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くらしとバイオプラザ21設立10周年記念講演会
「人は何故がんになるのか~がんにならないために、なっても早く見つけるために大事なこと」

2012年5月17日、NPO法人くらしとバイオプラザ21設立10周年記念講演会を開きました。講演者は、がん研究の第一人者であると同時に本を多数書かれるなど啓発活動でも有名な、学術振興会学術システム研究センター顧問 黒木登志夫さんでした。
主なお話の内容は次のとおりです。

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黒木先生のお話 講演会会場風景

主なお話の内容

寿命について
縄文時代の人の平均寿命は14歳くらいで、これを過ぎると30歳くらいまで生きられた。
室町時代の人骨の歯の摩滅状況から推測して、平均寿命は24歳くらい。
ネアンデルタール人の平均寿命は10歳。10歳という年齢には意味があり、10歳までは生きないと子孫が残せない。
明治時代の平均寿命は42歳。50歳をこえるようになったのは戦後。
10歳代後半から40歳位までの女性は出産で死亡することが多い。この年齢は女性として美しい時期だが出産に伴う死亡が多く、それで厄年(19、33、37歳)となっているようだ。これに比べると、男性の厄年(25、41、61歳)は死亡の実態に関係なく決められている。
世界では、スカンジナビア、アイスランド、ニュージランドがもっとも長寿国だが、1986年以降、日本の女性が追いついた。
江戸時代の宗門人別改帳で調べると、江戸時代から昭和10年台までは寿命はあまり変わらないが、昭和22年以後、寿命が急速にのびてきた。
江戸時代と今のライフサイクルを比較すると、夫婦でいる期間が20年長くなり、出産期間は20年から4年になった。平均寿命が延びただけでなく、ライフサイクルも変化した。GDPと平均寿命は関係はあるが、例外もあるようだ。日本の国民皆保険は寿命を延ばすことに大きい影響を与えている。
がんは増えているのか
がんの歴史は古い。恐竜にもがんがあったらしい。スミソニアン博物館のペルー遺跡の人骨に骨転移のあとがある。多発性骨髄腫か乳がんだろう。東大総合研究博物館に、若い女性の頭蓋に乳がんからの転移で穴があいている標本がある。
結核と脳卒中(部屋が暖かい、減塩食、降圧剤のおかげ)は減ったが、がんは増えている。しかし、年齢調整死亡率(1985年を基準にして調整する)は減っている。これは、がんが増えているのではなく、長寿になったのでがんになるヒトが増えているということを示している。

がんはどんな病気か
人のがんの9割は体の内外を覆う表面(外部からの刺激を受ける場所)にできる。1割は血液のがんなど。
がんは細胞の病気だが、遺伝子の病気でもある
全遺伝子の1割が、がんに関係しているといわれている。
がん遺伝子は優性だから1対ある遺伝子のうちひとつに原因があると(1ヒット)で発症するが、がん抑制遺伝子は劣性だから、2ヒットしないと抑制は働かない。
突然変異の内、DNAを3文字単位で読むコドンの一つが変わるのが点突然変異(がん遺伝子に多い)で、一つが抜けたり加わったりするのがフレームシフト変異(がん抑制遺伝子に多い)である。どちらもコドンは意味をなさなくなる。

がんはどのようにできるのか
APC(がん抑制遺伝子)が活性を失いポリープができる→K-ras(がん遺伝子)が活性して早期がんをおこす→p53(がん抑制遺伝子)に変異が起り、浸潤がおこる→SMAD(がん抑制遺伝子)が不活化していくつもの遺伝子が転移を起こす。
がんができるのは生活習慣、環境、加齢、発癌物質、ウイルス、感染などが原因で、遺伝子変異が起るからである。
がんは多細胞生物の宿命であるが、予防や治療が可能。
リチャード・ドールは、がんの原因は食事、タバコ、感染だと調査から結論付けた。私は、1990年に「くらしの手帳」という雑誌で、京都の消費者運動をしている主婦とがんの疫学者を対象にアンケートを行ったことがある。がんの原因に対する認識に大きな乖離がみられた。
また、2003年に食品安全委員会の食品安全モニターのアンケートをみたら、がんに対する認識は1990年とあまり変わっていなくて、ショックだった。

