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  • コンシューマーズカフェ「無添加表示のガイドラインに関する検討会(仮)への期待」

    2021年2月5日、コンシューマーズカフェを開きました。お話は、日本食品添加物協会 専務理事 上田要一さんによる「無添加表示のガイドラインに関する検討委員会(仮)への期待」でした。上田さんは2019年の「食品添加物表示制度に関する検討会」に委員として参加されましたので、同検討会の報告書で提案された無添加表示ガイドラインの提案を中心にお話をうかがいました。

    食品添加物表示制度に関する検討会 報告書

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    くらしとバイオプラザ21 事務所から配信

    1.「食品添加物表示制度に関する報告書」

    この報告書では、現在の表示制度を基本的に維持するとしたうえで、次の4項目について話し合われた。

    • 栄養強化剤の表示を義務化することについての検討
    • 「無添加表示」のガイドライン策定する
      実際に検討会の議論の多くは無添加表示のこととリスクコミュニケーションだった。
    • 「人工甘味料」「合成着色料」等の削除
    • 食品添加物の表示制度とその役割、食品添加物の安全性についての普及・啓発

    2.食品加工技術と食品添加物

    我々には食品の腐敗防止・保存をするために、燻蒸、乾燥、発酵、塩蔵などを行ってきた歴史がある。例えば、塩蔵は紀元前5000年前に地中海地方で行われており、ローマ時代、ガリア地方では岩塩の硝酸塩がハムの保存性を高め、色もよくしていたし、イタリア地方では、香り、辛味、着色した食品があった。
    日本では、弥生時代に塩蔵がはじまり、奈良・平安時代にはクチナシ、ベニバナで着色され、にがりで豆腐、消石灰でこんにゃくが作られていた。明治以降は、グルタミン酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムといったうま味の正体が解明された。
    このようにして、食品添加物は食文化、食品加工技術の歴史とともに発展してきた。
    世界の人口が産業革命あたりから急増してきたが、農業革命(窒素肥料、灌漑技術、機械耕作、育種、農薬)で食料を増産してなんとか凌いできており、食糧の有効活用のために食品添加物も貢献してきた。

    3.添加物の働き

    5種類の食品添加物で食品の変質が防ぐことができる。

    • 保存料:微生物の増殖を抑える。微生物と人の感受性の違いを利用している 例)ソルビン酸
    • 殺菌料:食品に付着した微生物を除去。殺菌剤は最終製品に残ってはならない製造用材の中のひとつ。
    • 日持ち向上:製造用剤の一つ。日持ち向上に用いる酢酸ナトリウム(調味料でもあり、人体にもある)やグリシン(アミノ酸)は物質名で書くことになっている。
    • pH調整剤液体食品の腐敗、変敗を防ぐためにpHを調整する。
    • 酸化防止剤:酸化を抑制して変敗を防ぐ。

    「無添加」といっても、最終製品に残っていない食品添加物を使っているものは多い(表示しなくていい製造用剤を使っていても)。

    資源を有効利用し、品質を向上・安定させる食品添加物

    • 強化剤:牛乳のような資源をヒトの赤ちゃん用ミルクにするときには、ビタミンやミネラルを加える必要がある。
    • 製造用剤(活性炭):砂糖をつくるときに脱色・精製し、最終製品に残らない。
    • 製造用剤(抽出用溶剤、ろ過助剤):油を精製する。最終製品に残らない。
    • 酵素:デンプンを糖化するなど。
    • 着色料・増粘剤・安定剤:食品の色や食感のバラツキを減らす。

    日本独特の食品添加物

    • 製造用剤(水酸化カルシウム):こんにゃくを固める。最終製品に残るので物質名を書く。
    • 豆腐用凝固剤(一括名):豆乳を固めて豆腐にする塩化マグネシウム
    • 製造用剤(炭酸カリウム):凍り豆腐が水で戻しやすくする。
    • 着色料:紅白饅頭の紅色は欠かせない。

