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  • 「食品表示制度の現状と課題」シンポジウム開かれる

    2019年7月5日、ウエルネスフードジャパン2019・ASCONシンポジウム「食品表示制度の現状と課題」が開かれました(於 パシフィコ横浜)。
    冒頭、消費者市民社会をつくる会(ASCON)代表 阿南久さんから、以下のとおり開催趣旨が説明されました。「私は2012-2014年、消費者庁長官をつとめ、消費者の選択する権利を保障するものとして『食品表示法』を、事業者、消費者との意見交換を経て策定した。運用が検討され、法律が施行されたのは2015年。今日は、機能性表示食品、遺伝子組換え食品、ゲノム編集応用食品などを例にとって、どこまで情報が開示できたかを共有し、ディスカッションを通じて、食品表示をめぐる課題を探りたい」

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    阿南久さんの開会のことば

    基調講演

    消費者庁食品表示企画課 保健表示室長 森田剛史氏

    食品表示制度について

    食品表示は食品衛生法、JAS法、健康増進法に関わっており、表示の仕組みがわかりにくく、これらを一元化する食品表示法ができた。内閣府令として、食品表示基準が示された。表示内容は材料名などの品質、賞味期限などの用法、健康に資する栄養成分など関わる。
    施行は2015年4月からだが、加工食品は5年、生鮮食品は1年半の経過措置期間が設けられ、2020年4月から完全施行となる。

    • 生鮮食品の原産地表示が義務付けられた。
    • 加工食品は、原料、消費期限、添加物などが表示される。
    • 栄養成分表示は、これまでは任意だったが、2020年4月から義務表示が始まる。小規模事業者は例外。

    保健機能食品の動向

    特定保健用食品(個別審査して長官が許可、トクホマークあり、疾病リスク低減表示を認めている。海外の表示の方が、許されている範囲が広いようなのでその状況を調査中)、
    栄養機能食品(上限・下限値などを表示する。届け出、承認ない自己認証制度)
    機能性表示(事業者が根拠をもとに届け出する。消費者庁は形式のチェックを行う。1980件を超えている。サプリが約半分。生鮮食品も含まれる)
    消費者の誤解を招かない、消費者の合理的選択に資するという方針に沿って、機能性表示食品制度はつくられ、改善を繰り返し、2018年3月に第3次改正が終わった。その中で生鮮食品の有効成分の含有率には幅を持たせる、分析方法の開示(一部マスキング)様式の記入項目を3割減にするなどの改善が行われた。
    4次改正では、軽症者データも認める、食薬区分の考え方の生理、販売状況の情報をQAにした。   

    食品表示制度を巡る最新の情勢について

    • 遺伝子組換え食品:2019年4月、遺伝子組換え食品表示制度の食品表示基準の一部改正に関する内閣府令が出され、「遺伝子組換えでない」は不検出のときのみ表示されることになった。
    • 食品添加物:一括名、用途名併記などが分かりにくいという意見あり。国内外の実態調査を実施して2019年度末に報告書の取りまとめの予定。
    • 改正食品表示法:2021年6月までに改正食品衛生法と改正食品表示法に基づき、食品リコールを行った場合、行政へ届出することが義務化される。
    • ゲノム編集技術応用食品:食品衛生法上の取り扱いについて厚労省が2019年3月方針を決定。遺伝子組換えとみなされないものについて届け出などの運用を8月末までに決める。消費者庁も表示の検討を行う。現在は、全国5か所で意見交換会を開催中。
    • 消費者への普及・啓発:来年から始まる栄養成分表示、食品リコール届出などを中心に情報発信中。

    「機能性表示制度の現状~ASCON科学者委員会による機能性表示食品のエビデンス評価」

    日本獣医生命科学大学名誉教授 ASCON科学者委員会 副委員長 鈴木勝士氏

    機能性表示食品の外部評価の必要性

    ガイドラインは特定保健用食品(トクホ)に準じ、審査期間は短縮。消費者庁は書式チェックのみ。制度の健全な維持発展のために科学者委員会を2015年に設置。根拠の強さによりA、B、Cと評価した。事業者との意見交換の中で評価を決めるので、見解不一致という評価もあり、その経過は公開している。問題は届け出情報照会呼応企業が全体の半分であること。

