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  • 第30回TTCバイオカフェ「健康・未病・病気とパーソナルゲノム」

    2019年11月1日、東京テクニカルカレッジ(TTC)で第30回バイオカフェを開きました。お話は東京医科歯科大学難治性疾患研究所分子疫学 教授 村松正明さんによる「健康・未病・病気とパーソナルゲノム」でした(主催 東京テクニカルカレッジ、共催 くらしとバイオプラザ21、協賛 遺伝情報取扱協会)。
    初めには北政芙美子さんにより、小山学園50周年のお祝いの気持ちを込めたハープの演奏がありました。

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    北政芙美子さんのハープ演奏

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    村松正明さんのお話

    はじめに

    参加者に「パーソナルゲノム」と聞いて連想するものを画用紙に書いてもらいました。病気に関係すると考えている人が多くいましたが、「個性」などのコメントもありました。

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    参加者が「パーソナルゲノム」と聞いて連想したことば

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    会場風景

    お話の概要

    1. 参加者のみなさんは、遺伝子検査を受けたことがありますか。

      これからお話するDTCDNA検査とは消費者直販型DNA検査のことで、インターネットやスポーツクラブ、クリニックなどで手に入れることができる。会場でDTCDNA検査を受けたことがあるのは高い関心を持つ2名の研究者だけ。そのほかにはだれも受けたことがないことがわかりました。

    2. そっと、私の遺伝子結果をお見せします。

      私が受けてみた、アメリカのDNA検査の結果。
      私の先祖は99.9%日本人だった。アメリカだと先祖が欧州、アフリカ、アジアなどいろいろな地域の人が混じっていて、彼らはそれを調べて紹介しあって、楽しんでいる。希少民族だとわかると、奨学金がもらえることもある。
      先祖が日本人だということから、私個人の結果を表わすサイトには懐石料理の入門書、日本の文化や日本のアニメなどの紹介まででていて、DNAを調べることは広い分野に関わっていることを連想させる。
      私が検査をした会社は100万人の検査に参加した人のDNA情報と同意書が蓄積されていて、このデータとして価値がとても高い。
      そのデータベースの中には、私のDNA解析結果と似た結果(DNA配列に似ているところが多い)が出た人が980人いるらしい。そのコーナーでは、3番目のいとこなど、この検査を受けた遠い親戚のことも教えてくれる。私の場合、5.51%似ている人がデータベースの中にいることを知らされた。例えば、親と子のDNAは50%が共通、伯父とは25%。いとこの子どもは6.2%だから、5.51%というのはかなり高い確率といえる。その人は国際結婚した遠い親戚の子どもだったことがわかった。
      健康のコーナーにいくと、なりやすい病気がわかる。「この結果を見ますか?」という質問が、サイトを進むたびに必ずでてきて、いきなり結果を見せられることはないようになっている。
      糖尿病のなりやすさの確率と一緒に、医療関係者の紹介、行動計画案をみることもできる。
      アポE4遺伝子(アポEをつくる)を持っているとアルツハイマーになりやすい。それでもアルツハイマーは長い年月掛かって徐々に進行するので、良い生活週間を選択することで、一生発症しない可能性もある。アルツハイマーとは何かという勉強もでき、アルツハイマー発症予防、食事、社会性なども教えてくれる。
      キャリアステイタスというコーナーでは、稀な病気関連遺伝子があるかないかも教えてくれる。医者の私でも聞いたことのない病気の遺伝子がかなりあった。

    3. DTCでは何を調べているのでしょうか。

      (1)遺伝子からみる個人の違い
      個人はDNAに0.1%の違いがあり、それはDNA配列上では300万か所の違い(変異)に当たる。
      例えば、血液型のABO型も遺伝子の違いによっている。ABO型の分布をみれば、それぞれの血液型の人はそれなりの人数がいることを私達は知っている。ALDH2という遺伝子の変異でお酒が飲めない人は5人にひとりいる。このような遺伝子の変化を持っている人は割と多くいることになる。これを変異(バリアント)の「アリル頻度が高い」という。そして、割とよくある変異を「コモンバリアント」という。
      コモンバリアントに関係のある病気には、日常疾患が多く環境因子の影響も大きい。 だから対策が立てられる!
      アリル頻度が小さいことを「レアバリアント」という。これはめったにない変異。単一遺伝子疾患はレアバリアントが原因になっているものが多い。治療できるものもないものもある。

