アクセスマップお問い合わせ
ラウンドテーブルディスカッション・レポート
「遺伝子組換え農作物に関するラウンドテーブルディスカッション〜より良いコミュニケーションを目指して〜」

2008年11月7日(金)、農林水産省近畿農政局の主催により「遺伝子組換え農作物に関するラウンドテーブルディスカッション〜より良いコミュニケーションを目指して〜」が京都で開かれました。開催趣旨は、「遺伝子組換え作物は私たちの生活に深く関与しているにもかかわらず、食の安全性や生態系への影響等に(多くの国民は)漠然とした不安感を抱いている。遺伝子組換え技術についての信頼できる正しい情報提供を通じたコミュニケーション活動の推進は必要不可欠である。本ディスカッションでは、遺伝子組換え技術等についての様々な論点に対する有効なコミュニケーション手法について討論する。」というものです。初めに、近畿農政局島田生産経営流通部長より「遺伝子組換え技術は地球規模での食料・環境・エネルギー問題の解決に貢献することが期待されている。また、世界における遺伝子組換え作物の生産・流通状況は拡大を続けており、いよいよ非遺伝子組換え作物の確保が困難になる可能性もでてきている。こういったことから、今後、さらに国民に遺伝子組換え技術の理解が進むことが望まれる。」というご挨拶がありました。

話題提供として、農林水産省農林水産技術会議事務局の瀬川技術安全室長と在京米国大使館スペンサー首席農務官からそれぞれお話がありました。その後、ラウンドテーブルディスカッションへと続きました。

会場風景1 パネリストのみなさん1
パネリストのみなさん2 会場風景2

話題提供(1)「遺伝子組換え農作物の研究開発の方向性と安全性評価の仕組み」
         農林水産省農林水産技術会議事務局技術政策課技術安全室 室長 瀬川雅裕氏

遺伝子組換え作物に関する世界の状況
栽培面積は、約1億1430万ha(2007年)。日本の国土の約3倍、耕地面積の約25倍。世界農地面積の1割弱。
商業栽培国は、南北アメリカ、アフリカ、中国、インド、ヨーロッパなど23カ国。
栽培拡大の理由は、農薬散布回数の低減により、コスト、労力、燃料消費を抑えることができる。不耕起栽培によって表土流失を防止できる。単収の増加。

農作物に関する世界規模の危機
世界の人口の増加、しかし農地面積の増加は進まない。
植物を使用したバイオ燃料の需要が増大。その分食料や飼料の供給が減少するのではという懸念。

日本農業の現状
経営規模が小さい。農地面積は販売農家1戸当たり1.8haで、米国の100分の1、フランスの29分の1。
農家の高齢化。65歳以上が6割を超える。
食料自給率の低下。先進国の中で最低水準の40%。これは、食生活の変化が大きな要因。経済が豊かになったことで、畜産物と油脂の摂取量が増加したことによる。畜産物や油脂を生産するには飼料や原料としてそれらの数倍もの穀物が必要。それらトウモロコシやダイズは輸入に頼っているが、生産国では遺伝子組換えの割合が増加している。非遺伝子組換えのものは、プレミアがあり入手が困難になっている。

安全性確保の仕組み
3つの視点で安全性評価が図られている。

① 食品としての安全性

挿入遺伝子の安全性、産生されるタンパク質の有害性、アレルギー誘発性など100項目以上

② 飼料としての安全性

飼料を通じた食品の安全性、家畜に対する飼料としての安全性

③ 生物多様性への影響評価

カルタヘナ法に基づき、実験段階から一般栽培まで環境影響評価を行って承認される仕組みになっている。競合による優位性がないか(周辺野生植物を駆逐しないか)、有害物質の産生性がないか(周辺野生生物が減少しないか)、交雑性がないか(近縁野生種と交雑したものに置き換わることがないか)など100項目以上にもわたる。

研究開発の方向性
2008年1月15日「遺伝子組換え農作物等の研究開発の進め方に関する検討会」(大学・民間企業等の学識経験者、消費者団体、生産者団体、メディア関係者等約10名によって構成)によって、「最終とりまとめ」が公表された。
研究開発の重点分野として、基礎的技術については「非遺伝子組換え作物との交雑を低減するための技術」、具体的な開発作物については、「減農薬など、低コスト、労力軽減などが期待される複合病害虫抵抗性農作物」、「バイオマス利用の促進が期待されるエネルギー効率の優れた農作物」、「国際貢献への寄与が期待される不良環境耐性農作物」、「健康増進効果が期待される機能性成分を高めた農作物」などが示された。またそれらの具体的な開発スケジュールも示された。

