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総会講演会「消費者市民ってどんな人?」開かれる

 2015年5月14日、くらしとバイオプラザ21通常総会 講演会を開きました。お話は消費者市民社会をつくる会 理事長 阿南久さんによる「消費者市民ってどんな人?〜“消費者市民社会”づくりに向けた消費者の役割・事業者の役割!」でした。

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阿南久さんのお話 会場風景

お話のおもな内容

 消費者市民社会とは、「消費者が科学的・倫理的な学びを獲得し、自分自身を守っていくだけでなく、より良い社会をつくっていくために積極的に関わっていく社会」であり、そのような人を消費者市民と呼ぶ。こうした社会の構築は消費者と事業者、行政等が連携して取り組むべき課題であり、各地で取組が始まっている。消費者専門家会議(ACAP)は、全国32の消費者センターにパンフレットコーナーを設置し消費者啓発、わかりやすい情報提供のための資料を置いている。
 
消費者市民ってどんな人
「消費者市民社会」という言葉は、平成20年6月に閣議決定された「消費者行政推進基本計画」と、同じく平成20年12月に公表された「国民生活白書」登場している。
そして、平成24年12月に施行された「消費者教育の推進に関する法律」の中に盛り込まれた、生まれたばかりのことば。
この法律に基づく「基本的方針」に沿って、各地の自治体では、消費者教育推進計画と地域協議会がつくられており、取組が進んでいる。
たとえば、兵庫県大学生協阪神事業連合では、スマコン(スマートコンシューマー)になろうという取組を推進しており、パンフレットを作成している。その中の「『買う』は『投票』という考え方」では、アメリカの「CEP(経済優先度評議会)」が17年前に行った全米130社調査によって、「モノを買うことは企業に1票投じていること。消費者の購買行動は社会に影響を与える」という考え方を提唱したと書かれている。
また、社会的責任投資(買い物するときに値段だけでなくエコやフェアトレードを買う)についての説明も行われている。
京都市の、「未来へつなごう 自然と調和し こころゆたかな京都のくらし」という啓発パンフレットでは、購買行動は、近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)に、世界よしと未来よしを加えた「五方よし」のやり方でと、京都らしさのあるわかりやすい説明がされている。
 
消費者白書
消費生活相談件数は増えている。「消費者基本調査」に基づいて消費者庁が推計した平成24年の消費者被害・トラブル額は6兆円。これはGDPの1.4%にあたる。年間、国民の13人に一人が1年間に何らかの消費者被害にあっており、国民一人当たりでいうと約4.7万円。
家計消費支出は、GDPの6割という大きなウェイト。消費者が安心して消費活動ができる社会が大事。さらに、モノへの支出からサービスへの支出に移行しつつある。こうした消費者のライフスタイルの変化に対応した政策が必要。
消費者の食品の安全性、表示問題への関心は依然として高い。
2009年9月に消費者庁スタート。はじめは、プロパーがおらず、求められることも多く大変だったが、消費者団体を始め関係者の応援のおかげで、関連法の整備などを進めることができた。
・特定商取引に関する法律(2013年3月)  訪問購入に関する規制
・消費者安全法の一部改正(1012年10月) 消費者安全調査委員会の新設、財産被害に関わる隙間事案への行政措置の導入。
・消費者教育の推進に関する法律(2013年6月)
・食品表示法  (2013年6月)
・消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事裁判手続きの特例に関する法律(2013年12月)
・景品表示法の改正(2014年12月)
 
その他にも、リスコミや意見聴取会を全国各地で食品安全委員会などと行ってきた。食品と放射能については、3400人のコミュニケーターを養成した。こどもを事故から守るプロジェクト、食べ物の無駄をなくそうプロジェクトも推進している。
 
