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  • オンラインセミナー「世界初のゲノム編集ダイズはいま、どうなっているか」

    2021年8月18日、オンラインセミナー「世界初のゲノム編集ダイズはいま、どうなっているか~米国から中継で聞く」が開かれ、Chloe Pavely氏(カリクスト社Global Regulatory Director)により、同社が開発した、世界初のゲノム編集大豆「カリーノ」が紹介されました(主催:ゲノム編集育種を考えるネットワーク、共催:JBA、バイテク情報普及会(CBIJ)、日本種苗協会(JASTA))。参加者数は111名でした。

    写真

    スピーカー、インタビュアー、司会者
    (向かって左から、インタビュアー 小島正美氏(元毎日新聞社編集委員)、司会・通訳:笠井美恵子氏(千葉大学環境健康フィールド科学センター特任教授)、スピーカー:Chloe Pavely氏)

    「カリーノ」というダイズ

    「カリーノ」はミネソタ大学で開発された、ターレンというゲノム編集技術を使って、オレイン酸という成分を多く含むように、改良されたダイズです。ターレンは、ノーベル賞が与えられた、クリスパーキャス9より1世代前のゲノム編集技術ですが、同社はこの特許を所有しているという優越性を活かして実用化にこぎつけました。実際には、ターレンによってダイズの中のオレイン酸からリーノル酸をつくる遺伝子をノックアウトすることで、オレイン酸の含有量を80%まで増加させることに成功しました。不飽和脂肪酸である、リノール酸、リノレン酸は、二重結合が増えると熱安定性が低くなりますが、高オレイン酸ダイズでは、一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が増えて、代わりに多価不飽和脂肪酸であるリノール酸、リノレン酸が大幅に減少したため、熱安定性が大幅に高まりました。その結果、水素添加の必要がなくなり、トランス脂肪酸を含まない、オリーブ油に近い成分の油が得られました。さらに揚げ油としての寿命が3倍にのび、健康によいばかりでなく、経済的な機能性も高まりました。

    利用の状況

    2020年、カリーノは米国中西部で約3万ヘクタール栽培され、栽培面積は2019年の倍に増加しています。栽培方法は従来のダイズと同じで、現在は数100軒の生産者が栽培しています。
    2019年、収獲されたダイズはすべてカリクスト社が提携している搾油業者で油と油粕にして、同社が買い取って食品会社と飼料会社に販売することで、同社はサプライチェーン全体を管理していました。2020年度は、ビジネスモデルを変更し、同社が最も得意としている分野に集中することを決定しました。現在は、サプライチェーンの下流部分についてはADMやPerdueなどの企業と提携して管理しているそうです。
    ほとんどはケータリング、レストランなどで利用され、現在は消費者への小売りは行われていません。

    受容の状況

    2015年、カリクスト社の前身にあたる会社がFDA(米国食品医薬品局)に事前相談を行い、2019年に遺伝子組換え作物の規制の対象でないことが認められました。利用者(レストラン、商社、消費者など)には対面、チラシなどによって、オレイン酸を多く含むことで健康によいこと、高い機能性についてアウトリーチ活動を行ってきました。特に国からの後押しはないが、目立った反対運動はなく、メディアの取り上げ方も肯定的だということです。

    今回のセミナーで印象的だったのは、「遺伝子組換え作物でないと承認されている」ことと、「健康への貢献や高い機能性への評価」ことが、前提として明快に位置付けられて、このダイズ油は社会に浸透していこうとしていることでした。
    日本では、2021年春から、ゲノム編集技術によってつくられたGABAというアミノ酸を多く含むトマトが、4000人以上の栽培モニターによって栽培されています。行政でもゲノム編集技術が人々に理解されるように、情報提供サイトをつくったり、アウトリーチ活動を行ったりしています。たまに、逆風のような報道も散見されますが、日本でもこの技術はソフトランディングに近づいていると言えるかもしれません。
    カリーノはレストランなど事業者を中心に展開され、GABAトマトは家庭菜園のような個々の消費者へのアプローチから始まりました。異なる方向性ではありますが、ともに健康志向のゲノム編集作物として、登場したばかりです。これからもゲノム編集食品の巣立ちを見守っていきたいと思います。

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