コミュニケーション
もう一つ大事なのは、国民に遺伝子組換え技術等を受け入れてもらうためのコミュニケーション活動である。

農林水産省遺伝子組換え技術の情報サイト
http://www.s.affrc.go.jp/docs/anzenka/index.htm

バイテクコミュニケーションハウス
http://www.biotech-house.jp/
バイオセーフティークリアリングハウス(環境省)
http://www.bch.biodic.go.jp/

話題提供(2)「米国の農業におけるバイオテクノロジーの現状と展望」
         在京米国大使館 首席農務官 ポール・スペンサー氏

米国で栽培されている主な遺伝子組換え作物とその割合、利用されている形質
大豆では、2008年に米国で栽培された大豆の92%が遺伝子組換え。トウモロコシでは、同80%。綿花では、同86%
その他大規模生産されている作物に、菜種、パパイヤ、カボチャなどがある。
利用されている遺伝子組換えの形質は、害虫抵抗性、除草剤耐性、ウィルス抵抗性である。
今後市場に出てくる形質や作物に、乾燥耐性、心臓の健康に良い油脂や果物、発展途上国に役立つキャッサバやバナナなどがある。

利用されている遺伝子組換えの形質
害虫抵抗性
除草剤耐性
ウィルス抵抗性
今後市場に出てくる形質や作物に、乾燥耐性、心臓の健康に良い油脂や果物、発展途上国に役立つキャッサバやバナナなどがある。

なぜ米国の農家は遺伝子組換え作物を栽培するのか
単収の増加(5%から25%増)
生産コストの減少(農薬や燃料の使用が少なくて済む)
環境保全上の利点(農薬の使用が少なくて済む、不耕起栽培により(あまり土を耕さなくていいので)土壌流失が防げる)

米国では多くの遺伝子組換え作物が新たに開発されている
大豆だけでも24種類が近い将来市場に出てくる予定
それらは日本政府の安全性評価を必ず受ける(今後2年以内に日本政府に申請が予定されている新しい遺伝子組換え製品の数は51にものぼる。人員を増やさなければ対応が難しいであろうと心配している。)

米国における遺伝子組換えの規制の枠組み
協調的枠組みの下、三つの連邦政府組織が規制:農務省(USDA)、食品医薬品局(FDA)、環境保護庁(EPA)。
協調的枠組みの中で示された原則:①遺伝子組換え体の持つリスクは、同じような形質の非組換え体の持つリスクと根本的に違うものではない。②規制は科学に基づき、個々のケースについて検討されるべき。

日米関係におけるバイオテクノロジー
米国は日本への最大の食糧供給国(一人当たりの遺伝子組換え作物の輸入量が世界で最も多いのが日本。そのため米国は日本政府と協議しながらものごとを進めている。)
日本は米国の農業経済において重要な地位を占める。
米国のバイテク企業と生産者は、日本での承認が得られない限り商業生産を行わないことを同意している。

米国大使館から日本のみなさんへお伝えしたいこと
バイオテクノロジーは世界の食糧安全保障にも重要な役割を担っている(2042年には世界の人口は50%増え90億人に。私たちはどうやってこれだけの人を養っていくのだろう。)
日本へ輸出している遺伝子組換え作物と同じものをアメリカ人も食べている。


パネルディスカッション
パネリスト:大阪学院大学情報学部 准教授 田中豊氏(社会心理学)
京都生活協同組合品質保証部 マネージャー 福永晋介氏
生産者(元地方行政職員)茶木源重郎氏
不二製油株式会社 専務取締役・蛋白加工食品カンパニー長 片山務氏
商経アドバイス 記者 冨山裕之氏
アメリカ大使館 首席農務官 ポール・スペンサー氏
アメリカ大使館 農務アシスタント 飯島みどり氏
農林水産省農林水産技術会議事務局 技術安全室長 瀬川雅裕氏
コーディネーター:大阪府立大学生命環境科学研究科 准教授 小泉望氏

