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  • サイエンスアゴラ2019「あなたががんになったら」

    2019年11月16日、サイエンスアゴラ2019でワークショップ「あなたががんになったらー患者と家族をみんなで支える“医療コミュニケーション”」を開きました(於 テレコムセンター)。くらしとバイオプラザ21はがんのこと、患者さんとご家族のことをよく知り、がんでない人とともに共生できる社会をめざすことを、「がんのリテラシーを高める」と呼んで推し進めてきました。「がんに挑むバイオカフェシリーズ」「国民病“がん”の治療法を選べる時代がやってきた」などのイベントも行いました。今回は、がんについて知っている人もそうでない人も、専門職の話題提供の後に「がんになったらしてほしいこと」「患者や家族のために自分にできること」をともに考える場をつくりました。

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    俵木登美子さん

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    鈴木美慧さん

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    都留由香里さん

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    グループで話し合い

    話題提供「どんどん、医療コミュニケーション」

    くすりの適正使用協議会 理事長 俵木登美子さん

    体の不調に気づいた人は、検査に行き、異常が見つかる→医療機関で治療→治療しながら普段の生活もするなど自分でやることがたくさんある。医師、看護師の指示に従うだけではなく、自分で納得して選択して行動しなくてはならない。そういうときに、「医療コミュニケーション」が必要。

    コンコーダンスの考え方

    コンコーダンス(英語)の考え方は、単なる「患者中心」ではなく、患者もチームの一員となりパートナーシップでつながって、患者と医療関係者が同じチームの一員となること。医療者は治療やくすりだけでなく、患者の生活と調和するように(同じ方向性をもって)情報や治療を提供するよう努め、医療が患者のライフスタイル、価値観と調和してすることを目指すもの。
    くすりの適正使用協議会では、コンコーダンスの考え方を普及するために、薬剤師への啓発を進め、患者さんに伝える努力をしている。
    認定NPO法人COMLという患者支援団体では「医師に伝える10箇条」として、薬剤師に質問したり、相談したりすることを進めており。薬剤師と患者のコミュニケーションに力を入れている。

    患者さんからみた医療

    医薬品の情報提供をする立場としては、情報を求めている患者さんに、適切な情報が届くようにしたいと思っている。現状では医療コミュニケーションは十分でないが、患者さんへの医薬品情報へのアクセス改善が閣議決定された。厚生労働省の検討会からは、信頼できる医療情報提供への提言が出された。
    患者さんはどうやって情報をえればいいのか。誰に聞けばいいのか。くすりの適正使用協議会では、「くすりのしおり」というサイトを運営している。グーグルが医療情報検索アルゴリズムを改善し、月に1400万アクセスもある。これからは疾患情報、自己注射の動画なども情報提供していきたい。

    専門職から1

    聖路加国際病院 遺伝カウンセラー 鈴木美慧さん

    バイオの学部から遺伝カウンセラーの養成課程がある大学院に進み、聖路加国際病院で働いている。出生前、がん患者など、いろいろな方が来られる。
    私達の体の細胞は受精卵のときから分裂してきた。細胞分裂を多数回した人の方ががんになりやすくなる。細胞分裂のたびにがんになりやすくなり、がんにならないような働きのバランスも崩れ、がんになる。
    例えば、たばこは肺がんへのアクセルの働きをする。がんになりやすい体質もある。対策としては健康診断をこまめにする、遺伝子を調べる。一方、がんの予防が進む未来もある。がんになったときには、自分のがんに合う薬を調べる遺伝子検査もある。

    専門職から2

    東京大学医科学研究所附属病院 がん化学療法看護認定看護師 都留由香里さん

    医科学研究所は明治27年に伝染病研究所として設立された。設立以降先端的な医療を提供しており、がんペプチドワクチンの研究など橋渡し研究も行っている。私は現在移植病棟に勤務しており、移植病棟では、臍帯血移植を中心に骨髄移植も実施している。
    私はがん化学療法看護認定看護師の資格を取得しているが、認定看護師とは、日本看護協会が特定の看護分野において、知識・技術を用いて水準の高い看護実践ができる認定看護師を世に送り出すためにつくられた制度で、1.自ら患者や家族に実践する 2.看護実践を通して看護師職の指導を実施する 3.看護職に対して、相談にのる役目を担っている。
    具体的にはがん看護に対する困ったことの相談を受けたり、がんと診断された患者さんや家族が、医師の説明でわかりにくい事に対し、理解ができるよう手伝ったり、薬剤の副作用を最小限に抑えながら、日常生活を送れるように副作用対策の説明をしたりしている。大事なことは、患者さんの価値観に基づいた考えを引き出し、その人らしい生活が送れるように援助することだと考えている。

