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バイオカフェレポート「口蹄疫について」

 2010年11月12日(金)、茅場町サン茶房にてバイオカフェを開きました。お話は東京農工大学農学部教授白井淳資さんによる「口蹄疫について」でした。初めに高橋晴香さんのバイオリンの演奏がありました。

高橋晴香さんの演奏 白井淳資さんのお話

お話の主な内容

 口蹄疫終息宣言が2010年8月27日に行われた。被害は3,000億円余りとなり、宮崎県内の牛豚の4分の1にあたる29万頭を失う大被害だった。

世界の状況
 世界でこれまでに53カ国で口蹄疫が発生している。2001年、英国で発生したときには1兆5000億円の被害が出て、殺処分を行った。観光地であるスコットランドへの立ち入り禁止、ミュージカルの公演中止に波及した。口蹄疫は先進国の近代的畜産に大被害を与え、経済的なダメージが大きい。
 撲滅できない理由は、イスラム圏で多く飼う羊の症状がわかりにくく、ほとんど死なないため。余り被害が出ず、口蹄疫ウイルスがどこかで生き続けてしまう。

口蹄疫はどんな病気?
 口蹄疫は偶数の蹄を持つ動物が被害を罹る病気。蹄が1本の馬、3本のサイは罹らない。
初め高熱が出る。口内や蹄の間に水膨れができる。乳が出なくなる。子豚や子牛は心筋炎をおこし、子豚の3割が死ぬこともある。
 口蹄疫はヒトには感染しないが、伝染力が強いのですぐに殺処分しなくてはならない。
感染した牛が空気中に排出するウイルスは最大、毎分70000感染価。豚はこの2000倍以上を排出。湿度が60%以上のときウイルスは生きられる。
 家畜伝染病予防法では、発生地から10Km圏内は家畜移動禁止、20Km以内から区域外への家畜搬出禁止、発生地の感染家畜と同居家畜はすべて殺処分することになっている。感染家畜の体内でウイルスが増え、排出されるのを防止するためには、24〜48時間内に殺して埋めなければならない。イギリスからフランスにゆっくりと海を越えて運ばれたと考えられる事例もある(1979年3-4月)。

予防
 ピコルナウイルスに属する。口蹄疫には7タイプの血清型があり、その中に60種以上の種類がある。そのためワクチンが効きにくい。pH6.5以上の酸および、pH11以下のアルカリで失活し、熱にも弱い。
 呼気から排出されたウイルスが空気伝染する。粒が小さくて長時間、浮遊する。風で運ばれた実例、デンマークのワクチン製造元から対岸のスェーデンに飛んだ事例、ドーバー海峡を越えて270Km飛んだ事例もある。私はそう思わないが、黄砂を原因とする説もある。
 牛は10個のウイルスでも発病する。豚は感染するために1000個以上のウイルスを必要とするが、豚は感染すると牛の2000倍以上のウイルスを出す(増幅器になる)。豚への感染が拡大のカギになる。
風で運ばれるというが、強い風だと拡散してしまう。風でゆっくりと湿度のある海上を移動。陸を60Km動いた事例もある。
 一緒に飼育していた動物はすべて殺処分するが、搬出禁止区域内の牛や豚は食べられる。
ワクチンも効かないわけではない。牛には効果があるが、豚は接種しても発症することがある。日本では常に口蹄疫ワクチンを備蓄している。

被害拡大と原因
 原因はわからないことが多い。2000年3月24日、日本では牛740頭を殺処分した。前年の1999年、台湾で口蹄疫が発生。しかし、日本のウイルス株は台湾と韓国とは違う。10年前の宮崎の口蹄疫の株で実験感染した乳牛には抗体が検出されるのみで、発病せずウイルス排出もなかった。豚は実験感染で発熱、動けなくなり典型的な口蹄疫の症状が出た
 10年前の宮崎の株を摂取した黒毛和牛は発病し、同居和牛には感染した。感染させた黒毛和牛から豚には感染しなかった。山羊、羊には抗体が検出されるが発症しない。
 日本の家畜は肉を美味しくするために中国から輸入する茎の太い稲わらを食べる。日本の稲わらは茎が細くて飼料に合わない。わらにウイルスが付いている可能性はある。

