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理科教員・農業科教員のための
組換えDNA実験教育研修会アドバンスト・コース

 12月20日(土)、21日(日)筑波大学遺伝子実験センターにおいて「理科教員・農業科教員のための組換えDNA実験教育研修会アドバンスト・コース」が行われました。同研修に参加しましたので、報告します。
 平成14年1月に文科省の組換えDNA実験指針が改訂され、その中で、初等中等教育においても組換えDNA実験を実施できるように、「第8章 教育目的組換えDNA実験」が制定され、附属資料4に掲げるところの実験実施規定を順守し、別表7に掲げる宿主ーベクター系及び供与DNAの範囲内という限定条件を遵守することなどにより、教育目的の組換えDNA実験を高等学校などで実施することが可能になりました。指針では、指導者は指針に示される実験の安全確保に関する考え方を理解しており、かつ、実験を実施した経験を有する者が実験指導者となるもの、と規定しており、これに該当する実験指導者を初等中等教育の教員の中に養成する必要が生じました。
 そのため、平成13年8月に筑波大学と東京農工大学の遺伝子実験施設において「理科教員のための組換えDNA実験教育研修会」が開かれ、その後、全国の大学の遺伝子実験施設等で同様の研修会等が開催されています。この度、筑波大学遺伝子実験センターでは、平成13年から平成15年の3回の実施を踏まえ、「アドバンスト・コース」を開催しました。この研修会は各教育現場では未だ教育目的組換えDNA実験の実施に至っていないという受講者からの声などをもとに、さらに論議を深め、実施に関わる諸問題の解決、より充実・発展した形での実施を目指すために計画され、実施されました。

 筑波大学遺伝子実験センター
 教育目的組換えDNA実験連絡研究会

 今回の研修会では、これまで研修会で実習した実験のさらに進んだふたつの実験が紹介されました。また、他大学のセンターなどにおける「理科教員のための組換えDNA実験教育研修会」の実施状況の報告や新しい教材開発の最前線などの興味深い講義の他、今後、より有意義な遺伝子組換え実験講習会を開くにはどのようにしたらよいかという討論や情報交換、意見交換も行われました。

ふたつの実験の紹介

 GFP(オワンクラゲの持つ蛍光を発するたんぱく質)を合成する情報を持つ遺伝子を大腸菌に組込む実験(バイオ・ラッド社キット1)はすでに行われているので、その進んだ実験として、ふたつの実験が研修会参加者に紹介されました。

1. 犯人探しの電気泳動(バイオ・ラッド社キット5)

右から2番目は犯行現場、右から5番目が犯人のDNA
右から2番目は犯行現場、
右から5番目が犯人のDNA

 ヒトのDNAの塩基配列はひとりひとり異なっている部分があるので、指紋と同じように個人の特定に用いることができます。犯行現場で検出されたDNAと5人の容疑者のDNAが既に用意されたという想定のもとに、これらを制限酵素で切断して電気泳動で区別するという実験です。制限酵素はDNAの特定の塩基配列の場所を切断しますから、塩基配列が違うDNAを切らせると、長さが異なるDNAの断片ができます。DNAの断片を電気泳動(DNAはマイナスに荷電しているので、プラスに引かれる。小さい断片ほどゲルの中での移動距離が長くなることを利用し、DNA断片の数と大きさを調べる)することにより、犯行現場で検出されたDNAが5人の容疑者の中のどのDNAと同じ結果になるのかを調べ、真犯人を決めるというものです。実際にはヒトのDNAではなくバクテリアに感染する微生物のDNAが用いられています。

2. 光るたんぱく質の抽出(バイオ・ラッド社キット2)

 遺伝子を組換えて蛍光を発するようにした大腸菌を大量に培養し、菌体を酵素で溶かしてたんぱく質を取り出します。カラムといって光るたんぱく質だけを選び出してくれる筒を通すと、光るタンパク質を光るしずくとしてポタッポタッと試験管の中に集めることができます。受講生の先生方から歓声があがった瞬間でした。

