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バイオカフェレポート「iPS細胞って何」

2008年3月14日(金)、茅場町サン茶房にてバイオカフェを開きました。お話は医薬基盤研究所の具嶋弘さんによる「iPS細胞って何」でした。初めに清水美保さんにより、春の雨を吹き飛ばすような力強いバッハ無伴奏ソナタのひとつがバイオリンで演奏されました。

バイオリン演奏 具嶋弘さんのお話


主なお話の内容

今日の話の最初の部分は、NHKサイエンスZEROの「夢の万能細胞に挑む」(2008年3月7再放送)から発見の経緯、人物像を紹介したいと思います。

ヒトiPS細胞の樹立
岡野栄之先生(慶応大学)がiPS細胞を脊髄損傷マウスに入れたところ、6週間でマウスが歩けるようになったという「大事件」が起きた。
それまでもES細胞(胚性幹細胞)を使って再生医療の研究は行われていた。しかし、誘導多能性幹細胞(iPS 細胞)には、患者さんの細胞から作れる、受精した胚から作るときの倫理的な問題が少ない、女性の未受精卵を用いるとき提供者への負荷の心配がないなど、ES細胞と異なり、メリットがある。
2007年11月京都大学山中伸弥先生、ウィスコンシン大学トマソン先生はそれぞれ、4つの遺伝子を、ウイルスをベクターとして使いヒト皮膚細胞に導入しiPS細胞を作ることに成功し、別々な世界的な学会誌に論文が掲載された。

山中先生の成功への道
山中先生は神戸大卒業後、リウマチの患者さんを治せるようになるために基礎研究に立ち帰ろうと決心し、8年前からiPS細胞の研究を始めた。そのころ、成功の確率は大変低いものだと考えられていた。
多田富先生(京大再生医科学研究所)がマウス体細胞とES細胞に電気刺激を与えると、体細胞が移動しES細胞のように振舞い始めたという細胞融合実験がヒントになったらしい。ES細胞に体細胞を万能細胞に戻す因子があるのではないかと思い、2万個以上ある遺伝子の中から探し始めた。まず、1300個に絞り込んだ。林崎先生(理研)のマウスのデータベースを使い、3時間で1300から100個に絞れた。それから3年で若い研究者グループが24個まで絞り込んだ。
学生だった高橋先生のアイディアで最後の4つに到達した。20年間失敗の連続だったので、iPS細胞ができたときも、自分の実験を疑ったくらいで、若い研究者のアイディアと頑張りを讃え続けているのが山中先生のお人柄。

わが国の万能細胞(iPS細胞)の作り方
マウスの皮膚細胞に4つの遺伝子を入れ万能細胞を作り、神経、骨、肝臓、すい臓に分化誘導できれば将来再生医療への利用が期待できる。現在は3つの遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4)でiPS細胞を作れるようになった。
受精卵は分裂してやがて様々な組織に分化していくが、ES細胞(胚性幹細胞)とは、分化する前のどんな組織にもなる能力のある細胞のこと。体外受精の受精卵を使って作られていた。iPS細胞だと受精卵を使わなくていいので、倫理的な問題が解決できる可能性がある。

研究の状況
マウスES細胞からの研究成果では、パーキンソン病、心筋症、糖尿病、動脈硬化症、筋ジストロフィー、白血病などの治療への利用の研究が進んでいる。臓器移植のための臓器提供者の不足の問題の解決、治療困難だった病気の治療法の開発などが期待される。
東北大学:マウスiPS細胞による角膜の再生。角膜疾患治療効果が確認
東大:血友病等の遺伝病患者の細胞からiPS細胞を作製。止血成分や病気の仕組みの解明。
慶応義塾大学:へその緒の血液を集めて200種類のiPS細胞を作製
理研:神経細胞や血球の作製から再生医療への応用
京大:新研究組織iCeMSが3月19日開所。山中伸弥教授が所長。10年計画で年間数十億の予算規模。ヒトのiPS細胞を用いた研究が開始され、血管や心臓の病気の治療法開発に向けた新たな一歩が踏み出されている。

