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シンポジウム・レポート
「食料をめぐる新たな潮流〜日本人は本当に食べていけるのか」

2008年9月16日(火)、農林記者会60周年記念シンポジウム「食料をめぐる新たな潮流〜日本人は本当に食べていけるのか」が開かれました。 初めに、実行委員長の農業協働組合新聞野沢聡さんより「4社で始まった農林記者会の60周年にあたり、現代の日本の農業の行き詰まり、市民の食の安全・安心への関心の高まり、食料やコストの高騰など、食への問題意識が高まりの中で、情報発信をしたい」というご挨拶がありました。


基調講演「世界の食料事情とわが国の対応」

         農林水産省大臣官房 食料安全保障課 末松広行課長

はじめに
食料の国際価格の上昇により一般市民の関心が高まった1972年、米ソの同時不作の時に問題化したことがあったが、食料価格は工業価格に比べて安定していた。
農林水産省の調査によれば、価格は需要・供給の要因によって決まるが、実際の需要の高さよりも、需要が高いと思うかどうかが価格に反映されている。食料価格の特徴は「胃袋一定の法則」(私個人がつけた呼び方)に従っていて、価格が安くなったからといって、必ず食料消費が増大する訳ではなく暴落してしまう。しかし、価格がある程度以上あがると、我慢して買わない人も出てくる。経済の法則に従うのがいいといっても、飢餓(栄養不足人口)を増やす訳にはいかない。需要と供給という視点で整理する。

需要の要因

  • 世界人口の増加:途上国での伸びが大きい。
  • 所得向上に伴う穀物消費の増大(所得が増えると畜産物の消費増大。人口の伸びに比べ穀物消費の伸びが大きくなる)。2020年、中国のGDPは日本を抜くだろう。
  • バイオ燃料などへの農産物の利用:バイオ燃料の生産は2030年には今の6倍になるだろう。バイオ燃料は大気中のエネルギーをどこまで使えるのか。ブラジルのエタノールはサトウキビから砂糖を作った残りで作るので、食料と競合していない。米国は食料に使えるトウモロコシを使ってバイオエタノールを作っていて、食料との競合があるのでよくないという主張もある。

供給の要因
  • 農地面積:農地面積は30数年間で1%増加。これ以上の増加は期待できない。
  • 環境問題:森林伐採で農地を増やすと食料は増えても、環境問題が生じる(先進国は自国の森林を農地にしておきながら、発展途上国の農地開墾を抑制するのはおかしいという意見もある)。塩害、地下水の枯渇、砂漠化などが世界で起きている。
  • 単位面積あたりの収量増加(世界の人口増加に対応できたのは単収の増加による)。これまでの単収増加には遺伝子組換え技術が寄与してきた(日本のGMO嫌いはどうしたものか)。

世界の状況と日本の状況
世界では、食料の不足により輸出規制も始まっている(自国民の飢えのために発動するのは仕方ないが、早めに発動し輸出で利益を得る例もある)。食料をめぐる抗議運動や暴動が発生している。
日本も十分な輸入が難しくなる可能性がある。
日本の自給率は低下している。生産面の要因は、農業者の高齢化、耕作面積減少、耕作放棄地の増大など。需要面の要因は、米の消費減少、畜産物消費の増加。せめて日本の自給率を5割以上にしよう。
自給率5割の実現には、1)水田で畜産の飼料生産など空いている水田を活用する、2)金額ベースで寄与する、3)野菜や果実の需要を増やす(特に業務用の世界)、4)国産農業を伸ばすための国民理解の推進

まとめ
政府の政策的判断が重要!国民の意思に任せる、自由意思ではだめ。
自給率を5割実現のために、生産、消費の両面が大事。生産の向上はすぐには現れない。日本の特異な生産品を国民に選んでもらいたい。広報による国産品の奨励も重要。国産茶葉100%などに反映されて九州で茶畑が復活している実例もある。生産面では自給率の低いものを一生懸命に作ろう!すべきところは国が支援すべき(企業にしかられるが)。農業生産の低コスト化、大規模化を農地法など、制度的に検討すべきではないか




パネルディスカッション
パネリスト:(有) 永井農場 永井進専務取締役
全国農業協働組合連合会 加藤一郎代表理事専務 
コープネット事業連合会 五島彰商品事業担当執行役員
東京大学大学院農学生命科学研究科 鈴木宣弘教授
コーディネーター:日本食糧新聞 伊藤哲朗氏

(有) 永井農場 永井進専務取締役

12年前まで家族経営から法人化し、全国から若いスタッフを受け入れ、酪農と米を中心に経営している。酪農から出る副産物の堆肥を使って米、やさい、果物を栽培。・ ・有畜複合経営による有機リサイクル農業の実践 ・自分でつくったものを自分で販売できる環境作り ・地域農業の振興の核になるような経営体 自給率50%を具体化するときに、生産現場としてどういうシミュレーションをすればいいのか。


