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バイオカフェレポート「アサガオの七変化〜遺伝子の働き」

第44回茅場町バイオカフェが2008年7月11日(金)に茅場町サン茶房で開催されました。松本宗雄さんのバイオリンとビオラの演奏で始まりました。本日のスピーチは、筑波大学准教授小野道之さんによる「朝顔の七変化〜遺伝子の働き」でした。

バイオリン演奏をする松本さん お話をされている小野先生


お話の概要

1.アサガオについて
日本の夏の風物詩として、全国の各地で朝顔市が毎年行われる。
アサガオは日本固有の園芸植物であるが原産地は中南米であり、奈良時代に中国から薬草(種子が牽牛子といって下剤になる)として渡来したとされる。野生型のアサガオの花は小輪の青色であるが、日本人は花を好んで鑑賞し、偶然生じた白花や絞り咲きの突然変異を珍重した。江戸時代には、競って花形が異常になった突然変異を栽培し、「変化朝顔」と呼ばれる奇花・珍花を栽培する江戸文化の一つを形成した。一例として、絞り咲の花が描かれた伊藤若冲の代表作「向日葵雄鶏図」があります。
参考サイト:
九州大学の仁多坂英二先生のアサガオホームページ (ニュースレターVol.4 No.1 目で見るバイオ参照下さい) 

アサガオは2002年に始まった文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)において植物7種(現在は9種)の1つに選定され、花形、花色、短日花成のモデル実験植物として、研究環境の整備が進行中である。九州大学と基礎生物学研究所が中核となり進めているアサガオNBRPの運営委員長を担当している。アサガオNBRPの悲願はアサガオ・ゲノムの全塩基配列の解読である。

2.世界のアサガオの分布
アサガオ(Ipomoea nil またはPharbitis nil )は南北の緯度が40°以内程度の世界中に広く分布する。全てが野生種であるかどうかは議論の余地があるが、日本の探検隊によってギニア、ネパール、北京などで採集されており、これらはそれぞれの場所における栽培に適応した系統として貴重である。日本の代表的な実験系統としては品種のムラサキとキダチがある。園芸用の品種は極めて多く、九州大学には1,000を超える系統・品種が保存されている。
 
3.アサガオの花が一番を美しい時は
青色の花の見ごろは、時間で言うと朝6時ごろか。アサガオの花の色素はアントシアニンで、細胞内の液胞にある。液胞のpHが開花している間だけ高くなる(pH5.5からpH8になる)。このとき青色の花色は、紫色から青色に変化する。花が萎むとpHも下がり、再び紫色に戻る。アサガオが努力して生み出す青色は、早朝にだけ見られる特別な美しさ。

4.アサガオの蕾が着く条件は

  1. 短日植物であるアサガオに蕾が着くかどうかは、日の長さ、特に夜(連続した暗期)の長さで決まる。日本で栽培されているアサガオでは、種子から発芽した最初の双葉の時に、1日のうちに最低でも10時間(限界暗期という)、望ましくは14時間から16時間連続して暗いところに置くことが刺激となり蕾が形成される。そして、この反応は、連続した長い暗期の8時間目に光を10分間照射するだけで完全に阻害される。アサガオは短日植物の極めて単純なモデルとして日本を中心に詳しく研究されてきた。
  2. 花芽を形成させる誘導物質はFTタンパク質(FT=Flowering Locus T)
    多くの研究者が光周期により花芽を誘導する物質を捜し求めてきた。1930年代からフロリゲン(花成(かせい)ホルモン)仮説として研究されてきた。最近、シロイヌナズナやイネなどでは、葉にあるFTタンパク質がその実体であり、これが茎頂に運ばれ、花芽をつくり、花が咲くということが明らかにされた。
5.変化朝顔ができる仕組み
  1. 江戸時代の人はメンデル遺伝を知っていたのか?
    1. 八重咲きのメンデル遺伝(1遺伝子)
      Aを優性遺伝子、aを劣性遺伝子で表すと遺伝子型がAA型、Aa型、Aa型は一重咲きの朝顔であるが、aa型は八重咲きとなる。Aa型 と Aa型の朝顔を掛け合わせるとメンデルの法則にしたがって、1AA型、2Aa型、1aa型の朝顔ができる。ここでaa型は、八重咲きとなるが種ができず、その年限りとなる。八重咲きの朝顔をみるにはAa型同士の交配をすれば見られる(朝顔は自殖性が高いので特別な交配は不要)。
      一重咲きの朝顔(写真3)と八重咲きの朝顔の写真(写真4)を参照願います。(遺伝子型は異なったものを掲載しています)
    2. 八重咲きと切れ咲き(切弁)の形質のメンデル遺伝(2遺伝子)
      A,Bを優性遺伝子、a,bを劣性遺伝子であらわす。
      AaBb(合弁) とAaBb(合弁)とを掛け合わせると、16の子孫ができる。そのタイプは一重咲き(1AABB、2AaBB、2AABb、4AaBb)と八重咲き(1aaBBと2aaBb)と切弁咲き(1AAbbと2Aabb)と八重の切花咲き(1aabb)ができる。aabb型は種子ができずその年限りとなる。劣性の遺伝子の系統を絶やさずに維持するためには、メンデルの遺伝法則を理解していたとしか思えない面があり、大変興味深い。

