アクセスマップお問い合わせ
食品照射の社会的認知を求めて

2009年12月4日(金) 日本食品照射研究協議会(http://jrafi.ac.affrc.go.jp/index.html)大会において、渡辺宏氏(ラジエ工業)のコーディネートにより、技術セミナー教育講演会「食品照射の社会的認知を求めて」が開催され、パネルディスカッションが行われました。

「知らせたいことをつたえるのではなく、知りたいことに丁寧に答える」
          小林泰彦(独立行政法人日本原子力研究開発機構)

食品照射は、医療器具の放射線殺菌と同様に、放射線の透過力の強さと生物が放射線に弱いことを利用した処理方法。温度を上げずにDNAに作用して細胞分裂を止め、殺菌や殺虫、芽止めができる。
費用が高く、処理量は少ないが、理想的な殺菌、殺虫、芽止め処理法。照射食品の安全性は十分に検証されており、健康への悪影響を示す証拠は一つもなかった。故意に使用方法を逸脱しない限り害がないことは加熱殺菌など他の処理方法と同じ。
世界では、米国、中国での処理量が圧倒的に多く、近年はアジアでの増加が著しい。
メリット:非加熱、化学物質を使わないので、使用後の処理や環境汚染の心配がない。
デメリット:高コスト、食品によっては風味が変化するなど向き不向きがある、消費者に誤解・敬遠されている。
健康危害は1件もないのに、危ないかもしれないと誤解されているのは、法律で禁止されているためではないか。科学的根拠でなく、放射線嫌いな人と、扇動されている人が強い不安を持っていることが影響しているようだ。
知りたいと思う一般市民の疑問に丁寧に答えることから理解が広がると考えていたところ、食の円卓会議メンバーと知り合い、照射実験などを一緒に行い、互いに学習している。


「食品照射実験から得たもの」
          市川まりこ (食のリスクコミュニケーション円卓会議)

都内の大学の公開講座受講生が中心となって、4年前にこの会を発足。私が原子力委員会食品照射専門部会消費者側委員だったことから、食品照射を円卓会議で扱うことにした。
一般市民は食品照射について知らないし、理解は難しい。安全といわれても安心できない気持ちをだれもが持っている。市民だからこういう気持ちと向き合えると考え、(独)日本原子力研究開発機構高崎研究所にいろいろな野菜などを持ちこみ、食品照射の体験実験を行った。芽止めや日持ち効果があること、低温のまま処理できること、食品によっては不向きなものがあること、線量は多すぎても少なすぎてもだめだということなどを、照射実験の体験をすることで知り、専門家の説明に納得でき、不安が減った。
食品照射のリスクコミュニケーションの前途は、一方通行の情報提供、専門用語の壁があり、多難だと思うが、不安を持つ人の気持ちに寄り添うようなリスクコミュニケーションをしていきたい。


「科学・技術と社会の健全な関係〜“くらしとバイオ”の切り口から」
          佐々義子(NPO法人くらしとバイオプラザ21)

くらしとバイオプラザ21は、遺伝子組換え食品や遺伝子診断など、くらしと密接に関係するバイオテクノロジーに関する情報提供や対話の場づくりを行ってきた。その経験からいえることは、遺伝子組換え食品への理解を促すには、生物学の知識だけでなく、安全性、流通、表示、生命倫理、経済など幅広い知識も必要であり、説明には時間がかかる。また、情報量が多いほど、理解され受容されるとは限らず、情報提供だけでなく双方向の交流が必要だと感じている。
食品照射と遺伝子組換え作物・食品との市民の関係には似ているところが多い。食品照射は基本的に法律で禁止されているから市民が危ないのだと感じやすいところ、遺伝子組換え食品は不使用表示を見ることで市民が避けたいと思うところに、共通性があると感じる。
私たちはバイオカフェ(くらしとバイオを切り口としたサイエンスカフェ)という少人数を対象とした、双方向性の高いコミュニケーションを120回以上行ってきた。小林泰彦先生にもお話いただいている。このような少人数で双方向性の高いコミュニケーションだと理解が進み、情報提供した人にとっても学びが大きいことがわかっている。しかし、丁寧なコミュニケーションに加えて、産業界、行政、研究者がリーダーシップをとって、情報提供することも重要ではないか。


