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バイオカフェレポート「ご存知ですか?遺伝子組換えトウモロコシを牽引していることを」

2013年2月8日、茅場町サン茶房で、バイオカフェを開きました。お話は日本たばこ産業㈱経営企画部小鞠敏彦さんによる「ご存知ですか?遺伝子組換えトウモロコシを牽引していることを」でした。初めにクラリネット演奏が中村紋子(あやこ)さんによって行われました。メンデルスゾーンの春の歌など、なじみ深い旋律が優雅に奏でられました。

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「クラリネットには音程が半音異なる、
A管とB管の2種類があります」
小鞠敏彦さん

お話の主な内容

日本たばこ産業とは
日本たばこ産業(JT)は、売上の7割がたばこですが、食品も盛んで、食品メーカーの中では上位にいて、飲料、冷凍食品、調味料などいろいろな食品をつくっている。例えば、焼き立てパンのベースとなっている、冷凍パン生地などを販売している。
植物の分類
植物には単子葉類と双子葉類という分類がある。このほかに、裸子植物と被子植物というもっと大きなわけ方もある。食べ物に関係する植物のほとんどは被子植物だが、ギンナンの採れるイチョウは裸子植物である。また、ワラビ、ゼンマイなどは、シダ植物というさらに別の分類になる。
厚生労働省が示した6つの食物群の中で、単子葉植物は、イネ、コムギ(パン)、トウモロコシ、オオムギ、エンバク、サトウキビ、サトイモ、ネギ、タマネギ、ニラ、アスパラ、ユリ(根)、バナナ、パイナップルなど。これに対して、野菜の大半と豆類は双子葉で、種類が多いが、家畜のエサのことまで考慮すれば、食べ物の3分の2から4分の3が単子葉植物由来なのではないかと思う。

トウモロコシの使用量
トウモロコシというと、消費者はスイートコーンのイメージが強いが、実際に流通するものの大部分は、乾燥させた硬い粒状のもの(グレイン)。日本で利用されている家畜飼料、コーンスターチ、甘味料の多くはは、トウモロコシから作られている。日本では、1600万トンのトウモロコシを使っていて、世界で一番多くのトウモロコシを輸入している国である。日本の米の消費量は約800万トンだから、トウモロコシは米とムギをあわせたよりたくさん使われている。
スイートコーンはごく一部で、大部分は飼料用のトウモロコシ(デントコーン)である。
トウモロコシは粒にデンプンを貯めるが、スイートコーンではデンプン合成酵素が失われていて、未熟なときに収穫するので甘い。糖はすぐに分解するから、朝取りがおいしい。 スイートコーンのタネは糖が分解してしまうので、クシャクシャで小さくなってしまう。
参考サイト アメリカ穀物協会 URL: http://grainsjp.org/grains/

トウモロコシの栽培
従来のトウモロコシの栽培は、害虫と雑草との闘いで、家族経営の農場では収穫が安定していなくて大変だった。遺伝子組換え(GM)トウモロコシは虫に強く、殺虫剤を余りまかなくていいので、手間が省けて都合がよい。
ダイズの場合は雑草の被害が大きい。選択的除草剤を何回もまくが、除草剤耐性ダイズでは、横に小さい雑草が生えたときに1回農薬をまけばよいので農家の役に立つ。
アメリカのダイズとトウモロコシは、ほとんどが遺伝子組換えになってきている。この他に、ナタネやワタも農家の役に立っており、だから、世界の遺伝子組換え作物の栽培面積が増加している。
日本で消費している1600万トンのトウモロコシも9割以上が組換えということになり、日本の食卓には、アメリカのGMトウモロコシが姿を変えて乗っていることになり、関係は深い。実際に私たちの食生活において遺伝子組換え技術は必要不可欠の技術である。

