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第3回日本科学技術ジャーナリスト賞授賞式

 2008年5月30日(金)、プレスセンタービル(東京日々谷)にて、第3回科学ジャーナリスト賞(JASTJ2008)授賞式が行われました。柴田鉄治委員長の総評で始まり、各受賞者への選考委員からのコメント、受賞者のことばがありました。著者のお顔が見え、JASTJのメンバー皆さんの手作りの授賞式でした。

日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ) http://www.jastj.jp/


柴田委員長より総評

「今年は新聞、テレビの候補が少なく寂しい反面、書籍に粒ぞろいの候補が多かった。
自薦他薦の51候補者の応募があったが、候補者のそれぞれの業績を1人につき3名以上の一次選考委員が選んで14候補者にしぼった上で、さらにノーベル化学賞の白川英樹さんら外部委員にも依頼し、二次選考を行った。
大賞の宮田親平さんは、化学者ハーバーの生涯を幅広い取材を元に様々なエピソードを散りばめて巧みにまとめたことに対してだった。ハーバーは空中窒素の固定法を開発し化学産業の基礎を築いた人物だったが、第一次世界大戦のときには毒ガス開発をリードした。「平時は科学のために、戦時は国家のために」ということばに代表されるように、科学者と戦争の関係について問題提起をしている。ハーバーの毒ガス開発を責めたアインシュタインが第二次大戦ではマンハッタン計画に関わることになったことも歴史の皮肉を感じた。これは、誰も口にしていないが、宮田さんが77歳でこの名著を残されたことは、私を含めて多くの高齢者への励ましとなることも事実だと思う。今年は海堂尊さんなどのプロの書き手が活躍し、科学ジャーナリストは逆に啓発書作成を頑張るようにと厳しいエールを受けた気もした。松永さんのあやしい科学への実名での厳しい告発は勇気ある業績。古賀さんのオーロラのLIVEは、WEBが科学ジャーナリズムの大事な分野であることの現れでもある。田辺さんは受賞者の中でただひとりの新聞記者。毎年、最終選考まで残っていたが、今回の受賞は長年の業績は高く評価できるものであると思う。
JASTJ賞も3年目。知名度があがってきた。いい仕事を評価・奨励するのはJASTJの大事な仕事として続けていきたい」

海堂氏と黒川氏 田辺氏と高木氏


「死因不明社会〜Aiが拓く新しい医療」の著作に対して
        医学博士 海堂尊 著

政策研究大学院大学教授 黒川清氏のコメント
「著者は現役お医者さんで、日本ではほとんどの死因が解明されていないことを告発している。画像診断装置で死体の記録を残すシステムを提言した。このようなシステムが科学的判断から導入されない背景に、天下りや利権という構造があるとすると、日本の科学技術政策は科学的判断によっていないのではないかと考えてしまう。ジャーナリストはこのような状況への批判を含め、現役のお医者の声が国民に届くように、情報発信をやってもらいたい」

受賞者のことば
「黒川先生のお言葉から、自分の信ずることを書いていいのだと思った。
ご遺体を調べないと死因はわからず、調べる方法は解剖しかない。解剖率2%という現実、解剖しなかった死亡者、即ち死因不明者が100万人以上いることを意味する。解剖できる医者の数は少なく、費用の25万円は病院から持ち出し。人材も育っていない。また遺族も解剖を望まない文化がある。
解剖ができない状況の代替法としてAI(死亡時画像診断)採用を広めようというのが私の本の趣旨。解剖に匹敵する効果がある。費用200億円/年がつけば、国のレベルならすぐに動くはず。法務省は裁判員制度導入にAIは有効だと考えているが、予算無しにAIを導入すると現場はもっと疲弊する。死因検索は利益を生まないので、国家が投資するしかない。ジャーナリストが皆でこのことを書いてほしい。この受賞はAIを根付かせたい市民の力のお陰だと思う」



