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  • つくば夏の遺伝子組換え植物・作物・カイコ見学会

     2016年7月27日、つくば夏の遺伝子組換え植物・作物・カイコ見学会を行いました。これまでで一番多く、高校生、中学生が参加し、平均年齢の若い見学会になりました。
    午前中に農研機構 第4事業場 高機能隔離ほ場を見学し、食と農の科学館 講義室で講義を聴きました。午後は、筑波大学遺伝子実験センターを訪ね、施設を見学したり、講義を聴いたりしました。


    見学1 農研機構 第4事業場 高機能隔離ほ場

    ラン藻由来の遺伝子を入れて光合成の効率を高めたイネ(カルビンサイクル強化イネ)の試験栽培ほ場を見学しました。4アールの水田が6枚あります。「中干し」といって水田の水を抜き、地割れを起こして土中に空気を入れているところを見ることができました。


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    高機能隔離ほ場
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    靴カバーを付けてほ場内に入る
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    中干しで生じた地割れ
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    ほ場内の作物を乾燥させる建物

    食の農の科学館で講義を聴きました。初め、農研機構連携広報部 広報課 栗山朋子氏より、農研機構は4つの柱のもと、農業への厳しい環境もあるが、基礎から応用・開発・普及まで幅広く一体的に研究開発を行っている日本で一番大きい組織であると概要の説明がありました。


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    栗山朋子さんのお話
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    小松晃さんのお話

    講義①「遺伝子組換え作物の開発について」生物機能利用研究部門 上級研究員 小松晃氏

    1996年から2015年で栽培面積は100倍。栽培している国の数も増えた。私たちは遺伝子組換え作物に依存している。

    育種とは
    遺伝子が書き換わって野生種から多様な作物が作り出されてきた。野生種の性質が変わるのは自然突然変異(枝がわり、自然放射線、ミスマッチ)で遺伝子が変化するからで、そこから有用なものを選抜したり、人為的に突然変異を起させたり、良い形質を持っているもの同士を交配させたりすることが品種改良(イオンビーム ガンマ線をあてるもの、交配によるものなど、いろいろな種類の技術がある)。


    栽培の方法による違いも生じるが、遺伝子が変わらないと植物の性質は変わらない。稲の脱粒性(ジャポニカ米、インディカ米)の有無が一塩基の違いであることが後からわかったりしている。
    いいもの同士を掛け合わせるのが交配による品種改良で、交配の繰り返しの中で数万から数十万の個体からの選抜が行われる。

    遺伝子組換え技術
    この技術を使うと交配できない生物のよい性質をとりいれることができるが、これを期待する声と懸念する声がある。
    遺伝子組換えへの期待:複合病害抵抗性(農薬を減らせる)、不良環境耐性農作物(乾燥、塩害、アルカリ土壌耐性)、機能性(アレルゲンフリー)、低コスト 日本の自給率の低さは飼料が日本で自給できないところにあるので飼料作物を改良や、環境修復(植物を使って、カドミウムや残留農薬で汚染した土壌を浄化するなど)、バイオマス(植物体全体のことでバイオマスが大きいとたくさん燃料をつくれたり、アルコールに分解しやすい組織にしたりする)、コスト低減、軽労化、燃料削減、カビ毒リスク低減など。
    遺伝子組換えへの懸念:除草剤耐性の雑草がでてくる、野生種と交雑してのっとられる、アレルギーや毒にならないか、組換え飼料を食べた家畜の肉は安全か、害虫抵抗性(害虫が死ぬトウモロコシを食べて、人は死なないのか)、BTタンパク質は人には毒なのではないかなど。

