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講演会「バイオテクノロジーの国民理解」開催レポート

3月28日(火)、銀座ラフィナートにおいて標記講演会が開かれました。4人のスピーカーが各々の立場から科学コミュニケーションについて発表しました。くらしとバイオプラザ21からはバイオカフェについてお話ししました。



「科学技術コミュニケーションの課題〜リスポンシブルな科学技術を生み出すために〜」

京都女子大学 平川秀幸氏

科学技術と社会の関係の時代変化
かつて科学技術は輝かしいものであったが、現代では科学技術が市場に深く入り込み、社会の摩擦・衝突・紛争が増加した。現代のようなリスク社会の中で双方向的コミュニケーション(意思疎通・交流・合意形成)が追求されるようになってきた。

市民や科学コミュニティの変化
M.Callon(仏)は、科学技術と社会の軋轢の大きくなる中で、自分たちのニーズに取り上げられていない人々や直面している問題に関与できず、意思決定への参加を求めている人々が生まれていることを指摘している。
科学コミュニティも変化し、1999年、ユネスコと国際科学会議が主催した世界科学会議で採択されたブタペスト宣言では、科学は知識のための科学から、平和のため、開発のため、社会における位置づけに言及し、社会と科学の関係が最重要とされた。リスクは専門家と政府当局が決めるものでなく、相互理解が目標とされている。
科学技術に関する情報の欠如のために、公衆は理解できないという「欠如モデル」も、今では科学技術面を重視しすぎ、社会的側面を無視していて問題があると考えられるようになった。

科学技術の多面性、リスク受容の多様性
科学技術には社会的側面(倫理・法律・社会的問題)、政治的側面(自己決定権、分極の正義)、社会・政治的側面もある。
例えば、農林水産先端技術振興センター(STAFF)が実施したコンセンサス会議では、専門家は科学技術に視点をおき、市民パネルは社会的提供や企業・行政の責任に関心を持っていた。生産者は海外における遺伝子組換え農作物の低コストに関心があった。
リスクに対する視点は個人で異なり、自分でリスクを引き受けられる人もいればそうでない人もいる。リスクを語る視点は集合的・統計的視点なので、一人一人の視点とは相容れないものになる。統治者の視点は政策決定には必要だが、個人は納得できない、という解消できないジレンマがあり、相手の見方・立場を想像できるダブルシンキングが必要。

新しい科学技術コミュニケーションへの課題
科学技術の受容だけでなく、社会的適応(Public adjustment:科学と社会の互いが適応しあう)が大事。科学技術の舵取り(governance)のための仕組みや方法が必要。ベストの試みよりもコミュニケーションやガバナンスの失敗の最小化が目標になってきている。例えば、Fiorino(独)は、どんなメンバーで取り組んでも失敗はある。皆で参加し納得できる失敗をし、責任を共有することが大事だという「悲劇的意義」として「失敗との和解」の意味を認めた。

市民社会組織(NPOやNGOなど)に求められること
市民ひとりのリテラシー向上は数%が限界。市民ひとりひとりに代わって科学技術や社会市民的観点から問題点を抽出し提言するグループが必要ではないか。しかし、意思決定においては、コミュニケーションを打ち切って決定するというジレンマがある。失敗との和解が今後の課題ではないか。



質疑応答

○米国でGMコミュニケーションがうまくいっていて、欧州がうまくいかなかったのは、コミュニケーションの違いか→米仏を比較すると価値観の違いによる。無駄な表示をするのは税金を無駄にして権利を侵害しているとする米国と欧州は知ることが権利だと解釈している。
○相手が異なるとコミュニケーションも変えるのは大変だと思うが→互いの違いに気づくセンスや想像力・想像しようとする能力を養うことが大事。継続的訓練で身に着けるもの。


科学コミュニケーションにおける科学館・博物館の役割

日本科学技術振興財団  田代英俊氏

科学技術館の来館者60万人のうち、学校から参加が3分の1、残りの一般来館者では大人と保護者は半々。意識調査を17年度行ったところ、科学技術を学びたい、考えたいというほど市民は醸成されていないのが現状。17年度に実施した米国視察について報告する。

シカゴ科学産業博物館 
Genetic Decoding Life 700平米で5億円の展示を2002年から公開。クローンマウスなど実物展示から、人間の関係に発展させ双子について説明。
投票コーナー:その日の来館者の意見の投票結果が見られるようになっている。宗教的問題があるかもしれないという設問があり、そこに投票している人が多い。
ヒナの誕生の展示:見ている人が最も多い。日本のバイオの展示はDNAに偏り、生物体につながっていない気がする。生き物を見せることの重要さ

The Tech Museum of Innovation
2004年オープン、200万ドルで2400u。体験中心型
遺伝の展示:家族の写真から遺伝を説き起こし、遺伝子治療を説明する展示。
遺伝子組換え実験:1日100人が参加。10分ででき、結果はインターネットで見る
演説コーナー:・自分が米国大統領になってバイオテクノロジーについて演説する
ご意見コーナー:遺伝子診断について意見を自筆で書いてはるコーナー
チラシ:倫理的に考えるための枠組みを配布

Cold Spring Harber Laboratory Dolan DNA Learning Center
1985年設立 遺伝子教育プログラム 年間8000人に出前授業実施。実験を優先

日本でも巡回展示「いのちの科学巡回展示」を!
米国にはClear Channelという巡回展示がある。
16年の調査で科学館は信頼が行政、新聞、などより高いことがわかった。
知識を定着し、興味・関心の喚起と感動へ。科学リテラシー形成や科学コミュニケーションへの流れを作るのに、科学巡回展をきっかけ作り、動機付けの強化にできないか。欧米で共通しているのは考えさせ、意見表明をさせる。日本にはないので、自分自身を見つめ、かけがいのない命を見つめなおすことをテーマとした展示にしたい。現段階で基本設計レベルの提案書を作成。今後、バイオテクノロジーに関係する方々の協力を得て実現化を図りたい。



