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バイオカフェレポート「花の見かけは遺伝子で決まる」

2007年11月9日(金)、茅場町サン茶房にて、第36回バイオカフェが開かれました。お話は、東京大学 経塚淳子さんによる「花の見かけは遺伝子で決まる」でした。
初めに田崎広美さんによるハープの演奏がありました。

田崎広美さんのハープの演奏 お話される経塚淳子さん


お話の主な内容

はじめに
イネの花の研究をしていますが、イネの花は地味で見栄えしないので、他のきれいな花写真もいくつか持ってきました。遺伝子の話は複雑なので、途中で質問を受けながら進めます。

植物の形づくりは生涯続く
動物は体のつくりを完成させてから生まれて、その形のまま大きくなる。ところが、植物の形成はふたば(双葉)から木になるまで一生続き、双葉が立派な木になるまで形が変わる。植物の生涯にわたる形作りを支えているのは、植物の先端の茎頂分裂組織と根の先端にある根端分裂組織で、それぞれが地上部、地下部の形成を続ける。これらの働きをすべて決めていくのが遺伝子。

分裂組織の中では
例えば、イネの分裂組織は0.1ミリくらい、数百個の細胞から成る。
分裂組織の中には、未分化な細胞があり、この未分化な細胞を維持することと、未分化細胞からの新しい組織づくりとのバランスをとっている。
生まれたときに持っていた茎頂分裂組織はひとつしかないが、それでは芽を切られると終わってしまうので、成長につれて葉のわきに新しい芽ができるようになる。このように、枝分かれしながらのかたち作りが進んでいくことになる。

花はアガリ
できた芽は枝になったり、花を作る枝や花などいろいろなものになったりできる。しかし、花になったら、その枝はゲームの終わりのように「アガリ」で、芽をつくる枝に戻ることはできない。また、私たちが見ている花は花の集まり(花序)です。

遺伝子の働き
遺伝子がこれまでと異なった働きをしたり、機能不全になった場合を変異型という。
遺伝子の働きの研究は、ある遺伝子が機能不全に陥ってできた変異体からはじめるので、遺伝子の名前と働きは逆の意味になることがよくある。例えば、目を作る遺伝子の名前がアイレス遺伝子というように。
キンギョソウの花を咲かせる遺伝子の名前はリーフィ(リーフの意味は葉)という。リーフィ遺伝子が働かないと花は葉のようになってしまう。
量で表すものは遺伝子の数に関係するが、花ができるかできないなどの性質に関わるものはひとつの遺伝子であることがある。花の遺伝子もそのひとつ。
ひとつの遺伝子のはたらきが欠けただけで、ある性質や形がまったく違ってしまうこともある
花の形を決める遺伝子の研究は1990年ごろから始まった。まず、1970〜80年ごろから、シロイヌナズナの研究が盛んに行われ、モデル植物となった。シロイヌナズナのようなモデル植物の研究をしていると情報を共有して研究できる利点があるが、研究の競争も激しい。有名な研究者のグループはその人以外の名前で遺伝子情報にアクセスして、研究内容がライバルに知られないようにしたりする。イネはシロイヌナズナの次に人気のモデル植物。


図1 ABCモデル

ABCモデル
花は4つの同心円で示され、外から、@がく、Aはなびら、Bおしべ、Cめしべを意味する。花になることを「アガリ」だといったのは、めしべで分裂組織をすべて使い切ってしまい、新しい枝になる未分化組織がなくなってしまうから。
変な形の花を見つけることで、変異体の遺伝子の法則が見つかった。
 1.変異体ではがく、はなびら、おしべ、めしべのうちふたつが機能不全になっている
 2.花びらとがくができる変異体がある
 3.おしべとめしべができない変異体がある→八重になる
これを整理して、アメリカの大学院生がABCモデルを作った。今では高校の生物の教科書にも載っている。
 A遺伝子:@がくとAはなびらをつくる
 B遺伝子:AはなびらとBおしべをつくる
 C遺伝子:BおしべとCめしべとつくる
ABC遺伝子は次のふたつのルールに従っている。
 ・Cめしべには、細胞分裂をうちどめにする機能(アガリになる)がある
 ・A遺伝子とC遺伝子は拮抗している
現在は、ABCの遺伝子のそれぞれの配列が解明され、いずれも転写遺伝子といって下流の遺伝子の働きのスイッチのような働きをしていることがわかっている。研究者は働く遺伝子を操作し、どの遺伝子をどこで働かせ、どんな花の形になるかを、花の形で確かめることもできるまでになった。こうして、花の形は単純な規則でできていることがわかった
例えば、C変異体(Cが働かない)の全域でBを働かせると全部花びらになる。
ABCがどれも働かないと、八重の葉になってしまう。ゲーテのことば「花の葉の変形だ」が証明されたことになる。
しかし、逆にABCを働かせて、すべての葉を花にしようとして、成功しなかったが、岡山の研究者がプラスアルファにあたる遺伝子を発見し、すべての葉を花にすることに成功した。

ABCモデルは広く応用できる
日本には変わりアサガオがあり、これにABCモデルを当てはめたところ、八重咲きは、がくー花びらーがくー花びらとなっていて、C変異体だということがわかった。このように、ABCモデルは裸子植物、藻、藻類など、どんな植物でも応用できる。

