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茅場町バイオカフェレポート「体験型双方向コミュニケーション〜遺伝子組換えトウモロコシ、食べてみる?」

2010年2月5日(金)、バイオカフェを開きました。お話は、農業生物資源研究所遺伝子組換え研究推進室笹川由紀さんによる「体験型双方向コミュニケーション〜遺伝子組換えトウモロコシ、食べてみる?」でした。初めに横山由布子さんによるフルート演奏があり、ドビュッシーから日本童謡まで幅広いジャンルから4曲が演奏されました。

横山由布子さんの演奏 笹川由紀さんのお話

お話の主な内容

はじめに
遺伝子組換え農作物や食品について、市民のみなさんに正しく知っていただき、改めて考えるきっかけを作るために行っている活動について紹介します。
あるアンケート調査では、遺伝子組換え作物・食品に対して、一般市民は不安を抱いている人が6年前から減少しているものの、まだ6割強くらいおられる。先月、日経流通新聞に遺伝子組換え食品を買うと回答した人が約50%、買わない人約35%というアンケートがされ、不安かと聞かれれば不安と答えるが、実際には受容している人は増えているように感じた。別の調査によると不安の理由には、「なんとなく不安」「今の情報では不安は消えない」「情報源が信用できない」などの理由がある。情報が増えると受容はある程度高まるが、あるところから受容が下がるので、情報源への信頼を高めたり、参加体験型のイベントを行うことで、多くの方に受容していただきたいと思って活動している。

遺伝子組換え作物の栽培
農業生物資源研究所で、私たちは害虫抵抗性トウモロコシ、除草剤耐性ダイズの栽培ほ場の見学会を行っている。
トウモロコシにはアワノメイガの幼虫がトウモロコシの茎の中を食い荒らしてしまう。さらに、虫食いの後にはカビが生えるとカビ毒が作られてしまうため、売り物にならなくなる。茎に害虫が入ると殺虫剤をかけても効かない。そこで、遺伝子組換え技術により散布している農薬の成分を植物体内で作れるトウモロコシの品種が作られた。害虫抵抗性トウモロコシを幼虫も少し食べるが、そこで死んだり、他の非組換え作物に移り、茎まで入り込まなくなる。
除草剤耐性ダイズの畑にラウンドアップという除草剤をまくと、2週間後に雑草だけ枯れて、ラウンドアップに耐性を持つ遺伝子組換えダイズが生き残る。けれどこのダイズもラウンドアップ以外の除草剤をまくと枯れる。ちなみに、枝豆が完熟するとダイズになることを知らない人も多い。

市民参加型展示ほ場
参加体験型のイベントで、参加者を募集して市民と研究者が一緒にダイズ畑の除草を行い、研究者から説明を聞いたり、農業技術について一緒に考える企画。
2009年度は7月11日に実施し、25名(8名の高校生を含む)が参加した。
除草作業や研究者からの情報提供の他、畑に生えていた雑草を観察したり、光るたんぱく質を作る遺伝子を組み入れた大腸菌や蚕の糸を見たりしてもらうこともした。このようなイベントを通して、参加者の意識がどう変化するのかを調査した。
遺伝子組換え農作物や食品に対して安全と思うか、安心を感じるか、という問いについては、安全・安心という意見が5-6割から8割にくらいに増えた。農家が遺伝子組換え作物を利用することに対しても、受容が半分から8割に増えた。
遺伝子組換え食品を買うことについては、表示を見て、遺伝子組換えかどうかに関係なく買うという人が6割くらいに増えた。安全だと知っていて安心していても、やっぱり不使用表示を買うという人も2名ほどいたが、これはその人が考えた上での選択であろう。
遺伝子組換えトウモロコシの試食では、食べることに対する自由意思を尊重するために、いろいろ考えてあっさりと配ることにした。25名中22名が食べた。
食べなかった人の理由は、おなかがいっぱいだった、トウモロコシが好きでない、安全性の証明がわからなかったというのがそれぞれ1名ずつだった。
1日のイベントの中で、ほ場の見学、除草体験、DNA抽出実験などの参加体験の要素が興味深いもののトップだったが、組換え作物や食品に対するイメージ変化を起こさせていたのは、環境影響の評価の仕組み、食品の安全性評価の仕組みなど、情報提供だった。
また、研究者との共同作業は情報源への信頼性を向上させ、実物を見ることは感覚的理解を高めると考えた。
見て触って食べてという経験の効果が大きく、「農家の方から除草の苦労について聞きたい」「正確な知識を得ることができた」「大人や研究者の意見が聞けて良かった」などの意見があった。「安全だとわかっていても、見学の時に農薬をかぶるのは嫌だ」という意見もあり、農家はそういう散布作業をしていることをもっと伝えるべきだったのではないかと、反省している。

まとめ
体験型双方向コミュニケーションのメリットは、体験と情報提供を組み合わせることで興味、関心、理解が高まる。これは学校教育における実験の意義と似ているのではないかと感じる。「百聞は一見にしかず」
研究者と近い距離で作業したり話したりすることは精神的な距離も近づけることができると思った。
他の科学・技術の理解においても、同じことがいえるのではないかと考えている。
〜遺伝子組換え原料不分別表示のあるクラッカーのカナッペを希望者は試食しました。全員が食べました〜


