アクセスマップお問い合わせ
バイオカフェ「健康予測やご先祖のことが分かるDNA検査」

 2010年5月21日(金)、茅場町サン茶房においてバイオカフェを開きました。お話は木場公園クリニック 認定遺伝カウンセラー田村智英子さんによる「健康予測からご先祖のことが分かるDNA検査」でした。
初めに南條由紀さんによるバイオリン演奏があり、暑い日に涼風を思わせるような選曲で「魅惑のワルツ」、「望郷のバラード」などが演奏されました。

南條由紀さんの演奏 田村智英子さんのお話

お話の主な内容

DNAを調べると、何がどのくらいわかるのか
 DNAを調べることで病気がある程度わかるようになってきたが、寿命はわからない。音感、筋肉の疲れやすさ、浮気の傾向、数学の苦手なども少し示されるようになり、太りやすさ、生活習慣病などがわかるというキットも販売されている。今日はそこまでわかると面白いねという気持ちで聞いてください。
 AGA遺伝子は頭髪の抜けやすさに関係があり、検査代金は12,600円。すでに毛の薄い人に効く薬のタイプを調べるために使う。毛が抜けるかどうかは、遺伝子と環境の両方が関係している。ダイエットに関係する遺伝子検査は5,250円。3つのタイプの太り方にあったダイエット方法を示唆する。実際は3タイプに分かれず、複合型やタイプの間にある中間型が多い。心筋梗塞、がんなどをまとめて調べる遺伝子検査サービスが100以上ある。「23&me」という会社が有名で、口腔粘膜の細胞で調べる。「自分の先祖がどこから来たか」(約4万円)、「病気になりやすさ」(5万円)などがある。
 日本の研究者の中には、興味で検査を受けている人が多い。「ナビジェニックス」社では、アルツハイマーなどを約10万円。「デコードミー(デ・コード社)」では、がんセットを5万円で販売。「心臓関係」(5万円)、全部まとめてだと20万円。これらの検査は世界中どこからでもインターネットで申し込める。

遺伝病にはどんなものがあるか
 血友病など200-300種類あるが、意外と知られていない。単一遺伝子疾患は1990年代、ほぼ出尽くした。遺伝性のがんは少なく、5%。最近の日本人の3人に1人はがんにかかるが、がん家系かどうかはすぐには言えない。

遺伝の影響
 遺伝性疾患とは、遺伝子変異で必ず起こるもの。環境要因の代表例は交通事故など。実際には遺伝と環境の複合が多く、ほとんどの疾患はこのグループに入る。
2008年、日本の研究チームは大人になって発症する糖尿病2型に関係している遺伝子KCNQ1を発見した。毎年、糖尿病2型の発症率は1%。この遺伝子を持っていると、発症率が1.4倍になる。こういう値で糖尿病のなりやすさがわかるのだろうか。
 日本ではアルツハイマーにかかりやすいかどうかの遺伝子の研究をしている。その遺伝子を持っていると発症率が2倍になる。アルツハイマーの発症率は1%。7万円で検査してこの遺伝子の有無を調べることは意味をなすのか。

海外の会社のサービス
 欧米の3社では、心筋梗塞に関係する13の遺伝子の13か所を調べる。13か所すべてが心筋梗塞になりやすいと診断される人はそんなにいない。13か所の値を合算し20%などと教えてくれる。
 私の恩師フランシス・コリンズ先生は3社に自分のサンプルを送ってみた。3社は同じ13か所を調べたのに、結果は違っていたそうだ。これは13か所の重みづけをする計算式が会社によって違うから。2の13乗とおりの組み合わせの中で総合的な発症の確率の計算の仕方もわからないし、検証のしようもない。また、確率が高かったからといって検査を受けた人が生活習慣を改善し、発症しないようにするとも限らない。それに、心筋梗塞になりやすくないとわかったからといって、煙草をたくさん吸っていいですよと言う医者はいるだろうか。
 糖尿病はやせればいい、運動すればいいとわかっているのに、糖尿病の患者数は減らない。すなわち、遺伝子検査と健康指導は難しい。オーダーメード医療では、遺伝子のタイプで患者さんにあった薬を選べるようになってきている
ある病気で、治る確率が40%の薬があったとき、他に薬がなければ40%の薬でも飲むだろう。効果はあるが、副作用が強い薬があったときに、その薬をのむか。すべては確率でしかないが、参考にはなる。