    安全性
    日本には農作物と用途ごとにチェックする仕組みがあり、しっかり機能している。
    ○環境影響評価
    環境影響評価は、カルタヘナ法で担保されている。隔離ほ場で試験して、野生植物を駆逐しないか、根から有毒性物質を出さないか、 組換えた遺伝子が野生種の群れの中に広がらないかを調べる。全部で100数項目の調査をクリアしたものしか安全性審査を通過しない。
    ○食品としての安全性
    食品としての安全性は、食品安全基本法と食品衛生法(食品安全委員会と厚労省が所管)で担保されている。
    組換え遺伝子を人が消化できるか、アレルギー・毒性を起こさないか(アレルゲンデータベース、毒のデータベースと比較、人口消化液で試験)などを調べる。体に蓄積するものもだめ。予期せぬ栄養成分が増えてもだめ(予期せぬ成分の変化は認めない)。
    害虫抵抗性作物の植物体内で作られるタンパク質について。人の消化液は酸性で人間には受容体がない。だから哺乳類は、害虫抵抗性タンパク質をアミノ酸に分解するので、安全性に問題はないと考えられる。その結果、8作物304種類の安全性審査が終了している。

    まとめ
    遺伝子組換え作物は100項目以
    上調べつくしている。
    ジャガイモのソラニン、インゲン豆のレクチン、ダイズのトリプシン、梅やキャッサバのシアン化合物はヒトには有害であることが知られている。 これまで食べてきた食材の中にも、DNAに変化があった可能性があるものがあるが(色に変化が起きた食材、早生や晩生品種など枝変わりの突然変異で生じた品種など、安全性検査は、遺伝子組換えではないので行っていない。 安心は判断材料の情報の正確性、公平性によってもたらされる。みんなが正確な情報を共有し理解してこそ、いろいろな意見が共存できるのだと思う。 質問「遺伝子を組み換えて予定外の成分ができるのか」→複数の効果を意図しているときはいいが、作物に起こった変化の科学的根拠が突き止められない時が問題になる。これまでにそのような解明できない変化が起きたものはない。

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    小島桂さんのお話
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    上:クモ糸シルク 左:スポンジ 中:光る繭 右:普通の繭

    講義② 「遺伝子組換えカイコの開発について」 生物機能利用研究部門 上級研究員 小島桂氏

    カイコは遺伝子組換えに最適な、完全に家畜化され、野外で生きられない生物。しかし、遺伝子組換えカイコの吐くシルクには組換え遺伝子が含まれず、遺伝子組換え体ではない。
    蛍光シルク(光る繊維)が開発され、抗体融合シルク(インフルエンザが予防できる繊維のマスクなど)の研究も進んでいる。これらは遺伝子の機能解析の結果を利用する。  
    カイコとシルク
    カイコの一生は、一齢令例幼虫(孵ったばかりの一番小さい幼虫)が3週間で熟蚕(じゅくさん)になり、繭をつくり、カイコガがでてくるまで。
    繭をつくるときは、3日間1本の糸を吐き続ける。長さは1800mくらい。10-20本の糸を束ねて織ったり編んだりして用いる。
    シルクは内側にある2本のフィブロインという繊維本体をセリシンという糊がまとめている構造になっている。生糸はカイコの吐いた繭糸を10本束ねたもの。
    カイコは5000年前から飼育されてきた。家畜化されているということは、自ら餌を探さず、人間がいないと生きられない。5000年間、飼育し続けられた結果である。現在、養蚕農家は300-400戸。農家では桑の葉で飼育する。日本のカイコは400品種くらいある。
     
    シルク以外での利用
    冬虫夏草をカイコサナギに生えさせて生薬として用いたり、カイコを使って犬猫用インターフェロンがつくられている。
    3gの熟蚕の体重の1割がタンパク質で、それが繭をつくる糸になる。孵化したカイコが熟蚕になるのに3週間かかり、その間に体重は1万倍になる。ヒトの赤ちゃんは3000gくらいで生まれるが、これが1万倍になったらと想像すると、カイコのタンパク質の製造能力はすごいことがわかる。
     
