くらしとバイオプラザ21

くらしとバイオニュース

HOME
What's New

くらしとバイオニュース

バイオイベント情報

やさしいバイオ

リンク集

バイオカフェ

くらしとバイオプラザ21とは

「遺伝子組換え農作物のメリットを語る」開かれる その2

 前回に引き続き、4月1日札幌で、4月2日に東京で行われた標記セミナーの会場から主な質問や意見を報告します。

会場からの質問や意見(東京、札幌のセミナーより)

メリットとデメリット
  • 質問:組換え農作物のメリットはわかったがデメリットはないのか?

    シュトールマンさん:食品として問題が生じることをデメリットというならば、米国では8年の歴史があるが、食品では問題は起きていない。
不耕起栽培
  • 質問:不耕起栽培だと、植物残渣が残るために虫が増えるのではないか。

    ヴィルウォックさん:大豆で不耕起栽培を行っていて害虫の問題は起きてない。むしろ、益虫(受粉に有用な虫)の数は増えていることを確認している。
交雑
  • 質問:米国では近縁農家で栽培している農作物との交雑の問題はどのように対応しているのか?

    シュトールマンさん:作物の交配は組換えに関わらず常に起こる可能性があるので、組換えの問題ではなく管理の問題。

    ヴィルウォックさん:遺伝子組換え大豆を作っているが大豆は自家受粉なので隣同士に植えても大丈夫なくらい。トウモロコシは交雑するので、遺伝子組換え種子に関係なくどの品種でも畑の端から10メートルの緩衝地帯を作って対処している。

  • 質問:私の北海道の畑では300メートルも間をあけられないので、交雑が不安。

    ヴィルウォックさん:緩衝地帯設置が日本では難しいかもしれないが、大豆は自家受粉なので、遺伝子組換え大豆と非組換え大豆は数インチの間隔でも栽培は可能なはず。自家受粉か他家受粉かといった農作物の性質によらず、遺伝子組換え作物だからといってひとまとめに議論するのはおかしい。農作物の性質による議論を政府、研究所も進めるべき。

    ブシューさん:有機農業生産者の農地の雑草が適切に管理されていないために、雑草の種が組換え農作物の畑に飛散することはある。

  • 質問:10メートルの間隔をあけたときにはどのくらい効果があるか。

    シュトールマンさん:99%純度を保っている。風向きによるのでそれによって緩衝地帯の範囲を変えたりする。消費者も関心を持っており、収穫前に眼で確認している。

  • 質問:札幌から40キロ離れた所で有機農業をやっている。北海道で組換え農作物が作られると虫や風、トラックが種を運んでくると私のような有機農業者は困る。種がこぼれるような事故は米国ではなかったか。

    シュトールマンさん:大豆は自家受粉なのでほとんど問題は起こっていない。トウモロコシの花粉は飛ぶので交雑の可能性はあるが、緩衝地帯が設けられ遺伝子組換え種や花粉の拡散が防がれている。米国では有機農業もそうでない農業も平和に共存している。

    ヴィルウォックさん:栽培品種と遺伝子組換え品種間に緩衝地帯を設けて同時に栽培し、きちんと管理している。たとえば農薬を散布する場合、農薬が有機栽培の作物にかからないようにするというような対策は各農家でとるなどの配慮が必要になる。遺伝子組換えのような新技術であっても同じように従来から行われている配慮を適切に行えば、有機栽培などとの共存は可能であると考える。
米国の農業やパブリックアンダースタンディング(市民の理解)
  • 質問:日本国民は政府を信用しない。米国民は遺伝子組換え食品を受け入れているのか。

    シュトールマンさん:日本には遺伝子組換え食品に対して強い懸念、政府への不信があることを感じた。米国には透明性の高い手続きや規制、公聴会などがある。米国政府は食品安全制度に長い歴史がある。米国政府を国民が信用し、農家による意思決定に対して理解がある。今回の訪問中、米国政府を国民が信用し農家による意思決定を尊重していることと、国民の信頼関係に改めて感謝したいと思った。

    ブッシュさん:新しい技術が生まれると初期段階では不安、懐疑はあるものだ。日本の消費者も誇りを持って農業をしている生産者たちの農地を訪問したり、生産者に歩み寄って彼らの考えを理解するように努めるべき。

