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第34回茅場町バイオカフェレポート
「日本人とカツオ文化」

9月14日(金)、茅場町サン茶房で、バイオカフェを開きました。お話は財団法人味の素食の文化センター理事長補佐河野一世さんによる「カツオと日本文化」でした。 はじめは松本さんによるバイオリン演奏。カツオ文化という日本の文化をキーワードに、日本人の作曲家としても活躍中の葉加瀬太郎さんの新曲などが紹介されました。

松本さんの演奏 「日本人は本当にカツオだしが好きなんですよ」
と河野さん


お話の概要

はじめに〜カツオフォーラムの誕生
実は私はかねてより、「日本人はなぜカツオを食べ続けてきたのか」という疑問を解き明かしたいと考えていた。これを出発点として、40−50人規模で1−2回のフォーラムを企画したところ、北は宮城県から南は沖縄まで、カツオの研究者、漁業関係者、かつお節の研究者、かつお節やさん、だしの研究者、食育を扱う家庭科の先生、伊勢神宮の宮司さんをはじめとする歴史研究者など実に様々な方々が集まってくださった。会を重ねるほど盛況となり、結局5回開催することとなり、延べ約1,500人が参加し、出版物や映像も製作することとなった。
おいしいと感じるのは、味覚だけでなく気分がいい時、気のあった人と食事をしている時、温度などの環境が心地よい時など、聴覚、視覚、触覚、歯ざわりなどの五感以外のものも働きあっている。味の基本味は、甘味、酸味、苦味、塩味、うま味の5つ。カツオブシはうま味とおおいに関係している。

だし
だしの味は、グルタミン酸のようなアミノ酸とイノシン酸に代表される核酸に集約される。
日本料理、中国料理、西洋料理では、それぞれ用いるだし素材が異なる。日本料理は昆布、カツオ、煮干などの乾物を使ってだしをとるが、洋風だしは、肉類と香味野菜を4-5時間かけて煮出してとる。乾燥したものを使い、時間も短く、常備できる和風だしは、とても優れているといえる。また、和風だしの抽出成分を調べてみたら、10時間煮出してろ過しても、乾燥した材料を10分煮出しても同じだった。
 例えば、昆布は日本では北海道しかとれない。似たような緯度のスコットランドでは、日本の長寿に見習い、今まで飼料にしていた昆布をサラダにし食べるようになった。日本中で使用量が一番多いのは沖縄だったが、最近は富山。沖縄では昆布そのものを煮て食べる習慣がある。中国では、ヨード不足で起こるバセドウ氏病予防の薬として昆布を輸入している。昆布のだしを使える私たちの環境は恵まれているといえるかもしれない。

カツオという魚
カツオは平均時速30kmで一生泳ぎ続ける。最高時速は80kmといわれ、寿命は約8年。カツオは時期になると、群れを成し、大挙して日本近海にやってくるので、「神の魚」といわれた。カツオの特徴的な縦じまは死んだ時に現れる。カツオの一生は、モルジブ周辺の海で生まれ、2-3歳で北上するので、日本ばかりでなく、スペインでも食べられている。昔は、黒潮が日本沿岸まで来ており、黒潮に乗ってきたカツオは一本釣りされていた。

カツオブシつくり
カツオを3枚におろし、煮ることによってイノシン酸が増加する。くぬぎ、かしなどの堅い木を使って燻し、それを冷ますことを繰り返し、2〜3週間で水分含有量は20%まで落ちる。
かびづけをし、天日干しにする。本枯れ節というカツオブシは、カビの菌糸がのび、毛細管現象によって水分は13%まで下がる。カビ付けに用いるカビには日本のカビしか使えない。このため、海外の工場で作った荒節も、かび付けは日本で行う。
戦後、冷凍技術、巻き網のおかげで漁獲量は急上昇し、カツオブシの使用も増加した。高度成長期に入り、経済性と簡便性を追求した風味調味料が、シマヤに続き、味の素から発売され、またたく間に全国展開した。かつては各家庭で削っていたが、にんべんが削り節を販売するようになり、カツオブシを削るかんなのついた箱も姿を消していくようになった。