トウモロコシの種子
トウモロコシの植物体の上にある花は雄花で、雌花は下に咲く。自分の花粉では交配しない(他花受粉)。これに対してイネは自花受粉。一般に他家受粉の植物では、自花受粉を繰り返すと貧弱になってしまう(矮小化)。このようなトウモロコシを交配させると、1代限りではあるが、両親をはるかにしのぐ多収の雑種「ハイブリッド」ができる。販売されている大部分のトウモロコシの種子はハイブリッド。ハイブリッドになって収量は飛躍的に伸びた。アメリカでは1920年代から多収性品種のほとんどはハイブリッドになってしまった。 従来種の倍の収量があると、種の価格が10倍高くても農家は得する。 遺伝子組換え作物の種はもっと高いが、さらに上回る収量がある。企業も儲かる。農家も儲かる。消費者には安い穀物を提供できる。みんなハッピーの図が1920年代以降に実用化した事例である。技術者の夢の構図が実現したともいえる。遺伝子組換え技術は大事な技術である。

遺伝子組換えをどうやって行うか
30年位前からできるようになった 最初にできたのはタバコやジャガイモなど。
遺伝子組換えには、土の中のアグロバクテリウム(根頭癌腫病菌)を使う。
果樹園が最も嫌がる病気で、こぶを作る。この微生物は土にいるより、水と餌になるアミノ酸があって安全なこぶの中で快適に暮らせる。多くの研究者が努力してこの微生物を利用する技術を開発し、こぶを作らせずに遺伝子組換え作物をつくるようになった。
何が難しいかというと、どういう状態の細胞に遺伝子を入れるのがいいのかという点。イネの生活環では、花が咲いて自花受粉し種ができ、これをまき、ある程度育つと田植えをし、成長する。この中から、適した状態の細胞を探さなくてはいけない。
双子葉は葉に傷をつけて培地に置くだけで、すぐに細胞が増え、そこから植物体が育ったりする。しかし、単子葉の葉に傷をつけても、傷がふさがってしまうだけで、うまく育たない。
稲の籾の胚の部分や、若い籾の未熟な胚(1mmくらいの大きさ)を寒天培地で培養すると、細胞が増えて固まり(カルス)になる。そこにアグロバクテリウムをかけると、単子葉で遺伝子組換えができることを見つけた!このやり方は、他の単子葉でもうまくいった。とくに、イネ、トウモロコシで研究が進んだ。最近は、コムギやオオムギでも、効率よく組換えができるようになった。
JTは、単子葉植物についてアグロバクテリウム法でも特許を持っており、海外の会社に使ってもらっている。

私たちの技術
JTの研究所は静岡県磐田にあり(ジュビロ磐田の本拠地)、研究開発を行っている。
世界で利用されている遺伝子組換えトウモロコシについて調べてみると、2004年以降のトウモロコシはJTの技術を使っている。アメリカのトウモロコシの7-8割はJTの技術で生まれたといえる。
遺伝子組換え作物をつくるには、役立つ遺伝子を見つけ、優良な品種に入れる必要がある。優良な品種の育成が重要で、モンサント、シンジェンタなどはここにも力を入れている。さらに、売り物になるように遺伝子を入れるのが大変で、ほしい遺伝子がひとつ入って、ちゃんと働き、他に悪い影響がないことかが重要。こうして遺伝子がちゃんと入った作物を「(組換え)イベント」と呼ぶ。1000〜2000株作って、最もうまく働くものを選び、数十箇所のほ場で試験栽培をして安全性を調べる。実用化するためには、100億円を越える費用がかかる。
組換えイベントができると、それぞれの会社の最新の優良品種と交配して、販売用の品種の種をつくる。
モンサント、シンジェンタ、デユポンは、栽培用の優良な種を農家に売ることもあれば、他の会社に交配用の組換えイベントの種子を売ることもある。
売られているトウモロコシ種子はハイブリッドである。ただし、農家は、自家採種ができないからハイブリッドを買わされているのではなく、種会社が作った品質のよい種がなければいい作物が得られないから。日本でも、ハイブリッドでなく自家採種できる品種であっても、種子会社の作ったきれいに選抜された種を利用するほうが、発芽も生育もよく収益があがるので、農家は種子を買う。
JTは1985年、専売公社から民間会社になった。たばこ事業で得たものを生かして、AB(アグリバイオ)作戦、CD(ケミカルドラッグ)戦略で行こうということになり、今日に至る。