    角田さん:米国の農家の人に会って彼らは自己責任でやっていると感じた。日本の農家は自分の経営にとって有利な情報収集や技術採用に対して農業試験場、国に頼りすぎていないだろうか。本当に消費者全体が遺伝子組換え食品に不安を感じているのか、安い方がいいという人も多いはず。責任の所在については市民も農家も一緒に考えるべき。
     北見には、遺伝子組換え技術について有識者を呼んで勉強会をすること自体が問題だとする農家や農協関係者もいるが、農家、環境、消費者にとってよいものならば研究だけは続けるべき。すべてに反対するのはやめてもらいたい。ガイドラインで栽培もできない方向には運ばないでいただきたい。

  • 質問:農業にも環境安全性を含む倫理があるべきではないか。農林水産省、厚生労働省の説明もはっきりしていない。

    冨田先生:米国ではFDA、EPA、USDAが安全性を審査しており、日本も農林水産省、厚生労働省が審査している。日本国民は政府機関を信用できないなら何を信用するのだろうか。

  • 質問:現在アメリカで栽培されている遺伝子組換え農作物は非主食が中心だが、小麦やコメのように直接食べるものについての社会の受け入れ状況はどうなるだろうか。

    シュトールマンさん:遺伝子組換え技術は歴史の浅いまだ「若い技術」であるので、この技術についての評価や結論を急ぎたくない。研究は継続し、消費者に提供される選択幅を広げるべきだと思っている。
日本の農家への不信
  • 質問:組換えに対して心配はしていないし、騒ぎすぎだと思っている。日本の農家は自分たちの食べるものは農薬を減らして作り、農薬を大量に使ったものを出荷しているという。日本の農業政策に対して憤りを感じている。農業保護のために納税者の負担も大きい。

    シュトールマンさん:日本の農家は自分用と出荷用を分けているなんて信じられない。私達が会った日本の農業者はそんなことはしていないと思う。
米国の消費者の声
  • 札幌から10キロでトマトとメロンを作っている。ブシューさんは消費者に売るときに消費者の声を聞くか。

    ブシューさん:米国では、組換えかどうかより何年農業をやっているかの経験、何回農薬をかけたか、見かけと味に米国民は関心を持って購入している。私自身は3代目の農家。
日本の農業について
  • 質問:米国の農産物が入ってくれば日本の農業は負けるに決まっていると思うが。

    シュトールマンさん:日本の農林水産省の発表によれば日本の自給率は45%。中国ではバイオの研究が進み、組換えの導入をしている。13億の人口を抱える国として当然のこと。米国で有機農法をしている農家は、収量は落ちるが高価格で買える人を対象に商売している。日本が自給していくには組換え技術でも何でも取り入れて収量を上げる必要があるのではないか。

  • 質問:米国では、どのくらいの面積の栽培をすれば農業は産業として成り立つのか。

    ヴィルウォックさん:債務がなければ500エーカー。高齢者なら50エーカー。特殊作物(メロン、トマトなど)は15エーカー。債務、地価にも依存している。(1エーカーは4046u)

    クープレンさん:利益率が低いのである程度の広さが必要。消費者の要求するものを提供していきたいが、バイオテクノロジーなしでは考えられないので、とにかく研究は続けるべき。

    ブシューさん:オレゴンでは花や苗木など多くの品種を栽培している。8エーカーあれば十分。作物種、融資額、地価などが影響する。

    シュトールマンさん:面積からだけで農業をとらえるのはおかしい。農家はいろいろと工夫してバイオを使った新しい市場も目指していくものだ。生産者のチャンスを奪ってはいけない。
期待される遺伝子組換え農作物
  • 質問:アレルゲンの除去は遺伝子組換え技術によるしかないと考えているが、最新の知見を知りたい。

    シュトールマンさん:ピーナッツのアレルゲンの主成分除去の研究が行われている。

    冨田先生:大豆にもアレルゲンがある。大豆のアレルゲンは同定されており、発現量を減らすことはできることもわかっているが、そのような遺伝子組換え作物まではまだ研究が進んでいない。アレルゲン除去には組換え技術が適している。

    ヴィルウォックさん:コレステロールが高くならないなどの健康によい大豆は研究中。世界の子供を失明から救うビタミンA強化遺伝子組換えコメなど。
有機農業
  • 質問:農業は環境破壊産業だと私も思うし、人の存在が環境破壊。科学技術の進歩の後には何か問題が出てくるものだ。遺伝子組換え技術に問題があったと後でわかっても取り返しがつかない。有機農業がいい。