日本人のカツオ好き〜料理物語
日本の風味調味料のほとんどはカツオ由来。カツオは沖縄、鹿児島、茨城などでよく食べられる。
一般に食の文化は西高東低で、昆布は北前船で北海道から大阪に伝わり、その後、関東に回ってきたようだ。水分を13%にまで減らしたカビのついたかつお節の起源は、土佐から船便でかつお節を江戸に運ぶ途中、カビが生え、このカビをふきとって削って煮出すとうま味があることがわかり、こうして本枯れ節のよさが認識された。
日本人のカツオ好きの歴史は古い。縄文時代の遺跡からのカツオの骨の発見に続き、奈良・平安時代には朝廷に献上されていたことが、堅魚と書かれた木簡の出現から伺い知ることが出来る。江戸時代の『料理物語』(食の文化センターの金庫に原本があります)という料理の本が残っている。『料理物語』によると、川や海の魚の煮魚にカツオブシを入れていたことが書かれている。当時は刺身には煎り酒(醤油の前身)をつけて食べていたようだ。煎り酒の味を再現したが、日持ちせず、3日くらいで食べきらなくてはならない。
カツオのかまぼこのようなものにもカツオだしの煎り酒をつけて食べたり、当時のカツオを使った料理のバラエティの多さ、なまり節の利用の巧みさに驚く。

カツオは体によい
カツオはおいしいだけでなく、体によい!
本草書という文献に、「生ガツオは元気がでるが食べすぎに注意」という記述がある。しかし、鰹節は「一切、害がなく、体によい」とも書かれている。これは加工したカツオブシはいいとこ尽くめなのである。

モルジブのカツオブシ
カツオがその近海で生まれるモルジブではカツオブシの食文化があるというので、調査をした。モルジブはココナッツとカツオが豊かな国だが、真水が思うように手に入らない。そこでは、海水でカツオを煮て、ココナッツを燃やして燻製にし、カツオブシを作っていた。
隣のセイロンではほとんどカツオブシは作らず、今もカツオブシをモルジブから輸入している。
モルジブは世界で初めてカツオブシを作ったといわれているが、意図して作ったのでなく、かまどの上においてあったカツオから偶然にできたのではないかと思う。モルジブでよく食べられているのは、日本でいうナマリブシのようなものである。
モルジブと日本はちょうど15世紀ごろにカツオブシを作り始めたことになるが、日本はカツオブシを贈答品にまで高め、水のよさを活かしてだしとして上手に使うようになった。その意味では、モフジブは600年間、同じ方法を守り続けていることになる。

モルジブの食卓
モルジブでは、カツオのぶつ切りを塩水で煮た煮汁が、日本の味噌汁のように、毎回食卓に出てくる。
モルジブの朝食は、ナマリブシのようなものを刻みライム、オニオン、ココナッツ等を混ぜてクレープ状のものに包んで食べる。
離乳食にもカツオの煮汁を使っており、優れた栄養成分を上手に利用していると思った。
スリランカのサンポールと名前のサラダは、カツオ、香辛料、オニオン、ココナッツミルクを入れて混ぜたものだった。一般に煮物をカレーと呼ぶが、野菜のカレーにもカツオブシを入れていた。

中国との比較
日本の文化のほとんどは中国経由で入ってきている。日本人と中国人との間で、好む味に違いがあるか否かを官能評価法で調べた。具体的には、上海の学生と東京の学生で実際にかつおだしや鶏のだし(鶏湯)を味わってもらって応答を比較した。
鶏湯は日本人、中国人ともに好むが、カツオだしが好きなのは日本だけだとわかった。
また、テストのとき、中国人のだしを評したことばは具体的だったのに対し、日本人のことばは抽象的で、収束しにくかった。ここにも文化の違いを感じながら、だしを評価することばを抽出した。
中国と日本の鶏湯の成分を分析したところ、同じ鶏湯でも、異なるグルーピングがされることがわかった。日本に上陸した鶏湯は、日本化してカツオ・昆布だしに近づいたものになっていた。
カツオに関係する文化、歴史、味覚などを調べてみて、日本人は本当にカツオの好きな民族であり、カツオブシはおいしく、保存が効き、体によいものであることが改めて結論できた。

