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農研機構セミナー「研究とメディアのより良い関係を考える」開催報告

 2010年11月5日(金)、標記セミナーが農林水産技術会議筑波事務所会議室で開催されました。
冒頭、(独)農研機構動物衛生研究所・田川裕一研究管理監から挨拶があり、メディアと研究者とのギャップを埋めること、及びお互いの特性を知ることでお互いの良い関係ができるのではないかと考えて、本セミナーを開催する旨が述べられました。本セミナーコーディネーターである(独)農研機構 動物衛生研究所の小泉伸夫氏からは、「国内でもアウトリーチに関してモチベーションの高い研究機関はあるが、農研機構では研究者自身の自発的な、メディア対応を意識した取り組みは、まだ十分に進んでいるとは言えない現状もあり、今回は種まきのつもりで開催する。今後、本セミナーが発展して目的が達成されることを望んでいる」との話がありました。
 4題の話題提供と総合討論が行われました。主な内容は以下の通りです。

田川氏 小泉氏 長神氏
中村氏 渡部氏 山口氏


1.「研究現場とメディアの間で〜厳密性と正確性と迅速性」
          東北大学 脳科学グローバルCOE 特任准教授 長神風二氏

1)広報には、研究成果を広報する(Offensiveな広報)、不祥事対応(Defensive な広報)と問い合わせ対応(Neutral な広報)がある。
 報道には、新聞(東北では、河北新報が相当なエリアをカバー)、テレビ(報道、制作)、一般雑誌、インターネットメディア、専門誌、ジャーナル(学会誌)がある。
2)新聞報道と大学との間で問題を提起した一例として、大学入試関連記事で「地域枠」についての見出しが出た。
 新聞側は「地域枠」は政府の予算制度の用語として書いたとし、大学側は、社会一般からは出身地域を優遇したり、限定した形での入試を行うという誤解を受けると心配した。
大学としては、特定の地域の受験生を優遇した枠をもともと設けていない。誤解を招くので謝罪と訂正記事の掲載を求めることも検討したが、本質的に回復すべきは大学の利益より受験生の利益と考え、対報道機関の対応はせず、ウェブサイト上で入試制度に関する声明を発表した。
 実際にこの記事に関する問い合わせも何件か受けた。広報にして何を守るかどこまでメディアに求めるかが課題。
3)研究成果のプレスリリースについて
取材が広報を通すことで周辺情報の提供など、より良いものになるようにと心を砕いている。メディアとのコミュニケーションの場として懇談会を開催するのは良いことと思っている。


2.「メディアの事情と求めている情報」      朝日新聞社 つくば支局長 中村浩彦氏

 科学記者をして10年、研究機関の研究者、広報担当者と報道対応してもらう中で、相互理解を深めること大切であると思っている。うまく付き合うために、新聞社側の習性を知っておいていただきたい。
1)新聞記者が急ぐ理由
  記事は、朝刊(朝5時ごろまで)、夕刊(16時ごろまで)を配達をする時間を念頭に置いて書く。新聞の発行は、取材、執筆、編集会議、紙面レイアウト、印刷、輸送、配達という流れですすむ。
2)新聞記者の視点は千差万別
  社会部、経済部、政治部、科学部、本社(朝日の場合は、東京、大阪、名古屋、西部(九州)、北海道)、総局(県庁所在地)、支局(大きな市)の各記者、それぞれが別の視点をもっている。取材する記者により、聞かれる内容は全く違う。特に総局は若手中心で何にでも対応するし、支局ならではの記事もある。
3)社会面の記事と科学面の記事
  毎日バタバタと作る社会面、じっくり取材時間がある週2回掲載する科学面。社内でも連携を取るのが難しい。
4)記事になる発表、ならない発表
  ニュース性がある(一番、最初、最後)、タイミング(一例として、果物の品種改良の発表は、収穫の時期に合わす、記者に食べさせる)、話題性などがある発表は記事になる。
発表が投げ込みで行われる場合と記者会見とがあるが、記者会見を重要とみなす。掲載を願うのであれば記者会見の方がよい。
雑誌、ネイチャーの場合は次週に掲載される内容については金曜日に、サイエンスの場合は1週間前にリストが送られてくるので、内容を吟味・選択して掲載する。
5)攻めの広報、大切な第一報
 ○広報担当者は、「営業職」。
  組織(研究所)内のネタを積極的に探して売り込むべき。
  突発的な事態の時こそ、殺到するメディアをどう捌くかが広報の力量。
 ○広報側の「起きたことがどれほどのものか」という第一報が大切、記者側では、紙面の扱いに役立つ。 
6)良かったと思われる報道対応の例
スペースシャトル打ち上げトラブル時のNASAの対応があげられる。国立天文台の例では、冥王星が惑星でなくなるということに関して、本日の講師の渡部先生が不在でも縣秀彦先生が対応された。
7)その他
*専門家を招き記者向けの定期的な勉強会があるとよい。その際、できれば、2〜3か月前に連絡がいただければ参加できると思う。
*記者を利用してほしい。その場合は、記者クラブに一言、声をかけておくとよい


