くらしとバイオプラザ21ロゴ
  • くらしとバイオニュース
  • 「ゲノム編集食品~社会実装の実例と現状、これから」開かれる

    2021年12月16日、JST/OPERA 食と先端技術ウエビナー「ゲノム編集食品~社会実装の実例と現状、これから」が開かれました。
    本コンソーシアム 領域統括 筑波大学 江面浩氏より開会のことばで始まり、第一部は情報提供、第2部はパネルディスカッションという構成で、筑波大学 助教 津田麻衣氏の総合司会により進められました。

    写真

    パネルディスカッション

    写真

    江面浩氏のむすびのことば

    (写真提供 筑波大学)

    話題提供1「高GABAトマト開発、届出とその後」

    サナテックシード株式会社 取締役社長 竹下心平氏

    シシリアンルージュハイギャバは、20gのミニトマトに20mgのGABAが蓄積され、従来トマトの5倍の栄養価値がある。20ccのピューレ(30㎎のGABAが含まれている)も製品として出すところ。これだけ多くのGABAを少量の食料から摂取できる食品は他にはなく、クリスパーキャスナインを使うことで、世界で初めてこのような食品を生み出すことができた。販売までには1年以上の届出相談があり、会社設立から3年目の2020年12月11日に受理された。この日はバイオテクノロジーの歴史的なできごとだったと思っている。私たちは、クリスパーキャスナインでできた食品であることを表示していく。
    届出受理後、4000名が家庭菜園で栽培し、1200名がライングループでコミュニケーションを行った。ラインでは毎日100-200の投稿があり、とても活発なやり取りが行われた。
    問合せには社員で対応した。想像以上にGABAの効果に期待して応募された方が多かった。GABAの認知度も後押しした結果だと思われる。海外向けSNSには12,000人のフォロワーがおり、海外からの関心も高い。流通が間に入っていないBtoC(ビジネスから消費者へ)で進めており、D2C(Direct to Consumer)マーケティングと呼んでいる。ほしいと思う人に届けるために、ネットで届ける戦略をとった。BtoBをしてきた種苗会社から転換だった。
    栽培モニターのラインを運営してみて、多様な視点があることがわかった。オープンなコミュニケーションを目指して「青空トマト学園」と、サイトに名前を付けた。栽培指導、販売だけでなく、モニター(育てるひろば)のコミュニティは12月になっても続いている。
    一方、SNSが不得手な人のことも配慮し、9月から青果物販売を開始した。ゲノム編集食品販売は高い透明性のもとに取り組んでいきたい。デイケアや自治体の健康推進事業に関わる皆様と園芸セラピーや健康維持増進対策として進めていきたい。
    B to Cも次のステップを目指し、自治体向け健康プログラムの共同開発も考えている。

    話題提供2「マダイとトラフグ」

    京都大学大学院農学研究科 木下政人准教授

    牛、豚、鶏、イチゴ、ニンジン、私たちが食べているものはすべて野生から品種改良されたもの。ところが水産物では育種や品種改良がほとんど進んでいない。魚の養殖は始まって約50年だが、作物や家畜は1.2万年前から始まっている。
    世界的な健康志向の高まりから、魚食、和食の人気が高まっている。天然資源保護の意識も高まり、その結果、世界では魚の養殖が盛んになっているが、日本の養殖は衰退の方向。養殖用の飼料代の高騰も影響している。そこで、よい品種の魚を作っていきたいと考えた。魚は1世代に3年かかり、1品種をつくるのに5世代をみると15年かかる。15年より短い期間で、早く魚のよい品種をつくりたい。
    ゲノム編集を使って肉量の多いマダイを作ることにした。ミオスタチンの遺伝子の働きを抑えると肉量が増えることが家畜で知られていた。そこで、マダイのミオスタチン遺伝子を不活化した。2014年に第1世代、2016年に第2世代、2018年に第3世代、2020年第4世代まで育てて、2021年9月に届出が受理された。筋肉量は1.5倍になっている。また、従来のタイと同じ量の餌で筋肉が増え、環境負荷も緩和された。ゲノム編集技術を使うことで30年かかる育種を2年でできたことになった。トラフグでも筋肉量を増やすことに成功した。これからは、魚種を広げていきたい。
    養殖の方法としは陸上養殖を考えている。これまで養殖施設への投資コストを下げようとしたがうまくいかなかった。そこで、生産性が高く、高品質の魚種をつくることが大事だと思ってゲノム編集技術を採用した。これからは、持続的継続的陸上養殖システムを構築し、就労の安全、地域での雇用創出、地域創生を目指していく。
    ゲノム編集技術をめぐるリスクコミュニケーションを行ってみて、関心が高いのは安全性だと感じている。安全性については、届出が受理されているわけだが、安心するかどうかには、知っているかどうかが影響していることがわかった。つまり、知識が増えると、「わからない」と回答する人が明らかに減る。
    商品提供時にも、QRコードで魚の作られ方がわかるようにして、ユーザーとの双方性を持っていきたい。研究者や企業が、安全性と理念を伝えた後に、聞いた人からフィードバックを得てコミュニケーションを継続していくことが大事だと考えている。