    遺伝子組換えカイコの作り方
    プラスミドを蚕の卵に細い針で注射して、生まれたカイコの遺伝子に変化が起き、その子孫にその形質が受け継がれる。私たちは、500-1000個の卵に黙々と打ち込み、光る卵を黙々と探す。今では、赤、橙、緑などの光るカイコができている。
    光るウエディングドレス 光るシルク 浜ちりめんなどがつくられた。
     
    遺伝子組換えカイコのつくるもの
    クモ糸シルクは、シルクの強さを持ち、延びる特徴がある。防弾チョッキ繊維よりは強くないがステンレス鋼より強い繊維といえる。
    クモの縦糸をつくるタンパク質の遺伝子を蚕にいれた。引っ張った時に、シルクよりクモ糸シルクの方が40%より伸びる。強さは1割増しくらい。
    クモ糸シルクを吐く遺伝子組換えカイコの飼育の認可には3年くらいかかる。10ミクロンの太さの糸ができるので、ヒトの眼の手術に使えるかもしれない。
     
    シルクの糸以外の利用法
    ○シルクスポンジ
    精練したシルク(フィブロイン)を溶かした水溶液にアルコールを入れて凍らせるとシルクのスポンジができる。スポンジは、シルクの他にはエタノールやグリセリンなどの無害なものだけで作れる。安全だが、今はとても高価。
    ◯セリシン
    製錬してフィブロインの繊維にするとき、水溶性タンパク質であるセリシンの溶けた液は捨てられていた。
    この水溶液にとけたセリシンをパウダー化するなどして化粧品などに使われている。

    質問「煮たさなぎは何に使うのか」 → 食物、魚のえさ
    質問「奄美大島で、カイコの関係でなにかできないか」 → カイコと交雑する可能性があるクワコという昆虫がいないので、奄美大島はカイコ産業にむいている。
    質問「遺伝子組換えカイコの認可に3年もかかるのか」→ 動物の認可は初めてなので、時間がかかると思う。


    見学2 筑波大学遺伝子実験センター

    センター内の実験室、遺伝子資源の冷凍庫、屋外の特定網室、模擬的環境試験ほ場を見学しました。


    講義③「遺伝子組換えについて(講演と意見交換)」       説明:筑波大学 生命環境系 准教授 小野道之氏

    遺伝子組換え実験の計画
    遺伝子組換え実験は計画を事前に提出して検討して進めることに科学者自ら、ガイドラインを決めて自主規制してきた。現在はカルタヘナ法という法律に従って行われる。計画の中では扱う生物と操作する遺伝子を明らかにしなくてはならない。
    遺伝子組換え体が管理区域外に出て、ヒトや生態系に害を及ぼすことが無いように、物理的な封じ込めと生物的な封じ込めが行われる。物理的封じ込めいでは、段階(P1~P4)がある。大雑把にいくとP1は閉鎖系にできること、P2は安全キャビネット、オートクレーブがあることとなっている。
    筑波大学では、今、遺伝子組換えアサガオ、ユーカリ(耐塩性、耐寒性)、トマト(受粉しないで実がつくトマトなど)、シロイヌナズナ、イネ、サツマイモ、ジャガイモ、シクラメン、タバコ、その他、多くの実験が行われている。今回ご覧いただいたのは、一例に過ぎない。
    筑波大学遺伝子実験センターには15の特定網室と3つの模擬的環境試験ほ場があり、日本の最大の施設。見学すると特定網室と模擬的環境試験ほ場は十数メートルしか離れていないが、この模擬的環境試験が許可されるためには多くの試験や申請書類が必要。例えば、特定網室は学内の委員会による承認により試験が可能であるが、試験結果に基づく申請書類は必要。模擬的環境試験圃場で栽培するためには、文科大臣か農水大臣及び環境大臣の承認が必要であり、試験結果に基づく申請書類は、特定網室よりも質・量共に多い。
     
