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第2回サイエンスカフェみたか「くすりとの付き合い方」

 2013年2月6日、三鷹ネットワーク大学で第2回サイエンスカフェみたかを開きました。サイエンスカフェみたかは、くらしとバイオプラザ21が国立天文台、国際基督教大学、ガリレオ工房などの方たちと連携して「星と風のカフェ」で行っていたサイエンスカフェ(星と風のサロン)のメンバーが、三鷹ネットワーク大学の全面的なバックアップをうけて、先月から始めた活動です。「くらしとバイオ」の枠を少し広げて、息の長い活動として企画・提案していきたいと思っています。今回はくらしとバイオプラザ21 真山武志専務理事による「くすりとの付き合い方」でした。たくさんの質問が出て、充実した2時間でした。

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真山武志さんのお話 カプセルや重曹を使って実験
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会場風景

主な内容

アスピリンにみるくすりの歴史
ヒポクラテスの時代から柳の鎮痛効果が知られていた。19世紀、有機合成で水に溶けにくいアセチルサリチル酸(アスピリン)ができた(1897年)。その後、幼児に重篤なライ症候群という副作用が出て、幼児にはアスピリンでなくアセトアミノフェンが処方されるようになった。
くすりは身体にとっては異物であるので、異物をとりこめば、目的とする主作用だけでなく、目的としていない副作用も起こる。アスピリンには血漿板凝集抑制作用があることがわかった。20世紀、この副作用により、脳梗塞や心筋梗塞の患者に使えることがわかり、今ではこのような患者さんにも少量のアスピリンが処方されている。
これは副作用が主作用にかわっていった事例である。
 
くすりとリスク
前述のように、くすりは身体に異物だから有効性のほかに副作用もあるだろう。
アスピリンなら鎮痛作用が主作用で、血漿板凝集抑制作用は副作用。身体に不具合が起こるいわゆる副作用は、有害反応(ADR:Adverse Drug Reaction )という。
くすりはベネフィットがリスクを上回ったときに存在し得る。リスクは事象の効果と発生頻度をかけあわせたものと考えられる。抗がん剤の副作用は重いが、治療が難しいがんを治すくすりだから、リスクを受け入れる。しかし、寝ていれば治るような風邪のくすりに抗がん剤のような重い副作用があれば、受容されないだろう。
 
くすりはハードとソフトの和
くすりは情報がないと単なる物質でしかない。添付文書に書かれている情報を集めるのに製薬企業は数100億円の投資をしている。有効性、用法用量、安全性(どんな有害反応がどのくらい起こるか)を調べる。
一般薬を買ったときに添付文書は読まないが、そんなにお金をかけているなら、もっと読まれるような努力が必要ではないか → 一般薬は強く効かず、副作用も少ない。処方薬の添付文書が大事で医師、薬剤師は十分に理解しておく必要がある。
処方薬の添付文書に患者は触れることはない → 患者さんには難しすぎる。薬剤師に説明義務ができ、説明に点数がつく。薬剤師が患者さんへの説明に使う簡単な説明書を作り、わかりやすく説明するようになった。
漢方薬も試験をしているのか → 古典に書かれている漢方薬以外、複数の漢方薬を混合して作った漢方薬には承認が必要。漢方は昔から使っているから安心という認識は間違いで、 間質性肺炎が起ったという報告もある
 
くすりができるまで
医薬品の開発には9-17年の年月と、500億円くらいの投資が必要。
基礎試験、非臨床試験(動物を使って試験を行う)、臨床試験(健康な成人男子によるフェイズ1、用法・用量を設定するフェイズ2、プラセボ、対照薬を用いて二重盲検試験を行って有効性を調べるフェイズ3がある)を行う。
当局から許可を得られたら、市販後調査を行い有害事象の記録をとっていく。
くすりの候補を見つけるのに、現在の化学では、分子の構造式からこういう病気に効きそうだという予想がつく。
 
臨床試験の5toos
臨床試験の対象者に関する5つの条件を5 toosという(sは複数の意味)。小児と高齢者をのぞく、合併症がない、他のくすりを併用していないなど、「(対象の病気以外において)健康な患者さん」の協力で行われる。
ぜひ、臨床試験のボランティアを募集しているときは応募してください。副作用がおこったとき、患者さんは医師、薬剤師につたえてください。その情報がくすりの改善につながります。
○治験、治験者とは? → 製造承認をとるための臨床試験で、薬事法の規制にのっとって行われる試験を治験という。治験者は治験に参加するボランティアまたは患者さんのことをさすことが多い。
○栄養剤も臨床試験をするのか → 点滴する輸液などは臨床試験をする必要がある。
○インフルエンザのワクチンの承認に何年もかかると流行に間に合わないのではないか → ワクチンの基本的な品質は確立されており、インフルエンザの型だけを代える。製造工程に規制が定められている。
○ジェネリック医薬品は臨床試験をしないのか → ジェネリック医薬品とは先発医薬品と主成分は全く同じの後発医薬品のこと。先発医薬品の特許が切れたときにつくる。臨床試験は免除されるが、一部の非臨床試験は行わなければならない。研究開発費がてすむ。先発医薬品より薬価が下がるので、患者負担は減る。信用のできる大手の会社のものは安心だと思うが、飲んだ錠剤がうまく崩壊せずに排出されてしまった例もある。薬剤師と「問題はおきていないですか」などと相談してジェネリックは選んだほうがいいかもしれない。
 
