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バイオカフェレポート「肝斑改善薬開発物語~お肌のしみの救世主」

 2013年4月12日、茅場町サン茶房でバイオカフェを開きました。お話は第一三共ヘルスケア株式会社研究開発部 輪竹麻美さんによる「肝斑改善薬開発物語~お肌のしみの救世主」でした。肝斑という種類のシミの改善薬がどのようにつくられたかが語られ、その背景にはシミで悩む女性を応援する温かいメッセージがありました。
初めに石垣澄礼さんのビオラ演奏があり、白鳥、トロイメライなどなじみ深い旋律が奏でられました。

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石垣澄礼さん 輪竹麻美さん

お話の主な内容

肝斑とは
肝斑とはシミの1種で出方に特徴がある。肝斑といっても肝臓の具合とは関係がない。形、色が肝臓に似ていることに由来すると言われている。境界不明瞭な淡い褐色で左右対称。頬骨のあたりに生じ、目の周り(スキーのゴーグルに隠れる部分)にはできない。男性の症例は数%。女性30-40代の女性に多く、高齢者では消えると言われている。生命にかかわるものではないが、シミがあると老けて見え、精神的なダメージは大きい。
シミには、肝斑以外にも、日光黒子(紫外線により生じるシミ。年齢には関係なくどれだけ紫外線を浴びたかによるシミ。)やソバカスがあり、でき方もその治療方法も異なる。
 
肝斑改善薬の開発
2007年に肝斑改善薬として「トランシーノ」を発売。肝斑改善薬は医者が処方する医薬品(医療用医薬品)ではないが、「新効能」の医薬品だったため、開発のハードルは高かった。
この薬は、OTC医薬品と言われるドラッグストア等の薬剤師がいる店舗で買える医薬品(これに対するのが医療用医薬品)として開発することに意義を感じていた。
第一三共ヘルスケア(株)のOTC医薬品としては、他にルル、ロキソニンS、ガスター10などがある。
 
開発の道のり 
医療用医薬品として「じんましん」に効能があったトラネキサム酸を服用した、じんましんの患者さんの肝斑が改善したという報告が、1979年、長野県松本の皮膚科医からあった。その後、関西からも報告例が出てきた。
皮膚科の治療指針にも、肝斑に対する処方例としてトラネキサム酸が書かれていた。私たちはそこに注目した。
 
ハードルが高い医薬品開発
今までにOTC医薬品で最もハードルが高かったものの例として、海外でOTC医薬品としての承認実績があったが、日本では医療用の承認すらないという成分があった。一般にOTC医薬品は、医療用で実績をあげた薬が転用(スイッチ)されるケースが多い。
トラネキサム酸は日本では抗炎症剤等としてOTC医薬品でも使用実績があり、安全性も確認されていたが、肝斑に対する効能効果は認められていなかった。
まずは、シミの改善をどう証明するのか、どんな皮膚科医も同じように改善状況を認められるか、肝斑をどう評価し表現し数値化するのか、が課題となった。そこで、日本人の肌の色調を測るスケール「スキントーンカラースケール」を開発し、色が何段階明るくなったかを測ることにした。
また、トラネキサム酸を服用している患者さんに対して、お医者さんの診断が主観的にならないように、同じ光源で同じ角度で写真撮影し、診断に関わっていない皮膚科医が改善度を写真判定する会を開催することにした。
次は患者募集。300人を集める予定だったが、当時は肝斑を知っている人がほとんどおらず、名前も形状も知られていなかった。また、シミで病院に行く人はあまりいない時代だった。インターネットも今のように普及していなかったため、どれが肝斑であるかを伝えるのも難しかった。
そのような状況において、主婦向けのフリーペーパーに臨床試験の患者募集の記事を掲載したことで300人を集めることができ、ビタミンCを主成分とする薬との比較試験で高い改善率を確認できた。そして、2007年9月に日本のOTC医薬品として初めて肝斑改善薬として発売することができた!
 
嬉しかったこと
発売当時、大きな反響があり、日経MJや日経トレンディのヒット番付や日経新聞の優秀製品にも選ばれた。
第一三共ヘルスケア(株)のトランシーノ相談室からも、クレームではなく、感謝の声が届くのは初めて驚いたと言われた。今も感謝の声は届いている。
 
再審査制度 
「新薬」には、承認後一定期間が経過した後に、企業が収集した医療機関での使用実績に基いて、承認された効能効果や安全性について再度確認する「再審査」という制度がある。トランシーノは「肝斑」というOTC医薬品としては新規の効能効果を得たために同制度が適用され、4年間にわたってデータを集積した。
再審査では、ドラッグストア等で購入頂いたお客様からの情報収集に加えて、皮膚科医に製造販売後臨床試験をして頂いた。2カ月間服用し、2カ月休むという試験であったが、休薬しても、肝斑は一番初めの状態までは戻らず徐々に改善し、繰り返しても効果が期待できることが分かった。
これまでの経験を通して、肝斑のメンタルダメージは大きいが、身近なドラッグストアで買える薬(OTC医薬品)としたことで、QOL改善に役立つことが分かった。この薬は人生を明るく生きる価値を与えられるLife Style Drugだと思っている。多くの人たちの楽しい人生に貢献したい。

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会場風景  

輪竹さんのお話の後、専門的な質問や各人の肌に関する素朴な質問が次から次に飛び出し、和やかな話し合いが行われました。参加者はみんなトランシーノを開発された方たちのご苦労や熱意、その素晴らしさを感じました。