消費者運動の歴史
消費者を守る仕組み(法律や制度)は消費者運動によってつくられてきた。消費者運動は、生活協同組合の運動と密接な結びつきがあり、女性が中心という特徴がある。
1921年 「神戸購買組合」(1924年に「有限責任購買組合神戸消費組合」に改称)ができ自発的参加が呼びかけられた。
1928年 婦人消費組合協会を奥むめお氏が中心になって設立。
1945年 婦人参政権要求の活動を市川房江さんたちが行った。
1951年 日本協同組合同盟誕生
1950年代からいろいろな事件や問題が起こった。ふろしきデモ、米よこせ運動など。
1956年 消費者団体連絡会ができた。これは日本初の全国の消費者団体をまとめる組織。
1955年 森永ヒ素ミルク、1960年偽牛缶事件、1962年サリドマイド、1968年カネミ油 
1969年 カラーテレビの2重価格問題、1971年ジュース裁判などが起こった。2000年には雪印の低脂肪乳食中毒があり、2001年にはBSE牛が確認された。
 
1957年 消費者宣言ができた。起草は奥むめお氏。
消費者は経済繁栄の母であり、商業者繁栄の支柱である。価格と品質は消費者の意思を尊重して決定すべきということが書かれている。
日本の消費者保護、自立支援政策は、こうした消費者運動と連動しながら整備されてきた。消費者庁創設もそのひとつ。
2004年に、1968年制定の「消費者保護基本法」が改正されて「消費者基本法」が生まれたが、ここで初めて「消費者の権利」が明記された。
 「消費者の権利」は、1962年に、アメリカの当時の大統領であったケネディ大統領が「消費者の利益の保護に関する連歩議会への特別教書」で提示された4つの権利(安全である、情報を与えられる、選択できる、意見を反映できる)が初。
その後、1975年に、当時のフォード大統領によって消費者教育を受ける権利が加えられた。消費者の権利に関しては、アメリカは先駆的な立場。
 
日本においては1947年 『独占禁止法』が制定され、“一般消費者の利益”がうたわれ、同じ年に、『食品衛生法』も制定された。
1948年 『消費生活協同組合法』が制定され、“国民の自発的な生活協同組織”、“国民生活の安定と生活文化の向上”がうたわれた。
1950年 『JAS法』 適正な表示による一般消費者の選択に資する
1960年 『薬事法』
1962年 『不当景品表示法』
1993年 『環境基本法』
1994年 『製造物責任法(PL法)』
2002年 『健康増進法』
2003年 『食品安全基本法』  “リスクアナリシス導入”
1999年に『食品衛生法』抜本改正の大運動が行われていたが、2001年に日本で最初のBSEが確認されたことで制定の流れが加速された。大きな特徴は、“リスクアナリシス”の考え方を導入したこと。最初はその意味がよくわからなくて、学習会をあちこちで何度も開催した。リスク評価と管理を区別し、それらを消費者も共有するためのリスクコミュニケーションを行っていきましょうという考え方。
消費者の理解と行動が伴って食品の安全は守られる。消費者の腑に落ちるまでリスクコミュニケーションをすることはとても大変だが、それを進めようというのがこの法律。
消費者の疑問を理解し、わかりやすく説明できる科学者が必要で、これが消費者教育の推進につながる。
 
消費者保護基本法制定と消費者庁設立
1968年 『消費者保護基本法』 当時の佐藤栄作首相は国会で「経済のゴールは消費者の利益」と答弁している。
附帯決議では、消費者の自主的活動が大事で自主的な消費者組織を育てるという考え方が確認された。
 
2004年 『消費者基本法』 この時、消費者の6つの権利が明記された。6つの権利とは、安全確保、選択の機会、情報提供、教育を受ける機会、消費者の意見の反映、消費者被害の救済。
その後、『消費者基本法』にそって消費者保護を専門とする行政機関として「消費者庁」ができた。そのころは、「赤福」などの偽装表示、中国餃子農薬混入事故が起こっていた。
それまでは消費者保護は産業振興のついでのテーマだった。消費者政策は産業に関係する縦割り行政に沿ってつくられていた。安全安心で良質な市場の実現は縦割りではできないということで、2009年、ついに消費者庁が設立された。
2012年 『消費者教育の推進に関する法律』消費者と事業者の間にはギャップがあるが、消費者も成長すべき。消費者教育の定義は「消費者の自立を支援するために行われる消費生活に関する教育及びこれに準ずる啓発活動(消費者が主体的に消費者市民社会形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育を含む)」としている。基本理念として「消費生活に関する知識を習得し、適切な行動に結びつける実践的な能力の育成」、「主体的に消費者市民社会の形成に参画し、発展に寄与できるよう積極的に支援」としている。
 
