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ifia Japan 2014「遺伝子組換えセッション」開かれる

 2014年5月21日ifia Japan2014(国際食品添加物/素材展・会議)において、遺伝子組換えセッションが開かれました。くらしとバイオプラザ21で作成した、「知っておきたいこと」シリーズ三部作(遺伝子組換え作物・食品、食品添加物、農薬)の紹介と、遺伝子組換え技術に関するわかりやすい情報提供を行いました。はじめに、くらしとバイオプラザ21佐々義子より「遺伝子組換え作物・食品をめぐるリスクコミュニケーション」と題して、国内の試験栽培の状況やアンケート調査にみられる遺伝子組換え食品のとらえ方について報告しました。それから、次のおふたりの講師を迎えて、検査技術の最新状況および遺伝子組換え技術の利用の現状と新しい方向性についてお話をいただきました。
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布藤聡氏のお話 中島春紫氏のお話
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立ち見の方もいらして 安全・科学ゾーン セッションプログラム

「遺伝子組換え作物の検査技術」      株式会社ファスマック代表取締役社長 布藤 聡 氏

はじめに
2001年から遺伝子組換え食品の表示が始まることになり、農林水産省や厚生労働省と協力して遺伝子組換え原料を検出するための検査技術開発の研究を始め、ベンチャー会社を設立した。検査会社も少ない当時、皆さんに使っていただける検査技術を作りたいと思った。分子生物学の研究支援サービスとしてDNA合成、塩基配列の分析を通じて食品の安全につなげたい。また、検査技術の国際標準化にも関わり、円滑な貿易を応援したいと思っている。
 
(1)遺伝子組換え作物の検査技術
検査には導入された遺伝子を見つけるケースと、それによって作られた組換えタンパクを検出するケースがある。
① タンパク質を見つけるのは簡単で、現場(農場、カントリーエレベータなど)で利用されている。方法は、粉末にした穀物の溶液の上澄みに試験紙を浸すもので、ラテラル法、ストリップ法と呼ばれている。これは定性的な方法で、組換えタンパク質の有無をみる。
② 組換え遺伝子を調べる
PCRで導入遺伝子を100万倍に増やして調べる。
○ 定性PCR:遺伝子の有無を電気泳動でみる。加工品に未承認組換え体が混入していないかをみる。
○ 定量PCR:リアルタイムPCRと呼ばれ、調べたい遺伝子がどのくらい入っているかもわかる。たとえば、遺伝子組換えトウモロコシの一つの細胞に必ずある遺伝子と組換えた遺伝子の数の割合を調べておく。加工品から抽出したDNAの中でその割合をみて、同じ割合なら全部が組換えで、それより少なければ何%か組換えが混入していることになる。
③ GMO標準分析法が官庁により3種類定められており、これが日本の公定法である。
○ 消費者庁次長通知「安全性審査済みの組換えDNA技術応用食品の検査方法」
○ 厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知「安全性未審査の組換えDNA技術応用食品の検査方法」
○ (独)農林水産消費安全技術センター「JAS分析試験ハンドブック/遺伝子組換え食品検査・分析マニュアル」
 
(2)スタック作物の検査方法
スタック作物とは、除草剤耐性と害虫抵抗性の遺伝子組換え作物を交配して、複数の形質を備えた遺伝子組換え作物のことで、米国で栽培されるトウモロコシの90%が遺伝子組換えで、そのうち70%がスタック。スタックの利用は増えている。この検査がとても難しい。たとえば、除草剤耐性と害虫抵抗性の遺伝子が見つかったときに、1粒に両方の形質が備わっていたのか、それぞれが1粒ずつ入っていたのかの区別ができない。
① 一粒分析法
1粒ずつDNAを抽出して電気泳動を行う。こうすれば、ひとつの作物に含まれていることが初めからわかる。これを80粒以上、行う。この方法は手間がかかるが、これが公定法です!
② 開発中のグループテスティング法
20粒ずつのグループを10グループつくって分析する。複雑なDNA抽出作業を行わないでできる方法を開発したので比較的簡単にできる。
 
(3)まとめ
遺伝子組換え作物・食品のことをよく理解したうえで、だれでも、どこでも、簡単に調べることが出来るようになり、透明性のある状況になると思う。

「遺伝子組換え技術のこれまでとこれから」     明治大学農学部教授 中島春紫氏

はじめに
「組換え」と「組み換え」の違い。「組換え」が法律用語なのに、新聞は対応していない。「み」ありで情報を検索すると、この技術の導入に慎長な情報が溢れている。
 
