(バリエーション) 
ヒトのゲノム配列が解読されて、ふたりの人間の間では、ゲノムの99.9%が共通の配列であり、差の部分は300万塩基対に相当することがわかってきました。
この差は変異とよばれ、そのほとんどが、ATGCからなるDNAの配列が1文字だけ違う一塩基多型というものです。変異の研究により、なぜ、ヒトの多様性(個人の差)が生まれるのかがわかるのではないかと考えられ、そうした研究を進めるために、ヒトゲノムのどこにどんな変異があるかということを示す地図を作る計画が進められています。

ヒトゲノムの連続性と断続性 
ヒトの体細胞には46本の染色体があり、22対の相同染色体と2本の性染色体からなっています。XX型の性染色体をもつと女性、XY型の男性になります。
体細胞が細胞分裂して増えるときは、2本鎖のDNAがほどけ、一方を鋳型にして、AとT、GとCというように対応しながら、元のセットのコピーを作ります。こうして2倍に増えた染色体は、1セットずつ、分裂した細胞の核に入ります。
一方、生殖細胞(卵子や精子)を作るための細胞分裂は、体細胞の分裂とは異なるもので、相同染色体が1本ずつ分れて分裂した細胞に入るので、生殖細胞は23本の染色体を持つことになります。さらに、相同染色体が1本ずつ別々の細胞に入る前にそれぞれの相同染色体の間で組換え(染色体の一部を切り混ぜること)が起こるので、生殖細胞には親が持っていたものとは少し異なった染色体が送りこまれます。
ヒトゲノムの情報は、このような「連続性」と「断続性」とを持って受け継がれていきます。

ヒトゲノムの多様性と人種 
分子進化遺伝学的な方法で世界のヒト集団間の遺伝的距離を調べると、15万年前にアフリカで誕生したヒトの先祖は、10万年前までに、アフリカに残った集団と出ていった集団とに分かれたことがわかります。このような方法で、現在の人間のゲノムの配列から、各人種母集団間の遺伝的距離を示す系統樹を導き出すことができます。系統樹の上での距離は、それぞれの集団がどのくらい前に分岐したかを示す年数として表され、たとえば東南アジアの人と北東アジアの人は5−7万年前に分かれ、その後の4万年前に、北東アジアの人はヨーロッパ系の白人と分かれたことになっています。日本人は分子進化遺伝学でみると、中国人より、同じ東南アジア人に属する朝鮮人に近いことになっています。

母集団間の違いと個人の違い(個人レベルの多様性)
異なる母集団の間での違いは、大航海時代以降、人間が移動するようになり、人種母集団間での混血が進むことにより、だんだん小さくなってきています。一方、生殖細胞のでき方で説明したように、個人の間の多様性は減ることはなく、逆に豊かになっていきます。

遺伝子と酵素の働き
薬を飲むと、体内でその薬を代謝する酵素が働いて、薬が代謝・排泄されます。薬の効き方や副作用の出方が人によって違うのは、この酵素を作る遺伝子のどこにどんな変異があるか(ゲノムの多様性)ということと関係があると考えられています。
ある血圧降圧剤が、服用した人の尿の中に代謝されて出る量と、代謝されずに出る量の比をスウェーデン人と中国人の間で調べたところ、スウェーデン人には、この薬を代謝できない人たちが、15人にひとり(7%)いることがわかりました。その人たちの代謝酵素遺伝子を調べると、酵素が働かなくなるような変異がありました。また、中国人では半数の人が、酵素の働きが弱くなるような変異を持っていて、その人たちでは代謝の効率は低くなるけれど、スウェーデン人で見つかったような、薬を代謝できなくなるような変異を持つ人はほとんどいないこともわかりました。

ゲノムはすべてではない
薬の効き方に、ゲノムの多様性による個人差が現れることをお話しましたが、実際には、運動・食生活・喫煙・飲酒などの外的要因、ゲノムの多様性・体調などの内的要因が複雑に相互作用し合った結果として、薬の効き方に個人差が現れるので、ゲノムだけで説明したり予測したりできるものではありません。これは他の個人差についても言えることで、「薬の効き方の違い」をたとえば「生活習慣病のなりやすさ」、「運動能力」、「学習能力」などと置き換えても、同じように考えることができます。

まとめ
ユネスコの「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」(1997.11)では、人間の独自性、多様性を認めたうえで、それらを尊重し、互いが連帯することの大切さが説かれています。
また、アインシュタインが友人の化学者に当てた書簡には「科学者にとっても大事な関心事は人間自身とその運命でなくてはならず、科学の創造物が人の恵みになるように考えていかなくてはならない」と書かれています。科学者はヒトゲノムの研究を人の恵みになるように進めなくてはなりませんし、同時に私たちも市民の価値観を通じて、ゲノムについて知り、ゲノム研究が人の恵みなるにはどのように関わっていくのがよいかを考えていかなくてはならないと思います。

難しいテーマも和やかに


質疑応答
     (○は会場参加者の発言。→はスピーカーの発言)


〇一塩基多型、変異(バリエーション)、突然変異(ミューテーション)の違い。
→変異(バリエーション)は集団の中で出現頻度が1%以上みられるもの。その多くを占めるのが一塩基多型。突然変異はそれよりもずっと出現頻度の低いもの。
〇医学では、突然変異は病気の原因になる先天異常だとする考え方の整理もある
→一方で、進化の基本は稀に起こる突然変異であり、「両刃の剣」だという側面もある。
〇微生物を使って、抗生物質を作る研究に携わっていた。微生物に紫外線をあてて突然変異を起こさせ、抗生物質の生産性をあげた。この微生物の突然変異が微生物自身が望んだものかどうかはわからないが。
〇四国、九州にはアルコールに強い人がいるというが
→アルコールを分解するときには体内にある主に2種類の分解酵素が関わっている。日本人にはこの酵素をつくる遺伝子の働きが弱くなる変異がある人が、欧米人より多いことがわかっている。
〇お酒も飲む訓練で強くなるということか
→我が家は両親も私もお酒に弱いが、弟は体育会に入って飲酒の機会が多く、強くなった。体によいことではないが、お酒の代謝に関わる酵素の働きが弱くても、それを補うために他の酵素が誘導されるということはある。薬や外来の化学物質などでも、人間は似たような代謝酵素を何種類も持っているので、そちらの酵素が働くようになることがあるが、こういうことは子孫には受け継がれない。一方で進化の中では、たまたまある遺伝子が働いて、環境への適合など、その生物に都合のよいことが起こると、その性質が強まり、次世代に受け継がれることがある。
〇DNAは細胞の核以外の場所にもあり、そのDNAは母親のものだけが伝わる。
〇最近はDNAを重視しすぎる。細胞全体のシステムとして生物を捉える考え方が重要だと思う。
〇目の色を決める遺伝子はどこにあるのか。
→目の色を決める仕組みはわかっておらず、単独で眼の色を決めるような遺伝子は見つかっていない。目の色を決めるにはいくつかの遺伝子が複合的に働いているために、解明が難しいのだと考えられている。
〇RNAとは何か。知り合いのこどもがカナダでRNAに関係するベンチャー会社にいるが、数年で従業員が5−6人から100人以上に増えている。
→RNAはDNAの情報を写しとって必要なときに必要なたんぱく質をつくる仲立ちをするもの。
〇RNAは製薬会社に最も注目されているので、カナダにおられるご友人のお子さんは先端医療の会社で働いているのですね。


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