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第13回コンシューマーズカフェ「遺伝子組換え技術のこれまでとこれから」

 2014年7月23日、くすりの適正使用協議会会議室で第13回コンシューマーズカフェを開きました。お話は明治大学農学部教授中島春紫さんによる「遺伝子組換え技術のこれまでとこれから」でした。ifia2014遺伝子組換えセッションでテンポがよくわかりやすいと好評でしたので、さらに踏み込んだお話をいただきました。
 
Ifia2014遺伝子組換えセッション https://www.life-bio.or.jp/topics/topics580.html

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中島春紫さんのお話 会場風景

主なお話の内容

遺伝子組換え作物・食品
8種類(ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ジャガイモ、テンサイ、パパイヤ、ワタ、アルファルファ)が流通している。はじめての安全性確認は、1994年のキモシン(チーズ凝固酵素を遺伝子組換え微生物)
2004年カルタヘナ議定書は、50カ国が批准して発効した。このときに国内担保法としてカルタヘナ法ができた。
それ以前に指針として、光る大腸菌をつくるなどの遺伝子組換え実験を中学や高校でもできるように規制緩和していた。これらの実験は今では、カルタヘナ法でカバーされている。
 
遺伝子組換え生物の定義
遺伝子組換えの定義は、異種の遺伝子が入っていること。
細胞融合をみていると、オレンジとカラタチの細胞をエイッとくっつけた「オレタチ」という作物だけだが、分類学上、同じ属でうまくいった例だといえる。
セルフクローニングというのは同一種または近縁種の遺伝子を導入すること。
微生物では細胞が溶けて遺伝子のやりとりを自然界で行っており、これを「ナチュラルオカレンス」という。
遺伝子組換え技術は、他の生物に由来する遺伝子を複製する目的(子々孫々に伝わるようにする)で組み込む。研究者自ら慎重に規制をかけながら使い始めたが、どんどん広がり、世界中で緩和の方向。人的被害は起こっていない。
種の違いとはどういうことかというと、形は似ていても分類学上の種が違うこともあるし、見かけが違っても種は同じだったりする。動物で同一種として最も多様性があるのはイヌだろうと思う。同一種とは、雑種ができること。セントバーナードからチワワまでの多様性は雑種を作りながら生まれた。
オスのウマとメスのロバを掛け合わせたラバは、良いとこ取りで粗食に耐えてよく働くが、ラバはラバの仔を産まない。異種だから一代きり。メスのウマとオスのロバは逆になる。
 
遺伝子を組み換える方法 
アグロバクテリウムを植物体にはけで塗ると遺伝子が入る。培地で育てるとカルスという細胞の塊になり、ここから組換え体を選抜するのが難しい。選ばれたカルスにホルモンを与えると芽が出て、根が出て、植物体になる。
遺伝子組換え生物の利用方法は、閉鎖系かそうでないかで、第一種利用、第二種利用という。第二種利用を隔離圃場で行うには、段ボール一杯の書類の作成と審査が必要で地元説明会もしなくてはならない。研究者への負担は大きく、手を引く研究者も少なくない。
 
遺伝子組換え作物の実態
トウモロコシは背が高いので下に雑草はあまり生えないが、アワノメイガという芯に食い込む害虫の被害が大きい。殺虫剤の多くは神経毒で、作業者もできればあまり使いたくない。芯まで効くのは難しく、葉の裏に5回くらい散布することになる。
バチルス・チューリンゲンシスという細菌がいる。この微生物のつくるタンパク質Cry1とCry2は蝶と蛾に効く。Cry3は甲虫に効く。ところがヒトには無毒。マウスで安全性も確認されている。この細菌を乾燥させたものは、有機栽培で害虫駆除に使われている。
世界の遺伝子組換え作物の栽培面積は、1億7520万ha。世界の耕作面積の1割を超えた。そのうちの54%が途上国で、先進国ではアメリカの占める割合が多い。日本の国土は3780万haだから、4倍の面積にあたる。
面積の増加スピードは落ちてきている。
主な作物はダイズ、ワタ、ナタネ、トウモロコシ。ダイズとワタの7割、トウモロコシの3割、ナタネの24%が組換え。
 
生産現場では
アメリカのコーンベルト地帯では大型の機械を導入して100haくらいを家族経営している。自宅に大きなサイロがあり、バイオ燃料向けや日本など高く売れる所に売る。
紳士協定があり、食品安全委員会の審査が終わるまで米国では耕作しないことになっており、未承認作物混入を防止している。
例えば、全農グレインは米国で遺伝子組換え作物の検査と買い付けを行っている。買いつけられた作物は、パナマックスという5万トンの船で4隻/週で日本に運ばれる。
もし、台風でパナマ運河が壊れたら飼料の輸入がとまり日本の酪農は壊滅するだろう。
米国の農家にとって遺伝子組換え作物は農薬と散布のコストが減る。高齢化、人手不足の中ではメリットがあり、増収となっている。
 