口蹄疫の発生の事例
 2001年英国では、2月20日に口蹄疫発症。イギリス全土、フランス、オランダで広がり、27万頭の被害。イギリスは羊の輸出国。感染した相手はフランス、ドイツ。ドイツはすぐに殺処分で廃棄、フランスは様子をみていたら牛に発症した。このウイルスは日本の株との近縁だった。発生地はスコットランドの養豚場。餌の残飯にウイルスがあったのではないか。中華レストランには本国の検疫を通らない食材を使うところもある。私は、南アフリカのウイルスではないかと思うが、中国のレストランということになっている。
 初めての口蹄疫は、エセックスの豚で発見された。そのはるか前から口蹄疫はあったはず。発見が遅れると被害甚大。EUは各国でその時の安い家畜を買うので、家畜が頻繁に移動する。気温が低く湿気がある時期に大流行する。
 イギリスは動物愛護で、屋外で広々と飼育するので感染が広がりやすい。仕分けでと場の数が減らされ、獣医の数が削減され、家畜が少なくなったと場に集中したので、被害が拡大した。
 日韓ワールドカップ直前に口蹄疫が発生したとき、韓国は3Km以内の動物すべてを殺処分、口蹄疫を抑え、7月サッカーワールドカップ開催にこぎつけた。
 1967年。イギリスで口蹄疫が発生して大被害があった。1969年の映画「女王陛下の007」で口蹄疫がテロの材料として使われている。口蹄疫発生にはテロの疑いが持たれる。
2007年、イギリスで発生したときには、世界口蹄疫研究センター(パーブライト研究所)の隣にあるフランスのメリアル社でワクチンを作るために10,000㍑のウイルスを製造していた。発生した口蹄疫は作っていたワクチン株と近縁だった。口蹄疫ワクチンは大量にウイルスを培養しないと作れない。パーブライト研究所とメリアル社を繋ぐ排水管にひびが入っていてここから生きたウイルスが漏れ、大雨のとき地面にあふれ出し、車が運んだのではないか。昔からワクチン製造過程から漏れることがあり、ワクチンを作りたがらない。

日本での流行について
 4月9日あたりから発生していて、発見が遅れ。小平で調べたら口蹄疫だとわかったが、初発を牛で気付くのは難しい。宮崎では、O型という偶蹄類すべてに感染する種類が発生。3月末の下痢で気付かず、感染が拡大した。
豚の飼育数は牛より遙かに多いため、殺処分と埋没に時間がかかり、殺処分が追いつかなくなりワクチンを使用。ワクチンを使うと、病気がなくなっても清浄国宣言ができるまで6カ月、ワクチンを使わなくなれば3カ月で宣言できる 
 接種7-10日でワクチンの効果がでて、殺処分作業が追い付いてきた。密集している地域で感染拡大が速かった。
えびの市から相談がきたので、ラジコンヘリで上空からお酢を500倍に希釈して(pH4)で散布。ウイルスはpH6.5以下で失活する。このことにより早く終息したのではないかと思っている。
口蹄疫は酸にもアルカリにも弱いが、人が普通食べている酢を消毒に使えばいいと思った
被害 292戸280800万頭、3580億円の被害
 口蹄疫はヒトにうつらず、経済被害が大きく、入ってくるルートがいっぱいある病気。周辺の国で発生しなければいいが、中国では毎年2月ごろ、口蹄疫が発生している。2月は中国の新年で子豚の丸焼きを食べる習慣があるため、子豚を中国全土から中央の養豚場に集めて売る。中国奥地の子豚は口蹄疫を持っている可能性もあるのではないか。
 2010年3月20日頃には既に日本国内に口蹄疫が入っている可能性がある。モッツアレラチーズを作るための水牛農場が宮崎の初発といわれているが、入ってきた因果関係はわからなかった。
世界の東西の壁がなくなり、モノの往復が盛んになった。人とモノの行き来、飛行機での畜産物の行き来、病気を広げる可能性は大きくなっている。
 口蹄疫が発生している国に旅行して特別注意することはないが、口蹄疫が発生している国の畜産物は持ち込まないでください。残さが豚のえさになる可能性がある。