新聞連載記事「それ本当ですか?ニッポンの科学」をはじめ長年の科学ジャーナリストとしての活動に対して      前朝日新聞社編集委員 田辺功さん

JASTJ選考委員 高木靭生氏のコメント
「私も新聞業界にいて、朝日新聞で田辺功さんの名前を見ていた。「それ本当ですか?日本の科学」9回連載で、BSE、携帯電話のペースメーカーへの影響などを例に、日本は科学的判断を大事にしない社会だと指摘している。ふだん見過ごしている誤りに光をあてて訴えていくことで社会を変えるのがジャーナリストの仕事。医学・医療分野で30数年間追求されてきた成果。日本の医療や医学を変えていきたいという思いが現れていた」

受賞者のことば
「私は40年間、科学記者、医療記者として好きな活動をしてきたので、在職中から朝日の中のフリーランサーだといわれていた。科学は新聞の科学記者の中でも少数派だったが、この受賞で多数派になった気分がする。いまも日本は本当に非科学の国だとつくづく感じており、これは入社当時と変わっていない。政治部、社会部、経済部は科学を知らないことを自慢している人もあるくらい。
今の状態では、科学者を動員して策定する科学政策までが科学的でないと思えてくる。科学の前に、お金や利益があって科学的意見が歪んでいる。
BSEや携帯電話を取り上げた。現在使われているペースメーカーは性能がよく、使っている人の胸に携帯電話をあてて発信しても問題はおきないが、もし古い機種の電池が切れずに使い続けている人がいるかもしれないという不安が繰り返されると、国中が携帯電話はペースメーカーに悪影響を及ぼすという暗示にかかっている。今はそういう社会。
障害のある人には一定の処遇が必要だが、ペースメーカーを入れずに苦しんでいる人の障害者手帳が3級で、ペースメーカーを入れてゴルフをしている人は1級という状況もある。これからも、新聞社にいたころは書けなかったことを書いていきたい」


 
受賞者と選考委員のみなさん  



「LIVE!オーロラ」プロジェクトのWEB活動に対して
     有限会社遊造 代表 古賀祐三さん

http://aulive.net/

科学技術振興機構理事長 北澤宏一氏のコメント
「最年少の受賞者。古賀さんは29歳で脱サラ1年後、有限会社遊造を設立。科学技術コミュニケーター活動をビジネスにしている。主要な媒体はWEB。無料で運営しているWEB活動が授賞の対象になった。オーロラの圧倒的な存在感をライブで高度な映像技術を使い、友人の音楽を使うなど若い力を駆使して芸術性の高い表現をし、それを「楽しみ」であるとしており、これは、審査員全員の驚きだった。オーロラの説明が本当は長いが短いセンテンスで、動画を使ってわかりやすく見て楽しく表現されている。」

受賞者のことば 「オーロラをリアルタイムで送るシステムを手作りし、遠隔操作ができるようにした。三鷹のオフィス(8畳)は器機で溢れている。独立して8年。独立後3年ごろは泥沼だったが、「やりたいことがあるなら、それで食べていかれるような方法を作ればいい」と思っている。サイエンスコミニケーションは科学の啓蒙とはちがう。市民が求めることのマーケティングが第一。イベントではいろいろな方と話すことが大事だと思う。なぜなら、声を拾うとデータになるから。 オーロラというテーマは、お酒の場では食い付きがいいが、科学的に説明し始めたとたん座が白けてしまう。それは今も変わらないが、アクセス数を見ているとブログなどで科学について書きやすくなってきていると感じる。私達は、科学者の一助になるかもしれないと思っている」




「メディア・バイアス〜あやしい健康情報とニセ科学」の著作に対して
          科学ライター 松永和紀さん

慶応義塾大学名誉教授 米澤冨美子氏のコメント
「松永さんは受賞者の中で2番目に若く、京都大学の農学研究をして修士課程終了後、毎日新聞社で10年の記者生活を経てフリーライターをされている。
食や健康情報をテーマに、メディアが取り上げるときの取捨選択や切り口しだいで全く違う印象を与えてしまうという、報道すべてについて共通の点について述べている。
よい・悪い、シロ・クロで切って報道する姿勢が多いが、実際は使い方や食べ方に関係があり、つまり灰色だが、そういう書き方は人気がない。丹念な取材で科学的に灰色な問題を分析している。
そういうことを伝えながら、科学ジャーナリストのあり方について突っ込んで書いているところがよかった。科学ジャーナリストの使命は危険への警鐘をならすことだと受け取られているが、これは正しいニュースより悪いニュース、日常性より異常性、平和より戦争が取り上げられやすく、センセーショナルな書き方が面白いと受け取られる現状に反映されている。そういう書き方がメディアでは上司に評価される傾向もある。フリーのライターは灰色な問題をありのままに書くと次の原稿依頼が来なくなるという厳しい現実の中で、このような活動をしていることは高く評価される。良心的で綿密な取材をフリーでしようとすると、取材費がかかり、評価されない困難を指摘している。現役のジャーナリスト、一般市民、科学ジャーナリストを志す若い方に読んでいただきたい」

