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日米PURシンポジウム「市民に科学を伝えるには」開かれる

平成18年10月23日、東京大学生産技術研究所コンベンションホールにて、東京大学生産技術研究所「知の社会浸透」ユニット事務局主催により標記シンポジウムが開かれ、国内外のPUR(Public Understanding of research)の状況が報告されました。


「大学の研究者と科学館〜PUR促進のための取り組み」

デイビッド・チッテンデン氏(ミネソタ科学館)
アメリカのPUR活動では、大学研究者、施設、院生がアウトリーチに参加し、研究成果が広く共有されている。
ミネソタ科学館では、ミネソタ大学との緊密な協力関係ができている。対象は市民。
科学者の集団では、ひとつの目的のもとにエネルギーを持った人たちが集まる。例えば、ナノテクノロジーのプログラムは多くの科学館や研究者が関わって、市民を巻き込んだフォーラムを私はやっていて、互いに啓発されることが多い。
科学技術と社会との関係のシナリオの決め方には3つある。1)科学者が決めるべき、2)科学者に任せていけない。NPOや市民団体が監視する、3)一般の人が決める。どれが正しいかではなく、対話によって率直な意見が出てくることが大事。科学者は市民の広い視点から質問を受けると、科学者の視野が広がり、新しい回答が出てくると期待される。その地域の特性を生かした対話が大事(アストロノミーパブのように)。
地域のネットワーク(図書館、企業センター、メディア、講義、展示などを通じて)ができていて、科学館のネットワーク、大学の研究所(技術、社会科学)、資金提供者のパートナーシップが広がっている。
ナノテクノロジーの市民教育が重要で、これは日本とも連携していきたい。



「教育関係者、科学者、生徒の連携を構築するには」

マルコ・モリナロ氏(カリフォルニア大学デイビス校)
大きなふたつの活動を紹介する。

大学付属科学館 ナノテクノロジーの視点
ナノテクノロジーの展示や家庭に持ち帰れるキットの作成、実演、説明、質疑応答を行う。8歳以上の市民が対象。その結果の評価。目標はナノを長さの単位として認識させる、科学者を身近な存在に感じてもらい、ナノテクノロジーがどんな役に立つかを知ってもらう。
具体的には、アニメーション、カードゲームなどを行うが、将来の応用では過大な期待を持たせないことも大事。演示実験では、銀粒子で靴下のにおいをとる実験などがある。
外部評価の結果から、1)ハンズオン型が有効、2)多くの入館者は主なテーマを理解した、3)年代に合わせた説明が重要、4)科学者への見方がかわる。例えば、(一般市民は科学者は興味のあるテーマだけを扱うと思うが、子供は科学者は社会のために役立つことをしようとしていると知り、科学者になろうと思ったり、科学者も普通のこどもだったのだと気づく)がわかった。

バイオフォトニクスの視点
Center of Bio-photonicsでは、25のプロジェクトを、教育、研究、情報提供、企業との連携の中で進めている。教育プログラム部門では、5歳以上の市民を対象とし、大学生が高校生に教える、インターンを受け付けるなどのメンター制度(学びながら、教えながら、プログラムをみんなで進める)があり、企業とも連携し、研究機関の中で中学生、高校生が、指導を受けながら研究に参加することができる。教師向けのコースも用意されており、評判も良い。大学生や院生が教育ショートコースをつくり、キャンプ、フェアなどの企画・実施を行い、その中で自分たちも連携して学習を進めていた。
現在の教育に問題を感じている人、教育や科学にかつて関わっていたシニア、教育者や科学者の家族などがスタッフとして適している。研究への熱情を持っていることが大事。
教育と研究の境界を取り払い、楽しいと感じる人の周りに科学を楽しむ輪を広げる。



「市民に科学を伝える〜何を、どう伝えるか」

東京大学大学院総合文化研究科、内閣府総合科学技術会議 黒田玲子氏

今までの分析の時代(要素還元論では根本原理から共通原理を見つける)から、21世紀は多様性や複雑系を説明する、総合・融合の時代
1999年、ブタペスト会議では、知識、開発のための科学に、社会における科学と社会のための科学という概念が加えられた。
科学の急速な発展の中に科学技術や社会にブラックボックス化していて、感動がなくなり、理科への国民の関心の低下、擬似科学が広がっているのに、現実には、個人の判断が必要な社会になってきている。
自然の不思議さ、時間軸と空間軸の中で自分を把握することが大事。科学の基礎知識、科学的物の見方を市民にもってもらいたい。そのためには、科学者のトップにサイエンスインタープリーターの役目をしてほしい(Public Understanding of Research)。研究者の顔が見え、現場を見ることが重要だと思う。
日本は、科学技術創造立国を目指しており、イノベーション創出が大事だとされている。しかし、科学者には教養、倫理も大事。
科学と賢くつきあうために、科学的なものの見方を学び、科学の特質を知ってもらいたい。
例えば、「平均、分布、確率」、「リスクとベネフィット」、「生と死」、「世代とは何か」など。科学はグレーソーンを広げることになることを理解するのが大切(ないことの証明はできない)。
物理的、科学的、社会的性質

