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シンポジウム(PISA2006結果の報告)
「市民として身につけるべき科学リテラシー」が開かれる

2007年12月8日(土)、日本化学会館講堂にて、教科「理科」関連学会協議会(CSERS)主催で、標記シンポジウムが行われました。PISA2006年調査を担当した文部科学省教育政策研究所や現在進行中の「科学技術の智」プロジェクトのメンバー、理科教育関係者ら約100名が参加。活発な議論から、日本の理科教育に対する関係者の強い危機感が感じられたシンポジウムでした。


基調講演1 「21世紀を豊かに生きるための科学技術リテラシー」

「科学技術の智」プロジェクト委員長・国際基督教大学教授 北原和夫氏

科学技術リテラシー像
科学技術リテラシー像は21世紀社会のデザインを決めるものであり、1)成人が持つべき科学の知識、技能、考え方を整理・文章化し、2)個人と社会が自ら意思決定できる社会の構築、個々がかけがえない存在として認められ、3)その基盤としての地球環境を持続することである。
そこで、「科学技術の智」を1)世界の課題に協同してチャレンジするための知識や技能、2)共同の知識であると同時に個々が賢く健やかに生きていくために全員が持つべきものと捉え100名を越える研究者、教育関係者、ジャーナリスト等で検討している。

背景
日本には深刻な理科離れがあり、国際調査にも日本の特徴(考えない・書けない日本人、科学技術の職業への躊躇)が顕われてきている。国際調査に現れた日本の15歳の意識をみると、「科学者にはなりたくないが、関心はある」ようだ。

フィンランドとの比較
PISA調査で成績のよいフィンランドと日本を比較すると、両者は言語構造が似ているだけでなく、単一民族、少子高齢化であるところも似ている。しかし,フィンランドは自然が豊かで人口が少ない(約500万人)が、日本はその逆。また,フィンランドは、子供への手厚い教育に焦点をあてたが、日本は、少子高齢化対策として男女共同参画に進み、働き手にフォーカスした。

Project 2061(AAAS 米国科学振興協会)
AAASは1989年、2061年のハレー彗星到来までに全米国民が科学リテラシーを身につけるという壮大な計画を進めている。そこでは、科学技術の素養は、system, model, constancy and change, scaleがキーワードとされ、内容が精選されている。しかし、教育改革は、州ごとの判断の違いや教員のレベル格差等から進んでいないようだ。

科学技術の智プロジェクト Science for all Japanese
日本の特殊性を生かした市民のリテラシーを検討する。特殊性とは、共生的な自然観、芸術的価値を持つほど高度で精巧な技術、もったいないという価値観など。
これまでの調査研究では2003-2005年「若者の科学力増進特別委員会」を行い、若者の理科離れを検討。2005年度科学技術振興調整費「科学技術リテラシー構築のための調査研究」から、ゴールが見えていないことがわかった。2006年度科学技術振興調整費「日本人が身につけるべき科学技術の基礎的素養に関する調査研究」が採択され、生活に密着して理解できるように、従来の学問分野や教科の枠を超えて整理し体系的にまとまった「科学技術リテラシー像」を策定することとした。7専門部会(数理科学、物質科学、生命科学、情報学、宇宙・地球・環境科学、人間科学・社会科学、技術)で以下のように検討している。
数理科学:抽象化した概念を論理で体系化し、論理的コミュニケーションを可能にする
物質科学:測定、観測、モデル化に基づいた考え方を学ぶ
生命科学:多様性とともに一様性を学ぶ。個人としての倫理、ホモサピエンスとしての倫理である生命倫理の理解
情報学:演算の組み合わせで表現でき高速化・自動化できる。間違いが起こる可能性があり、基本的知識や原理の認知が重要
宇宙・地球・環境科学:人類の経験、文化、世界観と密接に関わっているもので、人類全体の生き方の見直しを迫るものがある
人間科学・社会科学:科学は好奇心から発していて、自律するものである。人間の存在の意味や社会行動の認識を科学的に捉える
技術:技術はトレードオフで磨かれシステム化し移転していく。評価や安全確保が重要

課題

  • 科学技術リテラシーの定着化がこれから重要。科学の智プロジェクトでは、サイエンスリテラシーカフェを行うなど、関係者全員で考えながら進めているところ。
  • イギリスでは21st century Science運動のために、Science Learning Centerで、指導要領作成と教材作成を一体化して行い、教師は子供と対峙する役割に徹すればいい環境作りをしている。日本でも教師が忙しいので、そういう支援が必要ではないか。
  • 日本の無関心層をどうするか 
  • 市民に影響力の大きいメディアにどのように対応するか
参考サイト:http://www.science-for-all.jp/index.html




基調講演2「PISA2006の結果について」

国立教育政策研究所総括研究官 小倉康氏

研究官の重要な任務は本調査の実態の正確な把握だと考え、今日はその立場から説明したい。日本版の報告書(文部科学省HPで国際結果の概要,問題例を公開)はOECD(パリ)が作成するPISAの報告書の翻訳ではなく、日本の現状を鑑み編集している。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/071205/001.pdf