全国農業協働組合連合会 加藤一郎代表理事専務

時間軸、空間軸で日本の食と農業を考えるという姿勢に感銘して参加した。日本の水田活用がキーであるが、胃袋一定の法則から考えて、収量が2倍になって現実に輸入小麦の価格、米の価格がわからないと製パン会社は投資できない。設備投資は10億かかるが、翌年、輸入ムギの価格が下がったら設備投資はできない。3年間、小麦と米の価格差が守られるなら、投資できるが。米粉入りのパンはもちもち感があると人気だが、米の利用を含め、全農は日本の食の伝統を考えたときに世代が世代に伝える架け橋機能になって行きたい。


コープネット事業連合会 五島彰商品事業担当執行役員

コープネットは342万人の組合員がいる、商品事業は宅配(コープデリ)と店舗で行っている。チェーンストアマンの使命は広く食品を集めてくることであり、地産地消を全面的に肯定はしないが、自給率4割の海外依存の大きさは問題があると思う。一方地域農業の応援は重要だと考える。輸入と国産のバランスを考えつつ、いざというときに備えるのが大事。国産にこだわったシリーズを開発したが、国産に切り替えたというわけではない。中華丼に輸入品しかないエビ、イカ、高いシイタケやタケノコはいれていない。これらを通じて消費者との食料事情についてのコミュニケーションをしていきたい。


東京大学大学院農学生命科学研究科 鈴木宣弘教授

日本の輸入依存は海外に1200万ヘクタール以上の農地を借りていることになる。日本の自給率は放っておけば下がる。日本人が自給率向上の関心が高まったといいながら、飼料代高騰の中で食料価格が低いというのは、食料不足の認識が低いのではないか。 基礎食料の関税ゼロは暴動を招くことがわかったのに、日本もインドと同じ立場になると考えて日本はWTOに振り回されている。米国は食料が余っているので、輸出しているだけで、自由貿易は輸出したい国の都合に依存していることを日本は意識すべき。日本は本気で農業を保護しないと、「自国で作れない、買うだけの国」になってしまう。自由貿易を徹底すると、日本の自給率は12%になるという試算がある。日本には自由貿易のお題目の前に、国内農業に対してしなくてはいけないことがあるはず。



パネリストと司会者の一問一答

農業の担い手とモチベーション
永井:日本にプロの生産農家は必要なのか。誰が日本人の胃袋を支えるのか。農政と現場に隔たりを感じ、農業政策ではモチベーションがあがらない。補助金をもらうだけで、経営者としてやっていけるのだろうか。補助金なしにちゃんと経営ができるようになりたい。自立できるようになりたい
五島:産直団体は将来に不安を持っている。若い人のやる気をださせる環境作りが大事。農業が産業として成り立つような環境が必要。生産性のあがらない山間部の農家が田畑を維持できるような仕組みが必要ではないか。直接補償がいいのか、間接補償がいいのか。国の補助は現状では必要。補助の仕方に透明性が必要。
加藤:生産者のモチベーションがあがらない、産業としての農業が自立するのか、というときに補助金はどうあるべきか。WTOを含めて効率の視点で考えると日本の農業は勝てそうもない。
日本の農政の現実は、日本で最も効率的な生産をしている嬬恋のキャベツが暴落してキャベツを捨てている。病害が予想より少なく豊作だと暴落してしまう。団塊の世代が60代になり、食料の摂取が減ってくる。スイカは皮はいらないといわれたスイカ農家。日本の食文化の中にこういうことが根付くのはいかがなものか。闘いに勝つのでなく、負けないことの意味を理解しなくてはいけない時がきている。賞味期限を過ぎたものを捨てるような食生活について皆で考えないと、生産者のモチベーションは向上しない。
五島:流通は消費者ニーズにあわせている。食品は自動車とは違うという認識がなさすぎる。生ゴミの出せる日の前しか、鮮魚やスイカは買えないような制限があるのが実生活。食品も自動車のように便利が最重要なのか。そういうことを市民と話し合いたい
鈴木:生産者ニーズには現状はあっているのか。生産者に必要なものは何かを考える思い切った補助金制度があってもいいのではないか、自給率が下がったのは、日本が世界の国々より関税を低くしたからだと気づくべき。フランスは8割、スイスは10割、アメリカは5割を国が補助し自給率を保っている。こうして保護していくのが農業という産業の本質。日本は効果的な予算配分をすべき。
永井:日本人として、日本の農業者が必要とされている意識、国民の中に税金を使っても農業をしていいと認められたい。そのときだけの補助金より、大事な支えがほしい。消費者にできることとできないことを消費者に私達も伝えるべきではなかったか。