東京大学におけるインタープリーター養成講座
インタープリーターはトップの科学者に学んでほしい。
最近は科学者から一般に対してどう伝えるかに焦点があてられているが、何を伝えるか自分で考え判断する能力を重視し、情報・データの裏を読む、判断の根拠になるデータを読みこなすことができる人を育てる。具体的には、社会の中の科学という認識が持てる人、人の心を思いやれる、文化・伝統を重んじられる人、表現能力の豊かな人、英語ができる人、自然のすばらしさ、不思議さに感動できる人。



「国立天文台の新しい広報普及実験」

「国立天文台の新しい広報普及実験」 渡部潤一氏(国立天文台)

国立天文台情報センターの紹介
3人で運営していて、予算は5000万円。天文に関する正しい理解、感動をクライアントである市民とシェアすることが目的。対象はマスコミ、一般、アマチュア天文家。
電話は1年に6000−10000件で、毎日2名の天文学者が対応、「はい、こちら国立天文台」という本になっている。
TV報道の評価を行い、クレームもつける。
普及室の定常業務:施設公開事業、教育普及事業、関連機関連携事業、
暦計算室では、理科年表の基礎データを作っている

新しい試みへ
発端は2003年8月27日の火星大接近。すばる望遠鏡からの生中継を行ったところ、9月12日の観望会に2500名もの参加者が押しかけ、半分の方にお帰りいただいて、午前3時に終了した。
大きな反省とともに、自分たちにできること、どこまでできるのかを考えるきっかけになった。
新しい試みとして、一般の人が星を観察したら、携帯やインターネットで天文台ホームページに報告してもらったところ(双方向性が生まれるのではないか)、トップページアクセスは年間3000万件に。
日本にはプラネタリムなど天文関係の施設が多く、プラネタリウムは350で、プラネタリウムの鑑賞者は年間500万人で、Jリーグの動員数と同じ。
4次元宇宙ドームシアターを三鷹に建築中。また、250の自治体に支えられた公開天文施設がある。この環境を利用し、8月にスターウィークというキャンペーンをしている。
サイエンス・コミュニケーションの鍵となるのは、イギリスではダイアローグ、米国ではアンダースタンディングだとすると、日本はインテレストだと思う。私たちの活動では、サイエンスカフェよりアストロノミーパブ(三鷹駅前のビルで開催)の方が人気がある。この方が日本の文化に根付いているからではないか。満足度を測定すると、講義、カフェ、パブでは順に高い。
参加者は知識がないという前提のもとに、情報が上から下に流れていては、PURは進まない。一般参加者が科学者にフランクに質問できるのが大事。全国のプラネタリウム、公開天文施設にこういう活動を広めたい。