液体で培養した光る大腸菌 光るタンパク質がカラムの中を通過していく
液体で培養した光る大腸菌 光るタンパク質がカラムの中を通過していく

実験指導の工夫:ピペッター操作の練習法:筑波大学 小野道之先生

 微量の液体を扱うために用いる微量ピペッターは、非常に便利な器具であるが取り扱いに習熟する必要がある。
 青い液の同じ大きさの水滴をパラフィルムの上に作る練習。
 比重の違う色水と水をタッピングで混ぜる練習。

ピペッターの使い方の説明をする小野先生 ピペッターの練習。小さな水滴を作る。
ピペッターの使い方の説明をする小野先生 ピペッターの練習。
小さな水滴を作る。
使ったチップはきちんと捨てること! ゲルを洗う水を何度も取り替える
使ったチップはきちんと捨てること! ゲルを洗う水を何度も取り替える

組換えDNA実験講座実施状況の紹介


「中国地方の遺伝子教育―モデルケースとしての展開と問題点」
 広島大学自然科学研究支援開発センター 田中伸和先生

田中先生
田中先生

 全国遺伝子実験施設連絡会議が年に1回開かれており、これを通じて遺伝子実験施設は学校の先生との接点がなかったことに気付いた。
 平成12、13年度に中高教員向け研修会「生活の中の遺伝子技術」(関連トピックスの紹介、毛髪からのDNA抽出など)を行ったところ、反響が大きかった。現在は中国地方の遺伝子実験施設で協力して中国地区遺伝子実験施設コンソーシアム(18名;広島、鳥取、島根、岡山、山口大学)を作り、機器の共同利用、情報交換、知識や技術の伝達を行っている。14年度は組換え実験、光る大腸菌の形質転換、組換え実験指針を内容とする講習会を5施設で64名の参加を得た。

 参加した教員には次のようなサポートを行った。
1)教員向け遺伝子研修会による知識・技術の教授、2)研修会の受講証の発行、3)機器・器具の貸し出し及びそのシステム化、4)教材の提供(植物バイオテクノロジースライド集、教育目的組換えDNA実験マニュアルWEB版)、5)事前に実施予定を調査し、実施前の練習、校長承認の書類つくりを手伝い、実施1週間前に必要な試料(大腸菌、培地成分、抗生物質、プラスミドなど)、機材を送る。結果報告をもとに、結果検討、考察をいっしょに行う。
 遺伝子教育を推進するためには、実際に行われたサポートに加えて、教育委員会との連携(集客には力がある)、キーパーソンになる先生の育成、教育学部学生への教育などが行われることがよいのではないか。

 問題点
1)生命倫理の扱い、2)遺伝子研修会やアドバンストコースのリピーターへの対応、 3)現在の組換えDNA実験の延長として次に提供する実験系の開発、4)植物などの新たな教材の開発、5)全国レベルでの展開、6)遺伝子教育のカリキュラム化(光る大腸菌の次の実験は?)


「高等植物を用いた遺伝子発現の観察」
 金沢大学学際科学実験センター  山口和男先生

山口先生
山口先生

 教育目的の遺伝子組換え実験は自然への理解を深める手段のひとつと考え、GFPを組み込んだ大腸菌をつくるバイオラッドの実験キットを用いて子供、学生などに説明会をしている。遺伝子の働きの説明では、不妊治療などに関わっている方たちの気持ちを考慮した上で、生命活動においていかに遺伝子がダイナミックに活動しているかを伝えたい。
 本センターでは教材として高等植物を利用している。種子として配布でき、培養が簡単であり、微生物より生育は遅いが、実習時間内に工夫して収めることができる、生物個体として肉眼で確認できるなどの利点がある。もちろん種子の管理はきちんと行うべき。
 導入する遺伝子はβグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を利用。
 GUS遺伝子を葉で働く遺伝子のスイッチ(プロモーター)につなげることで、葉が緑青になり、エタノールで葉緑素を脱色すると青い葉が得られる。
 傷に応答する遺伝子のプロモーターにつなげると傷つけたところが青くなるので、植物の障害への応答について調べたり、遺伝子を導入した植物を掛け合わせて種をとり、次代の植物を育ててみるとメンデルの法則の証明の勉強に発展させられるかもしれない。


「岐阜県生命科学コンソーシアムによる遺伝子組換え実験の普及と支援、SPP事業を通した遺伝子組換え実験の実践と工夫」
 岐阜県先端科学技術体験センター  田村直明先生

