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バイオカフェレポート「現代版トクホ活用術」

 2014年4月11日、茅場町サン茶房でバイオカフェを開きました。お話は、花王株式会社 森建太さんによる「現代版トクホ活用術〜特定保健用食品との付き合い方」でした。はじめに張さんによるバイオリン演奏がありました。

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森健太さんのお話 張さんのバイオリン演奏

主なお話

はじめに
 一人の女性の出産する子ども数が2人以下になり、明らかに若い人が減っていく人口構成になった。日本の女性の平均寿命は世界一だが、寝た切りの人も含まれている。女性の平均健康寿命は73.4歳だから、その後の人生が12年あることになる。安くなくていいから、健康的な食品がほしいと考える人が増えているのは、健康寿命を長くしたいという要望の現れと考えられる。自分の体は自分で守る「セルフメディケーション」、軽い医療は自分で行う「セルフキュア」、病気にならない身体をつくる「セルフプリヴェンション」と健康を考える機会は増えている。まさに、自分の健康は自分で守る時代。
 
健康食品の安全性や虚偽の問題
 日本では、健康食品に効果効能を表示できないので、内容がわからず、健康食品から期待した効果が得られなかったり、健康被害がでたり、悪徳商法にだまされたりすることが起きている。
実際に、厚生労働省HPで公開されている情報によると、中国産ダイエット食品(個人輸入や通販の未承認医薬品)をつかった人に肝機能障害が約170名でており、亡くなった方もある。
 
評価について
 2011年、消費者庁が実施した機能性食品のモデル評価において、アメリカ、EU、中国などの海外の制度の調査と多くの論文をもとに成分別機能性評価が行われた(2009年11月より健康食品の表示検討会は始まっている)。
セレン、ルテイン、コーエンザイムQ10、ヒアルロン酸、ラクトフェリンなど11種類の有効成分に対して、科学的根拠レベルによってABCDで評価が行われた。ヒト試験、無作為化比較試験のメタ分析が行われているものは実施も難しいことから信頼性が高いと評価され、専門家個人の意見だけだと信頼性は低く評価される。
 例えば、セレンでは、前立腺がんへの予防効果はBだが、膀胱の予防効果はD。DHA/EPAの場合、関節リュウマチ症状の緩和や心血管疾患リスク低減に対してAをつけている。AがついたのはDHA/EPAのいくつかの機能だけだった。A、B、Cが決まったからといって、このまま商品に表示できるようになるわけではない。
動物実験の結果だけによるよりは、このような評価は意味があるだろうし、ヒトへの有効性に関する一つの評価方法だといえる。
 コクラン評価は、1992年にイギリスの国民保健サービス(National Health Service: NHS)の一環として始まり、現在、世界的に急速に展開している治療、予防に関する医療テクノロジーアセスメントのプロジェクトで、メタ分析をしている。薬品の素材はかなり掲載されているが、食材は少ない。たとえば、DHA/EPAは胎児の脳の発達には働くが、認知症の発生抑制や治癒効果については、あまり期待できないとしている。マインズにアクセスすると、コクランは日本語で読める。
Minds(マインズ)ガイドラインセンター
 
特定保健用食品の背景
 生活習慣病が増える中で、食品の情報を適切に伝達する必要があり、また機能性食品の研究開発も行われていた。そこで、特定保健用食品の制度創設が求められていた。食品には第一次機能「栄養」、第二次機能「風味」、第三次機能「健康」があり、トクホは第3次機能に着目し体調を整えるために作られた。これに対して、栄養機能食品は第一次機能に着目し、栄養補給のために作られた。
 1991年、特定保健用食品(トクホ)制度が定められた。2001年には、あきらか食品(形状が食品のもの)以外のトクホ(錠剤やカプセル)も認められた。ただし、錠剤とカプセルは濃縮された成分の過剰摂取の恐れがあり、過剰摂取を予防する工夫が必要になった。過剰摂取予防の対策はトクホをとるときのハードルを高くしている。
 トクホは、食品と医薬品の間にある「保健機能食品」に含まれる。トクホのほかに栄養機能商品も含まれる。現在、トクホには、「おなかの調子を整える(整腸)」「血圧調節」「血糖調節」などの8種類の機能を書くことが認められている。消費者庁は根拠さえあればよく、8つに限定しているわけではないといっている。
 
日本のトクホの歴史
 トクホの第1号は資生堂の酵素処理米「ファインライス」だった。後に病者用食品に変更された。
1998年にエコナがトクホとして認められた。今は発売中止になっているが、中性脂肪や体脂肪に関するトクホではエコナが初めてだった。
 2007年はトクホが最もたくさん認められた年だった。それ以降許可数が減っているのは、食品メーカーにとって、トクホの審査に時間がかかりコストパフォーマンスとして現実的でないと判断された可能性がある。
 