3.「国立天文台における広報:歴史と現状」
          自然科学研究機構 国立天文台 天文情報センター 広報室長 渡部潤一氏

 国立天文台は、天文学の面白さ、奥深さを伝えると同時に、最新の成果を迅速かつ正確に知ってもらうために、1994年に広報普及室を立ち上げ、1998年に省令施設として天文情報公開センターを設立した。現在は、「天文情報センター」として、国立天文台の広報普及活動の中核を担っている。
 2002年「基礎科学の広報と報道に関するシンポジウム」を開催し、マスコミにモノ申した。怪しい学説をどこまで掲載するのかとかそれに対する意見(裏)をどうして取らないのかなど。考古学の捏造問題では、メディアも良くなかった。
 2004年「報道-予算-報道の連結の構図」を考古学の捏造問題や報道の問題で議論した。
 2005年「分野ごとの研究の報道に対する調査」を実施した。
  ミスコミュニケーションの例
  1)無礼、横柄、拙速な取材への拒否権、不信感
    例えば「取材者側があらかじめストーリーを作って内容に沿うようなコメントを求める」ように受け取れる場面。
  2)取材不足、力量不足
  3)事前設定がされていない
  4)空間的なミス(お互いの時間が取れない)
  5)研究者側の認識不足、ジャーナリズムの社会的役割の認識不足


4.「危機管理情報を含む研究成果の取り扱いについて」
          社団法人 畜産技術協会 参与 山口成夫氏

 2004年に発生した高病原性鳥インフルエンザが、人獣共通感染症で、感染した養鶏場のニワトリ、その処理、及び、ヒトで507人が発症しそのうちの302人が死亡した事件などがあった。
こうした危機管理には、「最悪に備えるも、行動は冷静に」が重要であり、発生した場合には、専門家が冷静な行動がとれる情報を提供し、メディアも不安を煽らないようにすることが大事である。風評被害(例えば、鶏肉鶏卵の不買売等)が起こることのないよう、なくすよう、社会生活の混乱をさせないことが大切である。正しい情報を提供する一方法として、信頼ある機関がメディアやインターネット等を利用し、病気の解説や対処法をQ&A等で分かりやすく早期に情報提供することがよいと思う。


総合討論 
パネリストと会場の主な意見
  • ニュースに比べ報道ワイドショー的な番組では内容のコントロールができていない場合がある。科学的な情報提供のためには、学会等が組織化されたレベルで発信していけるとよい。また、天文台はナショナルセンターであるので天文学全般から発信しているが、他分野もナショナルセンターのような組織から発信するとよい。(渡部氏)
  • 新型インフルエンザでは報道は冷静だったが、マスクをかけた集団の映像は異常に感じ、不安をあおった感がある。口蹄疫では、専門家のコメントが出てくるのが遅かった。その間に政治的な問題となってしまった。政治的問題になる前に何とかしてほしかった。
  • 口蹄疫の報道では、当初、口蹄疫がヒトに感染しないということでいったん引いたのではないか。その後すぐにゴールデンウイークに入ったというタイミングもあると思う。
  • 科学的な意見を社会に持ち込む場合、データのみでは伝わらない。(会場から)

司会者から危機管理等についての話題提供者からの意見を求められました。
長神氏:研究者からの情報は、ジャーナルの力が強いし、他方で特許申請ということもあり、早期に公開しにくい状況である。  研究成果を全てオープンにできれば、公開情報を基に、誰が間違いをしているかはおのずと分かる。機関リポジトリの整備などを含め、オープンアクセスの推進をはかりたい。
中村氏:事業仕分けで見られたように、科学者が自分の声で発言されることは必要なこと。伝える言葉は難しい。  最近は、セキュリティが厳しくなり、取材が難しくなってきた。かっては、近くに来たから、日頃から付き合いのある先生のところに寄って、話をし、取材やら情報が得られたのだが。  独自記事を書くのが新聞、お互いの信頼関係ができているのがよい。
山口氏:情報が不足することが、風評被害が出る一要因となっている。問題点(不安材料)と解決策(対処法)とをセットで情報提供することが必要。渡部氏:研究者・研究者が所属する組織とメディアとがお互いに理解することが大切。10年後には良くなっているのでは。