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  • 「日本生協連での食品表示の考え方~遺伝子組換え表示制度を中心に」

    2019年2月18日、第27回コンシューマーズカフェでは、日本生活協同組合連合会 品質保証本部 安全政策推進室安全政策担当 中川英紀氏をお招きし、「日本生協連での食品表示の考え方~遺伝子組換え表示制度を中心に」というタイトルでお話いただきました(於 くすりの適正使用協議会 会議室)。

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    中川英紀氏
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    会場風景

    お話の主な内容

    はじめに

    日本生協連は300以上の生活協同組合(単協)からなり、2900万人弱の組合員がいる。CO・OPとは組合員と一緒に働くことを意味している。コープ商品は、組合員の声で生まれて、組合員の声と育ってきており、表示の中にも組合員の声を活かしてきている。

    例1
    ラーメンのスープを残した時とそうでない時のエネルギーと食塩相当量を表示。
    例2
    牛乳の開け口を大きく表示して、間違わないようにする。

    商品の表示では、「正しく伝え、選ぶときに役立ち、利用しやすい」の3原則を設けている。

    CO・OP商品での進め方

    自主基準では、法令基準に上乗せして補填している。全国生協の品質管理責任者の会議を3か月に1回開催。ここで自主基準の改定案をつくり、全国生協の商品事業や、組合員の委員会で確認する。その後、お取引先様(製造を頂いている全国の委託している事業者)と一緒になって商品づくりをしている。自主基準や内規はあくまでも日本生協連でのものであり、会員生協では、それぞれの考え方や組合員との合意により、日本生協連とは異なる基準を設定している場合もある。
    商品の開発では、商品部→ 検討会に提案→ 開発会議(商品本部長の会議)という流れで、品質管理、営業、物流、表示作成部署他、いろいろな人が一緒になって商品作りを進めている。

    例3
    個包装チョコレート菓子

    学童保育の保護者などへの配慮から外包袋だけでなく個包装にもアレルギー表示アイコンをつけるようにしてきている。

    法令基準の対応

    食品表示法が2015年に施行されたが、その後も原料原産地表示制度、遺伝子組換え表示制度などと続いている。
    日本生協連では、国の食品表示の検討段階から委員として協力(一元化検討会、原料原産地表示)したり、必要な場合には意見を挙げるなどで積極的に協力をしてきている。

    CO・OPでの新法への対応

    栄養成分表示は、1980年ごろから自主的に取り組んできたので、食品衛生法への対応についてはほぼ準備が完了している。現在、原料原産地への取組みを進めているし、今後遺伝子組換え表示の検討が必要になる見込み。遺伝子組換え表示では1,600アイテムに対応が必要になる見込みであり、時間もコストも要する。これらは消費者に理解いただけるものであれば良いが、実情として難しいところもあると思われ、今後、普及啓発も必要になると思われる。

    遺伝子組換え食品の表示

    現行の表示の対象は、8作物、33品目。含有重量の上位3位まで。
    日本生協連では1999年より自主的な表示基準を運用している。

    • 8作物33品目は配合率に関わらず表示する。
    • しょう油や油にも表示をする。

    しょう油や油は消費者の関心が高いので自主的に表示を始めた。積極的に表示をすることで、世の中のトレーサビリティの条件整備が進むことを期待し、自主的に表示をしてきた。
    「遺伝子組換えでない」という表示をするときは原料、製品についてDNAが検出されるかどうか、自主的な検査をしているが、お取引先様のご理解をいただき、法令基準の33品目はもちろん、自主基準の部分についても、しっかり管理いただけている。

    「遺伝子組換え」関連のお問合せに応える努力をしているが、問合せ数自体は、現状は全体の0.4%程度になっており少ない。問合せとしては「不分別」の意味を尋ねる質問が多い。また、「他社は表示していないのに、なぜ生協は不分別なのか?」など、「表示しない=組換えが入っていない」と誤認している方が多い。

    消費者委員会食品表示部会の検討状況

    IPハンドリングの事業者努力があって消費者は選べる。しかし、輸入や保管の中でどうしても若干は混入してしまう実情があり、意図せざる混入率5%が定められている。しかし、5%も含まれている可能性があるのにこの状況で「遺伝子組換えでない」と表示するのはおかしいとの一部意見があり、不検出が条件とされる方向になった。消費者に分かりやすい表示のためには一定理解できるが、前提となる「新しい公定検査法」が定まっていない。これにより監視の全体像が見えず、消費者にとっても事業者にとってもどうなるのかが不透明な状況だった。そこで、日本生協連は、11月に「新たな公定検査法の早期明確化」を主旨とする意見書を提出した。
    12月の食品表示部会では、リアルタイムPCR法を使用することが紹介され不検出ラインは0.1から0.2%の見込みであることが紹介された。また、製品で検査して疑義があったら原料の再検査をする順番が検討されている。引き続き、不検出ライン、不検出から5%以下の表現法が今後の課題とされるし、2023年4月施行が妥当かについての検討がなされる見込み。2月21日に第51回委員会が開催されるが、今後の動向に注視しつつ、日本生協連でのCO・OP商品についてどう対応すべきかを考えていく必要がある。

