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公開シンポジウム開催報告
「特定保健用食品(トクホ)と健康食品を通して食と健康のあり方を考える
〜行政・業界・消費者がともに課題を解決するために〜」

 本シンポジウムは、2010年1月25日(月)(東京港区南青山会館大会議室)にNACS((社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会)、食科協(NPO法人食品保健科学情報交流協議会)と日本リスク研究学会「食の安全とリスク部会」の共催で開催されました。
 最初に、食科協の林裕造氏(日本健康・栄養食品協会理事長)の挨拶があった。講演は、蒲生恵美氏(NACS 食生活特別委員会 副委員長)、松永和紀氏(科学ライター)と梅垣敬三氏(国立健康・栄養研究所情報センター長)による3題で、パネルディスカッション「食のリスクの科学的評価、コミュニケーション、消費者教育、情報のあり方」は、関澤純氏(日本リスク研究学会)の司会で講演者3人とで進められました。


蒲生恵美氏の講演「健康食品の表示の問題点と改善に向けた提案」

 食品機能には、1次機能としての栄養、2次機能としての味覚や香り、3次機能としての体調調節がある。3次機能を強化した食品として健康食品があるが、国が制度化しているのが「保健機能食品」で、栄養機能食品と特定保健用食品(トクホ)がある。
機能性食品の概念は、昭和59年から61年に実施された文部省特定研究「食品機能の系統的解析と展開」の成果として食品の3次機能(体調調節機能)が提唱される中で生まれた。
 「健康の保持・増進は栄養バランスの良い食事と適度の運動と適度の休養」によるが、これを継続して実施することに努力が要る一方、健康であり続けたいという消費者ニーズと3次機能に関する研究成果を売りたいとする企業側の狙いとが互いに増幅装置の関係となって健康食品市場を拡大、促進するなかで企業の過剰広告や消費者の過度な期待、一部の健康食品による健康被害等の問題が発生している。エコナ問題をきっかけにトクホ制度廃止論が出ているが機能性食品という概念に基づく商品は出てくる環境にあり問題解決にはならない。

1.トクホの表示に関して
 表示に関しては、薬事法により、食品に医薬品的な効能効果を表示することはできないが、表示を許可された根拠となる研究結果をもとに、「どの程度(期間)利用すれば、どういう人に、どのような効果(保健機能)が期待できるのか」という3点のポイントを正しく伝えることができれば、消費者の過度な期待を抑えることができ、薬とは違う(健康)食品の位置づけについて消費者が学ぶよいきっかけとなる。
 トクホ表示が許可されたあるガムの商品側面に小さな文字で「1回に2粒を20分噛み、1日に4回を目安にお召し上がりください」と表示されている。このガムについて大学生を対象に行ったアンケート調査によると、ほとんどの学生がこの表示に気づいておらず、通常1回に1粒を食べる学生は1粒で効果があると考えていることがわかった。
商品前面のトクホマークや「歯を丈夫で健康に」や「血圧(コレステロール)が高めな方へ」などの表示が大きく印象的であるのに対して、裏面や側面の栄養成分表示やトクホ許可表示等は文字が小さくほとんど目がいかない。現状のトクホ表示では商品の機能性の程度が消費者に正しく伝わらないのが問題だ。表示方法の改善が必要である。
 又、企業のコマーシャルやメーカー・販売業サイトにおいて、有効性・安全性ともに科学的根拠のある範囲で、かつその程度が誤解されないような表示・広告がなされるよう監視規制の強化を求めたい。

2.トクホの再評価のルール化
 科学の進展による新しい成分の発見や、分析(検知)技術の向上による既知成分・未知成分の発見、定量化は促進されていく。こうした中、新しいリスクは起こるものとして、その際のトクホ再評価手続きをルール化しておく必要がある。
 市場に出回っている商品の対応については、健康被害の可能性を判断基準とした「回収」「(回収せず)販売中止」「販売継続しつつ製造方法等変更指示」「情報提供のみ」等のルール化が肝要である。問題が生じた場合は、製造業者は科学的根拠に即した分かりやすい情報提供をタイムリーに行うこと、これを受けて、行政、メディアが正確・公平に迅速に公表することが望まれる。


松永和紀氏の講演「トクホ、健康食品をめぐる報道の課題を考える」

 エコナ報道から見えてきたものとして、発がん性とトクホの問題は分けて考えるのがよく、発がん性をトクホの観点で考えるのは、ずれていると思う。

1.発がん性・報道
 エコナのリスクとして、一般的な毒性評価試験では、発がん性は検出されていない。体内でグリシドール脂肪酸エステルがグリシドールに変わる可能性があるが、このエステルに関するMOE値*(曝露マージン;遺伝毒性発がん物質の場合に使う)は、体重50kgのヒトが一日に摂取する場合、ワーストケースで約250であるが、ポテトチップスなどに含まれるアクリルアミドは、平均で300、高用量摂取集団では75であり、ほとんど差がなかった。リスクの大きさは不明ではなく推測できていたことから、新聞報道にあった「リスクが分からないから、予防原則を」というタイトルは、科学的にはあまりにもナイーブしすぎたのではないか。
企業広報の問題点として「リスクの程度をメディア関係者に全体像を提供する説明」や「安全性が確保されている」との根拠に詳しい説明がなかった点があげられる。
食品安全委員会の問題点として、発表内容が難解であったこと、リスクの大きさについての説明がなかったこと、他食品との比較の視点が提示されなかったことがあげられる。
MOE値*(曝露マージン)――遺伝毒性発がん物質の場合

