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米国視察レポートNO.2 「コーンベルトを行く」

イリノイ州とミズーリ州はコーンベルトと呼ばれる地域の一部で、トウモロコシの畑がどこまでも続いています。この2州の農家を2日に渡り5箇所見学しました。
どこを訪ねても聞かれたのは「コスト削減」。自分の農園の中の貯蔵庫を利用し、相場を見ながら出荷するなど、農園経営は堅実で、戦略的。従って、除草剤や病害虫に抵抗性を持つ遺伝子組換え農作物の利用も、コスト削減と切り離しては考えられません。しかし、遺伝子組換え農作物を利用するもうひとつの理由は、農薬散布作業者の身体への付着、土壌への残留が少ない、散布回数が減るという、生産者の日々の作業にかかわるものでした。
分別流通の扱いは複雑で、よほど高い価格を保証されなければ、余りやりたくないのが本音だろうという印象を受けました。一方、「日本は大事な顧客だから、その注文には応えたい」という、担当者ひとりひとりの友好的な発言も本音なのだと思いました。
日本で、遺伝子組換え食品への懸念が語られるとき、必ず「米国の生産者にメリットがあって、日本の消費者にはメリットがない」という意見が出てきます。けれど、日本はこういう生産者のお陰で、安定して安価な食品や飼料を手に入れているのです。「組換え農作物ができる前は、散布した農薬が子供達に付着しないか気を遣った」「子供達にも噴霧器を持たせて手伝わせたこともある。しかし、彼らも二度とこういう作業をしたいと思っていない」というお話に、私達は返す言葉を失いました。
以下に写真を交えて詳しく報告します。

訪問した農家の状況
  • Hartmann Farm
  • Ellery Hawkins Farm
  • Mel Fick Farm
  • Jim Boerding Farm
  • Keith Witt Farm
訪問した農家は「平均より上」以上の1000〜3000ヘクタール規模。農業団体の理事を務めるなど、中心的に活動している方もおられました。働き手は家族(経営者夫妻とその両親、息子の3世代)が中心ですが、外部から雇用(常勤またはパートタイム)したりして大体3−4名。耕地は広くても個々の農園の経営は大きくありません。農業従事者の平均年齢は50代なかば(日本は60代なかば以上)、農業従事者の高齢化は日本と共通した問題です。若者は高収入の都会のビジネスマンに憧れるけれど、大体の農園では、子供のうち誰か一人はその仕事を継いでいるようです。
Fickさんのようにセントルイス近郊だと土地の税金が高いので、その点もコスト計算のときに考慮する必要が出てきます。Fickさんの場合、息子さんも働くようになったので安い郊外に耕地を買い増やしています。

町外れのきれいな園芸品の販売店の隣はフィックさんの自宅 町を離れると、緑の地平線がどこまでも続く 所々に農家。ここでは、これくらいの建物(自宅、納屋、貯蔵庫など)がそろっていて「普通の大きさの農家」らしい。

除草剤抵抗性組換えと非組換えダイズを栽培しているケース

作付けする大豆のうち組換えの占める割合は5〜7割(ただし害虫に抵抗性を持たせないためにすべて組換えにすることはできない*)。最近は非組換えの栽培を減らす傾向が強くなってきています。(理由はプレミアム価格をご参照ください)
同じ遺伝子組換えダイズでも、ある農家では遺伝子組換えダイズは85%。そのうち除草剤(商品名ラウンドアップ)抵抗性トウモロコシ15%、害虫抵抗性トウモロコシ35−40%、この他に標的になる害虫が異なるもの、害虫抵抗性と除草剤耐性を併せ持つ品種などもあります。
さらに、隔年で組換え大豆と非組換えトウモロコシを交代で栽培します。非組換えトウモロコシを栽培することによって除草剤耐性が生じないようになったり、豆類を植えることで土地を肥えさせることになります。
*米国連邦政府による規程:害虫抵抗性トウモロコシは8割、ワタは5割以上、組換え体を栽培してはいけないことが組換え作物の栽培管理方法として定められています。(害虫の抵抗性獲得の防止のため)

狭畝栽培された収穫まぢかの非組換えダイズ。背の高い雑草が生えている 1本にひとつだけ穂がつき、収穫時には雨がたまらないように穂が下を向くように品種改良されているトウモロコシ

栽培している品種を示す看板。
これは35P10という品種で、
下段のふたつのマークは組換えで付与された形質を示す。
この場合は害虫抵抗性と除草剤耐性
組み換えていない品種の看板。
下段に何も書いていない


農作業について

除草作業
非組換えダイズに対しては除草剤散布3回。内訳の一例として、幅広い葉の草(双子葉類)、芝の仲間(単子葉類)、トウモロコシ用(去年のトウモロコシの種がこぼれていると生えてくるので)の3種類を時期により混合しながら、3回に分けて散布します。
散布するとダイズも10日くらい枯れたようになって生育がとまってしまいます。
除草剤の費用はラウンドアップを1回かけるだけで済む組換えの3−4倍かかります。
狭畝栽培といって狭い間隔で植え付け、間に雑草が繁茂しないようにする、栽培方法を採用しています。

収穫作業
大きなコンバインで収穫した穀物は1ロットごとに、自分の農園の施設で品質を検査し、含水量により大型のドライヤー(貯蔵庫くらいの大きさがある)で乾かして貯蔵庫に入れます。
収穫時はコンバインに乗って、1日10時間くらい作業をし、3−4週間かかります。その時期だけパートタイム(時給の例:作業内容によるが、ワラ処理など軽い仕事なら12ドル、植えつけや収穫なら18ドル)を頼むところもあるそうです。

家より高価だというドイツ製の最新鋭のコンバイン 筆者はやっとよじのぼったのに、席に着くと足がつかなかった


プレミアム価格とは?