食品の表示義務
TPPで遺伝子組換えの表示がなくなるという報道があるが、これは間違い。
一方、「不使用」と書いてあると全く入っていないと思われやすい。組換えを避けたい人が全く使われていないと誤解すること、「優良誤認」が起こることはアンフェアではないか。こういう表示はやめになるのではないか。実際には、「組換え使用」「不分別」の表示が続くだろう。
2004年から行われている食品安全委員会の食のリスクのアンケートで、ここ数年、不安という回答が5割を割っている。政治的な背景もあるのではないか。
実際には安ければ売れる。消費者は購入時、組換えかどうかは気にしていない。
 
開発事例
ゴールデンライス
ビタミンAを強化したお米。夜盲症や眼球乾燥症による視力低下や失明の患者が世界では50万人/年)いる。そういう人を助けるものだから、特許権が放棄されている。日本こそ、ODAでゴールデンライスを作るべきだと思っている。
よく、遺伝子組換え作物は、単年度契約で自家採種できないという人がいるが、自家採種ができる作物は、遺伝子の小さいコメだけ。それ以外は先祖帰りして品質がばらつき、売り物にならないので、生産者はF1種子(1代限り)を使用。
ブルーローズは英語で「不可能」の代名詞。バラのぺラルゴニジン(オレンジ色の色素)は水酸基が1つついており、シアニジン(赤い色素)には水酸基が2つついている。青色のデルフィニジンには水酸基が3個必要だが、バラには3個目をつける遺伝子がない。3個目をつけるペチュニアの遺伝子導入に成功した青いカーネーションは、グッドデザイン賞受賞。「永遠の幸福」という花言葉にしたので、結婚式の定番になった。栽培はコロンビアで行っている。青いバラは、スミレの遺伝子を導入して誕生した。
 
安全性確認
2003年創設の食品安全委員会は評価機関で内閣府にある。厚生労働省はリスク管理機関。
遺伝子組換え食品を担当する専門調査会で、3時間で2-3件の案件を審議している。申請者から提出される資料をもとに、科学的なデータのみで評価して答申する。これをうけて厚生労働省では、国民感情を含めた実効性を加味して判断する。
私は食品添加物については、厚生労働省の審議会に属している。食品安全委員会からあがってくる答申を基に、検査方法、使用方法などに関する通達をつくる。
発がん性の試験について不安の声があるが、食品安全委員会では、変異原性が陽性のときに発がん性試験に進む。
毒性については、NOAEL(No Observed Adverse Effect Level)といって、90日間、毎日食べさせて観察、解剖していられる量を調べ、NOAELの100分の1をADI(Acceptable Daily In take毎日、一生食べても安全な量)とする。動物とヒトの差は、実際は2-3倍から5倍。個人差は2-3倍。そこで、10倍×10倍と決められた。
例えばイソフラボンのサプリメントがあるが、これはエストロゲンの受容体と結合し、女性ホルモンとして働く。閉経後の女性に5年間、摂取してもらったところ、子宮内膜症が認められた。2005年、食品安全委員会は1日の上限値を30mgと決めた。
世の中には、毒になるものとならないものしかない。誤った量を摂取しても影響があらわれないように定めている「仕組み」を知ってもらいたい。
食品添加物や農薬を市民は危ないものと思っている。しかし、専門家は「大量に食べたものが危ない」と考える。例えば、日本では肺がんが減り、米消費が減り塩の摂取も減り、それに連動して胃がんも減少。
サプリメントは商品添加物の成分が多く含まれていて、食品添加物の塊ともいえる。安全性確認がされている食品添加物を避ける人がサプリメントを好むのはおかしい。
 
遺伝子組み換え食品の安全性評価の方法
遺伝子組換え食品と実際にある食品と比べるので、比較対象をみつけるのが基本。
かつてピーナッツをいれたダイズが却下されたことがあるが、これはリスク評価が機能していることの証明でもある。
○毒性試験は動物試験で50種類の栄養成分のデータをとっている。20-30億円くらいかかるので大手メジャー8社くらいしか開発したり申請したりはできない。
○環境影響評価
ダイズの場合、日本では冬に枯れる。日本には近縁種のツルマメがあるが、まず交雑しない。現在の遺伝子組換え技術では導入場所は制御できないので、遺伝子が導入された場所ごとに7代まで継代して調べている。
○アレルギーに関する試験
8つのアミノ酸単位で、アレルゲン(アレルギーの原因になるタンパク質)のデータベースでヒットしないか、体内で長く分解しない安定な物質でないかを調べる。
そしてアレルギーの患者さんの血清をアレルギーの反応が起こらないかを調べる。今までは、すべてここまでの試験で結果がわかった。
 
