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第10回コンシューマーズカフェ「これらの農業と食料について考える」

 2013年11月28日、くらしとバイオプラザ21会議室において、第10回コンシューマーズカフェを開きました。お話は宮城大学食産業学部フードビジネス学科三石誠司教授による「これからの農業と食料について考える」でした。グローバルな大きな視点から語られる「農業と食料」は参加者に多くのヒントを与え、活発な話し合いが行なわれました。

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三石誠司教授  

お話の主な内容

はじめに「私たちの主食は何か」
現在、日本ではお米が年間約850万トンとれていますが、皆さんは本当に3食ともお米を食べていますか?当然の事のように主食は米だと言いながら、実は農業総産出額のうち、金額で多いのは畜産という現状をご存じでしょうか?50年前は、1人当たり年間100Kg食べていたお米の消費量は今では57Kgになり、その分、乳製品、油、肉、卵が増えています。
こうした中で、相変わらず「日本人の主食は米!」という認識で良いのでしょうか。そうだとしたら今後も米が主食であり続けるためには何をすべきでしょうか。また、米が主食でないなら、私達はどう考え、何をすべきでしょうか。
今日は、こうしたことを一緒に考えてみたいと思います。
 
食料と食糧
まず、食「糧」は米や麦といった穀物のこと、これは主食のことを示しています。
これに対し、食「料」は、野菜・果実・魚介類などを含んだ食べ物全体を指します。
こうした言葉の微妙な違いは、日本語だけでなく英語にも存在します。
例えば、cornという英語には「その地域の主要な穀物」いう意味があります。イングランドでは小麦、スコットランドではえん麦、北アメリカ、オーストラリとニュージーランドではトウモロコシを意味します。このように、食料問題、食糧問題では言葉の使い方ひとつでも、お互いにコミュニケーションに注意する必要があります。
 
世界の穀物需給と日本の輸入
次のふたつは覚えておきましょう!
世界の油糧種子を含めた穀物はどのくらい生産されているのでしょうか?
答えは約30億トン!
日本には、毎年どのくらい輸入されているのでしょうか?
答えは約3000万トン
日本は毎年約600万トンの小麦を輸入しつつ、米を約850万トン作っています。
こう考えてみると、実は現代日本の食生活は米と小麦が両輪になっていることがわかります。日常生活を思い出してみて下さい。実際、その通りではないでしょうか。ご飯もパンも食べているのが私達の日常ではないでしょうか。


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会場風景 収穫と播種を同時に行うブラジルの農業

さて、日本は毎年トウモロコシを約1600万トン輸入しています。
飼料用がそのうちの1200万トンもあります。つまり、毎月100万トンのトウモロコシがパナマックス(5万トン積みの船)で少なくとも20隻、日本にやってきていることになります。このことを私は「見えないインフラ(invisible infrastructure)と呼んでいます。
「見えないインフラ」が順調に機能しているからこそ、蛇口を開くと水が出るように、アメリカから穀物を載せたパナマックスが水道管のようにつながっているということになります。ついでに言えば、食料と同様、エネルギー自給率4%の日本には中東からも同じように見えないインフラのおかげで石油が届いていることを忘れてはいけないと思います。食料と石油、これらはいずれも「見えないインフラ」のおかげで日本人の生活を守ってくれているということになります。
 
なお、アメリカ農務省の作付けレポートや、実際の国別輸入数量を元に試算すると、日本が輸入している穀物の半分にあたる約1500万トンが遺伝子組換え作物ということになります。国際アグリバイオ事業団の資料では、ダイズとワタの8割、トウモロコシとナタネの3割が遺伝子組換え品種と報告されています。
 
世界の将来人口
次に人口のことを考えてみましょう。食料問題は最終的には人口問題でもあるからです。
現在、世界の人口は約70億人ですが、2050年には90億人を超えると見込まれています。20億人の増加はアジアで10億人、そしてアフリカで10億人です。アフリカはその後も人口が増加し、2100年には36億人位になると見込まれています。このため、誰が、アフリカを食べさせるのかが、長期的に大きな課題であり、国際的な食料問題はアフリカを無視しては考えられません。
 