    食料危機
    世界人口の増加の中で食料は足りているのか。家畜が食べてカロリーを1/7にしているので、すでに食料は不足している状況。食料増産は政治・経済の課題であると同時に農学・生物学のテーマでもある。
    日本は1630万トンのトウモロコシを輸入しており、これは日本の米の年間生産量の2倍。輸入されるトウモロコシの1200万トンが飼料として消費され、残りは工業量。パナマックスという大型タンカーが1.5日に1隻ずつやってきて、畜産業も成り立ち、日本人は暮せている。
    世界の組換え作物栽培の栽培面積はこの20年で100倍。栽培国は28になった。全世界の大豆の82%、ナタネの25%、ワタの68%、トウモロコシ30%が遺伝子組換え品種。これは生産者に歓迎され、受容された結果だと思う。
    安全性審査においては、環境影響評価はカルタヘナ法、食品としての安全性は食品衛生法、飼料としては飼料安全法に従って審査される。現在、日本では、ダイズ、ナタネ、ワタ、トウモロコシ、テンサ、ジャガイモ、アルファルファ、パパイヤなど302種類が安全性審査手続きを終えている。
    しかし、店頭で遺伝子組換えと表示された食品をみることがないのは、主に使われている食用油や醤油などのタンパク質を含まない加工品については表示義務がないため。
     
    遺伝子組換え植物とは
    除草剤をかけたときに雑草だけ枯れて作物は枯れない「除草剤耐性作物」は世界で広く利用されている。除草剤耐性は、除草剤で阻害されたアミノ酸合成回路を土壌細菌の遺伝子がつくるアミノ酸でバイパスすることで機能している。
      メンデルの遺伝法則が発表されたのは1865年。突然変異のこと、DNAの二重らせん構造のことなどが解明され、組換えDNAの基本技術が1973年に完成した。
    1975年、科学者は集まってアシロマ会議を開いた。その後、米国NIH(国立衛生研究所)がガイドラインを制定し、日本では1979年、文部科学省(当時は文部省)が組換えDNA実験指針を発表した。1994年には初めて、遺伝子組換えトマトの商業栽培が行われた。
    たとえば、害虫抵抗性作物では、害虫を殺すBtタンパク質は、生物体の構造から害虫のみに有効で哺乳類には安全であることがわかっている。このBtタンパク質は1901年、石渡先生が発見した。1911年のベルリナーの発見で公式に認められたが、石渡先生が先。それから40年以上、有機栽培の殺虫剤として使われてきた。
    遺伝子を組み換えたときにできるタンパク質について、アレルゲンになりそうかどうかを調べ、アレルゲンになる可能性がないことを確認しながら、研究・開発を進める。
    害虫に抵抗性ができることについては緩衝地帯を設置して、増長しないようにする。害虫被害を小さくすることは、食害にあった場所に生えるカビのカビ毒(発癌性があるものも)も防止できる。
    遺伝子組換えの経済的なメリットは、農薬使用量が減少できる効果が大きい。
    このほかに実用化されているものではウィルス耐性パパイヤがある。期待されている作物として、オーストラリア政府が力をいれている乾燥耐性コムギ、スイセンのβカロテンをいれたゴールデンライス(ビタミンAの前駆体を強化した)がある。
    日本で開発されたのは青いカーネーションと、青いバラ。カーネーションやバラが持っていない、青い色素をつくる遺伝子を導入している。
    日本の遺伝子組換え作物の研究開発の遅れには、反対運動が影響している。イギリスではマーク・ライナスという環境保護活動家が、遺伝子組換え技術に批判的だったが今では宣伝している例もある。
    日本で遺伝子組換え作物・食品に関する情報を得るには、厚生労働省HP、環境省のバイオクリアリングハウスなどのサイトがある。正確な情報を得ていただきたい。


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    ユーカリのための背の高い温室
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    模擬的環境ほ場
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    遺伝子組換え生物を扱う実験室の看板
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    -80℃の冷凍庫で保存されるDNAなど
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    小野道之先生のお話
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    写真集合

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