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第17回談話会「薬のできるまで〜薬になるもの・ならないもの」レポート

10月28日(金)に談話会が開かれました。17名の参加者を得て、にぎやかにテンポよく行われました。サービス精神旺盛な講師による手作りの予告編上演(お弁当の時間にスピーチの概要がパワーポイントで紹介された)は、談話会始まって以来初めてのことでした。


田端さんのお話の概要

薬ってなんだろう
日本では、国民医療費が約30兆円、そのうちの6兆円がお医者さんの処方する薬(医療用医薬品)。薬屋さんで販売されるOTC(Over The Counter)薬は医療用の10分の1くらいの規模。世界でみると市場規模は約50兆円強、医療保険制度のある先進国が大きな市場になっており、北米がこの半分、欧州は25%、日本は11%を占める。
日本市場では医療用医薬品の値段は公定価格、定期的に「薬価改定」があり、市場サイズはここ数年間横ばい。薬の種類では、急性疾患用、例えば抗生物質が減り、慢性疾患の代表の生活習慣病が増えている。
薬には、1)体に欠けた物を外から補うタイプ(ビタミン、鉄、ホルモンなど)、2)体に入った菌を殺すタイプ(抗生物質)、3)体の本来の機能を調整するタイプ(抗アレルギー薬、降圧薬、免疫抑制など)、4)その他 がある。

薬の歴史 
病気の治療の初めは悪霊払いとまじないだった。宗教と医療がごちゃ混ぜだった長い歴史を経て、西洋では15世紀のダビンチの解剖に始まり、外科を中心とする医学が生まれ、18世紀末にジェンナーの種痘が登場する。一方、東洋は草や根を混ぜて使う経験則に基づく全身療法、内科的療法が多い。古くは2000年前の神農本草経(しんのうほんぞうきょう)、古事記の「因幡の白兎」に出てくるがまの花粉、江戸時代の「がまのあぶら」などがある。

人類と病原菌の戦い
歴史上、人類を苦しめ、多くの生命を奪った病気をみると、天然痘、コレラ、ペスト、チフス、マラリアなど、軍の遠征、民族移動などで菌が運ばれたケースが多い。後に抗生物質が登場するまでは下水道整備など、衛生環境の改善が有効手段であった。現在においてもインフルエンザやAIDS、SARSなどウィルス感染による病気が問題解決されておらず、病気との戦いは続いている。病原菌との戦いの中で大きく貢献したのは顕微鏡の発明。次々と病原菌が特定されていくなかで19世紀、コッホの原則(病気は病原体が起こす)が提唱されるまで、病気の原因すら特定できない状況だった。

予告編から大活躍の田端さん にぎやかなひと時の後で

新しい薬の歴史
現在使われているような薬の歴史は比較的短い。呪いや民間薬、伝承薬しかなかった長い長い歴史を脱して、有効物質の抽出・単離が始まったのが19世紀末ころ。医学の発達と経験則を背景に理論的な裏づけのある薬が作られるようになるのは20世紀に入ってから。
例えばアスピリン。柳の枝に鎮痛効果があることは世界各地で古くから知られていたが、有効成分としてサリチル酸が抽出されたのは19世紀半ば。サリチル酸は鎮痛効果があると同時に胃痛を起こすため、これを化学的にアレンジしたアセチルサリチル酸(アスピリン)が合成、発売されたのは19世紀末であった。但し、なぜアスピリンが効くのかが判明したのは20世紀後半に入ってから。また、最近では血小板作用があることもわかり、心筋梗塞や脳卒中の再発予防にも使われるようになった。
くすりの発達によって治療法が大きく変わったものに消化性潰瘍がある。20〜30年前までは手術が盛んに行われたが、胃酸の中和、胃粘膜の保護、酸分泌の抑制、ピロリ菌除菌といった効果を示す薬が次々と登場して手術は激減、ほとんどのケースは薬で治るようになった。また、この領域の研究に2件のノーベル賞が贈られている。

日本人の平均寿命と病気
日本人の寿命は100年ほど前の40歳代から、今は80歳前後まで伸びている。衛生環境や栄養状態の改善、医療や薬の発達が貢献しているわけだが、特に結核などの感染症の激減が大きく影響しています。寿命の延びに伴ってがんや高血圧、糖尿病といった病気が増えていると解釈できる。