受賞者のことば(光文社の担当編集者三宅貴久さんが代読されたものより抜粋)
「では、科学面を読みそうにもない普通の人々に、生活に欠かせない基本的な科学技術に関する知識をいかに伝えていくか? 私はどう係わり責任を負うべきなのか?
 これらのことは、次第に私の大きなテーマとなり、結局は新聞記者を辞めフリーの科学ライターとして活動して行くことになりました。
 フリーになって今年で9年目。「メディア・バイアス」は、私の思いの、ある意味集大成です。普通の人々が科学技術に感じるさまざまな疑問や不安を平易に解き明かしたい。科学への深い関心を、暮らしの中から掘り起こしていきたい。市民自身の努力によって培われる厳しい目が、メディアも育てるのではないか。そう願いながら書きました。
 その結果できた本は、科学的には最先端でも高度でもなく、お世辞にもスマートとは言えないものです。そんな本を、日本科学技術ジャーナリスト会議の皆様が思いがけなく認めてくださり、科学読み物として評価してくださいました。望外の喜びでした。」




「毒ガス開発の父ハーバー〜愛国心を裏切られた科学者」の著作に対して
          医・科学ジャーナリスト 宮田親平さん

ノーベル化学賞受賞者 白川英樹氏
「宮本さんは医学・科学のジャーナリストの真打ともいえる方。
ハーバーは空中窒素固定のハーバー・ブッシュ法で知っていたが、日本と深い関係のある人だと知らなかった。科学者が戦争に利用されることは、同じ科学者として突き刺さるものがあった。妻のクララが科学者であって、夫の戦争への協力に対して生命をなげうって科学技術のあり方を訴えたエピソードは、非常にインパクトがある。
戦争を早く終結させれば多くの人が助かると願って考案された毒ガスだったが、現実には多くの犠牲者を出した。同じ過ちがマンハッタン計画で繰り返された。ドイツの毒ガス博物館に掲げられているウェールズの言葉「最悪の事態が迫っているのに、世界の人はそれを防ぐ方法を知らなかった」が宮田さんの本の中で紹介されている。人類はどうして、同じ過ちを防げないのだろう。選考委員10名全員一致で大賞となった」

受賞者のことば
「後期高齢者を代表して厚く御礼申し上げる。20-30年前から温めていたテーマであらゆる分野の資料を集めて、10年前から書き始めた。外国の資料が多く苦労し、ドイツにも調査にいった。後ろ向きのテーマなのに受賞できて嬉しい。 調査でわかったことは、科学者の名前を地名につけるなど欧州では科学者を大事にしていること。2年迷った時期があり、いよいよ書ける!と思ったときに山で大怪我をしたが1年で幸いにして回復し、作業療法士、看護師のおかげで回復した。朝日新聞が取り上げてくれて、珍しい写真を集めてくださったことに感謝。やはり、受賞の気持ちは「嬉しい」の一言。この賞に賞金がないことがわかり、むしろその方がよかった。私の属する医学ジャーナリスト協会でもこのような賞を作りたい。これからはJASTJにも真面目に参加します」




武部俊一JASTJ副会長から閉会のことば

「この賞は多くのいろいろな人に支えられている賞。9月から6ヶ月を事務局2人をはじめ、一次選考をしたジャーナリスト塾卒業生、映像学会の支援に感謝したい。受賞者、会場のみなさん、関係の方々、ぜひ今後もこのJASTJと科学ジャーナリスト賞を支援してほしい」



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