放射線の影響
放医研の評価委員をしていたことがある。
100ミリシーベルト以下は直接のデータがないので外挿するしかない。
100ミリシーベルトは身近にあっていつも浴びている量で、なんでもないと私は思う。
日本人は、自然環境から1.5mSv、レントゲンなど医療で3-5mSv、生涯(80歳)で520mSv。しかし、ヒトのがんを起こす要因は、食事、たばこ、感染、その他がほとんどで、放射線によるがんは5%。人間は自分の体からも放射線を出している。
放射線のリスクはないほうがいいに決まっているが、規制値は500ベクレルでいいと思っていたが、100ベクレルになった。私たちは放射線の中で暮らしているのだから、ゼロベクレルを求めるのは意味がないと思う。

食道がんのベルト地帯
中国には食道がんの多い地域がベルト上に広がっていて、子どもがダンスや歌で食道がんの早期発見を呼びかけている。
1980年代、食道がんの多い林県(中国東部の山岳地帯)で、発がんの原因のニトロソアミンが多いかどうか調べた。プロリンをのませたら、ニトロソプリンができた。ビタミンCを一緒に与えたら、ニトロソアミンの合成が抑えられた。
ビンロウジュの実を噛む(パンチューイング)習慣があり、これをすると口の中で赤くなって、それを道で吐いてあった。これも原因のひとつだと考えられる。

がんにならないために
全死亡のうち、喫煙は22%、がんの死亡者のうち、喫煙は25%。
たばこは吸わないほうがいい!吸っている人は早くやめたほうがいい!
喫煙者は自費でがんになって研究材料を提供し、医療費をみつぐ 究極のボランティアと言えると私は思っている。
岐阜大学長時代、恣意的な禁煙対策委員会をつくり、反対もあったが、禁煙キャンパスにした。「禁煙キャンパス」という理念が大事。4年続けたら、効果が現れてきた。「禁煙、分煙、防煙」を実施している。時間があると、禁煙イエローカードを作って、学生に渡したりしていた。
ちょうど、このころ、BSE問題が浮上した。BSEのリスクは危険部位除去で1兆人に3.3人、喫煙者のがんのリスクは100人に32人、非喫煙者のがんのリスクは100人に20人。喫煙者のリスクとBSEと比べるのはおかしい。
安全は科学的、客観的、確率的で、安心は心情的、主観的、絶対的。「安全安心」を4字熟語にしていいのか。くらしとバイオプラザ21は安心への理解を助けるための活動だと思っている。
安全は社会の責任。安心は本人の問題。
私の父は子どもに注射をしない主義だった。安心のために注射してくれという母親に「それならあなたに注射をうつ」といったら、その患者は来なくなった。安心と安全を一緒にするのはおかしい。

がんをみつけるために
がん細胞が1億個になるとレントゲンにうつる、10億個で手に触れる、1兆個で死ぬ。
早期発見すれば助かる。ステージ1で発見された胃がんの5年後の生存率は90%以上だが、ステージ4では3年で2割になってしまう。
結腸がんも胃がんのように早期発見が重要。
がん検診は重要。数学的にがんの死亡率はべき乗の法則に従っており、1年たつと、がんのリスクは1割増加する
がん、脳卒中、心筋梗塞は1年で9-12%ずつ、リスクは上昇するが、がんは最も高い。
早期診断の技術(胃がんには胃カメラ、前立腺がんは腫瘍マーカー、乳がんはマンモグラフィなど)がいろいろ発達しているのだから、上手に使って早期に発見してほしい。

TK(トシオ クロキ)の場合
私のポリープのデータを見ると1992年に4個見つかり、1997年には最高で7個だった。コムギふすまのビスケットを食べ始めた。毎食6個ずつ食べるのが面倒で朝、18個食べたりしていた。1999年10月、狭心症になった。そのために、アスピリンを毎日のむようになったら、ポリープがなくなり、落ち着いている。
1973年から腰痛で、歩けないようなぎっくり腰を3回、経験している。今は水泳と腹筋背筋体操で生活を維持できている。
1992年から、大腸がんは検査していて、大丈夫。
健康上の異常から、これから2年間に、私(現在76歳)には死ぬ理由はない!
40歳の人が75歳以上まで長生きするときの危険因子は喫煙と高血圧。

まとめ
生は死を内包しており、健康は病を内包している。
・タバコをやめること。
・毎年、健診を受けること。
・それでもいつかは死ぬ。


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懇親会風景1 今村恭子さん、寺井さんによる演奏
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懇親会に集まって下さったサポーターの皆様 10年間、お世話になりました。これからもよろしくお願いします

皆様のお支えにより、NPO法人くらしとバイプラザ21は設立10周年を迎えることができました。心より御礼申し上げます。
これからも今までと変わることなく、お力添えを賜りますようお願い申し上げます。