そこまで遠くない将来、2040年の東アジアにおける食料と農業の様子について、アメリカ穀物協会が作成した「FOOD2040」という報告書には、次の6つの予測が示されています。以下はその内容の概要です。

  1. 東アジアがバイオサイエンスの中心になるだろう。
     中国は大きなマーケット。日本が存在感を維持するつもりなら、新たなレベルの取り組みが大事。
  2. 中国の影響力が一層強くなるだろう。
     大きな顧客が中国である以上、いずれにせよ中国のニーズに応えなければならなくなる。日本は過去の成功体験をこれから活かせるかどうかが大事。
  3. 信頼の獲得
     安全性、品質、素性を実証できる供給業者が主役になるだろう。今は消費者が王様だが、次の王様は供給業者。食の安全性は「当たり前」なものになる。
  4. アジアの伝統的な食事の再評価
     アジアの食品が病気や健康に有効なことが科学的に証明されると、アジアの伝統的な食品、機能性食品がビジネスチャンスになり世界に広がるであろう。
  5. 食はサービスのひとつになる。
     自宅で調理が減少し(つまり外食率が大きく上がり)、食品は製品からサービスになっていくだろう。伝統的な主婦の仕事も伝統的な農業の仕事も大きく変化していく。
  6. 新たな超ニッチ時代が来る
     付加価値のある食品が主流になる。十分な市場があれば日本産農産物、特に非遺伝子組換え農産物はスーパープレミアム商品になるかもしれない。各々のニーズに適し、複雑化・高度化したサプライチェーンが必要になる。
  7. 参考サイト:FOOD2040
 
我が国の人口見通し
こうした流れを踏まえ、日本の将来を考えてみましょう。
まず、「生産年齢人口」という言葉を意識して下さい。これは、15歳から65歳未満の人口のことです。
日本の生産年齢人口は1970年代以降概ね8000万人でした。つまり、現代の日本社会は約8,000万人が動かしている大きなシステムと言っても良いかもしれません。今後、総人口が減少する見通しの中で、このシステムをどう縮小変換していくかが問われています。
 
例えば、今後、日本全体で生産年齢人口が3割減少した場合、どのようなことが必要になるでしょうか、想像してみて下さい。
 
現在と同じ生活水準を維持するためには、高齢者が働くか、外部から労働力を獲得するか、技術を活用して効率性・生産性を向上させるか、規模と水準の低下を受け入れるか、あるいは、これら全てを合わせて少しずつ対応していくことになるのではないかと思われます。それにしても、例えば、インフラ整備(上下水道の維持、道路の補修など)を誰がするのかでしょうか?社会システムの維持・管理には相当な人手がと労力が求められることは間違いありません。既に、人口減少予想が著しい秋田県などはそのことに気付いて動き始めています。
 
また、家族構成も大きく変わります。両親と子供といった家庭が標準的だった時代から、単身世帯中心の社会になっていくことが見込まれています。当然のことながら、家族構成が変わると食生活も変わります。この変化は食品産業や食品の構成、そしてマーケティングなどにも大きな影響を与えていくと思われます。
 
食料の生産部門はどうでしょうか。例えば、農協数をみると、1960年には1万以上の農協がありましたが、そのメンバーは8割が正組合員、つまり農家でした。一方、2010年の農協数は725で組合員総969万人です。そのうち正組合員数は472万人(49%)で今や、農家でない組合員が過半数を占めています。ここでも大きな変化が起こっています。
 
食料と農業を担うのはだれか
現在、わが国の農業人口261万人の平均年齢は65.8歳です。
同じ農家の中でも夫婦で別々な作物を作ったり、女性が耕作して男性が販路を探す役目をして成功している例もあるなど、様々な農業の形が登場してきています。その中で稲作は高齢者の割合が一番多いですが、若い人たちや女性にいろいろな興味深い取り組みをしている人が増えていることに注目していきたいと考えています。