新しい薬となるための条件 
新たな化合物が薬となるまでには、有効性(病気に効く)、安全性(副作用がない)、安定性(物理的に安定)、体内動態(体内への吸収、代謝経路)、経済性(製造コスト)、優位性(既存薬との比較)等が研究、検討される。
新薬を生み出すには10〜18年の期間と数百億円の膨大な投資が必要。有望な物質の発見・合成の次に、非臨床試験(ヒトで確かめる前に行う様々な試験)、臨床第1相(健常者でまず安全性を検討)、臨床第2相(少数の患者さんで有効性を検討)、臨床第3相(より多くの患者さんで有効性を検討、既存薬との比較試験)が続く。
合成された候補化合物が臨床試験にたどり着く確率は数百分の1、更に臨床試験段階で9割が脱落する。脱落の理由は1)効かない、2)分解してしまう、3)体に吸収されない、4)市場性(開発競争の激しさ)、5)前臨床で毒性が出てしまう等さまざま。
医薬品の特許が有効なのは基本的には20年。世に出る頃には数年しか特許期間が残らないケースもしばしば、まるで蝉の一生。

薬は役立っているか
様々な病気には薬だけで高い確率で治せるものもあるが、薬だけでは治りにくい、効果が及ばないものも数多くある。薬の健康への貢献はまだまだと思う。 アルツハイマー、肝炎、肝硬変、エイズ、アトピー性皮膚炎、リューマチといった有効な治療法に限りのある病気が新薬開発のターゲットになっている。

新たなアプローチ
既に、遺伝子組換え技術や細胞融合技術、細胞培養で作られたインターフェロン、インスリン、ヒト成長ホルモンなどのバイオ医薬品も市場で活躍しているが、最近では、遺伝子情報を活用した新たな医薬品開発へのチャレンジが盛んになっている。病気に関連して発現している遺伝子を研究して論理的なドラッグ・デザインを行おうとするゲノム創薬の試み、個人の遺伝子型を知ることでその人にあった薬や使い方を選択するようにする個別化医療(オーダーメード医療)、更に抗体や核酸、遺伝子を薬として使う研究も盛ん。個別化医療では米国でバイディルという黒人の女性の心臓病にだけ承認を受けた薬がその第一号であるが、人種/人権問題も絡んで今年話題になっている。



質疑応答
(○は参加者。矢印はスピーカー)

