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セミナー「なぜ米国の生産者はバイオ作物を生産するのか〜
バイオ農作物のメリットを探る」に参加して

 アメリカ穀物協会と米国大使館農務部により標記セミナーが9月5日(金)アメリカンセンターで行われました。会場には出版関係者、役所関係者、マスメディア、農業経営者、消費者などの様々な分野の人たちが100名ほど集まりました。くらしとバイオプラザ21は、これまでも私たちの口に入る農作物についていろいろ調べたり、見学したりしてきた経緯から、今回は米国の生産者の方の現場のお話をうかがいましたので報告します。


ウェンデル・ショウマン(Wendell Shauman)さんのお話

 私の住んでいる村の人口は800人で、イリノイ州西部にあります。
 私の畑は400ヘクタール(1辺が2キロの正方形)で米国では平均以下の規模です。そのうち、組換え農作物を60ヘクタール作付けしています。そばにミシシッピー川が在りイリノイ州最大のエレベータもあります。1,400トンを2時間で艀(はしけ)に乗せることができます。最高15の艀がつながり21,000トンを乗せ、メキシコ湾まで1,700キロの距離を運んでいきます。作っているのはトウモロコシと大豆(組換え、非組換え)で、非組換えは日本への輸出用です。
 私自身は大学時代に化学を専攻しましたが、大学院では農業に近い、トウモロコシの遺伝学を勉強。祖父の後を継ぐまで、種子会社で育種の研究をしていました。現在はアメリカ穀物協会やイリノイ州トウモロコシ組合理事などを務めています。

遺伝子組換えトウモロコシを栽培している理由

1.アワノメイガ(害虫)の食害を起こさせないため
 アワノメイガの幼虫は茎の中に入ってしまい、傷ついた茎は腐っていき、倒れてしまいます。倒れたり、実が落ちるとコンバインで収穫できません。
2.穀物へのカビ毒がなくなる
 傷ついた穀物にはカビが発生し、毒(マイコトキシン)ができます。実際に被害が発生するのは特殊な条件が重なった場合だけで、私も1回しか経験したことはありません。BTトウモロコシでは害虫による食害が減るので、BT作物を使うことは穀物の品質向上につながります。
3.環境面での利点
 害虫抵抗性組換え農作物を用いると殺虫剤散布の必要がなくなり、作業する私にも、環境にも優しくミツバチなどの益虫を殺さないですみます。残留農薬の心配もありません。
4.収量増加
 遺伝子組換え農作物の収量は、非組換え農作物に比べて約1割増加します。(1ヘクタールあたり1.3トンの収穫増加。)従来の品種改良では0.5%しか増加できませんでした。またアワノメイガの発生が多いときほど効果は大きくなります。
いまや収量がふえて1ヘクタールあたりの収穫目標量は50年前の目標の2倍です。

アワノメイガ 茎が腐っていくところ
アワノメイガ 茎が腐っていくところ

バイオテクノロジーの位置づけと将来

 バイオテクノロジーは従来の科学の延長線上にあると理解しているので、不安を感じてはいません。
 30年前には人口増加に対して食糧生産が追いつかないと思われていましたが、現在我々は科学の力で食物を供給しており、悲観的な予想は科学の進歩のおかげで外れました。私達は現状を改善し、適合し、進歩していきます。
 遺伝子拡散を懸念する声もありますが、虫の入っていないよい品質の作物を私は収穫したいと思います。

バイオテクノロジーの利点

 はじめに開発された遺伝子組換え農作物の利点が収穫が増え、農薬使用量が減るなど生産者に直接つながるものであったことは、バイオのもたらす効果を市民から遠ざけたかもしれません。消費者には品質、味、新鮮さ、栄養増加などの方が理解しやすいものです。これからはこのようなものが増えていくことでしょう。

米国政府機関の評価、試験への信頼

 EPA(米国環境保護庁)による環境チェック、FDA(米国食品医薬品局)による食品の審査,USDA(米国農務省)による農作物の栽培に関する環境リスクに関する独自の審査が行われており、私たちは、家族を守るために上記の3つの機関を信頼し、品質保持のためにこのような機関やその評価を信頼しています。


 コメンテーター林健一氏(農林水産先端技術産業振興センター顧問)よりショウマン博士のお話のまとめと代表的な質問が行われ、会場の質問も交えて質疑応答が行われました。

質問を聞くショウマン氏(向かって左)コメンテーター林氏(向かって右)
質問を聞くショウマン氏(向かって左)
コメンテーター林氏(向かって右)

質問1:花粉飛散により、雑草に遺伝子が移動したら、環境が変わってしまわないか。
回答:外国から輸入した組換え農作物に不安を感じることは否定しないが、問題になっているトウモロコシの花粉の飛散は3メートルくらいで、そんなに問題ではないと思う。
 組換え、非組換え大豆の両方を栽培しているが、組換え農作物に対して散布する除草剤散布は1回でこれは土地にやさしく環境保全につながる。
 非組換え農作物では除草剤は普通は4回でこれは日本輸出用。殺虫剤は組換え、非組換えともに3回程度散布。
 また、自然とは変わるもので、害虫の種類も変化しており、害虫害が始まったのは30-40年前。自然は変わりながら問題を解決していくのだと思う。