チッテンデンさんのお話 スピーカーの皆さん


パネルディスカッション

司会として大島まり氏(東京大学教授)がスピーカーに加わり、パネルディスカッションが行われました。 司会:PURではどんな注意が大事か

  • 共通の話題を扱うことが大事。健康などを基礎にして対話を始めると、関連する科学技術へのよい導入になる。サイエンスサタデーでは、高校生と研究者、高校生と大学生が組んで実験をしている(チッテンデン)。
  • 司会:天文台ではトピックスは限定されているが、対話の開発は
  • サイエンスサタデーにあたるのはアストロノミーパブではないか。1施設としての限界を感じている。天文学の国立施設として、マスメディアやコミュニケーターなどの媒体者が大事。職員に2泊3日に天文学の講義と体験合宿を2−3年前からやっている。直接の対話は夏休みの宿題お助けコーナー、観望会の質問コーナー設置など(渡部)
  • 司会:研究者の中でのコミュニケーションについて
  • アウトリーチ活動は自分の研究に行き詰まったからだと思っている研究者が多いので、トップの研究者にこそアウトリーチをやってほしい。研究者はインパクトの高い雑誌に投稿し、特許をいくつとったかでしか評価されていない。イギリスは資金の3%をアウトリーチ活動にあてないといけない。日本もアウトリーチが義務になってきている。
  • アスベスト被害から、ナノにも不安や懸念が生まれている。科学者と一般は科学技術の光と影を研究者を交えて早い段階から対話してほしい(黒田)。
  • 司会:米国の研究者の中でのPURへの温度差は
  • 米国の科学者の中にも温度差はある。PURを禁止している先生もいるが、一度、PURに参加した学生自身は続けて参加するようになる。研究者のPURへの関心は高くなってきている。地位を固めている先生の方が、学生にPUR活動に参加させる。高校生からPURの考え方に馴れてもらい、そういう学生が増えると大学も変わってくるだろう(モリナロ)
司会:市民に対するPURのメリットは
  • 科学館の入館者は知識を求めている。科学館は信頼されており、我々の情報を受け入れてくれる。学会は出す情報を制限しすぎている。PURの文脈の中で市民からインプットをどうか学者が受け止めるか。疑似科学から入ってきた市民も歓迎し、基礎の科学も理解してもらえるようにすればいい。医療、健康など市民の身近な領域から入ればいい。PURは科学者、教育者、いろいろな人が統合的に行っていけばいい。(チッテンデン)
  • 科学がどう機能しているかの説明が重要。乳がんの検査方法を我々の仲間が開発したら、市民は関心を示したが、研究成果の95%は実用化には届かない現実を説明するなど、科学の社会的、人間的側面も説明するようにしている。少しでも長い時間に対話を持ち、参加者が自問できる時間を提供するようにする。意思決定のやり方に科学の手法を利用してもらい、科学的な考え方を伝える。これがメリットだと思う(モリナロ)。
  • 論理的に組み立てる考え方を伝えるのが大事。21世紀は個人に責任を負わせる時代。考えるときに、立ち止まって考える余裕を与えられると、地球のこれからの環境に大きな影響を与えると思う(渡部)
  • 時間・空間軸の中での考え方、有用性だけでなく、文化として科学の捉えかたを学んでほしい。実際に研究してきた人の言葉にはそういうものを養う力があるのではないか(黒田)
  • 司会:一般の人がPURに参画するときにはどうしたらいいか
  • PURは新しい考え方で、米国で個別に始まっている。病気の人は、自分の治療法を探しながら、自分が科学者にならざるを得なくなる。自分の治療法を考えるもPURへの参加のひとつ。PURに定期的に参画するのは難しいのが現実。(モリナロ)
  • 観望会で働いている人には、他大学の学生が多い。一般市民まで受け入れる体制は未だない。未来館や国立科学博物館では一般ボランティアによるPUR活動が行われている。(渡部)
  • PTA(父母会)を対象に科学の夕べを地元研究者や科学館スタッフが主催している。科学関係のブログなどによる一般の人の活動は歓迎している。関心を示した市民は研究推進を支持してくれていることがわかり、研究の活発化につながる。市民が一般の人を集めて、科学者を呼んで科学の夕べや天文学の会、患者の会を開くことはできると思う(渡部)
  • 米国には天文や地学のアマチュアのグループが多く、市民に訴えかける活動をしている。これはPURではないか。図書館を通じ、250ものグループがあることがわかり連携し始めた例もある。(チッテンデン)
  • 日本のPURの基盤は貧しく、大学には市民とPURをするスタッフはいない。日本にも武田計測知財団、未来館、科学博物館、科学技術館などが動き始めており、よい傾向だと思う。(黒田)
  • 天文台では最近、広報室と普及室ができた。大学にも広報だけでなく、普及室やPUR室をつくると普及が大事であることが学内に伝わると思う。東大から始めてほしい。(渡部)
  • 東大から始まって全国に広まったのは、ベンチャーや産学連携など予算に関係することばかり。文化が東大から広まることを期待している。
  • 会場より:企業の研究者ができることは何か
  • 企業は製品を通じて市民とつながっているので、企業の研究者は科学館などを利用してPURを行うことができると思う。(チッテンデン)
  • 大学では企業に見学ツアーや、学生の8週間の研修をお願いしたりしている。(モリナロ)
  • ある会社の公開日に行ったら、桜を観るだけだった。多くの人が来ていたので、子供向け実験くらいすればいいのに、と思った。(黒田)
  • 企業が講演会をしたり、財団を持って教育活動をしたりしているところもある。企業の研究所は実験室を見せるのは難しい。市民の考えていることがじかにわかるとは企業にもメリットがあるはず。(黒田)



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