遺伝子組換え農作物を許容する条件は何か(どうして遺伝子組換え作物は不安なの?)
福永氏:定期的に学習会を催している。最近は冷凍餃子事件などいろいろ話題があるので遺伝子組換えが話題になることはあまりない。今までに遺伝子組換えについての学習会を何度かやった。説明する内容については参加者はほぼみんな理解してくれる。しかし、会の最後に感想を聞くと「やっぱり嫌」となる。サイレント・マジョリティとどうコミュニケートするか重要な問題である。どうして不安なのか私が聞きたいぐらい。たぶん、消費者には自然なものは「○」で人の手の加わったものは「×」という二元論的な考え方が根強くあることがベースになっていると思う。科学への不信感を、科学の言葉で払拭しようとしても通じない。共通の「言語」が必要。
田中氏:人にはリスクに対する基本的な特性がある。新しい技術や健康に影響を及ぼすのではないかという技術は、危険だと認知する。また、自分が受けるリスクや押し付けられるものについては、リスクを高く評価する。専門家と一般の人々は、それぞれ異なるリスク認知を持っている。専門家は科学的・客観的な指標に基づいて判断するが、それに対して一般の人々は、出来事の目新しさや鮮明さ、事故が生じたときの被害の大きさ、未来の子孫への脅威などとより強く結びついており、より直感的な判断に頼っている。
茶木氏:生産者は風評被害を恐れている。数年前、滋賀県のある農家が遺伝子組換え大豆を栽培し始めたところ、メディアや反対派グループなどが押し寄せてきた。周辺農家が風評被害を恐れて、結局すきこむことになった。当時私は行政の担当者だったが、悲しい思いでその光景をみていた。
冨山氏:パンフレット(農林水産省発行 「Do you know? 遺伝子組換え作物入門プログラム」)にやさしく解説されているといっても、消費者にはまだ分かりにくい。特に、「遺伝子は消化される(ので身体に作用することはない)」というところ。消費者の反応は、「だから、なに?やっぱり、不安」。消費者は、「ぜったい大丈夫」とどこかで保証してもらいたい。そしてそれを繰り返し聞きたい。
福永氏:勉強会では、遺伝子組換えとは何かなど基本的な事実を淡々と伝えるだけ。そのことについてその場では納得してもらえる。その後アンケートを見ると、「誰も死んでいないが、虫は死んでいる。」というようなコメントがある。このあたりの議論はすでに専門家の間では終わっているのかもしれないが、市民はまだこのあたりのことを心配している。

わかりやすい情報提供に向けて(安心につながる情報発信の仕方とは)
小泉氏:情報を受けていても市民は不安と思っている。ネガティブな情報があふれているからだ。国が遺伝子組換え技術を認めているのを知らない人も多いのではないか。サイレント・マジョリティに対して国からの働きかけは?
瀬川氏:小規模なものから大規模なものまで意見交換会を開いている。どういった人に焦点を合わせるかの判断が難しい部分があるが、小規模であると相手の問題意識に対応した情報提供ができる。お配りしたパンフレット「Do you know?」は農水省だけでなく先進的な生協等での勉強会等でも活用していただいている。また、記者向けの勉強会も開いている。今後は、科学部の人たちだけでなく社会部、経済部、家庭・生活部の記者も対象とすることが重要。
飯島氏:アメリカ大使館もリスク・コミュニケーションに力を入れている。三つの大切なポイントがある。科学リテラシー(基礎的な科学の知識とリスクとは何かという考え方)、メディアリテラシー(メディアとはどういうものであるかという基礎的知識。メディア報道を鵜呑みにするのではなく、読み解く力を養うこと)そして費用対効果の考え方。多くの人にこういったメッセージを伝えるにはメディアの力を借りるのが効率的な方法と考えている。メディアの役割は大きい。アメリカ大使館も定期的にメディア勉強会を開いている。どちらかというと編集委員が主だ。記事を載せる載せないの判断をするのは彼らだからだ。
小泉氏:情報提供の一つとして表示がある。企業としてどう思うか?
片山氏:消費者は遺伝子組換えの表示を見たら買わない。表示をすれば売れないので使う勇気がない。遺伝子組換え作物を使って表示をして市場に出してみることが第一歩である。しかし、どのメーカーも先頭を切る勇気がない。
福永氏:「遺伝子組換えでない」といった表示だけが一人歩きをすればかえって不安を拡大再生産することにつながりかねない。安全であるということが確認されていることについては、その範囲で政府がはっきり「安全です」と意思表示すべき。ウナギのマラカイトグリーンが問題になったとき、アメリカのFDAは「基準値の何倍ですが、食べても大丈夫」と発表した。日本の行政の発表は「基準値の何倍」とだけ。これではまるで危険だという印象だけを与えてしまう。
小泉氏:メディアの「危険」報道についてどう思うか。
冨山氏:ショッキングなことは記事にしやすい。安全というだけでは記事にならない。記事にするためにはイベントを打つとよい。その中で遺伝子組換え食品の安全性を訴えていく。そうすれば記事にできる。イベントを提供すればマスコミも喜んで飛びついてくる。書くきっかけが必要なのだ。
瀬川氏:バイテク出前講座のDNA抽出実験など、記事にしてもらっている。