イネの花
イネは風媒花なので、色を持って虫を招く必要はないが、イネの変異体の研究から、イネの花でもABCモデルがあてはまることがわかった。
イネの研究をしているうちに、おしべが1本でめしべのない花ができた。このときに機能不全になっている遺伝子が発見され、これにlonely guyという名前をつけた。lonely guy遺伝子が正常に機能するとおしべもめしべもできて、この花はloney guyでなくなります。

会場風景


話し合い
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 「花ができる枝」ができるのはいつか→季節の変化を読み取って花の枝をつくる、大体は季節が決めている。季節のない地域では成長している日数や気温、日長(日の長さ)、花を咲かせるフロリゲン(植物ホルモン)が影響する。遺伝子の発現を環境が決めるといえる。
    • 進化論的には花はいつできたのか→ABC遺伝子はマッヅボックスという配列で、花を形成するためでない遺伝子が、後に花になったと考えられる。ABCは同じファミリーの遺伝子だが、少しずつ進化の中で遺伝子を使いまわし、花の形成に使われるようになったのだろう。たとえば、昆虫が花粉を運ぶので、その進化の過程で花の進化は同期して起こっている。
    • 昆虫と人間は花に同じ好みを持っているということか→昆虫なりの好み。たとえばモンシロチョウは紫外線を感じて花を見ているので人間とは異なった見え方をしている。
    • 海中で咲く花もあるのか→水中花というのもあり、陸生の花が水に移動したようだ。
    • 太古の植物は花を咲かせるようになると思っていなかったと思う。そう思うと何億年後、人間もどうなっているかわらかないと思う→進化においてはひとつの遺伝子の影響で形が劇的に変わることもある。
    • 遺伝子に異常が起こると、新しいことが起こるか→ちょっとしたことでDNA配列が変わり、機能が変われば形態も変わってくる。
    • 遺伝子を操作して変化させてきれいな花を作れるのか→遺伝子操作で花の形を変えたものは市場にはないが、花序を変えたり、花の数を変えたり、わき芽つみをしないでいいようにしたりすることはできるはず。
    • 遺伝子操作でできた新しい園芸種はあるのか→青いカーネーション
    • 丈の小さいチューリップがあるが、あれも遺伝子操作によるのか→遺伝子操作でなく、突然変異です。遺伝子を操作したのは青いカーネーションですね
    • カーネーションに一重はあるか→カーネーションがC変異体で八重のようになっているのなら、Cの機能をなおすと一重になるはず
    • チョウセンアサガオの八重がかわいいと思う→チョウセンアサガオやクチナシはひとつの遺伝子の異常で八重になっている思う。
    • B遺伝子だけ働かせるとどうなるのか→B遺伝子だけを働かせたものはない。葉、何か、何か、葉というように葉の八重のようになるのではないか。
    • 遺伝子の相互関係を示す地図はあるのか→全貌は無理だが、ABCの下には部下の遺伝子がいて、その下にまた部下がいて、花びらの伸張、発色など、花の機関を成長させる働きをする。部下の遺伝子の働きが上位の遺伝子に戻ってくることもある。
    • 分裂組織を使い切るかどうかはどこで決まるのか→分裂組織の使い切るときに働く遺伝子の研究が進んでいる
    • 分裂組織の使い切りを決めるのは、細胞分裂の度に短くなっていくという「テロメア」という配列のことか→テロメアには、使い切らないようにテロメアーゼが働き使い切らないようにしている。これは花の分裂組織がバランスをとっているのに似ている。
    • 分裂が止まらないと植物ががん細胞のようになるのか→緑の塊になる。植物が生涯、正常でいるには増やす方と減らす方のバランスが大事。
    • 肥料を与えると花が沢山咲くのはなぜか→肥料は花を元気にするが、花の形は遺伝子が決める。一般にパターンを決めるのが遺伝子で大きくするのが肥料。
    • 花を沢山咲かせる遺伝子があるのか→肥料に反応する遺伝子が多くの遺伝子に働きかけ細胞分裂を進める。
    • 花の色の研究はどうなっているのか→花の色を決めるのはひとつの遺伝子。実際には色素を作る酵素を遺伝子が作っている。
    • 白いひまわりはどうしてできるのか→黄色を作る遺伝子が働かないと白くなる。青いばらは他の青い花の遺伝子を入れており、青の遺伝子が働かないのではない。
    • 人間は知識が増えると造詣が深まり何かを見たときの感じ方が変わる。先生は生命の世界はどんな風に見えていますか→比べる人がいないので自分のことはわからないが。これから皆さんが八重咲き、わき芽に関心を持って見るようになるとそれは知識が増えたことによる変化ということになる。花、わき芽を見てくださいね。
    • 自然界で変異体はどのくらいできるのか→
    • 自然界では変異はどんなときに起こるのか→実験では紫外線、電子線などを当てて変異体をつくる。温暖化ぐらいの温度変化では変異は起こらない。自然界でも染色体の中で動いている遺伝子があり、その影響で花の形が変わることはある。
    • サザンカ、ツバキなど、八重咲きはすべてC変異体か→八重咲きにはC遺伝子に関係するものと、他の遺伝子によるものがある。サフィニアの八重はC変異体の突然変異体で、めしべがないので、美しく、種ができない。花の会社の意図にも合致しているのかもしれない。



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