質疑応答

○米国は子供向け、欧州は大人向け、日本の大人は子供の付き添いという関係がみえるが、貴館での大人を集める工夫は→来館者の動きを見ていると父親は知っている分野で、こどもに説明したがったりしている。日本人は遠慮深いが、団体入館より個人入館が着実に増えており、付き添いの大人も感動しているので、そこに働きかけたい。
○日本の教員には研修の場が少ない→筑波大学遺伝子実験センターなどを通じて、文部科学省が積極的に推進しているが、まだ十分でない。先生の自己研鑽ができても学校での実施は難しい。社会教育や教員教育で科学館は期待されていると思う。
○文科系の人間が取り組むサイエンスコミュニケーションについてどう思うか→養成されたサイエンスコミュニケーターが社会で活躍するのは5−10年後。現在、科学技術館ではデザイナーや心理学の人と展示打ち合わせなどで、文系・理系はすでに連携している。 サイエンコミュニケーターは職種でなく、機能であると理解しており、具体的には、研究者、生涯学習の人間、ジャーナリストが、コミュニケーションを取り入れることだと思っている。



「バイオカフェによる科学コミュニケーション」

NPO法人 くらしとバイオプラザ21 佐々義子氏

くらしとバイオプラザ21は、「談話会」「見学会」「実験教室」等「普通の市民と出会う場を創る」ためのいろいろな活動を実施し、その中から知見を得、独自の形式による「バイオカフェ」開催に至った。昨年3月から35回開催し、参加者の中から約260通のアンケートが得られ、開催場所別、テーマ別に満足度・関心度等について検定した。いくつかの項目で有意差がみられ、手間はかかるが少ない経費で高い双方向性が実現でき、参加者の満足度(94%)も高い。その結果、「バイオカフェ」はパブリックエンゲージメントにおいて極めて有効な手法といえる。また、今後はネットワークによる連携・情報のDB化が必要であると考えている。



質疑応答

○「サイエンスカフェ」で「評価委員会」を設置している団体は他にもあるのか? →「評価委員会」の形式をとらなくともそれぞれ評価しているのではないか。東北大は県・市・地域の方々からなる委員会で運営している。積み重ねた記録・実際に行った事に対する評価が次のステップへの大きな布石になるので「評価委員会」は重要だと思う。
○「茅場町」と「銀座」実施場所により「アンケート」の満足度に差があるのは何故か→会場が茅場町は狭く庶民的、銀座は暖炉があり洒落ていて広い。狭くて庶民的の方が気軽に発言しやすく、関わり度が上がり、それが満足度に繋がるのではないかと考えている。
○アンケート検定結果の 「他の人の意見も聞きたい」とはどういうことか→参加者はスピーカーの話のものよりも会場の話し合いを楽しんでいることもある。スピーカーがすべての質問に答えられるとは限らず、スピーカー対参加者のみの対話にならない方がいい。理想は、司会者がいらないくらい参加者が沢山発言し、話題が広がるようなバイオカフェ。


田代さんの博物館の紹介 くらしとバイオプラザ21からはバイオカフェの報告
外内さんによるSTAFFの出前授業の紹介  



出前講座による多様なコミュニケーションの実践

(社)農林水産先端技術産業振興センター 外内尚人氏

出前講座開催までの歩み
遺伝子組換え食品のPA(Public Acceptance)活動は必要であるが、PA活動状況について自治体にアンケートをしたところ、自治体はPAを国が行うことを期待していることがわかった。
STAFFでは、これまでのPA活動の中で、「対象が、関心が高く、余裕がある人だけに限定される、細部の情報に入り込みがちになる、パンフレットなどでは情報は直接届かない」ことに問題意識を持ち、平易な情報提供を目指した。新しいPAとして、幅広く、関心の高くない人も対象となるよう、HP開設と出前講座を実施した。

出前講座の実施
メディエーターを養成し、プログラムの規格化と実験補助マニュアルの共有化、実施後のアンケート分析を実施した。実験メニューは、6種類(DNA抽出、組換え食品の判別・検出、蛍酵素による発光、発酵食品の製造、PCRによるコメ品種識別、遺伝子組換え実験)に絞るとともに、DNAビーズストラップのキットなども作成した。
出前講座において、実験を行うと、印象が強く、知識、理解、親近感、信頼が向上した。一方、講演では生活に密着したテーマを扱うことにより、親近感が増した。
国民理解向上の機会としては、1)専門家による解説、2)行政による宣言、3)一般消費者への講演など、4)科学館イベント、5)学校教育があり、重要でない対象はないので、「とにかくやろう、どこでもやろう、たくさんやろう」をモットーに2005年度は57箇所で開催した。
出前講座の課題としては、実施回数に限界があり、継続的広がりがない。人材不足と企画・準備での大きい負担が原因。人材育成(知識・平易に説明する力・責任感・時間を有する)、キット・教材の充実、講演用スライド集作成、幅広い広報、関連キーパーソンへの広報により、「STAFFの出前講座」としてブランド化され認知 されることが重要であり、そのためには長期の継続的実施が必要である。



質疑応答

○研究所が出前授業をするときの限界は実施回数。CSHなど海外の団体でも同じ課題を抱えている。その解決策としては「キット化」がされつつある。STAFFの実験メニューは独自性も高いのでキット販売をしてはどうか→社団法人は販売できないので、テキスト、キットを作成して配布している。行政を巻き込むきっかけ作りが重要だと思う。



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