    質問タイム

    各グループで感想を話し合い、でてきた質問を皆で共有しました。

    • 質問するためにどこで知識を得たらいいのか
      →患者さんは図書館で調べたり、検索したりしている。
      →患者さんが信頼できるサイトづくり、信頼できるサイトを見分ける方法に関する情報提供を、くすりの適正使用協議会はしたいと思っている。国立がん研究センターのサイトが充実しているが、情報の更新作業は大変だそうだ。
    • くすりの適正使用協議会の活動がもっと知られるといいと思った。そのためにどんなことを考えているのか。
      →30年間の活動は余り知られていないが、くすりのしおりには毎月1400万のアクセスがある。アクセスしてくれた人に協議会を知ってもらえるよう、3年かけてブランディング計画を立てる予定。今日は、ぜひ、くすりのしおりを覚えて帰り、宣伝してください。
    • 遺伝によって起こるがんが5%と推測されている。家族背景がある方だと20%程度が遺伝性の可能性があるとの報告がある。残りの75%のがんはどうして起こるのか。
      →がんの芽のようなものはすべての人が持っているが、細胞の新陳代謝のときにがんのなりやすさが増えてくる。高齢まで生きられるようになるとがんを発症するということは、高齢者が多い日本の統計でみるとがんが多くなる。つまり加齢が一番のがんの要因。井戸水のピロリ菌や塩分の高い食事は胃がん、お酒が飲める人は大腸がんになりやすいというデータがある。今後、遺伝子の検査をする人が増えると、2015年のデータでは5%と言われていたが、遺伝性の背景があるとわかる人は増えていくのではないか。
    • くすりのしおりの閲覧者数が5月に多いのはなぜ
      →花粉症かと思ったが、花粉症の薬のアクセスは2月が多い。インフルエンザの薬は1月が多い。5月1800万ページになった背景はまだ分析していない。。9月にも増える。今後分析していきたい。
    • 医療の情報が溢れ過ぎていて選べないのではないか。コミュニケーションでそこを補えるといいが、介在する人はいるのか。
      →患者さんが発信してくれないと看護師も動けないが、医師との面談を再度進めたり、製薬企業が作っている病気を分かりやすく説明するパンフレットを使って説明したりする。患者ブログは個人の主観なので惑わされないようにしてほしい。科学的根拠にのっとった治療が私にあっているかの判断は難しい。相談窓口カウンセラー、臨床心理士、精神科の看護師などへのふりわけは看護師が病院内で行う。
      →家族も心配だが、どうしたらいいか戸惑っていることが多い。家族は何をしてあげたいのか、家族や友人の勧めが治療に不信をいだかせることもある。家族もサポートをしたいことを医療者に伝えて、コンコーダンスの中に入ってもらいたい。
    • 〇体調不良で行く診療所には看護師やカウンセラーがいないことがあると思うが。
      →内科学会では医師間の橋渡しを進めている。がん研有明病院では、オンラインでがんの遺伝の相談がはじまり、地域格差をなくすように努めている。
      →くすりの相談は薬剤師が受けられる。
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    大きな模造紙の周りに集まって

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    ひとりずつメッセージカード(がんになってしてほしいこと、患者さんや家族に私ができること)を読み上げて、模造紙にはりました。

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    してほしいことは黄色のカード、できることはピンクのカード

    メッセージカード発表

    全員でメッセージカードに書き込んで、ひとりひとりが読み上げ、グルーピングしながら模造紙にはりました。
    自分ががんになったら、「よい情報サイトから適切な情報を得たい」「特別扱いしないでほしい」「おいしいごはんが食べたい」などの意見がありました。患者さんや家族には「教師としてがん教育に力を入れたい」「家族として馬鹿話をして笑わせたい」という声があり、やがて、「大切な人との時間を大切にしたい」「冬休みには実家に帰ろうと思う」と発言した人もいました。

    むすび

    最後に俵木さん、鈴木さん、都留さんから結びのことばをいただきました。

    • よい情報提供サイトを運営していきたい。
    • ディスカッションの場が大事だと思う。医師と患者の関係が「パターナリスティック(PATERNALISM(父権主義))からコンコーダンスになるようにと思う。2020年4月から学校でのがん教育が始まる。皆さんも声をあげてください。
    • 患者さんやご家族の生活の姿勢が続けられるような治療が進めれるようにと、いつも思っている。

    ※ワークショップ手法について
    くらしとバイオプラザ21では昨年のサイエンスアゴラ2018では農林水産分野におけるゲノム編集技術について、会場参加者の意見集約を図るシンポジウムを開きました。このワークショップでは生産者、消費者などのロールプレイをとりいれたので「ステークホルダー会議」と名付けました。2019度のテーマでは、医師、看護師、遺伝カウンセラー、製薬企業など、医療コミュニケーションに登場するプレーヤーの専門性が高いことから、昨年のようなステークホルダー会議はなじまないということになりました。そこで、登壇者の皆様のご意見をいただきながら「私だったら」という視点ならば話しやすいのではないかと考え、ワークショップの進め方を決めて行いました。

    ~この成果は日本サイエンスコミュニケーション協会第8回年会で発表しました~

    https://www.sciencecommunication.jp/event/annual/20191207/

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