遺伝子組換え作物の分類
一般的な分類
第1世代 宿主の代謝系に影響なし。栽培しやすい
第2世代 栄養目的 宿主の代謝系が変更されて栄養成分を変化させる。
第3世代 医療目的 代謝系の一部が利用され新たな代謝部位を合成する形質を持つ。
行政上の分類は一般的分類と異なっている
(1)害虫抵抗性、除草剤耐性、ウイルス抵抗性を付与
(2)宿主の代謝系を改変し、特定の栄養成分を高めるなど
(3)宿主の代謝産物の一部を使って、新たな代謝産物を合成する形質を付与
 
規制は緩和の方向へ
遺伝子組換え技術についていろいろわかってきて、規制は次のように緩和の方向にある。
○審査された品種同士の交雑種である「スタック」
○ナチュラルオカレンスで同じ配列が生まれているという査読論文がある場合
○名前が変わっていても系を追跡できる場合
○セルフクローニングやナチュラルオカレンスが明らかである場合
 
高度精製品
高度精製品とは、添加物で菌体の生物が除去されているもので、高度に精製され、タンパク質を含まない食品添加物が該当する。審査を通過したときに、「組換え」として官報に掲載しなくてもいい。
食品についても「高度精製品の枠組み」ができるはずで、その議論が今後、必要だと思う。
審査を通過した遺伝子組換え食品添加物20種が発酵生産でつくられている。
 
遺伝子組換え作物・食品への反対運動から
○ベルギーでは遺伝子組換え作物が環境に悪影響を与える影響がある、アレルゲンを食品に持ち込む恐れがあるなどの理由から、消費者保護大臣の命令で遺伝子組換えナタネの畑がつぶされている。反対運動は根深い。
○ザンビアの事例
ザンビアは2002年アメリカの支援物資であるトウモロコシが遺伝子組換えを理由に拒否し、半年以内に35,000人が餓死した。ザンビア政府は非組換えトウモロコシを要求したが
アメリカは問題がないとしてGMトウモロコシを送った。結果は、GMトウモロコシを売って、武器やキャッサバが買われた。非組換えトウモロコシの方が高く売れるから要求したのだろうか。はじめからそれを飢える人々に配給するつもりはなかったのだろうか。
○マーク・ライナス氏の謝罪
マーク・ライナス氏は環境保護活動家で世界の組換えの審査が厳しいのは彼の働きのせいという言うくらい、活動してきた人。
2013年、イギリスの学会で、これまでの組換え反対活動を謝罪し、組換え技術は持続可能農業に重要という講演を行い、世界の注目を集めた。
○セラリーニ氏の研究
フランスの研究者セラリーニは、2012年ラウンドアップレディトウモロコシ(モンサント社の除草剤耐性)を2年間与えたラットにたくさんガンができたと報告。この写真が世界中のメディアにとりあげられた。
食品安全委員会では、ラットは実験用の遺伝的欠陥があり、短期間のガンの試験に使うもの。2年も飼えばガンはできるだろうと、実験のやり方に問題があるとした。
動物実験では1群 50匹以上のラットを使わなくてはならないが、セラリーニは1群10匹しか使っていない。世界中の研究者が国際的な動物実験基準にあっていないとして、生データを要求し、論文取り下げ(リトラクティッド)に追い込んだ。
○トリプトファン事件
1988年、アメリカで遺伝子組換え技術を用いてつくられたトリプトファンを摂取して、好酸球増加筋肉症候群をおこした患者38名が死亡した。製品に含まれる不純物のせいだと結論されたが、再現性がなかった。その後の検証で、トリプトファンの過剰摂取が原因だろとされている。
 