今後の動き(様々な情報を基に)
 ホワイトヘッド研究所(ボストン)ではマウスのiPS細胞作製、スクリップ研究所(サンディエゴ)では化学物質を使う方法を研究中など、世界の競争は加速している。
ヒトの皮膚からなら細胞がとりやすいので、患者さんの皮膚から細胞をとる方法で、採取ができない心臓、脳への再生医療も考えられる。一方、iPS細胞からヒト個体が作れるようになるとヒトクローンという倫理問題が生じ、世界的に化学物質探索の競争、再生医療や医薬品開発の応用における特許争い、安全性確保など課題も多い。
医療の現場に応用される時期は、誰にもわからない。マスコミの過度の期待には慎重に対応すべきという研究者もある。最も慎重な意見ではヒトでの1例目は10年後、一般では20年後というのもある。私は5年後くらいには安全性が確保でき、10年後にヒトでの臨床試験が開始されるのではないかと期待している。

日本の状況とこれから
日本でもiPS細胞のベンチャー企業設立やオールジャパンの研究の必要性が高まっている。
政府でも支援策としてワーキング・グループを走らせている。臨床試験にむけた体制整備(ES細胞規制緩和への要求、iPS細胞から精子・卵子の作成は禁止、iPS細胞を使う臨床研究倫理指針策定、iPS細胞を使った臨床研究の海外実態調査の実施など)が必要。5年後の目標として、@この分野の人材育成、A安全性確保、B知的基盤の体制整備を挙げている。

iPS細部の成功から学んだこと
私は、世界の貧しい人にもiPS細胞が使われるようになってほしいと思っている。
山中先生の謙虚さ、真摯さを若い人たちに見習ってほしい、同時に研究費が有名な先生に集中せずに若い研究者にも届くようにしてほしい。


会場風景1 会場風景2


話し合い
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • iPS細胞の臨床応用でガンが生じる可能性があるというが→ウイルスベクターを使うのが原因らしい。化学物質を使えばその問題は解決されるかもしれない。
    • 5年後には臨床研究に届くと期待されているというが→治験は10年かかるだろうが、世界がヒートアップし早まるのではないか。20年というのはかなり慎重ではないか。
    • 厚生労働省は新しい治療法には前向きか→幹細胞を使う方法では日本では遅れ気味。iPS細胞は倫理的な問題がクリアされており、厚生労働省も急がざるを得ないだろう
    • 発見のきっかけは細胞を混ぜた時に細胞が並び始めたことか→ES細胞に皮膚細胞を混ぜると並び始め、もう一度刺激したら融合が始まったのがきっかけになった現象。10年かけて4つの遺伝子まで絞り込むことができたのもすごい。去年の世界のライフサイエンスの話題のナンバー2になった。医療に応用され始められれば山中、トマソン先生がノーベル賞を受賞できると期待している。
    • iPS細胞から色々な細胞にどうやって分化させるのか→化学物質や遺伝子の両方で誘導する研究が行われていくであろう。iPS細胞から心筋、神経はできやすいが、肝臓はまだ難しいといわれている。
    • 自分の皮膚から心臓を作るとどのくらい時間がかかるのか→組織全部を作るのでなく、健康な細胞を入れると心臓の中で健康な細胞が増えていく。脳神経細胞を入れて脳で形作らせる。組織を創るという研究も九州大学の先生がやっているようだ。
    • iPS細胞は簡単に作れるのか→韓国などの研究機関でも再現できているようだ。
    • 京大は特許を取れたのか→マウスは京大、ヒトiPS細胞はウィスコンシン大と京大が競っている。公開されてみないとわからない。iPS細胞からの医療への応用に今後10年間で、アメリカは3000億円を投入しようとしている。アメリカはES細胞には倫理的問題があり推進してこなかったが、iPS細胞には大変関心があるようだ。日本がオールジャパン体制で纏まるのは大変珍しく嬉しいものである、企業も大学も行政の主導なしに動き始めている。
    • 倫理基準が厳しくない国は早いでしょう→米国、韓国は倫理面の足かせは少ないかもしれない。日本ではES細胞の研究倫理指針が足かせにならなければ良いが。
    • 生殖細胞に分化させると皮膚からクローン人間ができる可能性もあるが→そういうことを禁止しようとしている。iPS細胞にはクローン個体を作れる能力がある。
    • 今のバイオで狙っているのはゲノム創薬なのか→ミレニアムプロジェクとでは年間800億円を5年間投資したが、その成果が期待したほど出ていないとの批判もある。
    • 人種によるiPS細胞の違いはあるのか→日本人50人のiPS細胞を作ると日本人全体に応用できるという可能性が言われている。
    • iPS細胞の利点は?→自分の細胞を使え、拒絶反応のない組織ができ、再生医療に使える。
    • 遺伝子の違いがわかるとどんないいことがあるのか→SNPsという遺伝子の違いで薬の副作用、有効性の有無はかなりわかるようになっている。
    • 動物の毛から、例えばマンモスも再生できるか→毛根細胞も一緒に残っていれば可能性はある。
    • パーキンソン病も治せるか→治療への応用も基礎研究が始まっているようだ。
    • 投入するのは細胞?遺伝子?→ES細胞研究では神経細胞を作り、それを入組織に移植していると思う。


