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  • バイオカフェレポート「わくわくビールセミナー」

     2015年7月23日、くらしとバイオプラザ21事務所で第4回わくわくビールセミナーを開きました。お話はアサヒビール株式会社研究開発戦略部 佐々木克哉さんです。まずは乾杯!それから今日のビールの説明。本当にわくわくして、ビールセミナーの始まりです。

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    佐々木克哉さんのお話
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    本日のビールと差し入れの御馳走

    主なお話の内容

    今日のビールの紹介
    • レーベンブロイ
    麦芽100%のドイツビール。レーベンブロイはビールの中心地として知られるバイエルン州ミュンヘンで最も有名な醸造所。
    • バスペールエール 
    イギリスのエールビール。上面発酵エールビールはイギリスの伝統的な製法。エール特有の芳醇な香りをもちながら、苦味をほどよくつけている。
    • ヒューガルテンホワイト
    小麦を使ったベルギーのホワイトビール。コリアンダーとオレンジピールを加え、さらに生きた酵母を加えて二次発酵させている。フルーティーな香りが特徴。
    ベルギービールは様々なタイプがあり、果汁入れるものや、自然発酵させるタイプもある。ベルギーはブドウがとれないからワインの代用としてベルギー独自の香りのあるビールが生まれたといわれている。ワイングラスのようなグラスで飲む場合もある。
    • スーパードライ
    1987年発売。当時としては発酵度を高く設計。つまり、麦などのデンプンを十分に分解させ、そのデンプンを食べ残さない元気な酵母を使うことでクリアな味、辛口を実現した。当時ビールのアルコール度数は4.5%が主流であったが、発酵度を少し高くすることでアルコール度数を少し高めの5%とした。現在は各社ともアルコール度数は5%が主流となっている。
    • ドライセゾン 
    昨日(7月22日)にコンビニ期間限定で発売した。クラフトマンシップというシリーズでポーター、エールも発売した。「セゾンビール」は、ベルギーとフランスの国境近くで夏の農作業の合間に飲まれていたと言われている。ドライセゾンはシトラホップという特徴的な香りのホップを使用。発酵方法は上面発酵。
     
    ビールの原料
    ビールの原料は麦芽とホップと水が基本で、必要に応じて副原料を使用する。麦芽は大麦の種子を少し発芽させて乾燥したもので、発芽するときに生成する酵素(アミラーゼ)の働きにより、でんぷんを分解し麦芽糖(マルトース)ができる。これが酵母の餌となり、発酵を経てアルコールができる。ワインはブドウがブドウ糖を含んでいるので、ぶどうジュースから発酵を経てアルコールができ、日本酒は米のデンプンを麹のアミラーゼによって分解し、グルコースなどの糖にしてから発酵を経てアルコールができる。
    ホップを使用する主な目的は香りと苦味の付与。また、ホップには抗菌性があり、混濁防止になり、泡もちもよくなる。産地はドイツ、チェコ、北米などが多い。工場では濃縮してつくられたペレット状のものが使われている 副原料は味をさっぱりさせるために使用する。米やコーンスターチなどが使われる。麦芽にはでんぷん以外にもタンパク質や脂肪が含まれており、オールモルトビールは一般的にはコクや重みのある味になる。 水はカルシウム、マグネシウムなどの含有量である硬度がビールの個性に影響してきた。硬度が高い硬水は濃い色のビールに、硬度の低い軟水は淡色のピルスナーに向いている。


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    会場風景
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    麦芽(大麦)とホップのペレット

    ビールの歴史
    1.古代
    メソポタミアではBC3500-3000にビール造りが行われていたことが粘土板の記録からからわかっている。
    エジプト(BC3000)でも、パンを水につけておいたら自然に発酵してビールができたといわれている。酔っぱらった人の絵などが残っている。またハムラビ法典(BC1700頃)には、ビールを水で薄めてはならない、などの規則が記されている。
     