消費者市民社会をつくる課題
(1)消費者教育の推進
2013年に閣議決定された「消費者教育の推進に関する基本的な方針」に基づき、全国各地で取組が始まっている。自治体での「消費者教育推進計画づくり」は、平成27年3月26日現在、18都府県、1政令市で実現。「消費者教育推進地域協議会づくり」は、29都道府県4政令市にまで至っている。「消費者教育推進地域協議会」は、消費者センターを拠点にしてつくるられ、その地域に必要な消費者教育を考えて知恵を出し合って進める。以前は教育委員会の壁があり、消費者団体は学校教育に関われなかったが、消費者教育は消費者庁と文部科学省で推進することになり、消費者団体からも出前授業ができるようになっている。
(2)不当景品類及び不当表示防止法等の一部を改正する等の法律の理解促進
『消費者安全法』と『景品表示法』の一部が改正された。
『消費者安全法』の改正内容は、高齢者が悪質商法に狙われることから守るための「地域協議会」の設置や、消費生活相談員の地位を守るために、位置づけを明確に定めたもの。
『景品表示法』に改正内容は、不当表示に対する国における体制強化や都道府県知事の権限強化(悪質事業者に措置命令が出せる)と、「課徴金制度」の導入となっている。地域の高齢者を見守る体制が整った。
(3)消費者裁判手続き特例法の理解
これまで消費者被害にあっても泣き寝入りしていた多数の消費者の被害回復を容易にするため、特定適格消費者団体が被害者にかわってお金をとりもどすことができる。
(4)食品表示法の理解促進(2015年4月1日施行)
「食品摂取するときの安全性と消費者の自主的、合理的な食品選択の機会を確保する」ことを目的に制定された法律。
 
食品表示で主に変わったところは、
・アレルギー表示  ・加工食品の栄養成分表示の義務化  
・新たな機能性表示制度の創設
機能性表示食品については、消費者庁が作成した啓発リーフレットがホームページからダウンロードできる。
 機能性表示食品の表示には、届け出番号と、商品名とともに、機能性に関わるエビデンス、摂取方法などの注意書きなどが、消費者が理解できるようなわかりやすい情報として提供されることになっている。
大切なことは、本当に必要なのか自分の食生活を見直してみること。そして、体調の異変に注意することが必要。摂取するだけですべてOKという食品はないことも覚えておいていただきたい。
 
消費者の役割・事業者の責務
『消費者教育の推進に関する法律』の第14条には事業者及び事業者団体による消費者教育の支援として「消費者の消費生活に関する知識の向上が図られるよう努める」とある。『消費者基本法』には、「消費者が自ら進んで必要な知識を習得し、情報を収集するなどして自主的、合理的に行動するよう努め投げればならない」と消費者の役割が明記されている。さらに『消費者安全法』、『消費者契約法』にも事業者の責務と消費者の役割が書かれている。
 
事業者と消費者はこうしたことをもう一度しっかりと認識し、対等なよい関係をもちながら共に育ち、高め合っていきたいと思う。最後に、国際消費者機構の「消費者憲章」に謳われている消費者の5つの責任を紹介する。
・批判的意識:消品やサービスに問題意識を持つ
・自己主張と行動:公正な取引が得られるように行動する
・社会的関心:自らの消費行動が他者、ことに弱者に与える影響を自覚する
・環境への自覚:自らの消費行動が環境に与える影響を理解する
・連帯:消費者として団結し、連帯する


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2015年度もよろしくお願いします