    「食品表示制度の動向について~食品表示法施工後の課題」

    Food Cmmunication Compass 代表・消費生活コンサルタント 森田満樹氏

    2015年 食品表示法施行、2017年 新・原料原産地表示、2023年 遺伝子組換え表示の改正と、2015年から2020年までに食品表示基準の細かい見直しが行われていて、今も進行中。2020年からは、WEBサイトの活用を含めた、新しい表示の検討が始まる。
    実際には、次々の表示に関する改正が行われ、事業者も消費者もついていけていないと思う。消費者教育の機会が少ないまま、表示の改正が進んでいる。例えば、製造者固有記号などは変更されたが、消費者庁のデータベースで調べられることを知らない消費者は多い。栄養成分表示もせっかく食塩相当量に変更されているので、くらしに活用できるように啓発をしてもらいたいと思う。
    消費者庁の調査を見ると、7割が食品表示を知っているが、食品表示法を知らない人は8割いる。また、栄養成分表示5項目、原料原産地表示の認知はかなり低く、原料原産地表示では、原産地と製造地が異なることもなかなか知られていない。
    一方、消費者委員会食品表示部会では、食品表示の全体像について議論してきたが、表示の優先順位などなかなか意見がまとまらず、インターネット表示への移行には反対の声も聞かれた。結局、問題が先送りされたが、これから時間をかけてさらに議論されることになるだろう。

    「ゲノム編集応用食品の表示」

    食生活ジャーナリストの会 代表 小島正美氏

    ゲノム編集したかどうかは、従来品種改良と見分けられないといわれているが、そうなると、「ゲノム編集である」も根拠をもって言うことができないのではないか。
    開発者にヒヤリングをすると、どのよう変異が起こっているかをみて、自分で開発したゲノム編集生物は見分けられるという。「ゲノム編集です」は見分けられることをいいたい。
    オフターゲット(間違って遺伝子を切ってしまうこと)が問題ならば、米のミルキークイーンはランダムに変異を導入したたくさんの突然変異体から選ばれており、ある意味、オフターゲットだらけだが、特に安全性の問題は起こっていない。一般論として、育種における遺伝子の変化の量は、従来の品種改良、交配、ゲノム編集の順で多いといえる。
    消費者の知りたい権利に応えるは消費者庁の4ポイントの1つで重要。配列が届けられていれば検証は可能、輸入されるゲノム編集作物の配列はわからないだろう。そこで、開発者による自発的表示を提案したい。ゲノム編集応用作物に対して自発的に表示して流通させ、嫌な人は避けられる。一方、すでに機能性表示食品として認められている高GABAのトマトやモヤシに「ゲノム編集でない」と書きたいと言われたらどうするのかという問題が出てくるのではないかと思う。

    「食品添加物の表示について」

    日本生活協同組合連合会 安全政策推進室 中川英紀氏

    1970-1980年代 食品添加物の審査内容が公開されていなかった。2003年、食品安全委員会ができてリスクアナリシスが実施されて、食品添加物は安全に利用されていると思う。消費者庁では一元化検討会の積み残し課題のひとつとして食品添加物が今年度、検討されており、我々は、レビューをすること、表示目的を明記すること、バランスをとれた表示の必要性を意見陳述で述べた。
    現状の添加物表示制度では、原則として物質名を書くが、見にくいので14種類の用途で分類された一括名が利用できる。生協では、表現方法がばらばらだと選びにくいと考え、他社製品とあわせたりしている。
    「表示を見て買うか」というアンケートで、食品添加物は4-5位。消費期限、原料・原産地が上位だから、消費者のものを優先するなど、包材の限られたスペースの中で、重要性も踏まえた見やすい、バランスのとれた表示が大事だと考えている。
    無添加・不使用表示について。生協の自主基準をクリアしたものについては無着色、無えんせき、無漂白表示をしている。消費者庁Q&A「加工90」を元に表示の根拠を明確にし、誤認を招かないことを条件としている。
    事業者にとって、表示制度は激動の時代で、コスト、包材のロス、人件費など厳しい。消費者もついていけていないのは残念。
    生協への添加物の問合せは23、000のうち79件。週刊誌で取り上げられると問い合わせが増えたりしている。農林水産省食品表示110番が2002年から行われているが、偽装表示が問題になったピーク時から、表示一元化の検討が始まり、消費者庁スタート、事業者の努力もあって減少し落ち着いてきている。

    本シンポジウムでは、話題提供の後、機能性表示食品、食品添加物、ゲノム編集応用食品、食品表示について幅広いディスカッションが行われました。
    中でも上市も近いといわれるゲノム編集応用食品に対して、消費者の知りたい権利を守るためといって、プロダクトベースで自然突然変異と区別がつかないゲノム編集技術応用食品への表示をどうするのがいいのか、に関する意見が多く出されました。海外からゲノム編集応用作物が国内に入ってきた場合、加工品ができた場合において、確認は可能か、消費者は本当にプロセスを知りたいのか、様々な発言がありました。
    食品添加物についても、物質名や利用している理由も知りたいという消費者の要望がある一方、物質名が多く並んでいると食品添加物が多く使われていると誤解している消費者もいるそうです。食品添加物を使わないで品質を維持・向上するためのコスト増加、包材の限られたスペースに優先して書くべき情報は何か、国際整合性も配慮しつつ、話し合われました。
    現在は食品表示法ができてから続いている見直しの最中で、事業者も消費者もこの過渡期の中で混乱しており、ますます、コミュニケーションが重要であることが共有されました。

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