 岐阜大学遺伝子実験施設、岐阜県国際バイオ研究所、岐阜県先端科学技術体験センター、岐阜県総合教育センターで岐阜県生命科学コンソーシアムを作り、理科教師向け遺伝子組換え実験研修会を4回開き120名が参加したのに、学校での実施は4-5名と少ないことがわかった。機材の貸し出し、準備のサポート、キットの提供、できるなら当日もサポートを行い、今年度は3月までに13校が実施することになった。
 実験講座を5種類つくり、8校にしぼって年間のべ24日間行った経験から、遺伝子組換え実験は導入にはよい実験(遺伝子は目に見えないが形質を大きく支配していることがわかる)であること、ピペットの扱いに慣れたり、微生物がとても増えること、抗生物質でそれを押さえられることも身近に理解できる。「身近な細菌の増殖と抗生物質の影響」というオリジナル実験を作り、組換え実験の導入に使おうと考えている。
 犯人探しの実験のようにヒトのゲノムを教材として採り上げるときには「ヒトゲノム研究にかかわる倫理指針」に従い、ヒトのDNAの扱いへの配慮ということも含めて授業を行い、個人遺伝情報の意味を教えるべきだと思っている。

総合質問討論

 筑波大学で行った研修会参加者へのアンケートから、参加者のうち、組換え実験を教育現場で実施した人は42.9%で4回も実施した人がいた。実施しにくい理由についてアンケート結果をもとに話し合った。

1.予算の不足
 都道府県、学校により実験に使える費用に差があり、乏しいところでの実施は難しい。
 →岐阜県のようなコンソーシアム、SPP(サイエンスパートナーシッププログラム)やSSH(スーパーサイエンスハイスクール)、科学技術振興機構の支援、教育委員会の支援、大学の地域貢献事業費の支援などを利用する方法が考えられる。

2.実験の準備の負担が大きい
 教師は進路指導、クラブ活動の監督など時間的余裕がない上、生物学を専攻していない理科教師には負担が大きすぎる。
 →教師向け研修会で実験の準備の方法、手順なども研修会のメニューに加える。SSHに指定されている高校に関心の高い他校の生徒を招いて実験を一緒に行う。機材を共同で利用する。

3.ゴミ処理が大変。
 遺伝子組換え体は高圧滅菌をして処理するが、その装置がないことがある。
 →大腸菌が死ねばいいので圧力釜等でよい。寒天、プレートは別々にしてぐつぐつ煮ればよい。電子レンジ、圧力鍋、普通の鍋を利用した場合、大腸菌は何分煮たら死ぬのか、というようなデータを一度どこかの施設でとっておくと、安心して処理できてよい。

自由討論
  • 「生活の中における遺伝子」まで発展させてもらいたい。
  • 遺伝子組換え実験の手順を教えるだけではだめ。
  • DNAの抽出、制限酵素で切る、遺伝子組換え、光るたんぱく質の抽出と続く一連のカリキュラムにまとめられないか。
  • 組換え実験は理系を目指す生徒のまとめ用でなく、一般の生徒の導入用とすると、遺伝子の働きの面白さが伝わるのではないか。
  • 2月19日 遺伝子組換え実験指針の改定が法律に基づいて発表される予定。実質的には手続きなどは今と変わらない。この法律の中で教育目的遺伝子組換え実験ということばはなくなり、文部科学省から例外として通達が出される予定(文部科学省から各県の教育委員会に流して認知してもらう)。個体に分化しない培養細胞は対象外になるので、組換えた植物の葉片を持ち出して実験することはできるようになる。実験用のモデル組換え生物や植物 が開発され、審査を通ると教材として利用できるようになる。
先生たちも生徒の気持ちになって 熱い討論を見守る鎌田先生
先生たちも生徒の気持ちになって 熱い討論を見守る鎌田先生


 筑波大学の鎌田博教授を中心とした全国から集まる講師、参加者の少しでも多くの中高生に遺伝子組換え実験を通じて、遺伝子の働きの面白さを伝えたいという熱意に圧倒されっ放しの1泊2日でした。これだけ継続的に研修会が行われ、情報交換、教材の共有、サポートシステムの工夫が行われていることを文部科学省、都道府県教育委員会に是非知っていただき、必要ならばサポートしていただけるといいと思いました。







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