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「ブレンダーのつぶやき4~蒸留酒のできるまで&その楽しみ」

 2014年1月25日、三鷹ネットワーク大学にて、バイオカフェ「ブレンダーのつぶやき4」を開きました。講師はサントリービジネスエキスパート顧問(元サントリー主席ブレンダー)の冨岡伸一さんです。大好評でリピーターも数名おられます。また試飲するグラスの数が年々増えて、今年は13種類のグラスが並びました。

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冨岡さんのお話 今日の教材(試飲用の豪華なお酒の勢揃い)

お話の主な内容

自己紹介
サントリーは酒類だけでなく、食品からサントリー美術館までいろいろな取り組みをしており、その基本にあるのは、いろんなことに挑戦する「やってみなはれ精神」です。私の「やってみなはれ」人生は、白州工場でブレンダーとしてウイスキーをつくったのを手始めに、メキシコでウイスキーやテキーラの原酒造り、洋酒研究所でブランデー造り、中国ではウーロン茶の分析センターを設立。今は品質保証本部にいる。
 
酒の種類
お酒の種類には原料による分類、作り方による分類などがある。
原料には糖質原料とデンプン質原料がある。ワインのブドウのようにはじめから糖がふくまれているものを発酵させるのは糖質原料で、米や麦のデンプンを糖化させてから発酵させる日本酒やビールはデンプン質原料ということになる。
発酵してできた醸造酒を蒸留すると蒸留酒になる。世界にはそれぞれの原料のとれるところで、先ず醸造酒がつくられ、これを蒸留して保存が効く蒸留酒がつくられてきた。
だからといってウイスキーはビール(ホップが入っている)を蒸留するわけではないが、麦でつくった醸造酒からウイスキーがつくられ、中国なら紹興酒のような黄酒(ふぁんちゅう)は醸造酒で、これを蒸留して白酒(ぱいちゅう)。米の醸造酒を蒸留して米焼酎にするなど原料により多様な醸造酒と蒸留酒がある。
 
農業的お酒と工業的お酒
飲料には、ペット飲料、缶飲料、ビール、スピリッツ、焼酎甲類など、予め定めた設計品質を狙って製造される「工業的に管理されたお酒」と、ワイン、ブランデー、ウイスキー、焼酎乙類(単式蒸留)のように、その時の周りの自然状況から影響を受けて多種多様に造られる、いわば農業的なお酒がある(しかし、ブランデーやウイスキーなどは調合の工程は「造りこむ」と言える)。工業的なお酒の場合、不具合が起こると3時間以内で判断するような厳しい微生物管理を行い、ビールではイースト菌以外を嫌う。それにひきかえ、ブラデーやウイスキーには乳酸菌やいろいろな微生物が関わり、賞味期限もない。
 
単式蒸留と連続蒸留
醸造酒を加熱するとアルコールが先に気化するのでこれを集めて蒸留酒をつくる。モルトウイスキーは樽で発酵させてから単式蒸留(ポットスティル)を行い、アルコール度数は68%。グレーンウイスキーはタンクで発酵させて連続蒸留し、アルコール度数は94%になる。
ブドウを発酵させて樽につめてシャラント窯で単式蒸留したものがコニャック。タンクで発酵させて連続蒸留するのがグレープブランデー。
時間的にみると、モルトウイスキーの場合、麦芽から発酵までは2週間で、貯蔵・熟性で何十年もかかる。マリアージュ(結婚という意味)といって、ブレンドしてから樽に入れなおし、熟成させる。結婚生活という時を楽しむと云える。
ワインは硫黄を嫌うので、亜硫酸で防腐し、酸化色をとめる。ブランデー用のワインは銅釜で硫黄を吸着してしまうから亜硫酸は使わない。
一般的に食べておいしい果実ではおいしいお酒はできない。日本は食べておいしいブドウでワインをつくっていたので、いいワインができなかった。今は、日本では完熟前のすっぱいブドウを使っているので、いいワインができるようになった。糖や酸を加える(補糖、補酸)こともある。
 