○アメリカの市場が大きい理由は何か。日本の人口は米国の半分だから日本の薬の市場はもっと大きくなっていいのではないか。
→米国は薬の値段が高い。米国では薬が自由価格であるため製薬企業は売れる薬を値上げすることができる。また投与量も多い(体格が大きい上に重症例も多い傾向)。
○なぜ、市場までたどり着く薬がなかなかでなくなったのか。
→経験則で見つけられそうな薬はすべて見つけてしまった観がある。ヒト遺伝子情報に基づく薬作りはまだ的が定まらないというのが現状。
○途中で薬の開発を中止する際に市場性も配慮するという話があったが、製薬企業は利益が余りなくても製造しなくてはならないという使命がある。オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品患者の数が少ないので、開発する企業がでにくい「孤児の薬」という意味。市場性のない薬)を開発して患者に届けるという行政のシステムがある。
→市場性は同種ライバル薬の多さや開発スピードに左右されるため、勝ち目が無いと判断すれば中止することもある。但し、このような開発競争とは別に製薬企業は社会的使命を負っており、世界で患者数5万人以下のケースで言うオーファンドラッグの開発も行っている。例えば日本でも多発性リンパ腫の患者さんにとってサリドマイドは大事な薬。社会的使命を背負った会社が製造している。
○オーファンドラッグ開発に国は援助しないのか。
→薬価設定や種々の手続き等で支援が考えられている。
○薬は情報が添付されていないと売れない。ハードウェア(薬)に添付文書というソフトをつけるために開発費用が必要。その臨床試験が日本では進んでいない。日本にはボランティアになって薬の開発に協力しようとする意識が低いためか、世界との開発競争では臨床試験段階で遅れをとっている。
添付文書は医者が持っているのか。
→医者と薬剤師がもっている。厚生労働省のHPにも公開されている。安全に薬を飲むように添付文書をわかりやすくできるといいと思っている。欧州は箱のまま渡すので添付文書を読む。少量の箱を作って添付文書ごと渡す。飲み残しは薬屋で回収。
○欧州は患者むけ添付文書Patient package Insert(PPI)。日本は医者向け。薬の適正使用協議会ホームページには薬のしおりには薬の飲み方、副作用が示してある。
○第1−3相臨床試験を日本は外国でやっている。日本で治験をするには、有望な医学生を米国に送るなど人材育成からしないとだめ。日本の雇用に効果が出なくても製薬会社は早く承認してもらうために外国で治験を行いたいと考える。
→日本で治験に関する環境整備が不十分なことが原因として大きい。1症例あたりのお金も時間がかかる。治験をとりまとめる役目を果たすコントローラーが不足、受け入れ施設不足のほかに医師の意識問題があるようだ。欧米の医者は治験を仕事の一部との認識が定着しているが、日本の医師は患者救済だけに集中、治験はアルバイトと考えている向きがある。国会議員さんはそういう実態をご存じないのでは。
→わかっている議員さんもいると思う。
もちろん治験推進をする医者もいるが数が少なく効果が未だに出てこない。
日本人にはボランティア精神がない。
→治験と人体実験の区別がわからない人が多い。今日のような理解増進が大事。経験則の集大成の最後には治験が必要。
○薬の研究開発費が増えたのは臨床試験のコストが原因と聞いたことがあります。
→急性疾患の病気から慢性疾患の病気が対象になっており、長期間投与し、データをとるので、お金と時間がかかる。ICH(新薬のデータをとるための国際標準化。世界中の臨床試験のレベルを合わせよう!)を行うと調査項目が増えコストはあがる。病気の評価基準、ものさしの設定が難しい。例えば、アルツハイマーの薬の評価はかつて家族の日記で対応したりしていたが、今は客観的データが必要。
○一番飲む薬は風邪薬だと思うが。
→風邪はウィルスが原因だがウィルスに効く薬がない。現在の薬は症状緩和の対処療法を目的としたもの。抗エイズ薬などいくつかの抗ウィルス薬がでてきているが、副作用がかなり強い。風邪では3日の安静で治るので、副作用の強い薬を飲む必要はないでしょう。病気になったら休めという信号。
病気に最も効くように薬を飲む時期はいつがいいのか。
→早めに飲む。症状が進んで体力が落ちる前に飲むと副作用もでにくい。早めの休息 やせがまんはだめ。
○農薬は医薬品の開発費は10分の1といわれるが、医薬品の場合は、どの段階で最もコストがかかるのか。
→症例数がグッと増える第3相で一番お金がかかる。そのため製薬企業はその前に重要な判断を求められることになる。
先日、薬の開発が止められた記事を見たが、どの段階が厳しいのか。
→既存薬に比べて優位性を証明することが一番厳しい。比較試験で負けると発売できないだけでなく、膨大な投資がふいになる。
○ジェネリック(後発品。開発会社以外が特許が切れた薬を発売する薬)は6−7割がけで患者にメリットがあると考えている。
→一般にジェネリックを販売する会社は規模が小さく、情報対応面で弱みがある。そのためビタミン剤のように製造工程も単純で効果も安全性がよくわかっている薬のジェネリックはいいと思うが、新規性の高いもの、副作用が強いものではジェネリックは普及しづらいと思う。
○ジェネリックの試験はどのように行うのですか。
→同じ成分が含まれていればいいので、それを証明する試験データのみ必要。基本的に臨床試験は不要。
○ジェネリックは患者が選べばいいと思う。安さをとるか、医者に選んでもらうか。ジェネリックの経口剤で効かないものが3割ある。有効成分は同じだが、製剤技術は同じではない。試験対象になっていない吸収のされ方が異なったりする。
○ジェネリックには再評価制度がない。先発品は患者さんの使った後の薬の情報を集めているが、後発品は使った患者の情報を集める必要はない。
○薬の寿命は短く、数百億円の投資、市場に出るまでに10年以上、しかもハイリスクといいながら、経営面では優良企業ばかりとは、どういうことですか。
→日本の大手は米国を中心に海外で利益をあげ、中小は国内でブランド品を軸に特許が切れても強みを発揮している。現在のところ双方とも良好な事業成績のところが多い。但し、いつまでそれがつづくのかはまったく不明、これからモノが出せるかどうかにかかっている。
○黒人の女性の心臓病の薬がなぜ人権問題になるのですか。
→黒人女性しか使えない効能を定めると、同じ心臓病の白人女性が使っても保険料がでない。白人女性で確率が低くとも、治療機会を奪っていいのかという論点。


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