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  • 第2回がんに挑むバイオカフェ「ジャーナリストから見た日本人のがん」

     2015年9月13日、三鷹ネットワーク大学において、第2回がんに挑むバイオカフェは、「ジャーナリストから見た日本人のがん」でした。スピーカーは医学ジャーナリスト・元日本経済新聞編集委員 中村雅美さんでした。第1回目はどうしてがんは発症するのかを遺伝子からみた、ミクロのお話でしたが、今回はマクロのお話です。
    第1回がんに挑むバイオカフェ「どうしてがんはできるのか」はこちらにあります。

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    スピーカー 中村雅美さん
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    ナビゲーター 松田偉太朗さん

    お話のおもな内容

    はじめに
     20世紀から21世紀になって、基本認識は量から質へ。人々の関心は新3K(健康、環境、交流)。教育も交流に含まれる。
     世の中を規定する言葉は生産から生活になり、供給者より需要者が主役になった。
     今、社会では安全と安心が重要といわれているが、これらは異なるもので、安全は客観的に数値で評価できるが、安心は心理的なもので主観的。ということは安全と安心は対立する。安全と安心のギャップを埋めるのは発信者への信頼しかない。
     これからの医療を語るキーワードは「統合」「個」「再生」の三つ。「統合」とは病気を診るのではなく「病人」を診るということ。「個」を重視すると個人にあわせたテーラーメイド医療になる。そして失われた機能を回復する「再生」。iPS細胞など再生医療の研究も進んでいる。
     
    健康の定義
     WHO(世界保健機構)は1943年、健康を「肉体的にも精神的にもそして社会的にも全てが満たされている状態」と定義した。1998年に「人間の尊厳の確保と生活の質を考えるために必要」という観点が加わった。
     健康な生活を送る基本は、栄養、休養、運動。だからといって、全員がマラソンをできるわけではなく、健康を維持するものとしては信州大学で考案されたインターバル速歩などがある。これらに加えて、私は「美養」も提案したい。美容ではなく、美養である。「美」を追求することは健康な生活を送るもとになる。他人とよりよいコミュニケーションをとることも大切。
     
    平均寿命と健康寿命
     日本人女性はずっと世界一。男女合わせて84歳で第一位。香港が二位。しかし、健康寿命は男女合わせて72-3歳。10年のギャップがある。10年くらい寝たきりの人もいるということ。
     
    医療技術の革新
     第一次医療革命は戦後から1960年代、第二次は70年代から現代在、そして、現代在から未来にかけては第三次の医療革命が起きていると言って良いだろう。ただ、社会が進歩して新しい技術分野がでてきたら、古いリスク技術を捨てればいいが、人間に関してはそれができない。新しい技術は本来、医療費削減に向かうはずだが、このままいくと医療費は増大する!スクラップアンドビルドがうまくいっていない。
     これからは感染症に代わって、①生活習慣病(がんをふくむ)、②免疫病(エイズ、アレルギー疾患、花粉症)、③心の病(カミングアウトしている人が増えている)が増えてくる。
    病気を治すよりもQOLの向上が重要視され、キュア(治療)だけでなく、ケア(手当て)の意味が見直されている。
     西洋医学(分析的、理論的。病気の原因にせまる。手術を行うことがある)と東洋医学(総合的。免疫力を高める。外科手術はなく薬で治す。内科が中心)それぞれの特徴を生かした医療が行われるだろうし併用も増えるだろう。
     
    クイズ1「現代医学では、がんは治せないか」→ No。
    ステージ(進行の度合い)で治るがんと治らないがんがある。例えば、胃がんでは
    Ⅰ期 98.7%は治る。
    II期 72.5%は治る。
    III期 43.2%
    IV期  6.4%
    ということで特にがんでは重要なのは早期発見が重要になる。その結果、見つけにくいがんは治りにくいがんということになる。
     がんの治療法には外科手術療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)などがあり、これらの併用も一般化している。これらは標準治療と呼ばれ、保険が使える。
     うち、化学療法は全身を薬漬けにするやり方だったが、分子標的医薬、抗体医薬が登場し、がんだけを治療することができるようになってきている。
     また、免疫療法は新しい方法である。臨床試験まで進んでいるのもあるが、まだ、玉石混交のものもある。しかも、自由診療が多い。
     がんが治るとはどういうことか。がんが縮小する、完全に除去できる、転移がない、など、いろんな指標がある。3-5年生存率といって、5年間にそのがんが再発しないとがん生存率においては「がんは治った」という。他への転移が起こっても5年生存にカウントされる。統計学的な意味を持っているといえる。
     
    クイズ2「がんは加齢に関係するか」→ Yes
     日本では、一生のうちに3人にひとりががんにかかり、2人にひとりはがんで死ぬといわれているほどがんは多い。加齢によるがんの発症は多い。がんの死亡率グラフをみると50代後半からぐーんと増える。 高齢になるほど人口も減っているので、年齢調整をすると、そんなに増えていないのかもしれない。
    がんの種類をみると男女ともに肺がん、胃がん、大腸がんが多い。男性には前立腺がんがあり、女性には乳がん、子宮がんがある。2015年はトップから大腸がん、肺がん、胃がんの順と国立がん研究センターでは予測している。
     