ご先祖のことを教えてくれるDNA検査
 DNAを調べて自分のルーツを探ることが米国で流行している。全世界の遺伝子を集めて民族に特徴的な配列を調べ、そのデータベースを作成。検査をしたアメリカ人がアフリカのどのあたりから来たかを、データベースを基に調べる。
 有名人のDNAと比べてみようという検査もある。マリ・アントワネットとあなたの血筋は近いかなど。ジンギスカンのY染色体がわかっているので、あなたはどのくらいジンギスカンに近いかを3万円で教えてくれる。
 実際にあった話で、子どもの検査結果が80%欧州、11%アフリカ系 9%アメリカ原住民だと分かった親が、子どもに希少民族に与えられる奨学金を申請させた。
 バトンルージュの連続レイプ犯人は捕まらなかったが、DNA鑑定から犯人は85%サハラ、15%アメリカ原住民だとわかった。けれど、目撃者証言では「犯人は白人」。この場合、目撃証言よりDNA鑑定の方が確かだったことになる。
人類遺伝学会は余り確かでないので勧めていないが、お誕生プレゼントとして相手のルーツを調べてあげるのが米国で流行っている。

体験した人からの情報発信
○フランシス・コリンズの場合
 彼は3社に申し込んだときに、とてもわくわくしたと言っている。3社の結果は異なっていたが、生活指導のほとんどは当然のものだった。
○スティーブン・ピンカーの場合
 マイゲノム・マイセルフというタイトルで、遺伝子鑑定結果を得たときの感想をニューヨークタイムスに投稿した。「星占いのようなお楽しみで、ほめられたら嬉しいし、自分で気が付いていることでも当たっていると、とても納得する。普段の自分の生活で思う自分と一致してない項目もあった。『記憶力は人並み』など人に言いたくないことも書いてあった。自尊心をくすぐられたのは楽しかった。こうして、私は遺伝子解析から自分を知ろうとしたのでなく、私が既に知っている自分の状態の情報を使って遺伝子検査の結果を分析していたのだと思った」
My Genome, My Self http://www.nytimes.com/2009/01/11/magazine/11Genome-t.html

まとめ
 遺伝子検査には、不確かな検査(いい加減、怪しい)をする会社もありキットも販売されている。専門家は検査を規制しようとしているが、占いだと思えば目くじらを立てなくてもいいのかもしれない。消費者が賢くなることが大事。フランシス・コリンズですら好奇心があるのも事実。彼は、「DNAを調べても人が人を愛する理由はわからない」と言っている。一方、遺伝子検査で相手を紹介するビジネスもある。
 遺伝子検査の結果により、教育、就職の機会に制限が生じたら、それは問題である。


