アクセスマップお問い合わせ
メディア意見交換会「今、なぜ口蹄疫・鳥インフルエンザ」

 2011年3月2日(水)、ベルサール八重洲にて、食の信頼向上をめざす会主催、メディア意見交換会が開かれました。タイトルは「今、なぜ口蹄疫、鳥インフルエンザ」でした。メディアをはじめとする食の関係者80名が参加しました。
はじめに同会代表唐木英明氏より「日本のリスク報道と市民の反応を「日替わりリスク」と皮肉を言われた方があったが、大騒ぎした口蹄疫や鳥インフルエンザについて台湾や韓国の惨状を知らないまま、日本は静かになってしまった。これらは整理しておく必要があると思い、今日のテーマを選んだ」と開会の挨拶がありました。


「口蹄疫と鳥インフルエンザに対する世界の対策」
             国際獣疫事務局(OIE)名誉顧問 小澤義博氏

A) 口蹄疫
1)口蹄疫の特性:口蹄疫ウイルスには7つの血清型があるが、最も広く発生しているのはO型である。口蹄疫はもともと牛の病気であるが、世界の半数の豚が生息している中国では、豚に強毒化したO型ウイルスがうまれ、近隣諸国への広がりを繰り返してきた。
口蹄疫ウイルスの人への感染は極めてまれで、搾乳者の手の傷口から侵入して傷口に水泡を形成することが知られている。またウイルスが汚染したミルクや埃を通して経口感染することが稀にあり、風邪のような症状がみられることがある。
口蹄疫が恐れられる理由は、下記のa〜eがある。
a)発生すると感受性を有する動物やその生産物の輸出が即座に禁止される
b)発生した地域とその近辺の牛、豚、羊などの動物の移動が禁止される
c)牛乳の出荷が禁止され、回復しても乳産量は半減する
d)感染した子牛や子羊の死亡率が高い
e)豚に感染すると大量のウイルスを空気中に放出し空気感染を起こす
2)アジアにおける発生状況
中国では口蹄疫ワクチンが広く使用されており、口蹄疫の大発生は抑えられているが小さな発生は広範囲で続いており、しばしば韓国、台湾、ベトナム、日本などの近隣諸国に流出を起こしてきた。北朝鮮はごく最近までOIEに病気の発生を報告してこなかったが、本年2月に最近の口蹄疫の発生状況をまとめて報告してきた。それによると北朝鮮には韓国同様に広範囲に口蹄疫が発生していることが分かった。
一方、韓国では、初動の遅れや厳しい寒さにより消毒が不能になり、瞬く間に全国的に広がってしまい、全国的なワクチンの接種に踏みきらざるを得なかった。それでも2010年12月から2か月の間に340万頭が殺処分され、一応の鎮静化がみられている。しかし韓国が清浄化するためには、最後の口蹄疫の発生から2年間、口蹄疫の発生が見られず、また最後の一年間には口蹄疫ウイルスの存在がないことを血清調査で証明せねばならない。

3)口蹄疫の清浄化に関するOIE基準の概略
清浄国で発生した場合には、
①移動禁止ゾーンを決め、ワクチンを接種しなかった場合、殺処分と抗体調査の終了3週間後に清浄化できる。
②一部でワクチンを接種しても、その動物の殺処分を行えば、3か月後に清浄化できる。
③一部の殺処分と同時に一部で緊急ワクチンを接種した場合、感染抗体の存在しないことが証明できればワクチン接種の6か月後に清浄化できる。
④殺処分なしで抗体検査だけが実施された場合、ワクチン接種後18か月間に感染抗体が見つけられなければ清浄化が認められる。
韓国のように全国的にワクチンを接種した場合には、前述のように清浄化には更に長期を要する。
4)日本の問題点(殺処分かワクチン接種か)
最小限の動物の殺処分で終わらせるためには、どこまで殺処分を続けるべきか? またいつワクチン接種に切り替えるべきかを決めるために、口蹄疫発生の疫学的調査(リスク分析や経済疫学的分析など)が重要である。必要なデータを入力してすぐ答えが出るようなシステムの開発が必要である。