    4.「無添加表示に関するガイドライン」への期待

    アンケートから
    「食品の表示を見ていますか」というと見ていると答える人が多い。食品添加物の表示を商品選択のためにどの程度参考にしているかと聞くと、参考にしている人は約58.5%となる。
    食品添加物は国によって管理されていることを知っているかという質問に対して「知らない」と答えた人は6割以上だった。この6割の人は、特に問題がないから関心はないのかもしれない。
    「人工甘味料保存料を使用していない」「無添加」という表示を、商品を買うときのどの程度、参考にしているかというアンケート結果を、詳しくみてみたい。
    11.8%にあたる「○○を使用していない、無添加と表示された食品を買う」人は、添加物を避けたいと思っていて、食品の裏面の原材料表示までも本当に見ている方と想像する。
    14.5%にあたる「国に認められているから、〇〇を使用していない、無添加と表示された食品を気にしない」人は、国に認められているから本当に気にしていない方ではないだろうか。
    39.4%にあたる「同じ類の食品ならば、〇〇を使用していない、無添加と描かれた食品を買う」人は、同じ類の商品なら、価格、おいしさ、企業への信頼などを、商品選択の指標にしているのではないか。このために、あまり添加物は気にしていないだろうし、食品の表面の「無添加」などの表示の方を見て、裏面の表示まではみていないのではないかと想像する。
    この4割弱の人たち誤認させないような働きかけが重要だと思う。
    また、「無添加」と書いてあると、最終製品に残存しない製造用剤も含めて食品添加物を何も使っていないと考える人が多い。

    日本の表示制度の特徴
    日本の食品添加物表示制度を、視認性(見やすさ)、正確性(誤認防止)、情報量の3つのポイントで考える。例えば、製造用剤、品質向上剤という書き方にすると、全部の食品添加物がそこに含まれてしまい、人によってとらえ方がばらばらになってしまうだろう。協会では、「正確性」が最も重要と考えている。基本は物質名で書くこと。物質名で書けば、間違えようがないと考えている。簡略名、一括名については、日本では国で表示できる対象を決めているのでわかりやすい。またカタカナの羅列だと、ソルビン酸とソルビトールを間違えてしまうなど、混同の問題も生じる。

    「無添加」「不使用表示」をどのように改善していくのか
    「無添加」「不使用表示」の改善の方策として、1)現在のQ&Aの周知、2)Q&Aを改定・充実、3)ガイドラインの策定、4)表示する場合の基準の規定、5)禁止事項としての規定が考えられる。協会としては、「5」禁止事項として規定してほしい」と考えている。
    検討会では、「第9条を明確にすること」が重要だと考えられた。事業者は公正競争規約の中で無添加のガイドラインをそれぞれが持っていて、多様なものを扱う事業者は複雑な公正競争規約に従っている。
    消費者の誤認を防ぐために無添加表示をやめようとする公正競争規約を持っている業界もあるが、公正競争規約で無添加の表示を認めているところもある。味噌業界における単なる「無添加」の表示は、だしを入れていない味噌から始まったようだ。
    今回の食品添加物の表示制度の見直しの中で、食品の裏面からは「人工」「合成」の用語が削除されたが、食品の表面の任意表示は規制の対象外。

    日本食品添加物協会の試案
    日本食品添加物協会要望をまとめた。コーデックスなどをもとに、無添加表示は誤認を拡大し、リスクコミュニケーションを混乱させるものとして検討した。

    • 検討会議論をふまえて、検討会の論議結果を反映してください。
    • 「企業努力で無添加が可能になった」という表現は、食品添加物を使わない食品の方が使用した食品より安全であると誤認させるものです。

    先述の39%の裏面をみない人をミスリードするもの。例えば、保存料は菌の増殖を抑制するので、衛生管理のできている工場で、菌数が抑えられた環境でつくられるからこそ、有効に働く。

    • 「無添加」の定義があいまいで、どんな食品添加物を対象にしているかがわかりません。最終製品で残っていない食品添加物は、原料の水にも使われている。
    • 「無添加表示」はリスクコミュニケーションを妨げます。
      対象の100%に検査を求めたり、ゼロリスクでなければ納得しなかったりというミスリードの誘因となる。コロナ禍にあって、人々はコロナゼロにならないことを体感しているところだと思う。
    • 無添加表示のガイドラインを公正競争規約に確実に反映することが必要です。
      各業界の持つ公正競争規約に反映させることで、表示が是正されていく。
    • 食品事業者への期待
      「他社が無添加表示を書いているから、無添加と書きたい」「無添加表示が良くないことは理解しているが、社内を説得できない」という声があるが、消費者に誤認をさせてないことが食品産業のコンプライアンスと考える。大手流通、大手食品企業の英断に期待する。
      「食品添加物不使用の表示に関するガイドライン検討会」は2021年3月から検討が始まるようだ。検討会は学識者、公正取引関係の専門家、事業者、消費者団体で構成される。