    クイズ3「がんは遺伝するか」→ No
     がんは遺伝しない。ただし、家族性大腸がん、卵巣がん・乳がんの一部のハイリスクグループのがんは、遺伝性かもしれない。
    病気は遺伝因子と環境因子の相互作用で発症するもの。がんでも環境因子は働く。いわば、がんも生活習慣病である。また、遺伝子を受け継いでいても、がん発症前に亡くなると、遺伝因子が原因かどうか見えてこない。
     
    クイズ4「がんには様々な種類がある」→ Yes
     がんはあらゆる臓器や組織にできる。胃がん、肺がん、肝がん、大腸がん、乳がん 前立腺がん、リンパ腫、白血病(骨髄に故障)など様々。
     がんの種類は多いので、がん専門病院がいいか、総合病院かと聞かれることがある。私は、あらゆる診療科が揃っている国立がんセンターならいいが、いろんな診療科がある総合病院の方がいいのではないかと思っている。
    国のがん対策はというと、1984年の 対がん10カ年総合戦略からがん対策(中曽根内閣)は続いているが、2014年 第4次がん研究10カ年戦略が始まった。1984年から30年たって、がんの発症予防に軸足が移ってきた。第3次のとき、2006年、がん対策基本法ができ、2007年からがん対策推進基本計画が始まり、2013年にはがん登録推進法ができた。その結果、がん診療拠点病院が各自治体に一つ以上、できた。
     
    がんは予防できる
     食べ物、生活習慣を整え、検診による早期発見を目指す。私自身、生活習慣病の遺伝があると思い、食事や日光に当たらないなどに注意してきたら、今のところ糖尿病になっていない。
     予防については、国立がんセンターの「日本人のためのがん予防法」を見てください。科学的根拠なども示されて丁寧に説明されている。
    減塩運動で胃がんは減った報告があり、喫煙はあらゆるがんを進行させるのも科学的にわかってきた。そこで、酒、たばこ、熱い食べ物、ストレス、ウイルス感染に注意することが地味だががんを予防する道だ。検診を受けて早期発見(胃のX腺検診、マンモグラフィー、肺のかく痰検査など)に努めることもよいだろう。
     がん告知は宣告でなくなり、がんは治る病気になってきている。セカンドオピニオンもきけるし、QOLを維持するがん治療(緩和ケア医療、終末期医療、ホスピス)もあり、
     がん告知をうけたときから緩和医療は始まるという考え方もある。がん患者に最期までつきあうホスピスは、がんセンター、桜町病院、聖隷病院など現在(2015年8月)340か所以上もある。また、がんに必要なのは心のケアということで、患者さんと家族、ソーシャルワーカーの連携も進んでいる。


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    会場風景1
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    会場風景2

    がんにならないためにどうしたらいいのか
     健康食品・サプリに頼らない、社会の一員としての自覚(いろいろなことに関心を持つ)、リスク情報に過剰反応しないなどが大事。
    私たちの生きている目的は健康でいることであるから、健康の維持増進が最大課題。健康寿命は平均寿命から介護状態を引いた期間のことで、介護期間を少しでも短くすることが重要。病気よりも健康に重きをおき、病院から健康院(病気やけがをしなくても、健康のことなら何でも気軽に相談できる場所)ということを考えるべきだろう。
    自分にあった健康法、健康な食品。自分にあった運動の指導も必要。健康法はその人にあったやり方で行うのがいい。私はたばこはやめたが、お酒はほどほど続けています。

     
    ナビゲーター 松田さんのまとめ
     がんの治療法に関心を持つのは、がんは治ると思うから。がんも身近な病気になり、環境因子も働くとすると、生活習慣病の一つととらえられる。治療法に関心を持つばかりでなく健康をどう考えるかが重要。今日は日本の全体像、日本の医療界、日本の行政についてお話いただいた。健康とは何か、健康維持のためにも、がんを早期に発見することの重要性もご理解いただけたと思う。次回はどんな治療があるかというお話をいただきます。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • がんは放置するという考え方があるが  → 個人的には反対。放置していいがんと放置してはまずいがんがある。放置するかどうかは個人の死生観だと思う。
    • がんもどきについては  → 個人的には科学的根拠はみつけられない。
    • がん学会からがんを放置するという考え方に論戦を挑んでほしいと思っている  → がんの本質には未知の部分があり、多様であるので、科学的に正しく反論しようとするといいにくいのではないか。
    • 免疫療法というのは、医薬品があって、注射などを使うのか  → 免疫療法の医薬品と認可されているものは少ないが、悪性黒色腫にはエビデンスがある医薬品として認められたものがある。多くは、臨床試験中でまだ薬として承認されていない。一方、普段の生活の中で免疫力を高めておくほうがいいというのもある。
    • がんの他に認知症もこれから重要になる病気に含まれると思う  → 私もそう思う
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