「芽止めじゃがいも販売の現状と課題」  
         亀山裕介(士幌町農業協同組合)

士幌馬鈴薯施設運営協議会では、JA士幌町、JA上士幌町、JA鹿追町、JA音更町、JA木野の5農協で、でんぷん工場・馬鈴薯貯蔵庫・ガンマ線照射施設などを含む馬鈴薯コンビナートを昭和35年より共同利用している。
集荷される14.5万トンの馬鈴薯のうち、生食用が3.5万トンで、残りはポテトチップス、コロッケサラダ、フレンチフライ、ダイスポテト他に使用されていて、芽止めしているのは生食用のうちの約5千トン。
芽止め馬鈴薯の出荷量は、ピーク時2万トンだったが、反対運動や表示義務の強化などにより平成18年産では3千トンまでに減少した。今はまた徐々に回復してきている。
北海道ジャガイモのうち、3―4月の端境期になるとJA士幌町のジャガイモの割合が増え、春からは九州のジャガイモが出てくる。
食品衛生法、JAS法で表示することが義務付けられているので、取引先と必要量、表示義務に係る法令遵守について確約書を締結し、小分け袋と小分け袋に貼るシールとリーフレットを箱に入れて出荷する。端境期には店頭に出向いて表示されていることを確認し、表示の徹底を図っている。


「食品照射への企業の取り組み」 
          伊藤澄夫(三栄源エフエフアイ)

国が新規に使用を認める場合の条件は、安全性の確認、有効性の確認、使用のメリットの3つがある。遺伝子組換え食品の理解が進まないのは使用メリットが説明不十分だったのではないかと思っている。
消費者は安全性への疑問があったり、有効性・メリットが不明なので食品照射を受け入れなかったりする。企業はイメージダウンや不買運動の恐れから、食品照射が広めるような働きをせず、膠着状態になっている。行政は企業から必要性があがってこないので、動こうとする兆しはない。
検疫所がモニタリング検査をすると、危険だと思われてしまいやすいようだ。 21年度、検疫所では、600件ほどの香辛料などを検査し、実際に、4月に米国や中国から輸入される食品類検査命令が出されると、危ないのかなと思ってしまうのではないか。
照射したかどうかを調べるには、TL法が公定法になっている。検査するのは、付着している鉱物。前処理が難しく、標準線量照射のためには、施設への往復送料がかかる。また分析には、他の分析法との相関確認も必要。
企業が照射食品を実際に使えるようになるには新しい検知法が必要になるのではないか。
海外では、食品照射が増えてきており、日本企業は知らないうちに、使った食品が輸入されることになるかもしれない。
企業は行政・消費者にメリットとデメリットをしっかり説明していくべきだ。照射食品が許可された上で、市民が選択できるのがいいと思う。
食品添加物、遺伝子組換え、食品照射、農薬について企業は消極的だが、これらも有効に利用して、楽しい食卓をめざしていきたい。

話し合い 
コーディネーター渡辺宏氏の進行により、会場からの質問を中心に話し合いが行われました。食品照射が法律で禁止されていれば、普通は危険だから禁止されていると思ってしまうだろうということから、市民への影響力が大きいマスメディアとどう付き合うのがいいのか、両論併記を見ると不安だと思いやすいのではないのかなどの意見が出ました。
士幌農協に対しては、ガンマ照射を知らない人が多いけれど、端境期にみずみずしく芽が出ないのでもっと購入したいという連絡などの電話が20件ほどもあるとのことでした。本州は気温が高いので、冬場のジャガイモは確かにすぐに芽が出て、しおれ始めます。説明だけでは不安が解消しなくても、使ってみると芽止めジャガイモがよい品質だとわかるのでしょう。
会場には、企業、研究者、行政、消費者と様々な人たちが集まっていましたが、情報提供が必要なこととが確認され、市民からはもっと学習していきたいとの声があがりました。
そして、長年、この食品照射の研究を続けてこられた小林氏の「丁寧なコミュニケーションの継続しかない」という意見が印象に残りました。