    2.中世
    8世紀ごろ、当時ビールはワインよりも下等な酒と言われていたが、ドイツのカール大帝が大のビール好きでドイツにビールを普及させ、その地位を復権させたと言われている。修道院でのビール作りが始まり、修道僧はエリートでビール技術者の養成機関だった。修道院のビールは品質が優れていた。
    ビールにホップが使用され始めたのは11世紀末から12世紀ごろ。ホップは抗菌作用があるので腐敗防止の効果があり、品質、生産量ともに大幅に増加した。
    1516年、ヴィルヘルム4世がビール純粋令を公布。ビール製造には大麦、ホップ、水以外を使ってはならないとした。その後小麦の使用を認めるなどの若干の変更はあったものの、ドイツビールは今もこれを守ってつくられている。
    当時の少しおかしな品質検査の様子の絵が残っている。ビールをこぼしたベンチに2時間人が座って、立ち上がった時に椅子がズボンにくっついて持ち上がったらそのビールはエキスが濃いことが証明され、合格となったと言われている。
     
    3.近代
    ビールの品質向上に貢献した3つの技術の発明(ビールの三大発明)がある。
    リンデ(ドイツ 1873年)のアンモニア冷凍機の発明
    パスツール(フランス 1862年)の低温加熱殺菌法
    ハンゼン(デンマーク 1883年)の酵母の純粋培養
    これらの発明によって、温度管理、品質管理が可能になった。蔵酵母(自然任せ)で発酵していたものが、酵母管理、温度管理、殺菌技術により、高品質なビールを安定して生産できるようになった。
     
    ビールの種類
    世界のビールの種類は上面発酵と下面発酵で大きく二つに分けられ、さらにビールの色(淡色、濃色、中間色)で分類される。最も普及しているピルスナービールは下面発酵の淡色ビールである。
    日本のビールはほとんどピルスナータイプのビールであるが、酒税法によって独特の分類がされている。ビール、発泡酒、新ジャンルの定義は酒税法で決まっており、税率が異なる。ビールは麦芽の使用率が67%以上で副原料は麦・米・とうもろこしなどの制限がある。発泡酒は最も普及しているものは麦芽使用比率が25%未満で、副原料の種類に制限はない。新ジャンル(いわゆる第三のビール)は、豆類を原料として麦芽を使っていないものと、発泡酒とスピリッツを混合したリキュールに属するものがある。税率は、ビール、発泡酒、新ジャンルと低くなっていく。
     
    ビールの製法
    製法は主に仕込、発酵、濾過の3つの工程からなる。
    • 仕込工程 
    簡単にいうと麦ジュース(麦汁)をつくる工程である。
    仕込釜には副原料を入れ、一部麦芽も入れてデンプンを液化させる。一方、仕込槽には麦芽を入れ、はじめにタンパク質等を分解させた後に仕込釜の副原料と合併して麦芽中の澱粉分解酵素(アミラーゼ)を利用してデンプンを麦芽等に分解する(糖化工程)。
    デンプン以外にも、たんぱく質をアミノ酸に分解したり、植物繊維(βグルカンなど)も分解する。これらの酵素はすべて麦芽中にあるものを利用している。温度を上げながら、順番にタンパク質、食物繊維、デンプンを分解する酵素がそれぞれ適した条件で働くように温度をコントロールする。
    次に麦汁濾過工程で麦芽の穀皮を除いて清澄な麦汁を得る。食物繊維(ベータグルカンなど)が分解されていないと、この工程で目詰まりをおこしやすくなる。
    続いて麦汁を殺菌する煮沸工程に移り、ここでホップを投入して苦味や香りづけを行う。その後、煮沸中に生じたタンパク質等の凝固物を除く熱トループ分離工程をおこなう。
    • 発酵工程 
    酵母によるアルコール発酵を行う工程である。
    発酵工程では、アルコール、炭酸ガス、エステル(フルーティな香り)ができる。小麦ビールがバナナ香の様なフルーティーな香りがする理由は、小麦中のアミノ酸にはロイシンが多く、発酵工程を経て酢酸イソアミルが多く生成するためである。
    現在のビール工場では、発酵工程はほとんど屋外に設置している発酵タンク内で行われている。茨城県の守谷にある工場では高さ約20メートル、容量500キロリットルのタンクが約100本ある。タンク1本のビールを1日1缶(350ml)ずつ飲むと、飲み干すのに約3900年かかる。
    発酵が始まると、液面は徐々に発泡してゆく。約1週間で泡がおさまり、発酵が終了すると酵母は底面に沈む(これを下面発酵という)。発酵には上面発酵と下面発酵がある。上面発酵は発酵後に酵母が上にあがってくる、下面発酵は発酵後、酵母が凝集して下に沈む。発酵終了後はタンク底から酵母を抜き取る。
    以前、東京にあった大森工場には屋内にプールのような発酵槽があった。発酵液面上の泡の写真は、当時の発酵槽で撮影したもの。
    主発酵終了後、熟成工程で硫化水素やジアセチルなどの未熟臭を除去する。
    • ろ過工程  
    主に酵母を除去する工程である。
    キャンドルフィルターで珪藻土濾過を行う。これにより酵母やタンパクとポリフェノールの重合体が除去されて清澄な輝きのあるビールとなる。生ビールの場合は熱処理をしないので、その後にフィルターによる精密ろ過を行う。
     