    話題提供3「ゲノム編集食品に対する国民的意識動向をWEB情報から明らかにする」

    農研機構企画戦略本部新技術対策課 ELSIチーム 主任研究員 赤間剛 氏

    この1年でゲノム編集食品の届出受理から社会実装が進んできている。国民意識動向の調査をアウトリーチ活動参加者へのアンケートを通じて行ってきたが、どうしても母数が少ない。そこで、インターネットサービスの利用者(ツイッター、WEBアンケート)を使った調査を行い広範な意識動向調査をしてきた。
    ツイッターをみると、ゲノム編集食品のニュースがでたなどのイベント時にピークがでるが、それは持続しない。テキストマイニングによってツイート文から話題の内容を調べたところ、メリットへの言及、販売への関心と表示への関心が高くなっていた。これに対して、懸念事項は生命倫理、安全性、生態系への影響であった。
    GABAトマトに関するツイートの感情分析を2020年12月の届出の受理前後に行った。ツイッター利用者でゲノム編集について書きこんでいる人は少なくない。受理時に比べて、消費者団体活動が始まると一時的にネガティブツイートが増えた。
    ツイート中の単語はポジティブなもの、ネガティブなもの、その他などに分類された。ポジネガどちらかとその他にまたがって分類されたものは、まだ意志が決まっていない人のツイートではないかと思われた。
    トマトの届出前後でWEBアンケートを実施した(4000人)。全く知らないは7割。食べるか食べないかわからないと回答した人が最も多かった。知っている人と食べる人の間で相関関係が成立していた。つまり、知っていると食べると回答するようになる。情報発信で受容度はあがるのだろう。WEBアンケート上、届出受理は認知度と受容度へ影響を与えていないこともわかった。
    受容する人が食べる理由は、メリットを認め、必要性を認めているからだと考えられる。食べないと回答する人の共通のキーワードは「自然でない」で、安全で害がなければ受容するという。
    効率的な情報発信をしていきたい。まずは知って理解してもらうことが重要。そこでSIP2(第2期戦略的イノベーションプログラム)では、バイオステーションを運営し、バイオキッズという子ども向けサイトを開設した。また高校向け教材を作成し、モデル授業を通じて教材の検証・改良をしている。

    話題提供4「ゲノム編集技術がよくわかる教育動画の紹介」

    サナテックシード株式 住吉美奈子氏

    OPERAで作成した、ゲノム編集に関する動画を紹介した。

    第2部 パネルディスカッション

    話題提供者に、山口富子氏(国際基督教大学)、佐々義子(くらしとバイオプラザ21)が加わり、パネルディスカッションが行われました。初めに佐々より、ゲノム編集に対する消費者の受け止め方、ワークショップなどのリスクコミュニケーションの事例を紹介しました。話し合った主な内容は以下のとおりです。

    消費者とのコミュニケーション

    • GABAを多く含むトマトに対する問い合わせを直接うかがって、このトマトへの要望の高さを直に感じた。ゲノム編集技術よりもGABAという成分への期待と、トマトという長く培われた親しみやすさによると思う(竹下)。
    • リスコミを通じて感じることは、特に反対するリアクションはあまりなく、話せばわかるという印象。わからないから恐れるのだと思う(木下)。

    地域との関わり

    • 新規ゲノム食品のプロモーションが成功していると思う。All Japan体制でなく、地域や共通の要望を持つグループから始まったのがよかったのではないか(佐々)
    • Regional Fishとは、その土地の魚、地魚という意味。ゲノム編集を使って地域の特性をもった魚を育てていくことが大事だと思う(木下)。
    • 地にある素材を使って、地の種子を開発する。ゲノム編集なら大きな力を持っていない組織でも参入できる。このような関係性の中で、感想や意見が直接届く。その中で栽培の喜び、価値の共有、コミュニティの中の交流が生まれる。今回は、透明性があって、双方向性のコミュニケーションが実現した(竹下)。

    これからの食

    • インターネットで販売するのは、コンセプトの伝わる商品の届け方ができるから。「自分の食」を考えるきっかけになると思う(木下)。
    • 市販後も医薬品を育てていく「育薬」のように、納得して自分の食を考えていく「育食」が、ゲノム編集食品をきっかけに始まっている気がする。これは「食育」とは違うと思う(佐々)。
    • 今はゲノム編集の歴史が動いている最中。SNSを観ていると、2020年12月から2021年はまさにその期間。アメリカでは高オレイン酸ダイズが販売され、日本のゲノム編集食品も注目されている、今はそういう意味のある時期なのだと思う(赤間)。

    ゲノム編集技術の将来性

    • トマトが実用化できたのは当局が規制の枠組みを早期に整えたこと、そのための政府とアカデミアの動きが早かったことが大きい、規制環境の整った国として、国際的なゲノム編集食品のコラボも期待できる(竹下)。
    • 21世紀末にはいいものが創られているだろう。経済、環境、健康、永続性においてゲノム編集技術は価値を生み出していくと思う(木下)。

    最後に江面先生からまとめのことばとして、次の3つのポイントが示されました。

    • 説明すれば理解は進むこと
    • ゲノム編集は組換えと違って物があるので育てたり触れたりできる状況にあること
    • パテントの問題もWIN-WINの関係づくりから解が得られると期待できること
    © 2002 Life & Bio plaza 21