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筑波大学・農林中央団地・遺伝子組換え作物ほ場見学会開かれる

 2012年8月2日、つくばバス見学会を開きました。今年度は毎年、見学している中央農業研究機構、(独)農業生物資源研究所に加えて、筑波大学遺伝子実験センターから訪ねました。昨年と同様に筑波大学遺伝子実験センター「形質転換植物デザイン研究拠点」との共同研究の事業です。大学の実験室や、屋内外の遺伝子実験施設を訪ね、研究開発段階の遺伝子組換え植物を見学することができました。24名の参加者には今回、大学生や生徒11名がいたことも特徴でした。最後には、大学生や生徒達から、「もっとバイオの勉強をしようと思った」「バイオの道に進みたい」という心強い声を聞き、参加者全員、充実感を持って見学会から戻りました。


筑波大学遺伝子実験センター

はじめに、小野道之准教授より遺伝子組換え作物誕生までの説明があり、センター内外の温室と模擬的栽培ほ場を見学しました。

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「この部屋はP2です」 「-80℃の冷凍庫の中の資源が失われ、空っぽになりました」
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小野道之先生の研究のアサガオ 遺伝子組換えユーカリの試験栽培を行う、
日本一背の高い特定網室

お話の主な内容
これまで、科学が発展して実社会の中で科学技術として応用される中では、マイナスの成果が生じてしまったこともありました。例えば、原子力爆弾の開発や化学物質による公害などです。遺伝子組換え技術はこれらより後に1970年代になってから生まれた科学技術です。1975年にこの技術が完成することが判った際、関係する研究者が28カ国から集まって、アシロマ(米国、カリフォルニア)で国際会議を開き、負の遺産を産まないように注意しながら研究を進めることを、研究者自らが決めました。実験内容や実験施設は届出制によって行い、安全委員会の審査を経なければならないことにしたのです。実験施設は物理的封じ込めの度合いによってP(Physical)1からP4まであり、ここにはP3まであります。P1は理科室の窓やドアを閉じた状態とほぼ同じ。P2は安全キャビネットと言う、空気を濾過(ろ過)するようになっている箱の中で実験操作を行います。こうして、実情に即して規制を変化させながら、今日に至っています。遺伝子組換え実験では、現在まで1件の事故が無いことは、生物学者の誇りです。
 センターには、–80度の冷凍庫が10数台あったが、3.11東日本大震災の停電でこれらに保存されていた生物資源(DNA、細胞、組織など)の半数は溶けて失われてしまいました。復元しつつ研究を進めているが、失われたものの中には貨幣に換算できない価値のあるものもありました。


網室とほ場の見学

特定網室(風は網戸を通じて出入りするが、温室内で使った水や資材は高温高圧滅菌してから出される)といわれる温室では、遺伝子組換えのトマトやユーカリの試験栽培が行われていました。環境影響評価が進み、次の段階に進んだ寒さに強いユーカリは、文部科学大臣の確認などを経て模擬的ほ場(塀で囲われていて、人の出入りが規制されている)で栽培されていました。

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特定網室の中で遺伝子組換えトマトが試験栽培中 囲いの中の手前は寒冷耐性を与えた遺伝子組換えユーカリ、
背が高いのは組み換えていないユーカリ

〜バスで筑波大学から農林団地に移動しました〜

資源作物見本園と雑草園の見学
(独)農研機構中央農業総合研究センター 研究支援センター業務第1科長 吉川亮氏
資源作物見本園には、40種類のイネ、66種類の資源作物(食料、香辛料、線維などの原料になる)が栽培され、雑草園には、除草剤などの研究のために雑草が栽培されています。吉川先生に案内して頂きました。
http://www.naro.affrc.go.jp/nics/mihonen/catalog.html

見学の後、暑さを逃れてバスの中で質疑応答を行いました(○は参加者、矢印は吉川先生の発言)。
○ソルガムをすき込んであったが→ムギやダイズを植える前に、ソルガム、ダイズなどを栽培し、刈り取って、刻んで土に混ぜる(すきこむ)。地力が高まり、通気性がよくなる。
○見本園に生えているキアノは何に使うのか→キアノやアラマンサスは小さい実を食用にする。最近はセシウムを吸収させて刈り取ってしまう「除染作物」として研究している。
○雑草園の雑草は何に使うのか→種をとり、除草剤や雑草同士の競争の研究に使う。雑草を、雑草として育てるのは作物より難しい(作物は栽培しやすいように改良されている)。雑草も種をまき、苗を育てて、植えつけて育てている。
○なぜ、雑草の栽培は難しいのか→雑草のほとんどは外来。イネ科の雑草は、日本の気候にあっていて、虫や夏の暑さに強く育てやすい。イネ科以外の雑草の栽培は難しい。
○雑草の定義は→人が決めたものだが、ひとりで生える力があり、繁殖力が強い植物とういことになると思う。