    ビールの品質とその科学
    香味の評価は官能検査と化学分析を行う。
    香気に関する表現はBCOJ官能評価法によると、ホップ香、麦芽香などのポジティブな香りからオフフレーバーまで様々な表現が定められている。ビールの揮発成分は約700種類あると言われるが、ほとんどが単一の物質では閾値以下であり、多くの成分が相互作用によりビールの香気を構成している。従って香りの解析は複雑で難しい。
    味の感応表現は酸味、甘味、苦味などがあり、ビール中のエキス成分や約240種類と言われているが、明らかに閾値を越える成分は苦味成分と炭酸ガスだけである。
    泡の評価では、あわ立ち、泡づき、泡持ちを評価する。ビールの泡の構造は、たんぱく質とホップの苦味成分からなっている。従って、タンパク質が分解されすぎると泡に影響する。また、一般に苦いビールの方が泡持ちがいい。また、油がついたグラスは泡に悪い。グラスのきれいさも大事。
    保存中に発生するビールの不快臭には、酸化臭(高温で長期におくと発生。ダンボール的な臭い、トランス-2-ノネナール)と日光臭(瓶ビールを日光のあたるところにおくと発生。獣的なにおい、3メチル2ブテン1オール)がある。
    酸化しにくい抗酸化製法については各社が研究している。麦芽中のリポキシゲナーゼがビールの酸化に関与していることが分かっており、この働きを抑える工夫がされている。
    ビールの中身は瓶と缶で違いはない。保存状態により、瓶の方が日光の影響を受けやすいという違いはある。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • お店でおいしく飲むためには → お店や卸売店の管理として気をつけて頂きたい点はやはり日光をさけて涼しい所で保存すること。生ビールの場合はサーバーの洗浄をマニュアル通りにしていただくことです。お客様側としてはきちんとビール管理しているお店を選ぶことになります(ビール会社がこの店のサーバーはきちんとメンテナンスされていると表示している店もあります)。飲むときの温度は人それぞれ好みによります。一般的に夏場は4-6℃といわれますが、最近はエクストラゴールドという、氷点下に冷やしたスーパードライもあり、ご好評いただいている例もあります。
    • どういう状況で飲むのがおいしいか。湯あがりはおいしいというが → これも人それぞれですが、ビールの種類によって食事中があうものや、食後にゆっくり飲む方があうものがあると思います。ちなみにビールの味の検査をするときは味覚が敏感な食事前に行います。
    • 土地の料理にはその土地の酒があうという。ビールは涼しい土地で生まれたお酒だが、高温多湿の日本の夏に、ビールはあうのだろうか → 日本で淡色のピルスナーがここまで普及したのはそれが高温多湿の気候に適していたのだといえると思います。ピルスナーの中でも比較的さっぱりした香味が普及したのは日本独自の進化と言えるのかもしれません。
    • 地ビールとクラフトビールとは → ほとんど同じと考えて良いです。明確な定義はないが小ロットで伝統的な製法に従ってつくっているビールが多い。アメリカでは数年前からクラフトビールが伸びています。
    • ドイツにはビール純粋令に従っていないビールはあるのか? → EU(当時EC)ができてからビール純粋令は自由貿易に反するという理由で非合法化された。従ってビール純粋令に従っていない外国のビールをドイツ国内に輸入することは出来る。しかし、ドイツ国内の醸造家は今もビール純粋令を守ってビールをつくっている。

    「とりあえずビール」でなく、「ずっとビール」でおいしく飲んでいただきたいと思っています!という佐々木さんのことばで締めくくられました。

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