    角田さん:環境にいい農業として20数年有機農業に取り組んできているが、できた有機栽培生産物の成分を分析したときに、安全性に自信が持てない。経営的にも有機栽培はエネルギー多消費型。有機栽培では収量をあげるために肥料を多く与えるので、農作物は栄養過剰で病気になり更に農薬を使うという流れになっている。実際には農薬を使用していても、残留農薬が基準以下で一生食べても病気にならないというのが大半の農産物の現状。
単一耕作の問題点
  • 質問:米国では広大なところでラウンドアップ大豆1種類だけを栽培しているというが、天変地異が起こったら私達の食料は確保できるのか。全滅しないのか。

    角田さん:1種類の作物を集中して作るのは効率的だが、病虫害に弱い。私は80ヘクタールの耕地を持っており、1種類の農作物を栽培した方が生産性を上げられるが、危険分散のために何種類も作らないといけないと考えている。しかし、3種類が限界。狭い場所で少ない種類を作らなくてはならないくらい日本の農家は追い込まれていることを理解してほしい。
外資系企業について
  • 質問:開発途上国の遺伝子資源を勝手に使って種子会社だけが儲けていることが問題だ。利益は必ず貧しい人に還元したり、余った土地は森林などの自然な生態系に戻してほしい。

    ヴィルウォックさん:種子会社だけが儲けている訳ではなく、生産者にも利益があるので購入が進んでいる。皆がwin-winの関係のもとに購入している。
そのほか
  • 質問:有機野菜買い付けをしている。私は日本の農家の方達と長く関わっており、彼らの手を見てきた。今日、アメリカの農家の方の手を見ると本当に働いていることがわかるので、そのことに敬意を表する。ひとつのいいものを選ぶより、あるものすべてに生命があるという考え方が私は好き。組換え品種ひとつを選び出す考え方には不安を感じる。

    シュトールマンさん:組換え技術は最大の育種技術だと思う。強い品種をひとつ選ぶのでなく、生産者に利益をもたらすものを選び取っていくだけ。
これからの農業
  • 意見:私は十勝の農家を営んでおり、男の孫5人が農業をやりたいといっている。
     帯水層の水が減るので新しい耕地を開墾するより、放棄された田畑を生き返らせる必要があると考える。そのためには病害虫、寒さに強い農作物を作ってください。

    角田さん:有機栽培をする権利もあれば、新しい技術を利用する権利もある、自分の考えと相手の考えを認めるのがよい。私の孫である小学2年生のかえでに誇りの持てる農業を残したい。みんなで地域、消費者と手に手をとってやっていきたい。

    クープレンさん:日本には孫にも継がせたいという農家があることはすばらしいことだと思う。水を節約する農業をこれからは第一に考えるべきだと思う。
日米の生産者 質問に答える生産者
日米の生産者 質問に答える生産者


 遺伝子組換え農作物を実際に栽培されている方達に日本の人が一番、尋ねたかったのは交雑の問題です。緩衝地帯を設ける等、遺伝子組換えであるか否か以前の種子の管理はきちんとすることが大切だという指摘は、今回来日された生産者の方の共通した意見でした。私達の周りの議論は「遺伝子組換え農作物との交雑が起こらない確率をゼロにできるか」という科学的には考えられない議論に偏りがちで、従来の農業における交雑やその影響が実質的に意味を持つかどうかについては考えが至っていなかったことに気づかされました。そもそも全ての農業技術には一長一短があり、地球と私達にとって安全で経済性に富む技術を長期の視点で真剣に考え、選んでいかなくてはならないのです。その時に、有機法なり、バイオ法なり、生産者の栽培の自由が確保されるべきことは言うまでもありません。

 遺伝子組換え技術に代表されるバイオテクノロジーの農業への応用については、賛否両論がありますが、日本の農業の実態を知らない市民である私達は、食べさせていただいているばかりで生産者の意見を聞く機会の少ないのが現実です。世界人口が増加する中で、日本のように自給率の低い国の消費者の5-10年後のメリットを日本以外の国やその国の農家が本気で考えてくれるでしょうか。今回の企画では、日米の生産者の実体験を生に聞くこと、彼らが自分達の仕事に誇りを持っていることを知ることができ大変に有意義でした。しかし、本来なら少なくとも5-10年後、できればそれ以降の私達の食を考える企画が日本の中で起こるべきだったと思います。起こる必然性がないほど、日本の農業の将来は活気に満ち、楽観できるものだとは残念ながら思えません。 くらしとバイオプラザ21では、今年の7月にも遺伝子組換え農作物と従来の農作物両方を見学する計画をしています。







ご意見・お問合せ メール bio@life-bio.or.jp

Copyright (c) 2002 Life & Bio plaza 21 All rights reserved.