    今後について

    • 不検出の線引きラインが未定(これが決まらないと事業者は動きにくい。厳しいものであれば「遺伝子組換えでない」の表示は難しく、緩ければ今回の改正案の意味がなくなる)。
    • 最終製品で検査をして、疑義があった場合に原料検査や立ち入り検査がされて、総合的に判断される見込み。しかし、しょう油や油は最終製品で検査はできないので、不公平感などがでてくると見込まれる。
    • 5%以下から不検出の間の表現について、消費者庁は、Q&Aで示すというが、現在の表示案はわかりにくい。バラバラなものになったり、数字の競争になったりする可能性もあり、そうなれば消費者にとっては、一層分かりにくい表示制度になりかねない。
      食品表示部会で意味や使い方を決めて、消費者への普及啓発を進めるべきだと思う。

    食品表示の全体像の表示

    現在は項目ごとの検討がされているが、6年後を目途に食品表示の全体像の議論もある。現在は表示義務事項はパッケージに書く必要があるが、字が小さく分かりにくいことから、一部安全性に係らないものをWEBでの情報提供を可能にする方向で検討される。これは表示の根幹であって、2025年頃に決まる見込み。これから、遺伝子組換えの表示を変えても、状況次第で事業者はさらに別の表示方法に合わせる努力をしないといけなくなるかもしれない。

    遺伝子組換え表示の普及啓発

    平成29年度の消費者意向調査の結果を見ると、遺伝子組換え表示に関する理解度が高いとはいえず、消費者の誤認を招いている状況にある。今回の遺伝子組換え表示改正の件で、最も重要なのは、まずは消費者への普及啓発だと思う。

    ゲノム編集

    消費者にはわからないものが食卓に上がるという不安がある。厚生労働省の新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会でいろいろな団体が意見表明を行った。日本生協連からは「リスコミを徹底し、消費者の不安に応える制度をつくり正しい商品選択ができるようにしてほしい」という意見を表明した。

    まとめ

    組合員意識調査を3年ごとに実施しており、2018年度の調査結果では、消費者が求めているのは、「安全安心」「おいしい」「誇張や隠しごとをしない」が高い結果であった。
    食品表示は消費者の権利として、食品表示法にも定められている。引き続き、「分かりやすく・選びやすく・利用しやすい」の表示を通して組合員・消費者の「ふだんの暮らし」に貢献していきたい。