くすりとの付き合い方
毎日新聞に連載したもののコピーを持ってきたので、その一部を紹介しましょう。
 
(1)くすりは水で飲む
お茶や紅茶にはカフェインが含まれる。総合感冒薬には眠気をさますためにカフェインがはいっていて、お茶や紅茶で薬を飲むとカフェインが過剰になり中毒域に達して頭痛になることがある。
貧血の鉄剤は、お茶のタンニンと結合する。
くすりとアルコールの組み合わせは最悪。アルコールは肝臓の酵素に影響するので、くすりの代謝にも影響し、効果が強められたり、弱められたりする。
飲酒後に催眠鎮静剤をのんで寝ると記憶がとんでいたりする。これは、中枢系のくすり(抗欝剤、催眠剤、アリセプト)とアルコールを合わせて摂取したため。中枢系のくすりを飲むときは、半日くらいアルコールは抜く。ある種の抗生物質を注射し飲酒するとショック状態になる。
 
(2)用量の話
用量を多くするとよく効くのでなく、血中濃度が上がりすぎて副作用が出ることがある。
くすりは腸から吸収されて、肝臓で代謝されて血液に乗ってまわる(適切な血中濃度で効く=効力域)。この仕組みを覚えておいてください。
○処方医薬品は何日、飲むのがいいのか → 医療用医薬品は一般的に5日分だす。一般医薬品は症状がよくなってやめたいと思ったら、薬剤師に尋ねるのがいいが、まず3日くらいは飲んでください。
○薬剤耐性 → 抗生剤で細菌に耐性がつくと耐性菌になる。睡眠導入剤を長く使っていると、受容体が変化したり、分解酵素が誘導されたりする。勝手にやめたりしないで、医師、薬剤師に相談してください。
降圧剤も長く飲むが、長期投与試験をしているので、きちんとのんだほうがいい。医者によっては降圧剤の処方を時々かえて耐性がつかないようにすることがある。
1日に何回も飲むくすりは、飲むと血中濃度は上がったり下がったりする様子を思いうかべると、1日3回飲むものは3回のんで血中濃度が効力域を保つようになっていることがわかると思います。
○くすりを飲みわすれたときは → 昼に飲みわすれたときは、夜が近ければ、昼の分は抜かす。昼過ぎならすぐに飲む。一般的に、飲み忘れたら抜かすほうが無難。飲みわすれる程度の症状になっているのだから、大丈夫でしょう。
1日1回のくすりは持続期間が長い。肝臓でこわれないで、血液と一緒に体中を回り、胆汁で排泄され、腸で再吸収されることにより持続したり、胃で溶けずに腸で徐々にとけて遅く効くようにしたものがある。
 
(3)剤形
くすりにはいろいろな形がある。散剤(粉くすり)、錠剤、座くすり、カプセル、舌下剤。
年齢体重できっちり計算しなければならないくすりでは、錠剤だと細かく設定できないので、散剤を用いる。
ニトログリセリンは舌下錠といって、舌の下におく。くすりを飲むと胃でとけて腸で吸収され門脈から肝臓に入った後、血液にのって身体を回る。ニトロは肝臓で分解されるので、肝臓を通らずに全身をまわるようにする。ニトロのパッチも肝臓にいかないので効く。
剤形の意味を考えてつかってください。たとえば、非ステロイド系の鎮痛剤は胃を傷めるので、坐薬で使う。
 
(4)育薬
育薬とは、くすりを医療関係者だけでなく、患者さんなどの協力によりよい薬に育てること。中野重行先生(元大分医科大学学長)が、市販後のくすりの情報を集めて、くすりを改善する運動を「育薬」とした。これには患者の協力が必要であると提案された。
くすりを飲んだ後に起きた事の情報を医療関係者につたえてください!
 
○ドラッグデリバリー(くすりが体の特定の場所で効くようにするしくみ)はどのくらい進んでいますか → 患部にだけ到達するミサイル療法などが抗体医薬で進んできている。
○体が大きくても用量は同じか → くすりは体重だけでなく、分布容積(distribution of volume)といって体内でくすりの広がる容積によって用量を決める。たとえば、子供は体重の割に水分が多くて分布容積が大きく、割合からすると子供のほうが大人より多いことになる。
 
(5)くすりとうまく付き合う方法
専門家にひるまずに尋ねること
おくすり手帳を、他の診療科に行く時にもっていくこと。たとえば、アトピー性皮膚炎の人が胃潰瘍のくすりを選ぶ時に、申し出ると副作用のないくすりを選んでもらえるなど。