B) 高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)
1)2005年、中国の青海湖で水鳥の家禽化を研究していた最中に鳥インフルエンザが大発生し渡り鳥の移動により、中央アジアから中近東,黒海を経由して北欧から西欧にまで広がり、欧州諸国に多大な被害を与えた。これらの渡り鳥の一部は中近東からアフリカへと広がり地球規模の広がりをみせた。その後も広がり続け、南アジアや東南アジアや中東で今日も散発的発生が続いている。
2)このH5N1ウイルスは、人に散発的に感染をおこしアジアや中近東の15か国で死者が出ている。特にインドネシア、ベトナム、エジプト、中国、タイで感染者が多く、それぞれ高い死亡率をしめしている。しかし人から人への感染した例は殆どなく、単独感染者がほとんどである。感染者の多くはH5N1ウイルスに感染した鳥にマーケットや家庭で接した人が多い。先進国では家禽の処理法の安全性が守られているため、感染者の報告は出ていない。
3)EUの鳥インフルエンザ対策は、2005~2006年の欧州の経験をもとに、緊急対応の在り方が見直された。新しい対策は、海外情報の収集を強化し、病気の侵入リスクが高いときには、事前に警報を発すると同時に、感染野鳥の監視を強化する。家禽は出来る限り屋内飼育に切り替え、野外飼育の家禽や、動物園の鳥類のワクチン接種を許可する。又家禽の移動を禁止するとともにバイオセキュリティーを強化する。
4)鳥インフルエンザ(HPAI)の防疫対策は国によって異なる。
 a)殺処分による淘汰に主体を置く国(米、英、カナダ、ドイツ、日本など)
 b)常在化する危険の高い国または地域では、ワクチンを接種する(イタリー、オランダ、ロシア)
 c)常在国において、連続的にワクチンの接種を続ける国(中国、パキスタン、エジプト、インドネシア等)
OIEの規則によると、高病原性鳥インフルエンザの清浄国の条件は、過去12か月間家禽に強毒ウイルスの発生のなかった国を清浄国と認める。また清浄国に強毒ウイルスが発生した場合には、殺処分と消毒終了の3か月後に清浄国に復帰することができる。


「口蹄疫と鳥インフルエンザへの対策 日本の動向」
            元食品安全委員会事務局長 梅津準士氏

発生の経過など
1)口蹄疫
 2000年3月に国内で92年ぶりに口蹄疫が宮崎県と北海道で発生した。この時は4農場の牛740頭の処分で比較的短期間で収束した。その10年後の2010年4月に宮崎県で発生し、牛と豚合せて約28.8万頭が殺処分の対象になった。全国の肉用牛の2.4%、豚の2.2%が失われた。
2)鳥インフルエンザ
 2004年2月〜3月に国内で79年ぶりに鳥インフルエンザが山口、大分、京都で発生。特に京都では養鶏場の経営者が自殺する悲劇になった。その後、ほぼ1年おきに国内で発生しているが、特に今年は宮崎など9県24農場で発生し185万羽が殺処分の対象になった。また、各地で野鳥や動物園の鳥類からも高病原性ウイルスが検出された。
なお海外では、口蹄疫は1997年に台湾で大発生(約500万頭)、2001年には英国で約400万頭の殺処分。そして昨年から今年にかけて韓国で牛の5%、豚の35%(合計約350万頭)が殺処分される大発生を見ている。

日本の家畜防疫の仕組み
 OIE(国際防疫事務局)の原則を踏まえ、家畜伝染病予防法に基づいて防疫指針を定めこれに基づいて実行している。発生時の具体的な対応としては、①異常家畜の発見・通報(家畜保健衛生所へ)②病性の判定(家保)、確定診断(動物衛生研究所)③制限区域・消毒ポイントなどの設定、殺処分の指示、死体の処理、汚染物品の処理④同居家畜などの追跡、感染経路の究明など⑤制限区域内農場の清浄性確認検査(2回)⑥措置後21日間経過して制限の解除
といった手順がとられる。特に24時間以内の殺処分、72時間以内の埋却が極めて重要とされる。基本的には、早期発見と迅速な殺処分による対応だが、これだけではまん延を防止できない場合は、ワクチンの使用を検討する。