  2. トランスポゾン(Tn:転移要素=小型の動き回るDNA)による遺伝子の変異が多発した。
    アサガオの花の色素、アントシアニンをつくる酵素の遺伝子群にTnが挿入されると正常なアントシアニンが作られず、例えば全体が白色、または一部が白色になった花ができる。又、挿入されたTnが外に飛び出す時、全く同じ位置でおきれば青色に戻るが、周辺の遺伝子と一緒に飛び出すと変化した色となる。
    江戸時代ではTnの転移が爆発的に起こる現象が数回生じ、変化朝顔ができたとされる。トランスポゾンのような易変性についても江戸時代の人は理解していたのかもしれない。

  3. 遺伝子の欠失による花の形の変化の仕組みが明らかになってきた。
    花は4つの器官(ガク、花弁、雄ずい(おしべ)、雌ずい(めしべ))から成り、その形成は遺伝子レベルでは、ABCモデルを使って説明される。A遺伝子の単独ではガク、A+B遺伝子の協力により花弁、B+C遺伝子の協力により雄ずい、C遺伝子の単独では雌ずいを作る。例えば、Aが欠失すると花の形態は、雌ずい、雄ずい、雄ずい、雌ずいとなる。因みに、小野先生はある1つの遺伝子の機能を抑えることにより、ガクばかりになった変化朝顔(ガクの八重咲き)を作ることに成功した。
6.アサガオに遺伝子を導入する方法の開発 
遺伝子レベルの解析をするためには、アサガオに遺伝子を導入する技術(形質転換法)が必要となる。2000年にこの技術を確立できた。具体的には、アサガオの若い種子から若い胚(芽生えの元になる小さな植物)を取り出して、10日ぐらい寒天培地で培養し、遺伝子を導入するアグロバクテリウムを感染させると、遺伝子を導入した胚ができる。この胚を培養して植物体を再生する。応用例として、アサガオの胚にFT遺伝子を入れたら直接つぼみが出た。また、FT遺伝子がないと花が咲かないことを明らかにすることができた。

会場風景   華やかな八重咲きのアサガオ


話し合い     
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 花が咲く限界暗期(最低必要な暗くなっている時間)について。→ 日本のアサガオでは10時間程度。
    • 電照菊は何の調節をしているのですか。→ 花芽を形成するタイミング。キクは短日性の植物で、明るい時間を増やして長日条件にしておくことで、花芽の形成を抑えておき、これを解除することで一斉に蕾を着けさせている。
    • 花が咲かせるのに感ずる光の波長というのはありますか。→ 主にフィトクローム(受容するタンパク質)により、660nm程度の赤色を感じている。
    • 葉の部分でどのように時間を感じているか。→ 概日時計(生物時計)により、計時していると考えられている。
    • 花を咲かせるのに、朝顔の成長時期のどの段階で決まるのか。→ 日本のアサガオでは、子葉が出てきて開いた時、以降ならいつでも良い。
    • 種ができないものを増やすにはどんな方法があるか。→ 挿し木で増やす、バイオテクノロジーの技術を使って殖やす。
    • アサガオの花が咲く際、一度に咲かないのはなぜか。→ 成長の順番で根本の方から咲く。一方、重力に敏感な面もあり、先端であっても下方向に折り曲げると成長が遅れることもあるようだ。
    • 朝顔市で買ってきたアサガオが咲かず、捨てようとする頃に咲く。原因は何か。→ 朝顔市(場所によって異なる)の7月7日に合わせて加温栽培されて咲いていたためではないか。夜は暗くなるところで栽培すると良いと思う。
    • 朝顔を効率よく発芽させるための種まきのポイントは。→ 種は硬実種子であり、そのままでは吸水しないので、ヤスリや小刀で傷をつけてから種まきをする(芽切りという)。
    • 樹脂に埋めたアサガオを見せていただきましたが、どのようにして作るのですか。→ UVランプで固めるタイプがある。温かいところに置く。

    参考図書:植物まるかじり叢書3「花はなぜ咲くの?」西村尚子著 日本植物生理学会監修、化学同人(2008) 

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