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  • 食のリスクコミュニケーション・フォーラム『ゲノム編集食品のリスコミのあり方』

    2021年4月25日、食のリスクコミュニケーションフォーラムが開かれました(主催 NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS))。2021年度第1回である今回は「ゲノム編集食品のリスコミのあり方」でした。3名の話題提供の後、パネルディスカッションが行われました。

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    講師とパネリスト

    話題提供1「ゲノム編集食品が育つ条件とリスコミあり方」

    元毎日新聞編集員 小島正美氏

    遺伝子組換えもゲノム編集も国民理解が重視されてきたが、国民理解は本当に重要なのかと思うようになった。モノが市場に登場する流れをみると、スマホは使用基準も策定されず、国民の理解やリスクコミュニケーションの推進などがなくても普及した。遺伝子組換えのアンケートでは今も受容されていないというが、大量に輸入されている事実は受容を示しているといえないか。
    ゲノム編集トマトは安全性審査も義務表示も不要となったが、目立った反対運動、政府や自治体の後押しもなく、不安が煽られている状況はないようだ。
    ゲノム編集でつくられたGABA高蓄積トマト(以下、GABAトマト)は、次のようなことが広報で強調されるといいのではないか。

    • 日本の研究者の情熱でできたこと(遺伝子組換えは外資バイオ企業)
    • 政府が、届け出制度の中で安全性をみていること、表示が科学的に不可能なことを伝える。
    • 開発企業は積極的な表示を行う(法律では義務ではない)

    サナテックシードは、食品の製造販売でなく「健康を届ける企業」として、事業を行うといっている。斬新なコンセプトであるので、プレスリリースするときの対象のジャーナリストをよく選んだり、見え方を意識したり、栽培モニターからの発信を促したり、インフルエンサーを活用したりすることも考えてはどうか。
    GABAの機能性表示食品は400種もあるので、差別化やブランディングがキイになるだろう。また、広報では情報発信だけでなく、記者を育てることも目指してほしい。

    『ゲノム編集トマトをどう世に出すか~ゲノム編集から健康創造企業へ』

    サナテックシード(株)代表取締役会長 竹下 達夫氏

    「農家」と「スーパーマーケット」というサプライチェーンの中の大きな存在には、食に対する保守性、風評被害に敏感であるという共通点がある。そこで、家庭菜園農家(消費者であり、生産者)の視点でみてもらい、ラインでカスタマージャーニー(製品を売るだけでなく、栽培し食べて、体調についてフィードバックしてもらって、長期に関わる)を体験してもらうことにした。5000人の応募には驚かされた。ライングループ「育ての広場」にはすでに積極的な声が届いている。
    当分は家庭菜園農家を対象とし、ネットで加工品を販売。消費者であり生産者である栽培モニターからのSNS発信に期待している。
    この種子の利益を最も受け取るのは、農家よりも高血圧(4300万人 薬を飲んでいる人は1000万人)、不眠が気になる人と考え、冷蔵庫に常備してもらえるようにしたい。同量のGABAを摂取するのにトマトジュースなら150mlだが、GABAトマトなら20ml(コーヒーポーションひとつ)となり、手軽で簡単、少量で続けやすい。
    生産者には、GABAトマトを通じてトマト需要を増やし、B品も買い取りロスをなくすことで貢献したい。契約農家制にして、栽培技術サポートを行い、栽培状況(栽培ステージごとに13元素は適正か)をトレースする仕組みを作った。こうして、総合的サプライチェーンを構築する!

    (質疑応答)

    技術としての安全性、価格、生食の場合の表示について参加者から質問がありました。
    価格は、150円くらいを想定しているそうです。開発者の江面浩氏からは「安全性審査はなかったが、事前相談段階でアレルギーや毒性の専門家によって安全性についてしっかり確認された」とコメントがありました。参加者から、「自然突然変異だから安全というより、自然突然変異と同程度のリスクという説明で納得した」という意見もありました。

    『ゲノム編集食品のスマート・リスクコミュニケーションとは』

    SFSS理事長 山崎 毅氏

    リスクとは

    リスクには健康被害だけでなく、価値や名誉の損失も含まれる。安全はゼロリスクと同じ意味ではないし、許容可能なリスクの範囲は個人の主観だから状況で変化する。
    リスクコミュニケーションの基本は、食品中のハザードのリスクが綿密に評価されていることを前提とし、そのリスクが消費者の許容範囲かどうかを伝えること。情報過多の現在、個人のリスク認知にはバイアスがかかりやすいところが悩ましい。

    リスク認知

    人は二つの中から一つを直感で選ぶものだという「二者択一の原理」を使って、築地と豊洲の比較表を示したところ、豊洲は危険だというリスク認知バイアスを覆すことができた経験がある。
    Ames博士の1983年の論文(発がん物質のほとんどは自然由来だったという内容)や、遺伝子組換えでと非組換えの安全性に科学的な差はないというデータなどを示しながら、二者択一の原理を利用した情報提供をすれば、リスク認知に影響を与えられるかもしれない。

    リス君認知バイアス

    スロビックは不安を助長する因子として、恐ろしさ、未知性、災害規模感の3つを挙げている。未知性因子を強調すると不安になるが、未知性や災害規模因子をきちんと説明すればいい。利害に基づいて不安因子を強調する商法を行っている企業があることを伝えることも有効。
    不安因子を助長するような報道を減らしていくために、2017年からは「ファクトチェック・イニシアティブ」という活動も始めた。

    スマート・リスクコミュニケーション

    スマート・リスクコミュニケーションは確証バイアスを緩和するリスコミ手法。確証バイアスに至った原因や共感した設問を投げかけたうえで、学術的理解を与える科学的根拠をわかりやすく提供することが有効だと仮説を立て、30-40歳代でゲノム編集食品はできればたべたくない女性100名を対象に、設問と科学的根拠の説明を行った。
    その結果、「人工より天然の方が危ない」「組換えのリスク情報に科学的根拠はない」という説明が、確証バイアス緩和に有効ということが統計的に解析してわかった。
    同時にリスク情報の送り手は魅力的(好感度が高い)で、受け手と類似性が高いと信頼されることが条件であるとわかった。

    パネルディスカッション『ゲノム編集食品のリスコミのあり方』

    山崎 毅氏(SFSS理事長)の司会のもと、講師3名に、小泉望氏(大阪府立大学)、佐々義子(くらしとバイオプラザ21)が加わりました。チャットに寄せられた質問を中心に、参加者も代わる代わる質疑応答に参加しました。主な質問や意見は次のとおりです。

    • 輸入されるゲノム編集食品が表示されないのではないかと不安。
    • ハイギャバトマトの苗の無料配布という利用者とのコミュニケーションから新製品のプロモーションが始められことに注目している。
    • 未知のリスクという因子はこれからのゲノム編集食品にとっても影響力がある。ハイギャバはこの後に続く未知のリスク管理で重要な役割を担っていると思う。
    • 高血圧や不眠が気になる人をターゲットにするなら、機能性表示食品の申請が必要でないか。
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