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会場風景 イネの細胞の培養(向かって左は胚の芽になる部分、
右に向かって成長している)

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 難しかったところは→培養が難しかった。イネは日本に研究者が多いので研究が進んだが、トウモロコシはアメリカに研究者が多い。また世界の種の利益の半分はトウモロコシで、市場規模が大きい。ムギは研究者も少なかったが、ここ4―5年、研究者が増え、研究が進んできた。
    • なぜ、最初は、パーティクルガンが使われたのか→物理的方法だと余計に遺伝子が入ったりしていたため、実用化は早かったが大量に試験をする必要があるなど効率が悪かった。アグロバクテリウムだと、遺伝子をきれいにうまく入れることができる。JTでは1990年ごろに技術開発を始め、94〜5年に実用化できた。イベントができるのに10年かかり、世の中へ出せるようになったのは、2004年ごろになった。 
    • 除草剤耐性、害虫抵抗性以外にはどんな形質があるのか→アミノ酸のリジンが増えたもの、エタノール生産用のアミラーゼが入れたものがある。
    • 除草剤をまくと耐性雑草ができるリスクがあるのではないか→除草剤耐性遺伝子もいろいろあるから、組み合わせて耐性ができないように利用するのが大事。
    • 動物は難しいといっても、サケ、カイコもできているようだが→1970年代、動物の培養細胞で、遺伝子組換えはできていた。植物は細胞壁があって遺伝子が入りにくかった。動物には、植物のように分化全能性がないので、個体をつくるのが、植物より難しかった。遺伝子組換え技術はいろいろなことができるが、同時に限界もある。
    • シャーレの中の小さいトウモロコシはイベントと呼べるのか→組換えならそういうことになる。
    • 遺伝子を入れるのは難しいのか→実験室で20-30個体作るなら比較的容易。売り物を作るのは話が別で大変。イネの方がやりやすい。
    • 日本の消費者は遺伝子組換えが余り好きでないが、今後、どういう流れになると思いますか→私の夢は、日本で我々が開発した技術を使ってもらうこと。それは、日本の農業の問題だと思う。水田の面積が減少し、最大時期の3分の2。1970年に自給100%が実現できたが、余り始めたら減反政策になり、農家が減り、後継者がいない。農業を発展させる環境が整わないと技術は活用されない。農業を発展させ、おいしいお米を輸出し、不足する食料にあてられたらいいと思う。
    • パーティクルガンはどうか→アグロバクテリウムより、入る数が多すぎる。入れたい場所に入らない。エレクトロポーレーション(電気を使う)では細胞壁を溶かさなくてはならない。アグロバクテリウム法は植物壁を溶かさずに、きれいにひとつだけ入る場合が多い。
    • 遺伝子組換え食品について、人工胃液・腸液の消化実験をしていることは知られていない、JTはそういう広報をしないのか→JTの方針では、遺伝子組換え食品や遺伝子組換えたばこを扱わない。遺伝子組換えでは、よくわかった遺伝子をひとつ入れるだけで入れて、よくわかったものができていることはよく説明していると思う。以前、JTが組換え品種の事業化のための研究開発をしていたころは、説明しているサイトや本も余りなかった。日本モンサントも当時は、ほ場試験をまだ行っていなかった。我々は発信力が弱いが、慎重派は発信力が強くて、説明もうまい。
    • メキシコでトウモロコシの原種(テオシンテ)を見たら、トウモロコシと似ても似つかない形だった→人類の品種改良の積み重ねは偉大である。農作物は、原種から驚くほど変化している場合が多い。
    • アグロバクテリウム法は、成功率は高いのか→アグロバクテリウム法だと、トウモロコシの未熟胚100個から10個できる。今では50個位できる。イネの場合は100から1500個体作れる。
      選抜マーカーを除去する技術や、余分な遺伝子を入らなくする技術もJTは開発している。