交雑について
属が違っても、科が違っても実際にはほとんど交雑しない。
遺伝子には子孫に伝わるものとその個体で終わるものがある。また、同一の分類学上の種に遺伝子を導入したら「組換え」ではないという定義になっている。微生物では異なる種でも自然に組み換わることがあり、これも「組換え」とはいわない。
法律では「他の生物の遺伝子を組み込んだ生物が遺伝子組換え生物」となっている。
流通しているのは遺伝子が1個だけが入っているものが流通していると考えてください。
事故はこれまでひとつも起こっていないし、モンスターはできないだろうということが科学的にわかってきた。これらを踏まえ、世界の組換え規制は緩和の方向。
交配によるものは何度も交配して形質を定着させるのに時間がかかるので、研究者が一生かかって一品種をできたらラッキーというのが品種改良の実態。
カラシナはアブラナ科だが、キャベツもアブラナ科。キャベツの遺伝子が2個変わるとカリフラワーになる。これは科が同じという例。
すべてのイヌはオオカミに発しているが、セントバーナードからチワワまで多種多様。でも犬は同じ種だからかけあわせができる。ロバとウマをかけると生まれるラバにはこどもはできない。これはロバとラバは同一種でない証拠。
 
遺伝子組換え技術とは
アグロバクテリアは植物の傷から入りこんでこぶを作る。できたこぶは「組換え体」。
遺伝子組換え植物をつくるときは、遺伝子組換えをした細胞をカルス培養し、植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンを入れて根と葉を出させる。
日本では野外に遺伝子組換え植物を出すときに、非常に厳しく審査し、隔離圃場で環境影響評価を行う。その後に第1種使用の大臣承認ができると一般に栽培できるようになる。
利用の実態をみると、1600万トンの飼料用のトウモロコシが輸入されている。消費しているコメ580万トンの3倍近い量である。
ダイズでは雑草被害が大きい。トウモロコシはアワノメイガという害虫の被害を受け、5回ぐらい殺虫剤をまかなければならない。そのうえ茎の中に害虫が入ると外からの散布での駆除は不可能。
害虫抵抗性はチョウとガに有効。Cry1、Cry2という遺伝子を入れる。甲虫抵抗性を持たせるにはCry3という遺伝子を入れる。Btという微生物のつくる毒素は菌体だけを農薬として撒いて使われている。
日本の総面積は3,780万ha、世界の耕地面積13.8億haで、その12.3%で組換え農作物が栽培。
 
主な組換えの用途
コーン、大豆を使ったお菓子をコストコで買って調べたが、あまり遺伝子組換えタンパク質は検出されなかった。
日本で利用される油のほとんどは輸入ダイズ、すなわち組換えダイズということなる
その量は、4隻のパナマックス(5万トンタンカー)で日本には毎週やってきている。
 
アメリカの生産現場
アメリカの多くの農業は家族経営で大規模栽培をしている。紳士協定で日本向けの商業栽培に対しては、日本の食品安全委員会の安全審査が終わるまで栽培を待ってくれている。こうして未承認の作物の混入の防止を図っている。
遺伝子組換えにより、農薬の使用量は5〜20%低減されている。種を毎年買わされ、自家採種できないので、儲からないだろうという人がいるが、自家採種できるものはお米だけ。ほとんどはF1種子で作物の品質を保持している。
 
日本での遺伝子組換え食品の表示
表示は安全性の警告ではなく、商品について知り選ぶ権利のため。使用したときの表示は義務だが、「非組換え」表示は任意。また、油のように最終製品に組換えDNAやタンパク質が残らない食品は表示の対象にならない。重量が上位3位以内で、5%以上含まれる場合が義務表示の対象となる。
したがって最終製品での検査方法が重要である。分別流通された原料を使って、適切な表示をしている人が、非意図的に混入した原料を用いてしまい、表示違反になることも考えられるが、まじめに遺伝子組換え原料と真面目に表示している人の間違いを見つけて罰することが表示の目的ではない。
遺伝子組換え作物の例
○ゴールデンライス
特許権放棄されている。スイスの研究者によってつくられた。背景には、ビタミンA不足で50万人が失明か失明に近い状態になっている世界の状況がある。日本はこれを開発してODAで進めるべきだと思う。
○青いバラ
赤の色素「シアニジン」、オレンジ色の「ペラレルゴニン」はバラにあるが、青を示す「デルフィニジン」がないので、デルフィニジンになるように、OH基を入れる遺伝子を導入した。花言葉は「夢かなう」、まさにそのとおり。
青いカーネーションはコロンビアで栽培。グッドデザイン金賞を受賞。花言葉は「永遠の幸福」ということで、結婚式によく使われている。
 