より良いコミュニケーションを目指して(遺伝子組換えに関するコミュニケーションに欠かせない視点とは)
スペンサー氏:アメリカで遺伝子組換えが受け入れられているのには理由がある。メリットとして、環境によいこと。農薬の使用量を少なくでき、土壌浸食も少ない。日本とは食の安全性の歴史の違いがあり、それにともない政府への信頼性への違いがある。世界には反対意見もあるが、それは政治的な理由によるものが大きい。コミュニケーションで大切なことは、オープンであること、正直であること、事実を伝えること、そしてそれに一貫性があること。これはどこの国でも変わらない。
田中氏:信頼が醸成されるには長い年月がかかる。しかし、壊れるのは一瞬。信頼を得るには誠実な態度と情報公開が必要。なぜ分からないのかと見下すような態度では信頼は得られない。人々は不安を抱くもの。一般の人の不安を一緒に理解してあげること。一緒に考えていくプロセスを作ってあげるといい。科学技術についての情報をきちんと伝えることと同時に、「リスクのないものはありえない」いわゆるリスクリテラシーの考え方を理解していただくことが必要。こういったことは、学校教育の形で教える機会を作っていかないといけないのでは。
小泉氏:透明性もまた大切。すでにこれだけ消費しているのだという事実を積極的に伝え、認識することから始めるといい。
片山氏:消費しているというが、油を絞ったあとの大豆カスは家畜の飼料に使われている。情報が伝わっていないとは思っていない。関心のある人、ない人、いろいろな人がいる。もう少し対象を絞って地道に説明していくことが大事。
小泉氏:農林水産省は、全国紙に遺伝子組換えについて一面広告を出す予定は。
瀬川氏:それは考えていないが、遺伝子組換え作物がどういうふうに使われているかきちんと説明していきたい。また、畜産業の方に実情を説明していただくようにもしたい。
会場を含めたディスカッション
  • 学生の理科離れが心配。最近の調査によると、生物や家庭科の先生が遺伝子組換えについてネガティブな考えを持っている。学校の先生向けに研修を行うといいのでは。
  • 私たちは、「女子学生と共に考える遺伝子組換え」という取り組みをしている。
  • 日本語の「遺伝子」には二つの意味がある。英語では、「gene」と「heredity」とそれぞれ別の単語。多くの人は、この二つの意味合いを混同しているのではないか。
  • 質問:生産者のメリットはよく分かった。しかし、日本の消費者のメリットにつながっていないのではないか。
    答え(スペンサー氏):地球規模でのメリットを考えている。農薬の使用が少なく、土をさほど耕さなくて済めば、環境によい。また、収量があがることによって世界の食糧安全保障にも貢献できる。今後、栄養価を高めた大豆など健康機能性を持った遺伝子組換え食品が市場に出てくれば、消費者はもっとメリットを実感できるだろう。
  • 質問:アメリカは国策としてバイオテクノロジーを推し進めている。遺伝子組換えに関する知財をオープンにすべきでは。
    答え(スペンサー氏):知財は、遺伝子組換え作物に限ったことではない。それは、既存の作物についてもある。既存の作物を栽培するか、遺伝子組換え作物を栽培するかは、農家が選択するものである。
  • 質問:アメリカは遺伝子組換えを主食として食べているのか。→(小泉氏):コーンフレークやスウィートコーンは遺伝子組換えのものを食べている。パパイヤも半分以上が遺伝子組換え。
    →(スペンサー氏):アメリカでは遺伝子組換え小麦は、すでに安全性審査は終わっているが、最大の輸入国である日本がほしがらないため栽培していない。昨年世界的に小麦価格が高騰した。将来的に食糧不足になれば、遺伝子組換え小麦が必要となるかもしれない。オーストラリアは旱魃耐性の小麦を開発している。旱魃に対応するため、オーストラリアが先になるかもしれない。
  • 名の通ったオピニオン・リーダー的な人が、その著作のなかで、遺伝子組換えについて誤った見解を述べていたりする。それに影響される人は多い。
  • 消費者団体の説明会にいくと、すでにかなり詳しい人がいる。より高度な質問にも対応できるようにすることが大切。
    答え(瀬川氏):いろいろなレベルの人に対応できるよう、資料を3点セットにして用意している。「Do you know?」「ステップアップ」「バイテク小事典」。これらを副次的な資料として活用していただきたい。
  • 情報の出し方として、商品と共に情報がでるというふうにするとよい。