    5.大学入試共通テストの英語の問題文

    「食品添加物の発がん性、記憶力や脳の発達に影響する懸念がある」という、誤った、不正確な文章が問題文に使われた。日本食品添加物協会としては、ホームページにバランスを欠いているという懸念を表明した。50万人が受験し、過去問題に使われるだろうから、影響力は大きい。
    協会は公開質問状を出したわけではないが、多くのメディアがとりあげ、協会は文部科学省にクレームをつけたと伝えたメディアもあった。
    多分、英語の問題作成者の認識が甘かったのだろうと思うが、積極的に食品添加物を危険だと思っている人もいたかもしれない。
    試験問題は、栄養学の教科書に書いてあったという場面設定があり、栄養士向けの偏った読み物が参考に使われたかもしれない。そういう書籍、栄養士の養成の場面にある食品添加物の誤解の払拭をターゲットにしていかなくてならないと思う。

    質疑応答

    • 協会の入試問題への対応は迅速だったと思う
      →もっと早く対応した人もいたが、協会は試験の4日後に公開した。メディアに多く引用されたが、有識者の取り上げ方などをみると、協会の意図を理解し、ネット上のリスコミは成功したのではないかと考えている。
    • パンの乳化剤不使用の表示をやめることになったと思うが、どのように進んでいるのか
      →パンの表示の切り替えが進んでいる。最大手が先頭に立っているので、多くの中小はこれに従ったが、一部、乳化剤不使用表示は残っている。
    • 公正競争協議会は加盟事業者のみで公正されるから、豆腐屋さんの場合、加盟していない中小企業が多く、実効性が低いのではないか
      →確かに低いかもしれない。なお、消費庁は公正競争規約がない事業者には、公正競争規約の策定を促している。
    • 入試センターは、点数の調整につながる懸念もあるため、この問題文については回答しにくいのではないか
      →毎日新聞も取材しているというので、協会としても注目していく。
    • 食品添加物の用量はどのように決まっているのか
      →厚生労働大臣が食品添加物を指定すると、用量が使用基準に定められる。法体系では「食品添加物は使用してはいけないが、厚生労働大臣が指定したものは使っていい」という考え方。
    • 日本の加工食品の表示方法は海外と違うのか
      →アメリカのやり方に近くて、物質名表示が原則で、用途名併記、一括名は日本の方が詳しい。欧州はコーデックスに従っている。コーデックスと日本の違いは添加物の定義にある。例えば、コーデックスでは、調味料、酸味料もすべてフレーバーになる。コーデックスに添加物の表示をそろえるとアミノ酸、核酸、ミネラルはすべてフレーバーとして一括名で表示される。アメリカの食品添加物の定義と日本の定義が似ているのは、30年前にアメリカから輸入するために外圧がかかったという経緯がある。
      また、日本はハムの色をよくする発色剤というが、欧米は元の色を保つ保色剤という考え方をする。食文化の違いからくる。
      国際整合性という意味では、日本は食料輸入国として妥当なやりかたをしていると考えている。アメリカからも欧州からもの輸入がしやすい制度になっているという意味。
    • 例えば、どんなところが違うのか
      →医薬品以外はすべて食品添加物になる日本。また、コーデックスにはうま味はない。日本人は味・風味を気にするが、欧州は油の味を気にする。
    • アジアの国ではどうか
      →アジアの国は日本と同じにするか、コーデックスと同じするかのどちらか。安全性の考え方は日本もコーデックスと同じだが、表示の仕方にお国柄がでてくる。用途名と物質名をそのまま英訳してヨーロッパに輸出してしまうと法令違反になる。
    • 最終製品に残らない製造用剤について、知らずに家でつくったパンは無添加だと思う人が多いのではないか
      →小麦や砂糖を精製するときに食品添加物を使うので、本当に無添加にしたければ、小麦を栽培するところ始めなければならないだろう。
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