歴史的視点から
加藤:戦後60年の躁から今は「鬱」の時代。鬱とは生命力が満ち溢れているのに、出口が出ない状態。江戸時代では鬱の時代は吉宗の時代で新田開発やブランド野菜を江戸の人々の下肥で栽培していた。上杉鷹山は農工商連携のオーガナイザーでインフレ的な施策をした。全農は上杉鷹山になれるのか
加藤:昭和30年代の農業基本法の時代と今はどう違うのかというと、現代は自らの資源でまかなおうとして失敗したようだ。だから、失敗事例から学ぶべき。地域でできるものと出来ないものの区別を明らかにしてプロとして農業と関わるべき。

消費者との関わり
五島:生産者に消費者の求めているものを正しく伝えるべき、全農はより生産者に近く、コープネットは消費者に近いので、情報交流を進めるべき
永井:どんな販売促進がいいのかを考えている。お客は誰かを考えてモノを造り、伝えたい。販売先でなく、パートナーとして接する考え方が必要ではないか。外部との直接広報は生産者のモチベーション向上に最も有効。
鈴木:外食が増え、購入される食品の加工度も高まっている。永井さんのような活動が原点だと思う。循環型農業の実現には支えあう構造作りが必要。流通、加工、消費者が生産者を支える仕組みができていない。
五島:需要ばかりに対応するのでなく、「食べる歓び」をしっかり届ける。例えば産直BOX(生産者が旬にあわせて見繕って送るので、消費者は選べない)が届く歓び、農業の奥深さ(田んぼの生き物調査など)を伝えるべき。

食と農の距離
加藤:消費者と生産者をつなげる。田んぼ生き物調査などを通じて、有機肥料も植物体には無機質として取り込まれること、化学肥料や農薬の概念も一緒に伝える・環境と農業、農業と食の距離を縮める。具体的には、GAP(Good Agriculture Practice:適性農業規範、地域、作物に適するように農薬、肥料などを管理して、それを記帳して流通、加工、消費者に伝達できるようにする)手法の実現がいいのではないか。Low Input Sustainable Agricultureの米国の取り組みなどの事例がある。私たちは、緑ちょうちん(国産品を置く居酒屋)を開き、全国で1300店が地方活性化に役立っている。

会場を含めたディスカッション
会場参加者1:シイタケ、タケノコを入れて高い中華丼を作ってはどうか→(五島)中華丼の価格を抑えたのは組合員の支払う上限があるため、買いやすい価格にして国産の原料で美味しくつくった。2回目以降のリピーターも増えているので続けたい。タケノコ、シイタケをいれると1食300円くらいになる
司会者:中国ギョーザの後は高くても中国産を排除した生協と、組合員が買いやすいことを第一にして国産と中国産の両方を扱った生協があった。
会場参加者2:コープも巨大流通の道を歩んでいるのではないか→大量生産が安全・安心に繋がるとは限らない。地域で仕入れるのが基本だと思う。利用している輸入品原料の比率は低い。
会場参加者3:スイカは廃棄する部分が多いので、スイカは中身だけがいいという消費者がいるというが、消費者の啓発が必要ではないか。JAではどんな取り組みをしているのか→最近の事件で国産品に日が当たったのは事実。意見広告も出した。JAの担い手育成のためのチームを作った。契約栽培や江戸の水なすを復活させて緑ちょうちんで利用したり。
会場参加者4:(永井)産直は生産者のモチベーション向上になるか→国内主食の米が余っている現状を考え、作りたい物を作って食べたい人に届けたい。米粉飼料、バイオエタノールは現場から沸き起こった声でない。補助金目当ての耕作はしたくない。来年は飼料から国産にして軽井沢へジェラードショップ(氷菓)を開店したいと思っている。
参加者4:日本人は本当に食べていけるのか→国民全体の判断 オーストラリア政府間交渉が始まり、米、乳製品の関税をゼロにしたらやっていけない。自給率は12%まで下がるという試算がある。米の生産力を上げて、食べ物がなくても米の生産力を基本にして急場をしのげるようにすべき。

専門誌、業界紙への要望
鈴木:一部の利害を日本全体のように主張されることがあるが、幅広い情報提供をしてください
五島:松永さんのコメントが印象的。科学的、生産現場のコミュニケーションを含め、組合員と交流していきたい、よい記事をお願いしたい。
加藤:専門誌は深堀をするもの。有識者へ情報提供のために届けたらどうか。
永井:大きい新聞は書きたいストーリーのために取材を利用されたことがある。深堀りして書き、自分の声を伝えてください。そして農業者が増えるように力を貸して下さい。



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