      (2)ポリジェニックスコアとは
      ひとつの遺伝子の変異が原因で起こる病気を「単一遺伝子疾患」というのに対し、多くの遺伝子が影響しあい、環境も影響して発症する病気もある。多くの遺伝因子の累積効果を数値であらわすのが「ポリジェネティックスコア」。この「アルゴリズム」(計算方法)は研究協力者を、「病気を持つグループ」と「持たないグループ」に分け、病気と明らかな関係がある遺伝子の変化である「バリアント」を調べた大規模なデータから構築される。これは研究対象にした民族に特異的ジェネティックスコアであり、民族が変わればアルゴリズムも変わり、ポリジェニックスコアが正確でなくなる可能性もでてくる。
      日常的な疾患は複数の遺伝子の影響と環境から起こるので、予防やヘルスケアの分野になる。あなたの病気の予防やヘルスケアを検討する要素として「ポリジェニックリスクスコア」も入るようになってきている。

      知った方がいいか、知らない方がいいか、知らないでいる権利があることについて考えあわせDNAを検査を受けると、情報を増やすことで予防にも積極的に取り組めるかもしれない。

    参加者のみなさんは自分の遺伝子を調べたいですか

    会場参加者にDTCを受けたいかどうか、質問をしたところ、会場の3分の2は受けてみたいと挙手をしました。その理由は、「先祖探しをしたい」「健康診断の発展形として両親に検査してもらいたい」「好奇心があるので、価格が安ければ受けたいと思う」などでした。
    村松先生のこれまでのご経験では、講義の後に遺伝子検査を受けたいと回答した人は3分の1だったそうです。ただし、留学生は全員が受けたいというそうです。

    話し合い

    • は参加者の質問、 → はスピーカーの発言
    • 大学病院での遺伝子検査はどのように行われるのか
      →大学病院で行う検査では保険がきかないので、DTC価格の10倍近い。初めに遺伝子検査を受けるかどうか、検体採取、結果の説明で、医師が3回の面談を行う。
    • 遺伝子検査に興味があるがどうやって受けたらいいか
      →まずはやってみたいとき、DTCは手軽にできる。遺伝情報取扱協会では、適切に実施している検査に認証を与えている。受けたいときは、検査内容(知りたいことに応えるものか)をよく理解しておかなくてならない。DTCは病気の予防やヘルスケアにむいている。もし結果をみて、「これしかわからなかったのか」という印象を受けたら、遺伝の影響を強く受ける不具合はないという結果だと理解してほしい。
    • 遺伝子検査の発達段階は飛行機の歴史ならば、ライト兄弟だという喩えが印象に残った。
    • 実験助手をしていて、自分でしらべたい
      →一人では調べられず、データベースが必要になる
    • DTCを嫌いな医者が多かったが、今日のお話で印象が変わった
      →医師の中で「DTCを毛嫌いしてはいけない」という人がでてきている。人間ドック学会では医者向けのe-learningをつくり、DTCについてまず知ってもらおうとしている。
    • テレビでの野球選手がでてくるコマーシャルをみたとき、かえってDTCにネガティブな印象をもった。
    • どういう検査は避けた方がいいですか
      →根拠が十分に示されずに、簡単に肥満の傾向を決めてしまうような検査はよくないのではないか。
    • DTCは飛行機の歴史にたとえると「複葉機」といわれて、もうしばらくしてから乗ろうかなと思った
      →たとえがよくなかったかもしれませんね(笑)
      私の叔母と祖母は乳がんで亡くなっている。2008年、公共データベースで調べると遺伝性でないとわかった。検査も非常に進化しており、日本でも乳がん検査が保険適用になった。しかし、患者さんだけが保険を利用できて、家族は自費になってしまうのでかなり高額。
    • データによって結果が出るが、データが更新されたときに新しいお知らせがくるというのはどういう意味か
      →あなたの遺伝子は変わらない。新しいことがわかると、検査結果への解釈がかわる。
    • どうして海外の人はDTCを受けたがるのか
      →受けるのはリスクをとる国民性だろう。日本人がリスクをとらなさすぎるのではないか。
    • 自分はDTC検査を受けて、その結果を待っているところなので、今日は興味をもって参加した。結果を受け止めるうえで役に立った
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