食と農の博物館の中には、19のセンターや研究所
の展示がある
雑草園
駆除が難しく、鋭いトゲを持つワルナスビ 資源作物見本園
吉川先生に質問 試験栽培中のコシヒカリ
試験栽培中の花粉症治療コメ 遺伝子組換えダイズの畑。除草剤をまかないと、
雑草でいっぱいになる



遺伝子組換え作物展示ほ場見学           農業生物資源研究所広報室 笹川由紀氏

除草剤耐性ダイズ、害虫抵抗性トウモロコシの展示栽培を見学し、笹川先生の説明を聞きました。
遺伝子組換えダイズは、特定の除草剤に対して耐性を持っているので、その除草剤を散布すると雑草だけが枯れ、遺伝子組換えダイズは元気に成長します。けれど、別な種類の除草剤をかければ、すべて枯れてしまいます(写真16の右は特定の除草剤に枯れないダイズ、左は異なる除草剤に枯れてしまった遺伝子組換えダイズ)。
害虫抵抗性のトウモロコシを食べると、害虫は死んでしまいます。表面にかじった跡は残っていますが、元気に成長します。アワノメイガの幼虫は抵抗性を持たない普通のトウモロコシの葉や茎を食べ、茎の中を食い荒らすのでトウモロコシは倒れてしまいます。

手前は遺伝子を組み換えていない大豆が除草剤に枯れて
しまった畑
除草剤によっては遺伝子組換えダイズも枯れてしまう
(向かって右)
トウモロコシの茎の中は幼虫に食い荒らされていました 遺伝子組換え蚕の糸でつくったジャケットとマフラー
青い光をあてて、黄色のフィルターを通すとピンクだった
マフラーはオレンジ色にみえます
田部井先生のお話

講演1 「世界の栽培状況と研究の動向」          筑波大学 准教授 小野道之氏

世界の状況
人口増加と生活スタイル欧米化(肉食化に伴う家畜の増加)の結果、現在の穀類の生産量は地球規模では既に不足しています。この21世紀の課題に対し、生物学と政治で解決を考えていく必要があります。遺伝子組換え技術だけが唯一の解決手段では無いが、今後の主要な技術になることは間違いないと考えられます。
例えば、アルゼンチンやブラジルでは、ほぼ100%が遺伝子組換えダイズになっています。 その結果、両国のダイズの生産量は5倍になったそうです。遺伝子組換え作物の世界の栽培面積は、1996年から10数年で60倍余に増加。現在も急増し続けています。遺伝子組換え作物が生産者にとっても魅力あるものであることがわかります。農家の増収は、先進国ばかりではなく、発展途上国の農民に対しても同程度の利益があります。現在、世界では、ダイズの81%、トウモロコシの29%、ワタの64%、ナタネの19%が遺伝子組換えになっています。この事実は、これらがいかにすばらしいものであることを物語るだけではなく、日本の自給率の低さを考えると、日本が既に遺伝子組換え作物の恩恵を受けていることが判ります。2012年現在、日本では遺伝子組換え作物の商業栽培は行っていないけれども、世界最大の消費国であるのです。
日本の穀物の輸入量は驚くほど多いのが現実です。日本が誇るイネの総生産量が年間約900万トン、しかしトウモロコシの輸入量はその約2倍です。特に飼料用を中心としたトウモロコシが多く1600万トンです。パナマックス(パナマ運河を通れる最大のタンカー5万トン詰める)という大きい船が、日本には毎月20杯分、穀物を運んできているのです。その供給元である米国では、81%が遺伝子組換えであることから、計算上は相当量の遺伝子組換えトウモロコシを輸入しています。これらが食品表示などで目にする機会が少ないのは、飼料用、原料(油、澱粉、転化糖の原料)などの表示しない食品等として消費されているためです。
遺伝子組換え作物は、日本では8種類の植物における189品種が認可されています。その多くは、除草剤耐性ダイズと害虫抵抗性トウモロコシであり、ワタとナタネがこれらに続きます。害虫抵抗性の場合、植物体内でできる害虫抵抗性タンパク質が人には影響しないかどうか、既知アレルゲンと比較してアレルギーを誘発しないかなどが徹底的に調べられています。除草剤には、何でも枯らす非選択性と、特定の植物を枯らす選択性がありますが、栽培期間中に撒いても雑草だけが枯れるように、遺伝子組換えで作物を強くしています。ウイルス抵抗性の作物は、ハワイ島のパパイヤのウイルス被害を駆逐した。2011年12月には日本でも輸入が解禁になった。パパイヤは、大手の種苗会社ではなく、地元の研究者が必要に迫られて開発に成功した。