質問2:米国では組換え食品の表示はどうなっているのか。
回答:遺伝子組換え食品であることについては義務的な表示はない。

 厚生省HP 諸外国での規制の状況

質問3:現状の市民の感じとして感覚的な不安があり、リスクがあって、非組換えを選べる環境があるときには、遺伝子組換え食品を購入するようには考えられない。選びたくなるようなものを作るべきではないか。
回答:選択できることはよい。日本のように組換えを売っていないために選べないのはよくない環境。
 リスクはないと思うのでこの点では(質問者と)合意できない。利点は、まず生産者にとって大きかったが、これから消費者にメリットが出てくるはずだと思う。
 日本の食品メーカー、小売業者は組換え食品を扱わないが、同じ価格で非遺伝子組換え食品を手に入れたいという日本の消費者の要望や感情論は残念ながら理解しがたい。

質問4:科学館の来館者に聞くと、遺伝子が入ったものを食べたくないというが、非組換え表示の食品を多くの人が求めていることについてどう考えるか。
回答:表示によって選択できることはいいが、日本に選択肢がない現状はとても残念だと思う。

質問5:遺伝子組換え技術を用いた機能性食品を生産する予定はあるか。
回答:希望的にはそういうものも将来作ってみたいと思うが、医薬品をつくることを目的とした遺伝子組換え農作物の交雑のことがあるので広い圃場、温室などの規制の中で行っている。これは、安い値段で薬を提供でき米国の医療費削減に貢献できるかもしれない。

 米国医薬品局:医薬品を作るトウモロコシが混入した大豆を破棄 2002.11

質問6:分別栽培や分別流通はどうやっているのか。
回答:15年くらい前から隔離し扱ってきている。コーンは10フィート(約3.3メートル)が要求されているが実際にはもっと離して栽培している。
 大豆については、保存などを分別している。タンクのクリーニング、コンバインの清掃に半日くらいかかる。できるだけ多くを取り除きたいと思っており、移動用のトラックも完全に空っぽになっていることを確認している。艀(はしけ)も洗浄しており、コストにあわなくても品質のためにかなり厳しく管理している。

質問7:遺伝子組換え作物と非組換え作物におけるカビ毒の減少を示す数字があるか。
回答:データを見たことがあるが、生産現場では局所的に発生し、その後の分離が簡単なので実際に問題になったことはない。

質問8:米国の消費者の組換えへの不安が低いというが、消費者とのコミュニケーションはどのくらいのレベルで行っているか。専門家の説明が日本の消費者には理解できず伝わらない。
回答:農民、組織でそういう活動をしている。米国ではコミュニケーションの問題はほぼ解決してしまった。定期的に穀物協会でコミュニケーションをしているが、そんなに問題になっていない。

質問9:組換え、非組換えの買い上げの値段の差は。
回答:すべて契約による。ブッシェル(容量34.24リットル)あたり35セントから1ドルの差があることもある。
 低いと1トンあたりの差は14ドル。非組換え農作物のための分別作業や装置の洗浄には手間がかかるので実際にはもっとコストがかかっているかもしれない。

質問10:米国の3つ役所(EPA、FDA、USDA)の連携は本当にうまくいっているのか。生産者は行政の試験内容を把握しているのか。
回答:経験を重ね、どの機関も誤解を生むようなことはしていないことを知っている。各機関が連携、調整をやっている。農民はきちんとして仕事をしていることを消費者に見せることが大事だと思う。
 食品が組換えかどうかはあまり気にしないのが米国の消費者の傾向であり、規制機関の規制システムは国際レベルから見てもよくやっていると思う。
必要が生じれば、厳しい輸出規制に従い、非組換えを海外市場向けに作っており、日本の消費者の用いる基準に合わせることもできる。

質問11:買い上げ価格がいくら増えたら、日本の顧客に合わせてすべて非組換えにするか。
回答:日本の消費者は値上げは嫌うが、非組換えにしても倍の価格ほどには増えないと思う。非組換えコーンの収量は少ない。分別のコスト、作業に伴うストレスを考えてみあう契約ならありえる。買い上げ価格が倍などになることはない。

質問12:あなたの畑のトウモロコシはおいしいですか。
回答:心から愛しているが、私が作っているのはほとんどが飼料向けなので、かじったりはしない(笑い)。

 なお同センター9階にはレファレンス資料室があり、月〜金の12:00〜6:00は資料の閲覧やコピーができます。13:00〜17:00には電話相談にも応じてくれます。

 アメリカン・センター・レファレンス資料室(ACRS)


 参加者の質問からうかがわれる日本の消費者やユーザー(加工業、小売など)の気持ちとショウマンさんの話の間には隔たりがあることがわかりましたが、主催者もいっていらした通り「それでも、こういう機会をつくり続けていくことが意味がある」のだと思いました。双方向で意見を交換して初めて、理解しあえていなかったことに気づき、コミュニケーションが成り立つ、と私たちは考えています。







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