新しい育種技術 New Plant Breeding Technique(NBT)
○ワイン用のブドウの大部分は接ぎ木。
欧州のブドウが線虫で全滅したので、病気に強い台木に接ぎ木したブドウが使われている。では、台木が組換え植物だったら、このブドウは遺伝子組換え植物か?新しい育種技術に対してそういう議論が起こっている。
遺伝子組換えの定義では、他の生物の遺伝子が入ったら組換え。接ぎ木されたブドウは組換え植物体となる。
○タル(TALEN)タンパク質
タルタンパク質は34個のアミノ酸のくりかえし配列をもっていて、34個で一つのDNA塩基を認識する。認識するアミノ酸はタルタンパク質の中の13-14番目のアミノ酸。13-14番目のアミノ酸を選ぶと任意のタルタンパク質をデザインできる。
Zinc Finger酵素は、染色体の二重らせんの特定の1か所をスパッと2本とも切る。2本とも切られると修復ができなくなるので変異を生み出す。この仕組みを使うと最終製品に証拠が残さずにDNA配列を改変できる。
こういう技術を用いたとき、組換え技術を用いたというと、20億円かけてデータをとり申請資料を作らねばならないが、組換えでなければ20億円は不要。タルタンパク質を使ったか突然変異かの違いがわからない。うそをつかれても見抜けず、規制はできない。
○FT遺伝子
果樹の品種改良は年月がかかり、育種家は親子2代でリンゴを一つ作れるかどうかというほど時間がかかる。FT遺伝子を働かせると、発芽から10日で花粉が作れて、半年で実ができる。育種期間を飛躍的に短縮できる。しかし、最終製品で検証できない。
 
これからのこと
世界で生産する24.4億トンの穀物。その半分を家畜が食べ、1割はバイオエタノールに。一人の人が1年に250Kgを食べる。100億人を養えるか。現在は54億人分が確保されているが、世界人口62億人のうち、1割が飢餓人口となる計算になっている。有機農業では全然追いつかない。日本の自給率はカロリーベースで39%だが、もっと米を食べるとこれは41%になる。1250万トンの穀物を輸入して、米食880万トンは少なすぎる。イネは連作障害がない素晴らしい作物。米をつくれる環境にある国は栽培すべき。もっとお米を食べよう!組換え云々より「米食キャンペーン」こそ進めるべきだと思う。


話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • ダイズにピーナッツの遺伝子を導入して却下されたのは、組換えによりアレルゲンが増えたのか → 入れた遺伝子にアレルゲン合成の働きがあったと聞いている。アレルゲンが宿主の大豆より増えていたそうだ。
    • 組換え微生物を使って最終製品に残存していなくても審査は必要か → 乳酸菌を用いる場合などで遺伝子組換え微生物が生き残っているものは、作物と同じレベルの審査が必要。高度精製は結晶していて微生物もタンパク質も除去されていることを確認するレベルの審査をする。酵素を用いるとき、微生物は除去されているが、酵素の組換えタンパク質には審査が必要。最終産物に組換え微生物と組換えに由来した物がなければ審査不要。
    • 審査では用途と工程をみる。たとえば、タカジアスターゼはタンパク質が残存しているので、タンパク質の安全性試験を要求されるだろう。これまで微生物そのものを食品としているものは、あがってきていない。
    • 経済産業省で扱う場合は、決まった閉じた施設の中だけで、最終製品から微生物や由来物除去されていれば別の考え方になるが、組換え微生物の審査はまだない。
    • 日本食品安全委員会の審査では、欧米とのハーモナイゼーションは考慮されているのか → 事実上独立して行っている。アメリカ、カナダ、ニュージーランドなどの様子を聞いている。どこの国でも認可されていないものは厳しく審査するという印象はある。フィリピンは日本の審査状況をみている。韓国も初めは日本をみていたが、このごろは独自路線の傾向。政治的な配慮はよくない。日本の基準が厳しいので各国は日本に合わせていく流れがある。
    • 微生物由来酵素の扱いは → 産業酵素と食品用酵素は別の扱い。
    • IPハンドリングの基準値は日本では5%で、欧州は0.9%だがハーモナイゼーションを図るのだろうか → これはハーモナイズよりも実際に守れるかどうかということが問題。まじめに装置のクリーンアップをすれば5%は実現可能な数字。私は、0.9%はまじめにやっても守れない数値のように思う。
    • 微生物における組換えはどうするのか → 安定プラスミドを使ったりするが、微生物は遺伝子を交換するいろんな方法を持っている。自分で染色体に組み込んだり、こわしたりしている。
    • パパイヤの審査に時間がかかったのは → パテーィクルガンでつくられた。導入された場に関するデータが出るのに時間がかかった。次世代シーケンサーが発達して、これを使ったデータが提出された。その後、消費者庁で1年かかり、シールをはることになった。
    • NBTの議論はやっているのか → 水面下では動いている。声の大きい人の発言で混乱しないようにしたいと思って進めている。