この度の対応(口蹄疫)
 わが国有数の畜産の密集地域だった事、また豚にも感染したことから、第1例の確認から隣接地域での拡大が著しく速かった。摘発・淘汰では対応できず、一定のエリア内でワクチンを接種した。なお、ワクチンをうった家畜を感染の有無に関わらず全て淘汰する法的根拠がなかったため、補償措置を含む特別措置法を急きょ制定した。処分された家畜の補償(手当金)は、原則は評価額の4/5だが残りは県が負担した。
自衛隊、警察組織、全国からの獣医師、畜産関係者らの応援などにより過去に例を見ない規模の防疫活動が長期間遂行された。その結果、7月末には全域で制限が解除された。また、翌23年2月にはOIEの清浄国に復帰した。

検証と今後の方向
 口蹄疫対策検証委員会(国)の報告書が2010年11月24日に取りまとめられた。
対応上の問題点として、①異常畜の発見・通報の遅れ②確定診断後の迅速な処分の困難③ワクチン接種決定のタイミング④県当局の家畜頭数・戸数の負担などを指摘している。
改善方向として①早期発見・通報のルール化②迅速な処分・埋却のための作業マニュアル、緊急支援組織③飼養衛生管理基準の徹底④予防的殺処分の法的明確化、処分に対する補償措置の拡充などを提示している。これに沿って家畜伝染病予防法の改正案が国会に提出され、成立した。
その他〜幾つかの論点
①現場での実行部隊の確保〜防疫対応は現場での「力仕事」になる。現場指揮のあり方や資器材の準備を含め平常から体制を想定しておく事が重要。
②迅速な処理〜法律上は埋却又は焼却となっているが、実際は全て埋却処理。緊急の場合には、野焼きを含めた焼却の可能性も検討。
③ワクチン使用の判断基準〜ワクチン使用には様々のリスクや問題が伴う事も事実だが、避け難い場合もあり判断基準について議論を深めておく事が必要。
④野鳥、動物園の動物など家畜以外の扱い〜鳥インフルエンザは野鳥がウイルスを媒介すると見られ、今後も伝播が懸念される。家畜以外の鳥類のモニタリング体制と防疫対応について準備を整える事が必要。


まとめ         唐木英明代表

 鳥インフルエンザは空爆されるので予防しきれないが、口蹄疫は人の出入りに関わるので、厳重に注意して防がなければならない。家畜の殺処分には、経済的な判断が入る。宮崎の種牛を助ける話で問題になったが、殺処分は「知事の心情」と「大臣の法律」で争われてしまったために、必要だった客観的な経済的試算がなされずに解を生んでしまった。 県によって畜産業の位置づけが異なり、経済的な重みが違うことも無視されて、法律だけが根拠になってしまっているケースも問題。
欧州には、法律だけで殺していいのかという動物愛護の視点を入れた論点もある。

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • EUのダイオキシン汚染卵は犯罪であった。通常、対象とする管理には悪意を意図したものは入らない。私はEUの取り組み型を評価している。→特異な犯罪が予想しない影響を及ぼした例だと思う
    • ワクチンを接種して殺した豚を海外では食べている。日本でも食べてもいいのではないか→病気を治療・予防するワクチンがあれば食べてもいいのではないか。
    • 欧州でのワクチンの対策はどうなっているのか→ワクチン接種時期を計算できる(法律、サイエンス、殺す動物の数が少なく、動物愛護の立場も入れて検討できる専門家グループが作る)を作り、それに従ってワクチンが打てるようになっていかなければならない。
    • 口蹄疫は局在したら、ゾーンニングしてそこだけ殺処分するが、飛び火したらワクチン接種を視野に入れて考慮しなくてはならない。
    • 口蹄疫が入ってきたルートは?それを解明して対応すべきでないか→2000年の口蹄疫は生ワクチンのせいではないか。去年の発生源は異なるようだ。未だにはっきりしない。
    • 野鳥から伝染するのは防げるのか→まとまって発生する所、点在して出る所がある。野鳥が増えるから出るという考え方でなく、世界でリスクレベルについて広い分析・研究をする必要がある。
    • インフルエンザのウイルスの型から感染経路を調べられないのか→推測が多い。感染経路を見つけるには発生から2-3日後に疫学者が現場に入って感染経路を判断してそれをたつのが原則。それまでに対応できなければオリジンは見つけられない。日本は疫学者を選定していない。
    • 鳥インフルエンザに感染しない遺伝子組換え鶏を作ったというニュースを読んだ。
    • 鳥インフルエンザは大した被害が出なかったので、落ち着いているが、クローン牛でも拒否されているのだから、組換えニワトリを作って消費者が受け入れるだろうか。