話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 私たちがすべきことを考えるグラフ(縦軸は良い・悪い、横軸は正しい・間違っている)をみると、横軸はファクトですね。実際には、もっと多角的にみるべきではないか。 →横軸だけの判断はビジネスの判断に適合することが多い(正しい=儲かると考える)。しかし、現代社会は縦軸の倫理を問うようになってきている。だからこそ、縦軸の判断を合わせて行うことが求められている。
    • ブラジルの農業は機械化と規模の大きさが特徴だが、日本農業にはブレークスルーの可能性はあるのか→
    • ある。新しい物を発明するばかりがブレークスルーではない。同じ物でも新しい視点で見ること、制約条件を使いこなすことが重要。ベテランが無意識に持っている暗黙のハードルを壊してあげるのも年配者の仕事ではないか。
    • アメリカの戦後のパン食奨励でコメの需要が減少したのだろうか。 →アメリカがパンを食べさせる施策を日本に対して行ったのは事実だが、日本人自身もパンを美味しいと感じたからこそ選んで食べるようになった。顧客のニーズは尊重しなくてはならない。
    • アメリカ型の地力が落ちる農業はこれからだめだろうと思う。 →違ったモデルをつくれば良い。その土地に有機農業があっていたら、有機農業で付加価値をつければいい。規模拡大があっているのであれば規模拡大を追求すればよい。全てを一律にする必要はない。
    • 中国の1億の富裕層が日本の高級品を買うとして、それに応える日本にはビジネスの体力があるだろうか。 →あると思う。数人の町工場で海外に顧客を持っているところもある。本当に価値があればお客はどこからでも来る。価値のある人、価値のある製品があることを発信するのが大事。腕のいい外科医には世界中から患者が集まる。
    • フードロスについて。1600万トンの先進国の廃棄と、途上国の不足食料が同じとはどういうことなのだろうか。 →残念ながら現代の世界のフードシステムにおいては、途上国における生産・流通問題と先進国における廃棄問題は同じ影響度をもっているということ。日本は無駄をなくすことを考えるべき。食品、水、土地、全てが有限である。
    • 農業で食べている人で売り上げが1000万円以上の若い生産者や株式会社を作っている人もいる。 →働いている人が全て日本人とは限らない。分野別、海外の研修生として外国人がかなり働いている。日本ブランドは1960年代以降に確立してきたが、今後は維持がすごく大変だと思う。日本の数多い地域ブランドは100年単位の寿命を持つルイヴィトンのように残れるのかが本当に問われる。
    • ルイヴィトンは中国で製造してひろまっている。 →サンキストはアリゾナ発だが、スペインの生産者にサンキストのブランドを与えることでグローバル市場での競争力を付けている。中小企業のフットワークの良さがこういうときに生きるのではないか。「これだからだめだ」ではなく、「こうすればできるんだ!」と考えるべき。
    • 付加価値が高い米というが、カリフォルニア米も十分においしい。 →カリフォルニア米にもおいしいものはある。日本では、日本人に限らず日本のおいしい米を喜んで食べる人のためのお米をつくれば良い。世界でおいしいものを食べたい人は増えていくはずだから、日本の農作物は必ず伸びると思う。日本車はアメリカや欧州の市場を開拓してきたのだから、TPPが避けられないのであれば、それを活用して日本のおいしいものを出せる!と思うべき。
    • 付加価値をつけても8倍の値段の米を食べるだろうか。 →深層の競争力と表層の競争力の違いを理解しておくことが重要。相手がつけてくれた一時的な高価格(表層の競争力)は長続きしない。そのものの品質か、品質保証か、ブランドか、根本にあるのが深層の競争力。日本の米に深層の競争力があれば必ず顧客はついてくる。