くらしとバイオプラザ21ロゴ
  • くらしとバイオニュース
  • サイエンスカフェ「どうしてこんなにいろいろな生き物がいるのか」

    2021年10月19日、オンラインサイエンスカフェを開きました(主催 東洋大学、協力 くらしとバイオプラザ21)。お話は、日本サイエンスコミュニケーション協会 会長、くらしとバイオプラザ21理事 渡辺政隆さんによる「どうしてこんなにいろいろな生き物がいるのか」でした。

    写真

    ポスター

    お話の主な内容

    生態的地位

    たとえばサバンナにはいろいろな動物がいる。ライオン、鳥、サルなどの肉食の生物とキリン、レイヨウなどの草食の生物が一緒に暮らせるのはなぜか。それは生態的地位をわけあっているから。これを、「生態的地位(ニッチ)を分け合う」という。
    キリンは草食で、アカシアの高い枝の葉を食べる。同じキリンでも、雄と雌、成長期で食べる高さが異なる。このように、同じ種の中でも食べ分けている。また、ジェレヌク(レイヨウ類の一種)は、のびあがって木の枝(1~1.5m)の葉を食べる。
    イネ科の草は、根本付近に生長点があるので、葉を食べられてもまた伸びてくる。ウシ科の草食動物は種類によって、草の先端、茎、中ぐらいの高さと、同じ植物の部位を食べ分けている。これが草食動物の進化、多様化につながった。こうして、生態系の中で食べ分けをして、「食物連鎖」が成り立つ。肉食動物は草食動物を食べ分け、昆虫も食べ分けている。海の中でも同じように食べ分けができている。

    共通の先祖からの枝分かれ

    1845年ごろ、ダーウィンは、「生物はどうしてこんなに多様なのか」と考えていた。ビーグル号から戻ったダーウィンの秘密の手帳“レッドノートブック”に、進化についての思い付きが書かれている。これは、系統樹を思いついた歴史的証拠といえる。
    ダーウィンの功績の中で、一番重要なことは、「共通の祖先から枝分かれをすることでいろいろな生物が進化してきた」ことを思いついたこと。その中でどれが生き残るかという、自然淘汰説は第二の功績だと思う。
    ちなみにこのレッドノートブックは、2000年、写真撮影室から紛失している。ケンブリッジ大学の書庫のどこかにまぎれたか?盗まれたのか?

    進化論へ

    ダーウィンフィンチは、彼が進化を思いついたガラパゴス島の鳥。サボテンフィンチ、キツツキフィンチなどいろいろな種類の鳥がいる。ダーウィンはそれらを異なるグループの鳥だと考え、標本を持ち帰った。そこで、ジョン・グールドという鳥類の詳しい動物画家に見せると、それらの鳥は同じ科に属しているといわれた。
    後に、ダーウィンは大陸から飛んできた鳥がガラパゴス島で食べ分けをするようになって、枝分かれしたことを思いついた。それぞれのくちばしの形が、異なる大きさの虫、木の実など、食べるもので変化していった。食べ物が豊かでないガラパゴス島で、この鳥はくちばしの形で食べ分けて生き延びた。今は16-18種のダーウィンフィンチがいる。

    異なる種での適応

    同じように、有胎盤類と有袋類を比べると、オセロットとフクロネコ、モグラとフクロモグラ、ムササビやモモンガに対してフクロモモンガというように、異なる大陸で同じ生態的地位を埋めるような進化が起こっている。結果的には外形まで似た生物が生まれていた。
    サメ、魚竜(今は絶滅している)、イルカの祖先は異なるが、泳ぎやすい流線形に進化した。これを収れん進化という。サメと魚竜は、尾ひれを左右に動かすが、イルカは上下に動かす。これは骨の構造によっていて、外形は似ているが、由来の違いを教えている。

    植物の軽視

    植物の世界をよく見ると、植物も太陽の光を使い分けている。針葉樹は暗い所でも光合成ができる。広葉樹は光を求めて広がり葉を互い違いにして、陽が当たるようにしている。
    ワンダーズ氏とシャスラー氏は「プラントブラインドネス(植物の軽視)」を主張した(2001年)。植物の重要性が認識されていない、美的でユニークな特徴を評価できていない、動物の方が偉いような間違った思い込みがあるというものだ。そもそも、植物を土台にして、動物の食物連鎖は成り立っているのに。