5大ウイスキー
世界の5大ウイスキーは、スコッチウイスキー、アイリッシュウイスキー、カナディアンウイスキー、アメリカンウイスキー、ジャパニーズウイスキー。
モルトは地酒だから、それぞれの地域に昔から芋焼酎みたいにたくさんあったが、くせが強かった。ブレンディッドウイスキーができて味がマイルドになり、世界に広まった。
サントリーでは、1929年に「山崎」をつくった。「山崎」や「白洲」はひとつの蒸留所のモルトウイスキー原酒だけでつくったものでモルトウイスキーという。「オールド」や「響」はモルトウイスキーやグレーンウイスキーをブレンドしてつくる。
最近、日本のウイスキーの評価は高く、サントリーでは山崎17年、白洲25年はウイスキー部門でISC創設以来のカテゴリー最高賞をダブル受賞した。ニッカなども受賞している。


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ひとり分の教材 懇親会

試飲

楽しみ方
初めにふたをして、ステアして、ヘッドスペースの香りを楽しんでください。
その後で、ストレートで楽しむ。常温の天然水でトワイスアップ(倍に薄める)する。またふたをして、ステアしヘッドスペースの香りを楽しみ、飲んでみてください。水に含まれる脂肪酸が固まるのでにごってくる。トワイスアップで濁るのは、高級ウイスキーの証。
トワイスアップしてふたをしてステアすると香りの量がふえているのがわかり、味にも甘さがでてくると思います。
○響17年
○グレイン原酒
○ジムビームブラック バーボン
○響・シェリー樽原酒 黄酒、醤油と共通の香ばしい香りがある
○響・ミズナラ樽原酒  日本のミズナラの樽をつかっている。和を感じるかおり
○ボーモア12年  スコッチウイスキー。アイラ島で作っている。海草のにおい(フェノール臭)
○カルバドス・ブラ-― ブランデー。ワインのあるところにはブランデーがある。
○クリボアジェ・ルージュ コニャック クロバジェルージュ。フルーティな味わい
○フルーツブランデー リンゴのお酒(シードル)を蒸留するとカルバドス。焼きリンゴの香りがする。
○ポモート・ノルマンディ カルバドスの原料のリンゴ果汁にカルバドスの蒸留酒を入れる。
○ビューコニャック 50年以上のコニャック、59度、これを使ったブレンディッドウイスキーを作ったら、とても高価になる。
コニャックは石灰質の土壌でできるブドウを使う。ブドウが根を深くのばし、できるワインのアルコール度数は6%。たくさんのブドウ成分が凝縮されて12%になる。
○樽貯蔵したテキーラ
○ズブロッカ バイソングラスを入れて桜餅の香りがする。ポーランド産のウォッカ
○ジェニパベリー ネズの実をいれて蒸留して香りをつけてある。
 
樽の話
木はシーズニングと言って、切って3年間、天然乾燥させる。加工してを組み立てる。トーティングといって焼いて使う場合と、新しい樽をつかう場合がある。使う木はホワイトオーク、コモンオークなど。サントリーでは、日本のミズナラで独自の樽も作っている。
樽は30から50年使った後、床材や家具に使う。
響17年をつくるとき、はじめ1万樽つくるが、17年で200樽になってしまう。1年で3%ずつ蒸発する。6-10年たつと使った分、蒸発した分が減っていて、ここでロット評価を行う、12年で全樽評価を行い、17年用として使う。17年で全樽評価を行い超長熟物にするものが残る。このように原酒管理を行う。
 
ブレンド
ブレンダーは将来をみすえた原酒つくりを目指し、先輩の財産を使う。ブレンダーには3つのスタイルがある。
検査型ブレンダー:正しいものかどうかを見分けることができる
評価型ブレンダー:初めてのお酒でも同じことばで評価ができる。
創造型ブレンダー:いろんなものを混ぜたらどうなるかを想像できる
ブレンダーは11時頃から200本試す。すべて飲んだら酔ってしまうので、香りで感じてから、味で確認するものだけを口にする。
 