遺伝子組換え食品の安全性審査
食品安全委員会遺伝子組換え食品等専門調査会で、審査している。
リスク分析はリスク評価(科学ベース 食品安全委員会)、リスク管理(政策措置を決める。安全性に問題がなくても認可されるとは限らない)、リスクコミュミニケーション(情報の共有)の3つの要素から成る。
○リスク評価
  マウス90日間反復毒性評価(ヒトの5年にあたる)
  催奇形性試験(胎児に奇形がでないか)
  変異原性(DNAに変化を起こさせないか)
  発がん性(変異原性試験が陽性のときのみ行う)
  アレルゲン性(アレルギーを誘発する物質はないか)
  比較対象となる作物があるか(例えば、組換える前のジャガイモ)
  導入した遺伝子とその産物の安全性
  新しくできたタンパク質をラットに食べさせる
  非意図的な変化が起きていないか
  比較となる成分に変化はないか

環境への影響は、日本で栽培する場合、交雑する可能性のある植物があるかどうかを調べる。日本ではダイズと交雑する可能性があるツルマメだけ。
アレルギーについての試験は、①人工消化液で分解されるか、②膨大なデータベースで既知のアレルゲンと同じではないか、③アレルギーの患者の血清で試験。④臨床試験をお願いする。という段階で進む。これまでに④段階に進んだケースはない。
例)ピーナッツのアレルギーの人がいることは知られており、ピーナッツのタンパク質をいれた作物が開発されようとしたが、アレルギーの恐れがあって、中止になっている。

遺伝子組換え作物開発の進化
第1世代 農家に貢献→植物の代謝系を変化させる。これまで問題は起きていない。
第2世代 栄養の向上。利用者の健康に貢献→植物の代謝系を変化させる。
第3世代 医療目的の作物 →代謝系の一部を変化させる。
遺伝子組換え作物の開発目的も多様。

セルフクローニングとナチュラルオカレンス
自然界に存在しうる現象で遺伝子に変化が起こるときを、これをナチュラルオカレンスという。植物の持っている遺伝子に操作を加える場合(他の生物の遺伝子は用いない)はセルフクローニングという。
遺伝子を組換えているが、ナチュラルオカレンスでも起こりうる変化であることが、株の組み合わせによってわかっている場合、この株とこの株の組み合わせならば遺伝子組換え生物としての審査をしなくていいというように、株の組み合わせでみている。
 
高度精製品
高度精製品とは、遺伝子組換え微生物が入っていた培養液を滅菌し、濾過し、菌体を洗い流してきれいな結晶をつくったもの。高度に精製されており、安全性がわかっているので組換えとみなさない。食品添加物に多く使われている。
 
遺伝子組換え食品添加物の評価
1)遺伝子組換え微生物を利用してつくられた添加物→安全性評価基準にしたがって評価する。
2)セルフクローニング、ナチュラルオカレスに相当するときは審査しない
3)生きている遺伝子組換え微生物の菌体が残っている→まだ申請はない。
4)アミノ酸などの非タンパク質性高純度添加物→審査しない。
飼料の場合、高度に精製していないが、いいのだろうか
遺伝子組換えは、DNA配列にどこに遺伝子が入ったかわからないので危ないという人がいる。しかし、遺伝子組換えパパイヤでは、次世代シーケンサーで全部明らかにした。
 
新しい技術 TALEN法
新しい育種技術が発達してきている。たとえば台木が遺伝子組換えで、接ぎ木したものは組換えでない果実など。欧州のワインの台木はアメリカ産だったりする。
日本の定義では、一度組換え技術を用いるとずっと組換え体だが、どう考えたらいいのか。
ある植物病原菌のTALエフェクトタンパク質は34個のアミノ酸の繰り返し構造をしていて、繰り返し1セットで1アミノ酸を認識する。そして、繰り返しの中13番目と14番目のアミノ酸で、DNA2本鎖に切れ目をいれる。切れ目が入てとき、正確に修復されるときと、エラーが起きるときがある。
エラーが起きると、塩基を置換したり、導入したり、欠失を起こしたりする。これを利用して遺伝子改変を行う。外来の遺伝子でないので組換えではないし、検出もできない。
一応、組換え技術といえるが、組換え技術ではないともいえる。検証して特定の遺伝子組換え作物を見つけることができない。
 
果樹の品種改良の加速
リンゴは品種改良には何10年もかかる。ところがFT遺伝子をいれると発芽して2か月で花がさいて花粉がとれる。この花粉をつかうと半年で種がとれる。育種時間を短縮できて、 3年で新品種ができる。これも検出できない。
 
課題
新しい育種技術に対して、従来の方法では検出できないからという理由で組換えとして扱わなくていいのか、これをいろいろな人たちがどう考えるかという課題がある。


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安全・科学ゾーンにブース出展 セッション会場風景