会場風景 会場を彩るアマリリス

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 日本のトウモロコシのうちどのくらいが組換えか→スイートコーンはほぼ100%国産なので非組換え。国内ではコーンスターチ、油、家畜飼料で輸入された組換え作物が使われている。
    • この試験をした農場の所在地は→茨城県つくば市。
    • 信頼ある情報提供によって遺伝子組換え食品を安心して食べる人が増えたということだが、技術的な情報は含まれていたのか→遺伝子、DNAの説明を行った。遺伝子組み換え体をつくる方法、食品の安全性評価のしくみとそれを実施していることも説明した。
    • インドネシアの海藻を食用で利用するための研究をしていた。ものを食べるときには、食経験があるという事実が人を動かすと思う。つまり、誰かが食べた、皆で食べたという経験のもたらす影響が大きいのではないか→遺伝子組換え作物は世界中の多くの人が食べていて、日本では輸入して油、コーンスタ―チを食べている。飼料を食べている家畜も元気なので、日本人も十分経験していると思う。→日本に表示義務がないので食べていること、飼料を通じて食べていることを知らないのだと思う。
    • 知らされると使いたくないと思い、知らないでいたかったという気持ちもあるのではないか。
    • 自然のものは安全だと思いこみすぎている。組換えた作物はよく調べているので、むしろ安全だという考え方もある。
    • 安全でないから調べるのだろうと勘ぐる人もいる。
    • 食物がもともと持っている毒について知らない人が多い→加熱しないインゲンマメのダイエットでおなかを壊した人がいて、食のリスク回避のために調理していることなどを知らない人もいることがわかった。
    • 野菜に体にとっていい働きがあると説明されたら、ならば、毒性もあるのだろうと想像がつくだろうと私は思う。
    • 野菜は水耕栽培など、きれいに栽培されているものは栄養価が低いという記事を読んだことがある→有機栽培と慣行農業で栽培した作物の栄養価に差がなかったという欧州のレポートがある。
    • 遺伝子組換えダイズの納豆を5年間、通信販売で買って食べている。なぜ、遺伝子組換えでないという表示が多い中で組換え納豆を食べるのか。なんで気合いをいれてメリットがないものを食べているのか、と言われる。中国産は危ないという人がいるが、私はニンニクも国産は高いので、中国産を買う。
    • 除草体験の参加者はどんな人ですか。関心の高い人、理屈で説明すると意識が変化する人たちばかりだったのではないか→茨城県の学校の先生、高校生、地元の新聞広告を見て参加した一般市民。茨城県内中心に案内を出したので、県外の人は知る機会が少なかったと思う。土曜日来る人はかなり興味がある人だろうと思う。帰って家庭や学校で話してもらい、広まることを期待している。
    • 情報発信側として、情報を出していても、興味のない人はなかなかアクセスしてくれず、情報発信の難しさがある→確かに難しいが、情報を聞いても不使用を購入したいという人がいてくれた方が、イベントの場の雰囲気やアンケートの回答が押しつけになっていないのだと私は正直安心した。情報提供で全員が肯定的になるのも不自然な状況だと思う。
    • 遺伝子組換え作物を作りたい農家はいるのか→作りたいと言っている人たちはいる。農業系雑誌のアンケートでは、5年前くらいで、4割の農家が栽培してみたいと回答している。しかし、農家は売れないものは作らないから、市民の受容が影響する。
    • 遺伝子組換え作物の環境への影響はどうか→作物を作ると遺伝子組換えでもそうでなくても、環境に影響を与える。同じ程度の影響ならばその作物は安全とする。
    • 雄花を切ったトウモロコシは人工授粉したのか→組換えの雄花を切ったのは、組換えの花粉が飛ばなくするため。試食用トウモロコシは、組換えと非組み換えを並べて植えて、雄花を切ってしまった遺伝子組換えトウモロコシの花粉源はお隣の非組換えのトウモロコシとなる。
    • イベントでは環境影響についても情報提供したのか→しました。
    • 質疑応答は活発だったか→そんなに激しい質問はなかったが、後のレポートで質問してきた参加者もある。
    • いっそ表示がなくなったらいいと思う→個人的には組換えを普通に食べてもいいと思っているので、表示がなくてもいいと思うが、知りたい人のために、表示はあった方がいいのかもしれない。
    • 遺伝子組換え食品を広めたければ、表示なくした方がいい。私の家族は、米国に住んでいるときには、表示がないので、気にせずに買っていた。日本では表示を見て気にしている。比較できるのがよくないのではないか。
    • 食品に表示するなら徹底的にいっぱい表示された方がいいのではないか。遺伝子組換えだけが特別扱いでないのがいいと思う。
    • 非組換えという表示のネガティブな宣伝効果が大きいと思う。
    • 買うときの判断のために書いてほしいという人が多いが、意図せざる混入(5%以下の混入は非組換えと表示できる)もあるので、今の表示はよくない。ネガティブなイメージを与える表示はなくなってもいいのではないかと思う。
    • 遺伝子組換えが安いとよく売れるのではないか。→不分別油が安くてよく売れているデータはある。食糧の値上がりで、安い非組換えがさらによく売れているようだ。
    • オランダで同じ価格で、組換えと非組換えを売ったときに変わらなかったというデータがある。
    • 情報を与えられると気にする。米国だと表示しないのでなんでも自分の判断で買う。日本は情報過多なのではないか→知らないために間違った判断は避けたいと思う。日本では正しい情報で判断してほしい。
    • 推進室の仕事は→研究推進の下支えと広報、社会的受容を進める。研究者が組換え作物を野外で研究栽培したり、花粉症緩和米を薬として開発することへのサポートもしている。(同室長田部井氏)
    • 日本の研究者には新しいことをしてほしい。遺伝子組換えではモンサントの独り勝ちに見える→世界にはいくつも会社があり、ダイズではモンサントが強いが、いろいろな品種がある。