会場風景1 会場風景2

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 口蹄疫が流行する2月は中国の正月だというが、黄砂も飛んでくるのではないか→黄砂に付着したウイルスは感染力がなくなる。黄砂に物理的にくっつくとそこから離れなくなり細胞内に入れなくなる。口蹄疫は体内に入って粘膜から感染する。黄砂が原因なら日本全国に出るはず。
    • 口蹄疫の牛を埋めたが、食べられないのか→食べられるが、食べるまで肉を熟成するときに、ウイルスが広がる。ワクチン接種した牛をたい肥にしていいかというと、可能だが、被害拡大の速さとの勝負になる。 
    • 鉄道の駅員です。犬猫をかごで運ぶようにミニブタを運ぶ人がいるが→ミニブタから犬猫にはうつらないが、犬猫の体でウイルスが運ばれる可能性がある。
    • 実験感染で和牛は罹って、ホルスタインは罹らなかったのはなぜ→実験感染した株が弱かった。通常は口蹄疫不活化ワクチンを使うが、中国は生ワクチンを使用している。日本の黒毛和牛にそれが使用され発病したのではないかと思っている 
    • 2002年の韓国の口蹄疫は豚だけに感染した。
    • 口蹄疫ウイルスには消石灰を撒いていた。酢を使うのはなぜ→消石灰は粉末で消毒効果が長い。ウイルスは酸にもアルカリにも弱い。同じピコルナでもポリオは酸にもアルカリにも強く、インフルエンザはpH4以下の酸に死ぬ。上空から散布するとき、アルカリより食酢の方が安全だと知られていて、受け入れやすいと思った。
    • 埋めた後はどうなるのか→土の中で腐って熱が出て、酸性になりウイルスは死ぬ。その区域は3年使えない。埋める場所確保は重要。
    • 予防のために3年間土地を使わないのはなぜ→白骨化して元の土に戻るのに約3年。それまでは、上で牛を飼うのはよろしくないという考え。もし掘り起こして骨が出てきて、鳥が運んだりするかもしれない。
    • 鳥インフルエンザを埋めるのは作業が速いから。外国は燃やす。燃やすには、燃やすための廃材、重油が必要。日本は狭くて多くの煙を出すわけにいかない。
    • 豚だけ罹る口蹄疫がある。豚の発症には多量のウイルスが必要だが発症すれば多くのウイルスを排出する。
    • 牛、豚だけが被害を生むのはなぜ→1997年、72年ぶりに台湾で大被害。豚の輸出国だったのが輸出ストップ。人に被害がなくて国力が落ちる。
    • インフルエンザは豚から人に来るが、ヒトにうつりますか→うつりません。
    • ウイルスは酸とアルカリで簡単に死ぬのになぜ広がるのか→体内にあるとき増え続ける。 鳥が牛の餌をついばんで隣の牛に行くと牛はたった10個で発症。ハエが牛の鼻先にたかればウイルスは運ばれる。
    • 酪農家は毎日、観察していて見つけられないのか→酪農家は搾乳時に牛と対面するので、発見しやすい。肉牛はそこまで目が行き届かない、小規模農家で年配者が老眼で見逃す。酪農と肉用牛の飼育の違いもある。飼育頭数が多いとみつけにくい。大規模農場では見つからずに治って終わることもある。
    • 米国で口蹄疫は出ていないのか→広いから見つからないのか、わからない。発見されている国は、日本、イギリス、韓国など島国、狭い、飼育の密度が高い。
    • 拡大が飽和するのはいつごろ→発見して宣言すると、口蹄疫清浄国でなくなり、輸出できなくなり、ブラジル、アルゼンチンのような非清浄国から輸入を余儀なくされる。日本人は正直でまじめに宣言し、ルールを守っている。また正常国になることは先進国のステータスでもある。
    • 種牛の殺処分についてどう考えるのか→病気を拡げないためには例外を認められない。実際には大事な牛5頭を処分せずに観察していたら、発症しなかった。特例だが、本来は認めてはいけない。
    • 飼育の密度が高いと広がりやすいようだが→イギリスは羊の原産国で殺処分が遅れ欧州に拡大。大事な羊は分散して飼っておけば危険分散になる。
    • よい種牛は遺伝的に近い牛だろうから感染が広がりやすいのか→肉質のいい牛は罹りやすい。国の家畜改良センターに種牛を預けて危険分散しておくべきなのに、一番いい牛は県から出したがらない。宮崎はブランドを維持したかった。
    • 野生のカモシカにうつるのか→うつって治る。抗体があればウイルスは消える。
    • 保菌はあるのか→牛と水牛の喉に2年ほどウイルスが残るがそれ以上はない。ヒトのヘルペスウイルスのように長く居るのは特殊な例。
    • イギリスのメリアル社のワクチンの事故について、冠水するような地域に工場を作らなくてもいいのに→パーブライト研究所は世界の口蹄疫のウイルスを持っている研究所。そこに集まる新しいウイルスのワクチンを作るために、メリアル社は同研究所のそばに建設した。
    • 60,000頭を殺処分した割にはBSEに比べて流通が減った気がしなかった→BSEは肉がなくなったのでなく、国産牛肉が売れなくなった。宮崎産の肉の供給が減ったくらいでは、全体の流通量は減らない。
    • 輸入された稲わらは口蹄疫を運ぶのでやめた方がいいのではないか→飼料用稲わらは消毒して入ってくるので大丈夫。韓国、中国で流行しているときに人が運んだのではないかと思う。しかし、敷きわらは消毒しなくて輸入されるので、危ないかもしれない。消毒方法はホルマリン燻蒸で、ホルマリンが抜けた後、牛に食べさせる。