    話し合い

    • は参加者の質問、 → はスピーカーの応答
    • 不検出に対して「ND」という表示はないのか
      →「組換えでない」より「組換え不検出」のほうが正確ではないかといった意見も挙がっていたと思う。しかし、「遺伝子組換えでない」という言葉は一定周知されており、これまでの検討会等でもこの言葉をどう扱うかが論議されている訳で、この言葉を変えるのは踏み込みすぎに感じる。各社の考え方や表現方法がばらばらだと、消費者は分かりにくいものになるため、できるだけ分かりやすく伝わる方法を明確にして、その言葉の意味などを消費者に伝えていく必要がある。 
    • 組換えでないと書いてあっても、5%も食べさせているのが問題。どんな表示にしても入ってしまうという不満が残る
    • 検査して組換えでないと書いてある食品から検出されたら大変だから、業者は組換えでないとは怖くてかけない
      →「でない」を書くことのハードルが高くなるのは間違いない。例えば、国産原料を使って、他の原料と区分した製造管理をする等、混入しないための管理が必要になると思われる。
    • 年代別アンケートを見ると、若い人は気にしないのか。テレビ視聴率、新聞購読率と組換え表示への関心は同じ傾向になっている。20―30年経つと気にしている人は減っているのではないか
      →50代以上の女性で関心が高くなっている。これは「遺伝子組換え」への取扱いに対して当時から不安をもっていた方の傾向が残っているのではないかと思われる。
    • 私はカプサイシン(辛味成分)が体質的にだめなので、様々な機会に意見を出してきた。ファミリーレストランでは辛味の表示が始まり、よかったと思っている
      →CO・OP商品では、激辛商品を扱っていないため、何ともいえないところがある。また色々な意見がある中でどこまで対応できるかの限界もあるかと思うが、消費者が購入するときに内容物を分かりやすく、誤認しないようにするために「表示」があると思われるため、今後もその努力はしていきたい。
    • アメリカにおける、ラベルに書かず情報公開するというのはいい考えだと思う。遺伝子組換えのような安心表示は気にしている人に公開するのが大事だと思うが、COOPではネット表示はどう考えていくのか
      →ネットでの情報公開でいいのではないかという意見はある。原料原産地もネットなら詳細に書くことができると思う。食品表示の全体像の動向も含めて、検討していきたい。
    • 5%以下の表示は安心表示の部類に入る。生協は5%以下の表示に関するルールを作るのか
      →最低でも自主基準をどうするかは検討しないといけない。5%以下~不検出の表現についても検討することになるが、各社バラバラだと消費者の混乱を招きかねないため、権威ある食品表示部会等での方向性や、各社業界の動向をみながら、消費者に理解が得られる表示のルールについて検討していく必要があると思っている。
    • ゲノム編集について、生協では市民に科学を共有させるような取り組みをしてもらいたい
      →科学技術統合イノベーション戦略会議で、ゲノム編集応用食品の安全性と環境影響評価を今年中に決めると決まっていて、法令上の取り扱いが消費者意識より先にいっている。まずは、必要性、従来育種や遺伝子組換えとの相違を消費者に知らせるとともに、リスクコミュニケーションを着実に進めていく必要があるように思う。
    • コミュニケーションは誰がやるのか。コミュニケーションは双方向だから、一方的にするわけにいかない
      →2018年の組合員意識調査をみると、食の安全情報を得る媒体として、テレビが多い。若い人ではSNSが大きくなりつつある。コミュニケーションが必要だとしても、従来のやり方でいいかの検討が必要とは思う。 
    • ノーベル賞受賞者が発言してくれたり、それをテレビで著名人が解説してくれたりするといい。組換えでないという任意表示を認めたのは、消費者にも事業者にもマイナスだったと思う。不信感の連鎖が起こった。正直に混入率を書くのがいい
      →表示は正直に書くべき。「遺伝子組換えでない」表示は賛否両論あると思うが、特にしょう油や油などでは表示義務がないものに書いてないと消費者は選べない。今後については、今回の動きを踏まえて、改めて検討したいと思っている。
    • 遺伝子組換えでは安全性の確保はできていたことも周知していくべき。
    • 正直な事業者が馬鹿をみないような表示の仕組みにしてほしい。
    • 組換えでない表示をやめるのはいい。油では組換えと不分別の表示をして、組換えを避けたい人の希望は守られている
    • 0.1%でIPハンドリングを頑張っている事業者も評価したい
      →日本生協連では原料検査をして確認してきているから分かるが、本当に取引先様で混ざらないための努力をしていただけていると感謝している。
    • 組合員数 3000万人というと複数の生協に入っている人はどうカウントされているのか
      →延べ人数。組合員調査の結果からは、若い方で少なく、子育て世代で加入が一時増えるが子育てが落ち着くと減る傾向にある。残念ながら、生協の認知度や影響力は弱くなりつつあり、魅力ある生協になるよう頑張りたい。
    • 50代以上とその下世代のギャップがあるのは、教育の成果はでているのかも。高齢世代はBS放送の影響を受けやすい。
    • 多様な生協を支えるスタンスとは
      →科学的見地から評価するのが原則。その上で表示の有り方を考え、誤認、誇張しないように注意する。多様なご意見があるのが現実だから、科学ベースでは考えられない社会的な考え方も総合的にみていかなければならない。世の中の状況、理解度も考慮して、多くの人が望む形を冷静に考えていきたい。
    • 高いGABAトマトがゲノム編集できるそうだが、モノは出ていない。ゲノム編集のものが出た時の準備をしないといけないと思っている。いいものはいいと伝えたい
      →個人的にはバランスのよい食生活が基本であると考えている。生協で取り扱うとして、組合員が求めるかどうかが大事。例えば、毒のない食品を扱うときに、本当に毒がないかの確認をどうするか、表示をどうするかの検討が必要になる。黒くならないマッシュルームは消費者からみれば、傷がついても分かりにくいというようにも受け取れる。 消費者の要望をみて、冷静に判断する必要があるが、まずは必要性を含めた正しいリスクコミュニケーションが必要と思う。
    • 組合員の教育が大事。消費者は意見をいうだけで勉強しない。安全をより安全安心で差別化していくと、好みに迎合していくことになる。消費者は言いたい放題になりやすい。一般企業には会員はいないので、生協では組合員の教育を進めてほしい。
      →ゲノム編集について現時点で教育を進めると、生協がゲノム編集食品を取扱うかのように受け取られる。現段階では国民へのリスコミが決定的に不足しており、そこに至っていない。
    • 安全に関係ないのだから、遺伝子組換えでない、有機には厳格な認証制度をかけてコストをかけて、高くても欲しい人に提供をするという考え方もあるのではないか。「遺伝子組換えでない」と不検出のときに書く仕組みは認証制度に近づいていると思う。5%以下を正直にしてほしい
    • 安くて安全なものを買いたい人を不安に陥れないようにしてほしい
      →安全安心はあたり前の世の中になっている。価格については組合員にとって「お求めやすい価格」になっているかは引き続き考えていきたい。
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