    具嶋さんのもうひとつのお話

    10数年前からベトナムのフエで、日本人で元小学校教師の小山さんがストリートチルドレン救済を始められた(「ベトナムの子供の家」)。私は小山先生と偶然に知り合い、6年前から少しずつ経済的支援を続けている。彼の救済活動で、これまでに300人の子供が社会に出て活躍している。
    2008年正月に訪ねたところ、60人(5歳〜20歳)がいた。1日70円の食材で食事を交替で作り共同生活を営んでいた。画家を目指しフエ技術大学に入学した青年、ベトナムでは最難関であるフエ医学大学に合格して医者を目指す女性、施設が創設した日本料理店やバイク修理店などで働き始めた子供たちが多くいた。
    3年間からフエ郊外に住む5人家族と共に住んでいる7歳のアンという少年の里親になったが今回の訪問ではじめて会ってきた。寝たきりで、流動食しか取れない。アン君は父親がベトナム戦争で撒かれた枯葉剤のダイオキシンにより生殖細胞が侵され奇形児として生まれたようだ。フエ周辺では奇形児が生まれる頻度は10数倍高いとの疫学調査がある。
    将来、iPS細胞でこうした子供達にも再生医療の恩恵が得られないかと希望している。



    話し合い
    • 保健学科の学生。ベトナムの少年の神経を再生するには→臨床研究で安全性が確認され、効果が得られれば可能性はでてくるかもしれない。デュシャンヌ型筋肉ジストロフィーの難病治療も将来の視野に入っている。
    • どれくらいの費用があればベトナムで医療は可能か→低開発国ではすぐには無理であろう。抗エイズ薬も日本やアメリカで使えてもアフリカでは使えない。20年後にはこうした国々でもiPS細胞での治療が行えるようになれば良いが。
    • 抗エイズ薬は研究開発への投資を製薬会社が早期に回収するので高い治療費になっているが、iPSは多くの人々の治療に使えるようなシステムになれば良いが。
    • 具嶋さんのお人柄に感銘。ベトナムの活動は日本のODAでやるべきだと思う→ODAも最近、少しは支援をしてくれてきたようだ。日本人からのボランティアの資金でこの様な支援活動は何とか運営されてきたが、同郷のホリエモンにもビルゲイツのように余ったお金をこうした支援活動に回してくれればと期待している。
    • 世界には気の毒な人が一杯いるが、誰を助けたらいいのか考えてしまう→万人のためにユニセフに寄付するのもある。私は小山先生に偶然に出会い、彼を通じて支援しています。


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