会場風景


話し合い
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 鶏湯が日本化しているというのは、カツオだしを混ぜているのか→カツオは入れていないのに、日本人の好む味の成分が取り出されるようになって、その結果、カツオだしに似ている。中国では、鶏だしは鶏だけを使うものから、色々な素材を混ぜて使うものがあり、甘味づけに氷砂糖を入れたり、味の素を入れているものもあった。
    • 上海の学生はなぜ、カツオを生臭いと感じるのだろう→きっと肉の生臭さには慣れているが、魚の生臭さには慣れていないのだろう。煮干はカツオブシよりも嫌われた。3回目には慣れてくれた人もいた。味の好みには慣れ、子供のときに親しんだ味の影響が大きい。
    • カツオを煮ると核酸がグンと増えたのはなぜか→加熱により、筋肉中のアデノシン3燐酸がイノシン酸に変化することと、煮詰めると水分量が変わることで濃度が変わる。
    • 主人は関西出身で、カツオだしのそばつゆが好きだが、私は濃いだしのつけそばが好き。東西で味覚の好みの違いを実感している。カツオは駿河湾にいるのに、関東に広がらなかったのはなぜか→カツオだしができたのは江戸時代。江戸でだしといえばかつおだしのこと。それほど普及していた。土佐で造られた荒節を船で江戸に運ぶ道中、塩水を浴び、かびが生えてしまい捨てていた。偶然、カビをふきとってけずり、すましにすると、とてもおいしかった。カビ付けをした本枯節は江戸で生まれたというわけです。本枯節のだしは油がぬけて澄んでいて、おいしいだしがとれる。現在カツオブシの市場は荒節がほとんどである。
    • 日本人に比べて欧米ではうまみを認めるのが遅かったのはなぜか→肉には強いうま味と油があり、うまみだけを感ずる機会がなかったのではないか。日本人はだしの文化の中で純味を感じやすかった。池田菊苗博士は単純な湯豆腐に敷かれた昆布のうま味を抽出し、これが味の素の起こり。トマト、アスパラにもうまみがある。グルタミン酸を小麦のグルテンから発見したのはドイツ人だが、うまみに関係があることまで気づかなかった。
    • 高知でのっけもり(周りにさっと熱湯をかけて白くなったカツオとたっぷり野菜の料理)をいっぱい食べ、カツオを堪能したことがある。いつもカツオブシは高いと思ったが、今日はカツオブシ作りに手がかかっていることがわかった。
    • 顆粒状のだしと粉末のもので、味は同じか→重い粒が下に沈んでしまうので、均等にするための工夫をしている。粉末も味は同じだと思う。
    • あごだしというものを使っているが、どんなものなのか→あごという魚の種類。関東でも余り使われていないが味もカツオとは異なる。
    • モルジブの人たちは日本のカツオ料理を受け入れると思うか→生食の習慣がないので、、刺身を出したが、少し食べてへんな顔をしていました
    • カツオブシはこれからどうなるのでしょう→燻製に使う木がなくなったり、カツオも減ったりして、カツオブシは作れなくなるかと思ったが、今は増加中と聞いている。フランスをはじめ欧州各国も鶏インフルエンザやBSEの問題を抱え、魚食を志向してきており、海外でも利用は増えている
    • マグロブシというのはないのか→京都の瓢亭という有名な料亭では、マグロブシを使っている。煮ると堅くなる魚しか節にはできないので、鯛はだめ。煮干も煮てかたくなる魚、例えば、あご、トビウオは煮たり干したりしてうま味が凝縮されていく。サバブシは屋久島で作られている。こういう文化は生活の知恵で生まれたのでしょう。日本は海にかこまれて、豊かな味覚があり恵まれていると思う。



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