 MOE=ベンチマーク用量下限信頼限界(BMDL)/推定ヒト摂取量
 BMDL;試験動物にさまざまな量を投与して、投与していない動物のグループよりも腫瘍の発生が5%や10%だけ増加する投与量(ベンチマーク用量)を推定した場合の安全の信頼限界値。
 エコナで問題となったグリシドールでは、T25値(直線外挿に基づく25%腫瘍誘発用量)を基に算出。

EU科学委員会はMOE値が10,000よりも大きい場合は、リスク管理の優先順位は低いとしている。
  
2.トクホ問題・報道
 有効性と安全性評価が別物であることを認識すること、「国が健康効果を認めているのだから、安全性も高いはず」という報道や市民の素朴な感情を改めることが大事である。
 トクホの安全性評価は、(1)食習慣、(2)試験管内での試験及び動物を用いた試験、(3)ヒト試験、(4)その他から行われる。例えば、ヒトの試験では、一般に、食品は摂取対象者が制限されるものではないことから、患者、乳幼児、高齢者、妊婦等を含むすべてのヒトが摂食することを考慮して行なわれる。必要に応じて、例えば、糖尿病、高血圧等の患者が摂取した場合の影響、治療薬剤等の併用時の安全性などについては、十分な考察が行なわれる。
 トクホの有効性の評価は、「トクホの対象者は主に境界域の人」や「多くの場合、トクホが意図する摂取対象者は、疾病予備軍のヒト」で行われている。
 消費者は、一般的な食品では、安全性評価や有効性の評価が行われていないことを理解していない。この「ずれ」が生じている原因は、広告、宣伝と薬事法の縛りからくる表示、広告宣伝の難しさ、行政の説明不足からくる。
 メディアの多くは、これまでトクホを「国がお墨付きを与えた健康食品」として報じてきており、有効性、安全性に関する情報を適切に伝えてきたとは言い難い。
健康食品利用者の“理想像”は「バランスの良い食生活をしつつ、健康食品に補完効果を期待すること。表示をよく読み、自分が対象者かどうかを確認して、表示されている方法で表示された量を適切に摂取」であり、これをできる力のある人は、健康度が高く、健康食品を最も必要としないタイプであり、逆のタイプの人たちが、手っ取り早く健康を得たいと健康食品を利用する。言いすぎであろうか。

梅垣敬三氏の講演「健康食品とその適切な利用のあり方」

 健康食品に関する問題として、食品と医薬品は明確に区別しておくことが大切、その理由として、食品で病気の治療・治癒ができるという明確な科学的な根拠はなく、科学的な根拠があったとしても、消費者が安全で効果的に利用できる環境が整備されていないからである。
 健康食品を医薬品と誤認して利用した場合、現在行われている治療を放棄して、健康食品を摂取しつづけたりする問題、又、健康食品により治療することで病状が悪化したり、医薬品との併用で相互作用による医薬品の薬効が減弱したり、副作用が増強したりするなど健康被害が起こることを知っておくべきである。
 一般の人は、食品の安全性・有効性に対する誤解として、天然・自然ならば安全、化学合成品は危険、摂取したものがすべて吸収されるというイメージで捉えていることがある。これは調べてみないとわからないことと認識するべきである。又、健康食品中の特定成分の摂取量が考慮されていないことを知らないから、微量であれば作用は期待できないし、多量に含まれていれば安全性が危惧されるとう量的な概念がないという問題がある。
 その他の問題点として、3次機能のみを強調した錠剤やカプセルの形態があるがは、これらを食品といえるか疑問である。又、日本でも幼児の15%がサプリメントを利用しているデータがあるが本来は通常の食材から摂取することが基本なのに問題である。
 トクホの利用の考え方として、乱れた食生活の不安を癒す目的での利用や医薬品的な効果を期待した利用は問題であるが、現在の食生活を改善する“切っ掛け”として利用し、製品に表示されている方法で摂取すれば効果が期待できる。
科学的根拠に基づく情報として「健康食品の安全性・有効性情報」 http://hfnet.nih.go.jp/に詳しく記載されているので、アクセスし活用してほしい。又、栄養情報担当者(NR)のアドバイスを受けることもよい。

パネルディスカッション

パネルディスカッションに主な意見は次の通りです。

*健康食品は、安全性、有効性にあいまいさがあることに関して
医薬品との区分が曖昧になっていることに原因があるのではないか。食品だから安全と考えるのは当然であるが、いくら食べても安全、多く食べても大丈夫ということはない。他方では、健康食品を楽しく食べるというような拡大解釈につながっていないか。これらのあいまいさの対応はした方がよい。

*トクホ等に関する教育・情報の在り方
参加した人はそれなりに分かった人であり問題はないが、会場に来ていただけない普通の人への働きかけること、それには、約4000人いるNRによる働きかけや関わりのある組織、団体が協力しあってネットワークを作り、進めることが大切である。

最後に、関澤純氏から図書の紹介(健康食品中毒百科:内藤裕史著 丸善株式会社発行)と厚生労働省の支援を受けてクイズ方式の教材の開発を実施中で、2010年4月にインターネット配信する予定との説明がありました。事務局は、今後も開催したいとのことでした。