ダイズの場合 非組換えダイズは組換えよりも高く売れます(私たちの想像するほど、農家は利益を得ていません。彼らはそのくらいコストを厳しく考えています)。
 組換え 1ブッシェル(24キロ) 5.5ドル
 非組換え             5.9ドル
非組換えダイズを栽培する場合には、初めから特定の契約をして栽培することが多いわけですが、2−3月まで出荷を待たされると現金化が遅れることがあり、これは農家には痛手。収穫量が契約した量に満たず買い取ってもらえなかったこともあるそうです。農薬の費用、手間(除草剤散布の他に、装置の洗浄、煩雑な手続き、認証を受けなくてはなないこともある)など、高く買い取ってもらっても実際には赤字になってしまうこともあり、傾向としては、非組換えダイズの栽培を減らす農家が増えています。

トウモロコシの場合
3箇所の農家の話を総合すると、非組換えトウモロコシは除草剤抵抗性トウモロコシの1.5倍弱、害虫抵抗性(BTという、トウモロコシの害虫のみを駆除するタンパク質を植物体内でつくる)の1.2倍の価格で取引されているようです。
たとえば、1ブッシェル(35リットル。トウモロコシの場合は25.4Kg)では約6ドル上乗せされれば、1エーカーから10ブッシェル収穫できたとして、1500エーカーの畑で栽培すると、90,000ドル、組換えよりも増収です。


設備投資

機械化について、具体的に尋ねてみました。最新鋭のコンバインは8畝のトウモロコシを一気に刈り取り、粒にしてしまうことができます。コンバインの後ろには粉砕された茎、葉、粒をきれいに取られた軸が吐き出されます。本体23万ドル、先端部分(コンバイン作業用)5万ドル。このあたり(セントルイスの郊外)では6万ドルで、土地の大きさが1ヘクタールくらいで、ガレージのついた農家が1軒買えるので、いかに機械化のために投資をしているかがわかります。
8畝の幅はほぼ7メートルで、450馬力。日本から参加した生産者の持つ、日本では大型のコンバインの幅は1.6メートルで40馬力。
大型機械を収納する場所も大切。修理をして丁寧に使っても建て替えが必要になるときもあります。

作業はすべてコンピューターで制御されている。ホーキンスさんの隣に天野記者と試乗させてもらうと、運転席は空調、オーディオ設備もあって快適! 左手のトウモロコシは非組換え。芋虫が元気よく飛び出してきた。写真4,5の圃場で 貯蔵庫のトウモロコシ粒を吸い上げてトラックに積む


農家の方たちとの意見交換

行く先々の農家で私達は意見交換を行い、日本の消費者をどう思うかなどについても尋ねてみました。

遺伝子組換え農作物の利点
ダイズというのは収量を飛躍的に増やすことが難しい品種なので、手間が省ける利点は大きい。
ラウンドアップ除草剤は土壌で早く分解し、散布回数も少ないので土壌への残留がほとんどなく、河川を汚染する心配がない。
不耕起栽培ができるので(刈入れの後の残渣をそのままにして、土を耕さない)、表土が雨で流出することがない。

種を白い箱に入れてまく装置。 2階建ての家ほどの大きさの本体。
後ろに種をまいたり、農薬をまいたりする装置をつけかえる


交雑、自家採種など
トウモロコシは異なる品種の間には緩衝地域として、200フィート(約60メートル)間をあける。その領域には農薬を散布せず、組換え農作物として扱う。
トウモロコシの種子はF1(一代雑種)なので、取れた種を使うことはない。一般に、品質管理(雑草の種が混入していない。ウィルス汚染がない)の意味から、種は、毎年購入する(日本も同じ)。
*F1:掛け合わせによってできる第一代目の子孫群のことで、性質がそろっていて、親よりすぐれた性質(雑種強勢)を示すものが多い。

政府の助成
価格の低下に対し、政府の助成はあるが、少額。ダイズの助成金もなくなる方向。
凶作に対する保険を積み立てる仕組みを試みたこともあるが、あまりうまくいかなかった(日本には互助会のようなものがある)。

農家から見た消費者の受容について
遺伝子組換え食品に関して日本はEUより寛大であると感じている。しかし、実際に欧州を訪ねてみると、生産者は組換え栽培賛成で、住民もそんなひどい反対ではなかった。マスコミがあおっているように思った。
米国市民は庭の芝の世話を通じて、除草剤を利用しているので、除草剤に対してなじみがある。

生産者の受け入れ
化学肥料導入時にも同じ議論があった。それまでは堆肥や家畜の糞を使っていたが、効率が悪かった。化学肥料を導入していなかったら、今の人口に対して生産は追いついていなかったはず。
農薬を散布する回数が少ない遺伝子組換え農作物に不安を持つのは不思議。
米国ではダイズやトウモロコシから抽出したタンパク、コーンシロップ、食用油などで食べており、自分達は食品として受け入れていると思う(米国では豆腐などをたべないので、大豆やトウモロコシは飼料という認識しかないのではないですか、という質問に対して)





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