トクホの種類
・整腸作用
トクホで一番多いのは整腸作用。今も5割をこえている。例)ヨーグルト、ヤクルト
食物繊維の難消化性デキストリン(松谷化学)がよく売れている。
オリゴ糖とはブドウ糖や果糖が2〜10個程度つながったもの。体調が悪くなると、腸内の善玉菌であるビフィズス菌が減少することから、菌の餌になるオリゴ糖を消化されずに大腸にとどける。便通を改善し、他の病原菌の侵入を防ぐ。申請したときは、オリゴ糖とプラセボを使って便通について細かく比較したデータを提出した。
・コレステロールの低減
コレステロールは動脈硬化や虚血性心疾患などの原因になりやすい。食物繊維、キトサン、ダイズタンパク質などが用いられている。トクホの成分にコレステロールや胆汁酸が吸着して排泄を促進するので、働きはマイルド。キトサンはコレステロールと結合して排泄される。3ヶ月にわたる試験データが必要。
・血圧を下げる
有効成分は、ペプチド系(ラクトトリペプチド、サーデンペプチド、ゴマペプチドなど)が多い。
肝臓から分泌されるアンジオテンシノーゲンという酵素がアンジオテンシン1型をアンジオテンシン2型にする。2型は血管を収縮させ、血圧があがる。ラクトペプチドはアンジオテンシンが2型になるのを阻害する。
アミールSは早い時期にトクホになった。プラセボとアミールSを飲んだ人を比べたら、アミールSをのんだ人の血圧が下がった。
・血糖を下げる
難消化性デキストリンは、血糖上昇を抑える働きをし、広く使われている。松谷化学はすごいものを開発したと思う。糖の吸収を抑制する。時間ごとの変化も調べられている。
・中性脂肪・体脂肪
中性脂肪・体脂肪に関わるものは整腸作用の次に多く、2009年度減少したが、今は2割強。
肥満して、中性脂肪・体脂肪が多いと、動脈硬化、心筋梗塞、高血圧、糖尿病などになりやすくなる。
ヘルシアコーヒーにはクロロゲン酸が含まれている。2週間のデータをとって、クロロゲン酸で内臓脂肪が有意に下がることを示した。体重も減少した。吸収を抑えるので、食事と一緒にとらないと効果がでない。脂肪の燃焼を活性化する。
伊藤園のスタイリーシリーズは、空腹時の中性脂肪を下げる。みかんの皮の中のポリフェノール(ヘスペレジン)に糖をつけて水に溶けやすくしたものが関与成分。
日水のEPA/DHAは空腹時の中性脂肪を下げる。魚油の機能を有効に活用している。
伊右衛門特茶では、ケルセチンというタマネギに含まれるポリフェノールを利用。脂肪細胞にたまった脂肪を分解して血液中に押し出す働きをする。いつ飲んでもいい。
エルビー(アサヒ飲料)は、12週間のデータが提出された。リンゴポリフェノールによるもので、体脂肪低減効果を示した。
2つ以上のクレームをつけることを「ダブルクレーム」というが、「黒ウーロン茶」はウーロンポリフェノールが脂肪の吸収を抑制し、食後の血中中性脂肪の上昇を抑える。継続飲用で体脂肪も下がっていることがわかった。それで、食後の中性脂肪を抑え、さらに体脂肪を低減させるダブルクレームになっている。12週間の体重の変化のデータが提出されている。空腹時の中性脂肪もさげたデータも示された。
伊藤園のカテキン緑茶も体脂肪とコレステロールのダブルクレーム。
まとめとして、トクホの表示には判断材料が書いてあるので、表示をみてえらびましょう。

話し合い 
  • は参加者、→ はスピーカーの発言

    • 高齢者介護施設で働いている。トクホのマークがついていると安心だと思うが、高齢者は口コミであやしい健康食品をとりそうで危ないと感じることがある。
    • 被験者数はどのくらいか → 予備試験の結果で母数をどこまで増やせばいいかを検討する。予備試験からパワー分析して本試験でのサンプル数を計算をする。100-200名が実施できる現実的な人数だと思う。
    • 難溶性デキストリンを使ったトクホが多いと思った → 世の中にすでに出ている難溶性デキストリンは試験が少なくていいので、コスト削減につながり、使いやすい。
    • 外国にトクホはあるのか → 日本のようなトクホという枠組みはないが、よく似た制度はある。