海外で開発中の遺伝子組換え農作物
・栄養機能向上:発展途上国で深刻なビタミンA不足を解消するために、その前駆体を強化したゴールデンライスなど。糖尿病や心血管疾患のリスクを低下させる「フラボノイド強化トマト」
・厳しい環境に耐える:乾燥耐性トウモロコシ、干ばつ耐性コムギ
・飼料用牧草:ウイルス耐性クローバー、乳質を向上させる糖質を高く含む牧草
食べるワクチン:食べるコレラワクチンができると、器具による二次感染のリスクがなくなり、設備の整っていない途上国でも使える。

国内で開発中の遺伝子組換え作物
寒冷・乾燥・塩害に強い作物
土壌中の有害物質(カドミウムなど)を吸収する植物。現在は、セシウムを吸収する植物の研究が進んでいる
病気に強くて丈夫な作物
コレステロールが上がらないようになるタンパク質

花の研究
現在、国内で商業栽培されている遺伝子組換え植物は青いバラだけ。私は植物生理の花成研究をアサガオを使ってしているが、花のデザインによる品種改良法として、八重咲き、切り咲き(花弁に切り込みが入る)、黄色の花を得る方法の開発を共同研究として進めている。朝顔の浮世絵に黄色の八重の切り咲きがあり、目標である。今は現存していない花形と花色に、遺伝子組換え技術を使って挑戦することで、遺伝子組換え実験の国民的な理解を得るきっかけとしたい。

まとめ
 遺伝子組換え技術の素晴らしさは栽培面積や比率の毎年の増加が物語る。人類の英知を結集し、生物界の法則の生存・進化の仕組みを利用した技術だから、必ずや人類に貢献する技術であると思う。


遺伝子組換えスイートコーンの試食

田部井先生のお話の準備の間に、見学した展示ほ場で収穫された遺伝子組換えスイートコーンが試食を希望した人に配られました。収穫適期に間に合わず、冷凍保存のものでしたが、とても甘いトウモロコシでした。



講演2 「一般ほ場と遺伝子組換え作物隔離ほ場比較見学会」
                    農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究推進室長 田部井豊氏

最近の研究
バイオ製品の国内市場規模は1兆6,762億円。そのうち、遺伝子組換え農作物は5,966億円(輸入が含まれる)で大きい市場がある。
我々はヒト用スギ花粉症治療米を開発中。レトルトパックの白飯で提供したい。ヒトは腸で栄養素が吸収された時、アミノ酸が10〜12個あると、異物と認識して反応する。しかし、食品で食べると異物として拒絶せずに腸から吸収される。これを利用して、米に花粉症の原因になるタンパク質のアミノ酸配列の一部分(エピトープ)を7種類作らせ、食べるうちにアレルギー症状が緩和することを目的としている。第1相まで試験したところで、製薬企業が協力してくれたらと考えている。
もう1つ、現在野外で試験栽培してる遺伝子組換えイネは同時にいくつかの病気に強くなったイネ。生物研の研究者がOsWRKY45というイネの遺伝子を見つけた。イネには、病原体が来るといろいろな遺伝子を発現させる司令塔がある。OsWRKY45遺伝子を強めてイネに戻すと、病気(いもち、白葉枯れ病)に強くなることがわかった。しかし、OsWRKY45を強めすぎると成長が悪くなった。そこで、OsWRKY45のプロモーター(遺伝子発現のスイッチのような働きをする配列を持ち強く発現する)の働き方が異なるもの(①強く働く、②病原菌がくると働く、③そこそこ強い)との組み合わせについて比較研究をしている。OsWRKY45は今後、いろいろと利用できそうな、期待できる遺伝子。

遺伝子組換え作物ができるまで
研究段階から一般圃場で栽培できるようになるまでに、①生物多様性への影響評価、②食品としての安全性、③飼料としての安全性の3種類の評価を受ける。そのためにいくつもの試験を行い、審査を受ける。
評価が進むにつれて、試験をする場所も実験室、閉鎖系温室(空調で空気の出入りを管理)、特定網室(虫は出入りしない)、模擬栽培圃場(隔離圃場)、一般圃場と進む。
環境影響評価は、①周辺生物を駆逐しないか、②有害物質を出さないか、③交雑が強くて、元の植物とおきかわってしまわないかの3点から評価する。

遺伝子組換え食品
食品としての安全性は以下の2点をみる
・組換えによる栄養素、毒素、抗栄養素(消化酵素の阻害剤)を非組換えと比較する 
・導入した遺伝子がつくるタンパク質の安全性
有害性とアレルギー誘発性については、既に知られている毒性物質やアレルゲン(アレルギーを起こす原因となるタンパク質)と、構造的に似ていないか、どのように体内で分解(消化)されるかなどを調べる。



 
暑い一日、お疲れ様でした!  

筑波大学、農林団地の皆様のお陰で、充実した見学会になりました。御礼!