生徒の学習到達度調査(Programme for International Student Assessment:PISA)とは
PISAでは義務教育終了段階の生徒(15歳児)が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかどうかを評価する。2006年からは調査問題の枠組みを定め継続的にデータの活用ができるようにした。2000年と2003年の科学リテラシー調査は、その年の事実を記述しているので、継続的な比較や分析には使えないことになる。

この他にも国内外の調査があるが、それぞれに目的が異なっている。例えば、国際教育到達度評価学会(IEA)が実施している国際数学・理科教育動向調査(Trends in International Mathematics and Science Study :TIMSS)は、初等中等教育段階における児童・生徒(小学4年・中学2年)の算数・数学及び理科の教育到達度測定し、学習環境条件等との関係を組織的に研究する。

2003年報告: http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/12/04121301.htm
文部科学省が実施している全国学力・学習状況調査は、義務教育の機会均等と水準の維持・向上の観点から小学6年と中学3年の生徒の国語,算数・数学の学力・学習状況を調べ、児童・生徒の意欲増進を目指す。
http://www.nier.go.jp/homepage/kyoutsuu/tyousakekka/tyousakekka.htm

PISAにおける科学的リテラシーの意味
PISAでは読解リテラシー、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3つのテーマを3年サイクルで繰り返しながら測定している。2006年調査は3分野のうち科学的リテラシーが中心分野である。
PISAの科学的リテラシーの定義は、次のとおり。

  • 疑問を認識し,新しい知識を獲得し,科学的な事象を説明し,科学が関連する諸問題について根拠に基づいた結論を導き出すための科学的知識とその活用
  • 科学の特徴的な諸側面を人間の知識と探究の一形態として理解すること
  • 科学とテクノロジーが我々の物質的,知的,文化的環境をいかに形作っているかを認識すること
  • 思慮深い一市民として,科学的な考えを持ち,科学が関連する諸問題に自ら進んで関わること
  • 科学的リテラシーとして求められる科学的能力は,「科学的な疑問を認識すること」「現象を科学的に説明すること」「科学的な証拠を用いること」の3つ。科学的知識は「科学の知識(自然界に関する知識)及び「科学についての知識」の2つからなる。また,PISA2006調査では「科学への興味・関心」「科学的探究の支持」「資源と環境に対する責任」という3つの領域における生徒の態度を評価していることが特徴である。

PISA2006調査の結果
今回はOECD加盟国と非加盟国あわせて57カ国・地域が参加。OECD加盟国の生徒の平均得点を500点(標準偏差100点)になるように換算してあり,日本の生徒の平均得点は531点で6位で前回、前々回より下回ってしまった。科学的能力の領域では「科学的な疑問を認識すること」約522点で8位、「現象を科学的に説明すること」約527点で7位、「科学的証拠を用いること」約544点で2位である。今回の科学に対する態度(科学的探究の支持、科学への興味・関心、動機付け等)の指標値は参加国の中で低いものが多かった。態度とは、具体的には、対話や観察実験が授業において重視されているかどうか、生徒が科学の授業をどのように認識しているか、科学の授業や環境学習を促す活動を学校が行っているかなどの調査をさしている。

一方、オーストラリア、オランダ、フィンランドなどの成績上位の国でも、科学に関する興味・関心が低くなるという問題を共通に抱えているのも事実。

小倉研究官は最後に、PISA2006の結果から日本の理科教育について,「問題点(受験の弊害、学問的知識に偏重した教育、即物的関心事に囲まれたこどもの環境など)は多くあり、これを列挙して批判することは簡単だが、重要なのは関係者がすぐに行動すること!そのためには、効果的なコーディネートが重要で、協同できるコミュニティの発達の促進が急務である」という趣旨の提言で講演を締めくくられました。



質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 教員のPISAへの関心が低い。教員はこの結果をどう活用すればいいか→PISAの結果の普及よりも具体的で実践的な内容の活用が重要。PISAの枠組みや公開問題などが利用できるはず。こういう問題ができた背景についても一緒に伝えてほしい。
    • PISAの枠組みが変わったそうだが、社会が直面する課題への準備にはその基礎(教科)が重要だという視点が消えたのではないか→学校教育だけで対応できない問題に直面している現在、関係者全部が立ち上がることが大事。教科が基盤として重要であることと、社会の実際の状況に即した視点が重要であることは矛盾しないと思う。
    • 国際的に結果を比較するには設問の翻訳の問題がある→OECDの原本を翻訳業者が訳し、それを関係者で検討し練り上げて予備調査を行い,さらに検討し本調査を行った。国際調査では英語で問題が作られるので、訳文を関係者で磨いていくしかない。今回の日本語の問題点の不備を具体的にご指摘いただき次回に備えたい。



    教科「理科」関連学会協議会(Council of Science Education Related Societies:CSERS)とは

    1995年,理科教育関連6学会(日本化学会化学教育協議会・日本科学教育学会・日本生物教育学会・日本地学教育学会・日本物理教育学会・日本理科教育学会)が,これからの理科教育について協議するために設立。シンポジウム開催、中央教育審議会・教育課程審議会等への要望書、意見書発表などを行っている。
    http://homepage2.nifty.com/CSERS/



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