    地球上のすべての生物

    このように多様な生物が、共に工夫して食べ分け、進化して生きてきた地球。ところが、人類は地球に大きな負荷をかけている。
    世界中のデータベースを駆使して、生物を種類ごとに炭素量に換算した研究報告がある。動物のバイオマス(生体内の炭素量)は20億トン、人類は6000万トン、家畜と家禽は1億トン、野生の鳥と獣は900万トン。野生の動物より家畜と家禽が多い!動物で一番多いのは節足動物の10億トン、次は魚類で7億トンと続く。
    また、バイオマス総量は5500億トンで、その8割は植物で4500億トン、そのうち作物は100億トン。次は細菌の700億トン、菌類120億トンとなり、動物は全体で20億トン。
    地球上の生物のほとんどが植物で、植物はとても重要。植物の上陸にあたっては根菌との共生で実現したくらい、植物は要になっている。海の中のウイルスも大事らしい。
    世界の森林面積は陸地の約3割の40億ヘクタール。人類は、756万ヘクタールの森林を毎年消失させている。
    地球の歴史では5回の大量絶滅があった。最大の絶滅はペルム紀の終わり、白亜紀の終わりには大きな隕石の落下で恐竜が絶滅した。それでも地球は回復して、生き残ったものが進化して多様性は増加してきた。
    1万年前 新大陸(南北アメリカとオーストラリア)で大量の大型動物が滅んだ。気候変動もあったが、人類が大型生物を大量に獲ってしまったことも大きかった。
    しかし、その後、人間の持ち込んだ草食動物が一部で置き換わっている。例えばオーストラリアの大きいカンガルーが観光・探検用に人が持ちこんだヒトコブラクダにおきかわり野生化した、北米に起源があるウマは絶滅していたが、スペイン人がインカ侵略で持ち込んだウマが今はいる。南アメリカのヘミアノケミアは絶滅していたが、麻薬シンジケートのボス、エスコバルの私設動物園で飼っていたカバがマグダレナ川で野生化して増加中。人が持ち込んだ動物が開いていた生態的地位を埋める形で野生化して、1万年前の生態系が復元されるような状況も見られる。
    送電線の下は電力会社によって草地が管理されている。送電線の下の草地が多様な蝶のサンクチュアリになっていることが報告されている。自然はなかなかしたたかだといえるかもしれない。

    多様性のためにできること

    私たちは自然を破壊して生きる、今のライフスタイルを変えないといけないかもしれない。環境は共有の資産だと見直し、持続可能な経済活動を考えなければならないのではないか。
    今、私たちは地球の歴史では新生代第四期完新世に生きている。更新世は1万7000年前から始まっているが、人類が地球に大規模な影響を及ぼし始めた時代を「人新世(アントロポシーン)」とすると、2002年に提案された。産業革命以後、人類の経済活動は地球に大きな影響を与えてきた。私たちが地球に及ぼしたことへの警鐘として提案された、新しい地質時代である。
    植物に敬意をもって、いろいろな環境をみる。人類のエゴだけで地球を滅ぼしていいのかをみなさんと考えていきたい。

    質疑応答(〇は参加者、→はスピーカー)

    • 私は、人類はいつか絶滅すると思うが、置き換わる種は何でしょうか。
      →ゴキブリだといわれていたこともある。陸上では哺乳類が恐竜絶滅後に増えた。その中に人類もいる。人類が何によって滅びるかも、その後の置き換わりに影響するだろう。
    • 化学専攻なので、植物を軽視していたかもしれない。セルロースは地球上で一番多い成分だと論文の最初に書いてあるので、確かに植物は多いのだと感じている。植物軽視の歴史はどうやって変えていくのだろうか。
      →森林破壊、環境破壊は問題だと言われているが、やまない。商業活動加速の中で人口は増加した。先進国にいる人々が、間接的に熱帯森林破壊に手を貸している現状。この意識を変えるべき。ゼロカーボンが日本でも言われ始めたのは、環境の問題の切実さの現れだろう。高齢者でなく、皆さんのような若い人たちが真剣になってほしい。環境政策が争点になるような選挙も大事ではないかと思う。
      大量の家畜を飼っている問題、動物福祉の重要性、代替肉の研究も大事。化学も頑張ってください。産業構造を変えないとだめだと思う。
    • 若い人に働きかけるのに、サイエンスカフェなどの活動が大事だと思うが、若い人の参加率は増えているのか。
      →若い人の方がリモートでサイカフェに参加しやすくなっている。
    • この日に、参加している東洋大学の院生は、この経験を活かして12月14日にオンラインサイエンスカフェを行います。ぜひ、みなさまご参加ください。

    © 2002 Life & Bio plaza 21