香り
フレーバーホイールといって、ビール、チョコレート、ワイン、ウイスキーなどには、いろいろな香りを表すいろいろな言葉を環形に表したものがある。
5つの香りを体験して、参加者は表現してみました。
「バニラ」「アースイ(土のにおい)」「フローラル(ローズウォーター)」「スモーキー」「フレッシュウッディ(新しい木の香り)」
ブレンダーは同じ香りについてお互いにどういう言葉で表すかを覚えていて、情報交換をする。
 
トニックウォーターとソーダの使い方
甘いのが好きな人はソーダを少なくしたほうがいい。ブランデーにはトニックウォーターいれる。フルーティなお酒にはソーダをいれる。 
ソーダとトニックをまぜたものを私たちは「ソニックウォーター」と呼んでいるが、これをブランデーに入れると、別の楽しみ方ができる。
 
ウィスキーの飲みかた
ストレート
オンザロック 氷とウイスキー
ハーフロック ウイスキーと水やソーダを1対1にして、氷をいれる。 
水割り
ハイボール ソーダで割る
ミスト  細かく砕いた氷をたっぷり使う。
トワイスアップ 高級ウイスキーにあう。常温の水と1対1にする。
 
まとめ
高級なバーで「シングルモルトに、トワイスアップでチェーサーはソーダ」というと、楽しみ方がわかっている人だと思われますよ。ソーダにはウォッシュアウト効果がある。
氷をいれて13回転半まわして、グラスを冷やして、ウイスキーをいれる。水を入れると発熱するので、氷をたす。飲みきるのがいい。後つぎはしないこと。
トワイスアップすると、アルコール度数は20度前後。高級脂肪酸エステルが不活化し、白濁する。香り成分が水にとけなくなり、香りがでてくる。また、40度のアルコールが粘膜を攻撃するので、刺激が強すぎる。原酒が60%なら3倍にわって20度にするとおいしい。


話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 毎年作られるお酒は全く同じものではないと思うが、それらでブレンドするお酒の品質保証ができるのか。 → それは創造型ブレンダーの力の見せ所、樽の品質は毎年変わる。ブレンダーは120万樽の品質を覚えている。官能評価の記憶、それを同じ言葉で表現できるか。ブレンドしたときの記憶。マスキング効果(混ぜると両方の性質が消えること。ラーメンだし、香水でも起こる)の記憶。いかに経験を多く持っているか。再現性のある評価ができるか。
      その結果、去年の響と今年の響の科学的分析比は同じになっている。香りと味のすべてが科学的に解明されているわけではない。科学的に似たものはできても、複雑な香りや味を守るのは、人の官能でないとできない。今、サントリーウイスキーのブレンダーは12人。判断する人は3人。
    • 「ザ・ウイスキー」の香りが好きで、「響」の味が好き。ザ・ウイスキー誕生秘話を教えてください。 → ザ・ウイスキーは80周年記念でつくった。佐治敬三社長のOKが出るまで、43回目のダメ出しがあったそうだ。このときはブレンドの仕込み部屋に、工場長も入れない厳戒体制。親方的なブレンダーがいて、本数が少なくいいい酒を使った。高いけれどいいお酒だと思う。3万円。


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    お客様を待つ1 お客様を待つ2


    懇親会

    懇親会は、恒例の冨岡さんの「スコール!」(デンマーク語で乾杯)で始まりました。試飲の準備として分注(13種類のお酒を25のグラスに注ぎわける)作業をして頂いたサントリーCSR部の方やお手伝いのお茶の水女子大学院生も交えて、和やかに試飲の仕上げ?をしました。
    冨岡さんのひきこまれるような話術に導かれ、贅沢な試飲を交えて、お酒の奥深い世界を垣間見ることができたと思います。