会場風景1 会場風景2

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • ある程度の知識を持っているが、自分のことは好奇心で知ってみたいと思った。今日のお話は新鮮でした→日本人の場合、小野小町とどの位つながっているかなどが考えられる。欧米には、ご先祖探しをする会社は20ある。遠くに遺伝子で近い人がいることを知った人は遺伝子検査会社に紹介してもらって対面を果たした家族もある。
    • 病気の多くは色々な遺伝子が関係しているから、本当のところはわからないということですか→一遺伝子で発症するハンチントン病ですら、発症のメカニズムはわかっていない。遺伝子の変異から発症までにどんなことが起こるのかがわからない。しかし、遺伝子型で脅かしたら、その人は生活面で気をつけてメタボがなくなるのではないか。
    • 遺伝子検査でたばこ吸ってもいいと思ってしまったら→こういう遺伝子検査は病院ではやっていない。今日、話したのはインターネットで売られていて、遺伝カウンセラーは関われない。例えば、DNAプライベートバンクでは、7万円で5-6疾患を調べてくれる。確率2%の人には青い背の魚を食べるように電話で指導していた。
    • 単一遺伝子病において遺伝子の発現、発症の関係は→病気はその遺伝子が壊れて必要なたんぱく質ができないとき、目的のたんぱく質以外のものになり機能しなくなったときに発症する。
    • 私は5年前に立派な糖尿病と診断され、東大医科学研究所を中心としている60施設行っている30万人プロジェクトに参加し、今も定期的に採血している。2000年からやっているが、協力して意味があるか→30万人を熱心に勧誘して始まったプロジェクトで、糖尿病の人に多いDNAタイプを見つけるのが目的。特徴が見つかっても、治療法が見つかるのは20-30年先。複数遺伝子が関係しているときは1000単位の遺伝子を調べなければならない。実際には、生活習慣で遺伝子の問題をカバーしていると考えられる。心筋梗塞は見つかっているが、糖尿病の遺伝子の寄与率は低く、今はやや期待はずれの状況だが、研究への協力は大事。遺伝子と関係ないことを知るためにも協力は有意義。遺伝以外の要因もある。
    • 薬の効き方の検査は高額か→遺伝子を調べなくても副作用はわかっているものもあり、効き方は自覚もできる。ワーファリン(心臓弁膜症で体に金属が入っていると血栓ができやすい人が飲んでいる薬)について、肝臓の酵素がワーファリンを壊してしまう人と、壊さない人がいる。その人に適したワーファリンの投与量を、入院して肝臓の酵素を調べて決めていた。DNAで調べることで最適量がより決めやすくなった。
    • アルツハイマーの遺伝子検査を3社に依頼したとき、結果が違うのは検体を装置にかける前の処理によるのではないか→前処理もDNAの解析結果も同じ。配列は同じだが、解釈が違っていた。結果からの解釈する方法が会社ごとに異なっている。
    • ヴェンター氏は人工DNAで微生物が生まれたと発表したが、この研究からヒトのことがわかるようになってくるのか→今回使われたマイコプラズマは原始的な微生物。遺伝子の影響と、細胞が何をしているかが見られる。複合的な状況は実験のしようがない。ヒトゲノムを調べたが、ヒトはわからないと国際人類遺伝学会に集まった人たちは言っている。動物で複数の遺伝子のあちこちを操作するのは不可能。病気は遺伝子と環境の組み合わせと偶然の変化の影響を受けるため予測できない。日本では今頃全ゲノム解析に予算が遅れて付き始めている。
    • 生命保険の算定率は各生保会社で企業秘密のようだが、遺伝子検査は採用される傾向が強まっているのか→生保会社が遺伝子検査結果を用い、遺伝子検査を受けさせて保険料計算に使おうとしたが、反対意見が多く、英国では2011年まで全面凍結した。
    • 保険に使うには、データ数が足りないのではないか→世界では、DNA情報は保険に使わない方向。研究が進んだから疾病がわかるようになるか、専門家の中では調べてもわからないものだねという声も聞こえてきている。
    • ゲノム創薬が盛り上がらないのはなぜ→日本に情報が来ないからだと思う。
    • 賢い消費者が遺伝子検査不要といえば、減っていくだろう→私はダイエット食品が大好き。賢い消費者でなくても、これは効かないとわかると自然に買わなくなるだろう。
    • 単一遺伝子病について、出生前診断の需要は増えているか→例えば、鼻血が出やすい遺伝子くらいなら気にしないが、難しい病気だと調べてから結婚したいと思う人がいる。それをとめる親もいる。そういうときに遺伝カウンセラーが働く。
    • カウンセラーははっきりいうのか→告知は診断した医者が伝え、カウンセラーは両者が意見を伝え合うのを手伝う。
    • カウンセラーは遺伝病の発症の可能性をはっきり伝えるのか→医師が診断したら、検査結果ははっきり伝える。
    • 高齢化社会では老人は社会にとって何歳まで生きるのがいいのか。難病の子どもが生まれそうなときに生まれないようにした方がいいのか。結婚する前や出産する前に遺伝子検査を義務付けることも出てくるのだろうか。「生きることはすばらしい」となると効率的な社会は実現しえないという人が増えるだろう。DNA検査がこういう傾向を助長するなら問題だと思う→難しい問題。そういう検査は始まっているが、遺伝子でわかるのはほんの少し。寿命もわからない。
    • 単一遺伝子病を調べる検査が米国には2-3社あり、胎児の200-300疾患を調べるサービスもある。保因者同士が結婚すると発症する遺伝病があり、アメリカのユダヤ人社会では10数の難疾患の検査を高校で行い、保因者同士の結婚、疾病の発症を減らしている例もある。日本にはそういう病気がない。シンガポール政府は子どもができる前に遺伝子検査をして、結果によって中絶を勧めるが現在その病気の患者はゼロ。
    • 「GATTCA」(1997年)という映画があり、病院で管理して体外受精で子どもを持つ時代に、カーセックスで妊娠して生まれた子供をめぐるストーリー。病気の確率と寿命までわかってしまう時代を描いている。機会があれば見てください。
    • 遺伝の学会は規制が必要だという。単一遺伝子病の研究は進めるべきだが、占いと割りきければ規制する必要はないのではないか→学会のルールは弱い。学会はすべての遺伝子検査は病院を介して行うようにしようとしている。
    • 遺伝カウンセラーは珍しい職業だが、医者の告知前に負担を少なくするためにカウンセラーが伝えるようになるのか→お医者さんが上手に話すように努力している。日本ではこの仕事は普及しないだろうと思う。カウンセラーはきちんと情報提供をする人で、情報が多い時代、患者は自分で情報をとる。カウンセラーが何を求められるのだろう。